FIT2021 (第20回情報科学技術フォーラム)公開シンポジウム
情報教育の指針
徳山 豪先生(日本学術会議情報学委員会情報学教育分科会委員⻑・関西学院大学理工学部教授)
「情報教育課程の設計指針―初等教育から高等教育まで」の目指すもの
私は、日本学術会議情報学委員会、情報学教育分科会の委員長を務めています。今回のイベント企画で、「大学共通テスト『情報』が目指すもの」というテーマで議論するにあたり、その趣旨と背景に関してお話ししたいと思います。
2025年からの大学入学共通テストで、情報科目を基礎科目として導入する案を大学入試センターが発表したのが今年3月のことでした。
この背景として、日本学術会議は情報処理学会と連携し、大学教育における「情報学の参照基準」と「情報教育課程の設計指針―初等教育から高等教育まで」を作成し、情報学の学術としてのあり方と情報教育の設計のあり方を示してきました。
今回の「情報」の大学入学共通テストへの導入は、日本の学術および産業の推進に重要な案件です。よって、このことを広く周知し、議論する必要があります。そこで関連する学協会と連携して、この公開シンポジウムを開催し、議論を行うことになりました。
今回の大学入学共通テストの導入に関しては、政府、産業界、教育行政、学会、教育現場において重要性を議論し、連携して実現に向かっています。
ここに示したのがその経緯の年表です。スライドの左側にあるように、高等学校教育への情報科の設置、世界最先端IT国家創造宣言、各学協会の提言、情報学の参照基準の作成などが背景にあります。そして右側にあるように、2018年との内閣官房日本経済再生本部未来投資会議において、政財界・産業界からの強い要請を受け、大学入学共通テストにおいて「情報」を出題する方針が示されました。
日本学術会議では、小学校から大学の専門基礎教育までを通した「情報教育課程の設計指針」を策定しました。さらに、大学入試センターは、大学入学共通テストのサンプル問題の公表を行っています。そして今後は、2025年の実施に向けた実務的な作業を行うことになります。
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ここで、今お話しした「情報教育の設計指針~初等教育から高等教育まで」についてご説明します。この設計指針では、「情報学はメタサイエンスとして、全ての諸科学の基盤であると考えられ、また、市民の一人一人が情報技術に関する知識を背景として、情報社会の制度や倫理に関する見識を有することが求められる」としています。
ここで整理しているのは、「情報学とは何か」という理想の形を示した「情報学の参照基準」に加えて、小学校から大学の共通教育ならびに専門基礎教育までの各教育段階において「情報学の各分野のうちから何を学ぶことが望まれるか」ということです。
情報教育の共通の物差しとして、情報教育の現場に携わる者、情報教育を設計・評価する者が、自らの学校段階の情報教育を、それと隣接する学校段階との関係について検討する指針として、また情報教育全体(またはその一部)を設計する者が体系化の手段として用いることを期待しています。また、その内容は現行の教育課程に基づいており、情報教育に携わる者が活用できる現実的で具体的な指針を示しています。
「設計指針」の全文は学術会議のwebサイト(※)からPDFでダウンロードできますが、一部をご紹介します。
※http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-24-h200925-abstract.html
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表に示す通り、情報学を六つの領域と11のカテゴリに分類して、それぞれのカテゴリについて小学校・中学校・高校・大学で、それぞれ必修か選択か、あるいは専門教育で学ぶべきかなどに細分化しています。
情報学を、ITの科学技術の専門向けの学問としてだけではなく、全ての市民に必要な、あるいは有用な情報の理解と活用の教育であり、実施する教育現場の裁量で実現できるものと考えております。一方で、これは初めての指針であり、今後教育現場の皆様とともに、実態に合わせてアップデートしていきます。
情報教育における入試の役割について考えると、入試と教育はニワトリと卵の関係にあるように思います。つまり、入試によって教育目標を明確化し、教育の充実を良いサイクルで回すことになります。それが情報教育の人材育成やさまざまな教育環境の整備を喚起し、さらには情報先進国としての日本を支える人材育成や、全ての市民の「良い職」と「明るい未来」につながるものと考えます。
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本日の活発な議論が、そのような良いサイクルの構築に有意義につながることを願っています。
FIT2021 公開シンポジウム講演より