オンラインイベント「教科『情報』をめぐる動きと情報入試に向けた指導を考える」

河合塾モニター調査、大学入試センター、サンプル問題既存入試に見る「情報Ⅰ」指導の課題

奈良女子大学 非常勤講師・河合塾 教科「情報」開発研究アドバイザリーボードメンバー

竹中 章勝 先生

ご本人提供
ご本人提供

まず自己紹介です。私は2004年から2017年まで私立中学校・高等学校で情報科の教員をした後、現在は奈良女子大学等で非常勤講師をしています。また、専門教科「情報」の学習指導要領の改善に関わる検討に必要な専門的作業等協力者ということで、学習指導要領の作成、そして学習指導要領解説、評価についての資料の作成に関わらせていただきました。

 

今は、文部科学省のICT教育情報活用アドバイザーや、情報処理学会で初等中等委員会・情報入試委員会等にも関わらせていただいています。検定教科書では専門教科「情報」の「アルゴリズムとプログラム」の執筆、情報デザイン分野ではAdobeのEducation Leaderや、Intel Master Teacherの活動もしていますが、無農薬のお米作りもやっておりまして、半農半デジタルの生活です。

 

 

 

生徒も教員も過去の経験がない中で始まる大学入学共通テスト「情報」に向けて

 

さて、「情報」は、これまで少数の大学が個別入試や総合型選抜(AO入試)などで採用していましたが、今回初めて大学入学共通テストで大規模に問われるという予告がありました。そのため、生徒は過去問を参照することができず、教員は受験指導の経験がありません。また、私も高校の教員時代はそうでしたが、情報科の教員は1校1人ということが多く、先生が全て自分一人で考えて授業を行う、あるいは、非常勤の先生と一緒に授業を進めるなど、他の教科と違って教員数が少ないのが現状です。

 

2単位の教科でどのような入試をするのだろう、という不安もあろうかと思います。どんな問題が出るのか、どんな授業をしていけばよいのか。先日、「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告(補遺)」で、旧課程履修者に対する経過措置も発表されましたので、場合によっては今年の高校1年生も「情報」の共通テストの対象になってきます。この状態で、受験指導をどのようにやっていけばよいのか、先生方もお悩みのところだと思います。

 

 

 

大学入試センターから公表された問題を通して「情報I」の授業のポイントを考える

 

今日はまず、大学入試センターから公表されている「試作問題(検討用イメージ)」(2020年11月公表)と、「サンプル問題」(2021年3月公表)を見ながら、「情報」の授業で何ができるかを考えてみたいと思います。

 

「試作問題(検討用イメージ)」は、第1問から第8問で、「情報Ⅰ」の4つの領域から万遍なく出題されています。すでにご覧になった方も多いと思いますが、この問題をひも解いてみましょう。

 

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この問題はセキュリティに関する先生と生徒の会話からの問題です。他の教科でも、従来のセンター試験などにあったような一問一答形式ではなく、会話文が多く取り入れられていますが、「情報」も同様です。

 

そして、扱われている内容も、社会とのつながりや、状況を読み取りながら知識を元に考え、解答群や選択肢の中から選んでいく形になっています。

 

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こちらは情報の単位と、活用・表現に関する問題です。この問題も、短い一問一答形式の問題にしようと思えばできるところですが、これも社会とのつながりとして、実際の適用を例に出して出題されています。

 

「試作問題」には、各問題にこの右下にあるような「解説」が付けられています。「解説」には、この問題はこのような意図で作りましたよ、ということが書かれていますので、今後授業をしていく上でヒントとなる情報がたくさん含まれています。ぜひ参考になさってください。

 

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こちらは、動画の表現と情報量の問題で、これも、今までもよく出題されていた分野です。解く上で、これを全部計算していると大変なことになりますが、例えばこの256色をbitに変換したらどうなるかとか、フレームレートの比率、画面解像度の比率の意味と計算がさっとできれば、簡単に解ける内容になると思います。逆に言えば、そういう知識がなければ手も足も出ないという状況になるかもしれません。

 

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こちらは、画像表現の科学的理解に関する問題です。『情報デザイン』は、今回の「情報Ⅰ」で新たに登場した内容ですが、この図1は明度と画素数のヒストグラムです。明度や画素数は画像処理ソフトを使っていると、いつも目にするものですね。

 

写真の画素数を明度順にヒストグラムで表現し、トーンカーブを設定した問題ですが、「情報の科学的理解」、そして画素・明度・ヒストグラムといった知識内容を具体的にどのように使うのか、ということが問われています。そして、この問題がデータサイエンスや機械学習につながる題材になっていくと考えられます。

 

この問題では、『情報デザイン』について、情報科で扱うところと美術科で扱うところの違いが明確に示されていると考えられます。

 

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こちらは「サンプル問題」で出題された、画像のデジタル表現の問題です。標本化し、量子化・符号化するというオーソドックスな流れの問題ですが、画像のデジタル化が『情報デザイン』だけではなく、『データの扱い』にもつながっているところが重要であると思います。

 

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上記の問題の続きで、こちらは情報通信ネットワークのIPアドレスとサブネットマスクを扱った問題です。今回、ネットワークの内容が随分たくさん出題されていました。なお、この問題については、IPアドレスの最初のブロックの0が1桁多かったという訂正が出ています(※1)。

 

※1 平成 30 年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学共通テストからの出題教科・科目について【訂正】(大学入試センター)

 

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この問題は、サブネットマスクの仕組みについて知識を問うというより、基数変換の扱いを踏まえて、問題文を読みながら解いていく内容になっています。つまり、単にネットワークの仕組みを覚えるのでなく、授業で学んだ内容の「質の高い知識と理解」や、得た知識をどのように他の内容に活用するかを考える力が求められています。TCP/IPというテーマで、IPアドレスとサブネットマスクというネットワークの基本的な部分と、基数変換を一度に問うているということで、非常に質の高い問題であると考えます。

次は、「サンプル問題」のプログラミング活用の問題です。

 

新しい学習指導要領では、各教科・各単元で「社会とのつながり」がキーワードとなっています。これを踏まえて、実世界の内容をモデル化し、それをアルゴリズム化してプログラムを活用して問題解決をするときには自動的にコンピュータがやってくれる、ということ。そして、提示している問題文には出ていませんが、次に続く問題では、最初にシンプルな例でまず流れを作ってみて、そこからプログラムの改善を行う、ということがポイントになると思います。

 

学習指導要領では、『情報デザイン』もプログラミングも、一度何かを作って、できたところで終わりではなく、そこからまたディスカッションや見直しによってクリティカルシンキングを繰り返しながら改善を行う、という流れまで求められています。この問題には、その内容がしっかり盛り込まれていると思いました。

 

プログラミング自体は、Python風のDNCLで書かれていますが、内容をひも解いてみると、扱われてる内容は、スライドに挙げられているような辺りです。学習指導要領等を見ても、共通テストで求められる技術要素としてはこの辺りが天井といってよいかなと思まれます。問題を解決するためにプログラム要素を使って解を求める手順になるように組み立てられるか、書かれているプログラムをしっかり読み取れることができるかが、問われることになると思います。

 

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既存の入試問題から「問題解決」の手順を学ぶ

 

既存の入試問題の例として、明治大学情報コミュニケーション学部(※2)の2017年の問題を見てみましょう。データの活用を扱った大問です。見ていただくとわかりますが、まる1ページを使ってリード文になっています。この問題のテーマは、まさに今現在、世界中で問題になっている伝染病に関するものが、一般常識や既存知識による暗黙の了解の中で解いていくのでなく、疫学問題に関する文章を読んで、そこから疫学的な数理モデルを読み取っていくという問題です。

 

※2 明治大学情報コミュニケーション学部の2021年度一般入試からは「情報」は出題していません。

 

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リード文の下の方に「発病率というのはこのように定義されています」という説明があった上で、問1では、具体的に予防接種の有効率の考え方を単純な数値で考えます。次に、そこから実際のデータに当てはめて、有効率を考えさせています。数理モデルから実際の数値を当てはめて、ある事象の数値を導く問題です。

 

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問3は、多数のデータを表計算ソフトを使って解析する問題です。そして、問4、問5はその結果から状態や傾向を読み取って、根拠をもって推測をするという流れになっています。

 

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問6、問7は、それをさらに社会的に広げて考えたとき、政策上の問題と結び合わせると何が言えるか、感染状況に関する医師の報告から、データや根拠に基づいた事象の読み取りができるかどうかを問うています。

 

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最後に同じ考え方を使って、他のモデルに適用できるかということを問うています。「交通事故の車両に乗っていた人を調査したところ、死亡者のほとんどがシートベルトをしていた。だから、シートベルトは役に立っていない」という主張について、どこに誤りがあるかを相関関係から読み解くという問題です。

 

このように、思考の手順が丁寧にガイドされる中で、それぞれの場面で適切な方法を用いて問題解決を行う問題です。

 

テストの問題としてだけでなく、問題解決の手順が示されているので、このような問題を元に「授業の設計」を考える上でも非常に良い問題であると思います。

 

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現行課程と「情報I」の共通部分を使ったモニター調査

 

河合塾では、2019年と2020年に独自にモニター調査を行いました。これは、大学入試センターから「試行問題」や「サンプル問題」等が出る前に、現行の「社会と情報」「情報の科学」の学習内容と、「情報I」の学習内容の共通部分を中心に、河合塾が試作したサンプルテストです。高校1年生を中心に(一部2年生・3年生)1346名が参加しました。

 

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例えばこちらはアルゴリズムの問題です。これをぱっと見て「ライフゲームだな」と気づかれる方もいらっしゃると思いますが、そういったことは書かれておらず、最初にリード文から「こういう条件では結果はこのようになる」というアルゴリズムを理解して、状態を読み取り、予測していくという問題です。ここで読解力・思考力・判断力が問われます。

 

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これは基礎的な用語の確認の問題で、会話文形式の出題です。

 

5Gの『G』やhttpsの『s』とは何を表しているか、などといった知識を会話文の中で問うています。

 

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こちらは、今現在は高校ではあまり扱われていないリレーショナルデータベースの問題です。これもリード文の手順や説明を読解しながら順に答えていくもので、未知の内容でも基礎的な情報の知識をもとに思考力と判断力を問うことができる問題と考えられます。

 

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このモニター調査では、現行課程の「社会と情報」「情報の科学」を学んでいる生徒の皆さんが「情報Ⅰ」に関わる問題を解いたとき、どういう結果になるか、ということも見ました。

 

こちらのグラフが得点分布です。左側は各学校の分布で、山が1つのところもあれば、2つになっているところもあります。このテストでは、問題ごとに得点の重みづけはしていないので、全27問中何問解けたかという集計ですが、ほぼ正規分布に近い分布になっています。

 

先ほどお見せした問題に戻ると、例えば5Gの『G』の意味を問う問題で、GIGAなのか、Globalなのか、Goodなのか、Generationなのか、という選択肢の選択率を見ると、正解のGenerationと並んでGIGAと答えた人が非常に多かったです。つまり、何となく聞いたことある言葉で選んでいる人が多くて、用語の意味をきちんと理解しているわけではない。そういった点では、思考力・判断力・表現力を発揮するためには、その基盤となる知識が重要であるということになろうかと思います。

 

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共通テストのポイントは「実社会とのつながり」と「改善プロセス」

 

共通テストのサンプル問題や他教科で実際に行われた共通テストの問題傾向を見ると、会話文や丁寧なリード文が増えていますが、実際の社会でどのようなことが起こっているのか、あるいは社会で起こりそうな内容と関わりを付けながら問われている問題が多いと見受けられます。

 

ですから、「情報」の授業では社会の状況に目を向けていくということが重要であると思います。もちろん、単語の意味や基礎的な知識は重要であり、問題解決にあたっては情報科学に関わる内容が基本となっています。ですから、授業ではいわゆるリテラシーと言われることだけではなく、実際に「情報」を情報の科学的理解をした上で、どのように活用するかを考え、どのように授業で扱うのかが肝になると思います。

 

他の教科の題材と絡めた問題もよく見られます。具体的には社会や数学、理科の化学・物理分野と絡めたもの、そして情報社会学とも関係する内容が見られます。

 

そして、何よりも先ほども申し上げたように、改善プロセスを問う問題が見られます。例えば、プログラミングにしても、単体のプログラムではなく、情報システムとして人との関わりの中でどのように使うのか。インプットして、処理して、アウトプットされたものをどのように使うのか、ということを問う問題になっています。

 

 

 

今年度からの「情報」の授業の中で何ができるか

 

それでは、この共通テストに向けての「情報」の授業での取り組みをどうするか、ということについてお話ししていきます。

 

「『情報I』は来年度から始まるから、準備しなきゃね」と言っていたところに、先日の文科省の大綱の「補遺」で、現行課程生に対する経過措置が発表され、一部の生徒には今年度授業で行っている内容も問われるようになるようです。しかし、この「情報」は、今年・来年というだけでなく、今目の前にいる子どもたちが社会に出たときに必須の力です。

 

ですから、現行・新課程にかかわらず、学習指導要領、およびその解説に書かれている内容に沿って授業に取り組んでいくことが重要です。また、教科書の記載内容も多様で、量も多くなっていますが、まず教科書の語句の意味をしっかりと理解することが重要です。単に一問一答的に語句の意味を覚え込むだけでなく、ネットワークやセキュリティといった全体の仕組みや流れの中で、その用語の考え方・概念がどのようにつながっていくのか、ということを扱うことも重要であると思います。

 

そして、各項目がつながるような情報システムを活かせる「総合的な探究」を置くこと。「情報Ⅰ」では、まず問題解決について学び、次に『コミュニケーションと情報デザイン』で、人間はどのように認知するのか、どうすればわかりやすいのかといったUI(User Interface)・UX(User Experience)の内容や、どのようにデザイン(アートではなく、人に伝えるためのデザイン)の問題解決を学びます。

 

そしてコンピュータとプログラム分野では、コンピュータとプログラムでどのように問題の内容を自動化していくのか、ということについても、UI・UXが関係してきます。学習指導要領が、『情報デザイン』を学んだ上でプログラミングがきているというのは、非常に練られた構成であると思います。

 

ここまで学んできたことを踏まえて、コンピュータを使って『データの活用』を行い、それが機械学習へつながり、人とシステムを含めた「広義の情報システム」に発展していくことになります。そして、機械と人が連携した情報システムを、「総合的な探求」で、より深い理解や思考をもとにした「課題解決」に結び付けていくということになります。そして、授業の中では、知識の詰め込みだけではなく、しっかり文章を構造化して読み取る力をつけること。これはリード文からプログラミングの手順を読み取るときにも求められます。

 

 

 

情報科の先生が一人で抱え込まないで

 

ここからは、もう少し具体的に授業内容のデザインについてお話しします。

 

「情報Ⅰ」は、基本的に2単位で実施する予定の学校が多いと思います。そんな中で、教科書に載っていることを全てやっていては、2単位では到底足りなくなることも予想されます。演習の時間も、制作や実習の時間も取れない、ということになってしまうかもしれません。

 

情報科の実践内容は、今まで授業の中でいろいろな取り組みをしてきましたが、「情報I」では、「情報科でしかできない内容を精査する」ということが重要です。つまり、「情報の科学的理解」や「情報的見方・考え方」という観点で内容を俯瞰した上で、いろいろな教科の先生方と話し合いながら、各教科と取り扱う内容を分担し連携できることを探していくことが大事だと思います。

 

他教科との連携で大事なのは、いわゆるカリキュラム・マネジメントとして、各教科と情報科の双方にとってより良いように連携できるかを考えることです。数学であれば、「今どの辺りを学んでいているから、この知識はほぼ説明なしでできる」ということを確認したり、「情報」で先に実際的な活用をやった上で、あと汎化する内容を数学の授業の中で取り扱う(あるいはその逆)ということを示すのがよいでしょう。国語科では、今回新たに「論理国語」という科目ができますが、論理的な読解について連携すると効果的です。

 

理科では、自分たちで理科の時間に科学的な思考をする上で、データの取り込み・読み取りをし、その内容を実際にコンピュータで整理してみることが可能です。また、社会科では「公民」でモラルやセキュリティの問題について、「リーガルマインド」の観点から考えることができると思います。

 

今、「情報」に関わるニュースが日々たくさん出てきていますから、例えば「この1週間で『情報』に関係のあるニュースにはどんななものがありましたか。それはどのような技術が関係していて、どんな問題を含んでいますか」ということを自分で考えてまとめたものを皆で共有する、ということを継続的に行っていくと、「情報」に関する興味・関心を授業以外のところでも継続していくことができます。

 

新しい学習指導要領では、「知識・理解」単体ではなく、「思考力・判断力・表現力」が重視されています。また、中学校・高等学校の入学者選抜においても、「新学習指導要領の趣旨を踏まえ、基礎的・基本的な知識・技能の習得とともに、思考力・判断力・表現力等についてもバランスよく問うことに留意」しましょう、ということが文書として出ています(※2)。共通テストでは、これと情報技術との関連という形で求められているというところですね。

 

※2 学校教育法施行規則の一部を改正する省令の制定並びに幼稚園教育要領の全部を改正する告示、小学校学習指導要領の全部を改正する告示及び中学校学習指導要領の全部を改正する告示等の公示について   

 

 

そういう意味では、冒頭にも申し上げましたが、いわゆる1人教科の「情報科」で入試に対応することになると、先生方には大きな負担がのしかかってくることになると思います。そして、2単位だけではカバーしきれない内容も多いことも事実です。ですから、情報の先生が一人で抱え込まずに、ぜひいろいろな先生方と相談して、学校全体で取り組んでいくようにしてください。

 

そして「総合的な探究の時間」の内容に悩まれる学校も多いと思いますが、この総合的な探究の時間こそ情報科と絡めて学んでいくのがよいと思います。

 

 

 

1人1台端末で、技能面の練習や家庭学習の拡充も可能に

 

そしてコンピュータの扱いの問題です。Word・Excel・PowerPointのようなツールの習熟も必要ではないか、という意見もあります。現在、GIGAスクール構想が着々と進んで、ほぼ全ての小・中学生に1人1台端末が行き渡り、この新型肺炎流行の中で、端末の持ち帰りや遠隔授業や持ち帰りといった模索が行われています。

 

今後高校版のGIGAスクール構想との連携で、1人1台端末を学校の授業全体で活用すること、リテラシーは全ての教科活動を通して身に付けるということになります。

 

そして、パソコンの使い方自体は、多くの教科の中での活用や、宿題、クラブ活動や委員会活動など、授業外の活用を通して生徒が自分で学ぶことになります。生徒自身が、クラブ活動や体育祭、文化祭の振付けや基礎練習に動画を活用したり、プロモーションビデオを作ったりということは、もうずいぶん前からなされています。そういうことを通して技術を習得したり、知識理解を活用につないだり、ということが重要であると思います。

 

家庭学習での端末の利用ということでは、都道府県単位で一律にアカウントを配布して、クラウドを活用する事例も増えてきています。端末をいわゆるオンライン授業に使うだけでなく、技能的な部分の練習を、家庭学習で補うことも重要であると思います。

 

また、子どもが家庭でコンピュータを使って学んでいる姿を保護者に見ていただいて、端末を活用してどのような学習をしているのかを理解していただくことも重要です。高校はBYOD(Bring Your Own Device)が多いと思いますが、端末の購入について保護者の理解を得るためには、端末利用することで学習の効果が出ていることを、実際に保護者に見ていただくことが必要だからです。

 

そして、学習指導要領総則にある、言語力・情報活用能力(情報モラル含む)・問題発見解決能力という、学習の基盤となる資質・能力の育成においては、情報科の内容には、まさにこれらの全てが含まれています。

 

 

単元が4つあるから、時間数は4分の1ずつ均等割り、などと考えると、なかなか時間が取れませんから、活動ベースの学びとして、その中にいろいろな要素を盛り込んでいく必要があります。

 

例えば、こちらは『情報デザイン』の分野でPBL(Project Based Learning)で防災アプリを作るという全6回の授業案を、Adobeの方々と私とで作ったものです。

 

この活動では、「情報的見方・考え方」を使って、「ハザードマップはこう作ろう」とか「スマフォの画面構成はこういうユーザインターフェースにしよう」「このアイコンを押したらこの情報がでる画面が出るようにしよう」といった実際の問題解決を行うことになります。ハザードマップや除細動器(※3)の設置場所を示すためには地図の知識・技能が必要ですが、新しい学習指導要領では、「地理総合」でGISが必修で入ってきますので、社会科の先生とのコラボレーションも可能です。このように、PBLで学ぶことによって、より質の高い理解に導くことが可能になります。

 

※3 心室細動や心室頻拍などの不整脈に対し、電気的な刺激を与えることで「除細動」や「同期性通電」を行う医療機器

 

 

入試に関して何よりも重要な内容になるのが、やはり「情報Ⅰ」の教科書です。学習指導要領や教科書に出て来ない内容や用語を問題に入れる場合は、リード文や会話文等で説明を加えられることになりますので、教科書の内容をひたすら丁寧に教えるよりも、どう読み解くのかという、読み解き方のトレーニングというのも重要な力となってくるでしょう。

 

また、基礎的な用語の意味や情報技術と活用のつながりを理解しておくことも必要です。これは先ほども申し上げたことです。

 

そして、これも先ほど申しましたが、情報科でしかできない授業範囲とそれ以外の内容の精査、これにはぜひ力を入れていく必要があるでしょう。

 

 

今後、求められる教材をこちらに挙げました。時代に沿った内容の副教材、そして今はまだ「情報I問題集」がありませんから、教科書に基づいたものが求められるでしょう。また、プログラムを動かしてみるための実行環境をどう作るのか、問題解決のテーマや授業案といったものについても、現在いろいろな先生方の実践内容を共有していくべきだと思います。

 

さらにこれからは、われわれ教員には子どもたちがニュースや世の中の事件や出来事、新しい技術といったものに常に興味・関心を持つための手助けをしていくことも求められると思います。

 

 

そして、共通テストに向けて、求められる力としては、まず知識理解の質であると思います。知っている用語の数が多いだけでなく、それらがどのように有機的につながっているか、という質や深さ。さらに、それらを使った思考力・判断力・表現力。そして、問題解決力と、そのためのツールとしての情報技術の知識をどう使うのか、という流れが求められると思います。

 

 

情報入試に向けて、現時点で参考となる資料を挙げました。

 

今先生方は、「情報I」の準備で大変でいらっしゃると思いますが、まずは学習指導要領やその解説、「評価の手引き(※4)」をしっかり読むことが重要でしょう。

 

そして、『情報デザイン』や『プログラミング』分野については、専門教科「情報」の教科書が非常に役に立つと思います。専門教科「情報」の内容を学習指導要領と合わせて読んでいただいて、学校設定科目として取り込む、というのも有効であると思います。

 

そして「情報I」「情報II」の教員研修用教材(※5)も、とても参考になります。また、情報処理学会では、情報入試に関する情報を発信し続けています。センター試験・共通テストの「情報関係基礎」の過去問のアーカイブ(※6)や、大学入試センターの試作問題(検討用イメージ)を掲載していますし(※7)、『プログラミング』と『データの活用』については、MOOC(※8)の教材も作っています。また、河合塾の「キミのミライ発見」では、「情報」の授業事例や、情報入試を実施する大学の過去問を検索できるページ(※9)も掲載しています。

 

※4 国立教育政策研究所「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料」共通教科「情報」

 

※5 高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材

    高等学校情報科「情報Ⅱ」教員研修用教材

 

※6 情報処理学会情報入試委員会「情報関係基礎 アーカイブ」

 

※7 大学入試センター「情報」試作問題(検討用イメージ)

 

※8 IPSJ MOOC

 

※9 「キミのミライ発見」入試問題検索サイト

 

 

 

まとめです。共通テストの「情報I」では、膨大な知識や応用力を求められているわけではないだろう、と思っています。そして、これは私見ですが、過去問の傾向と対策というより、教科書の内容を理解することが重要だと考えています。先ほどの河合塾のモニター調査の結果からもわかるように、現行の「社会と情報」「情報の科学」でも、かなりの部分は対応可能ではないかと思います。

 

先生方が準備すべきこととして、これまでの試作問題やサンプル問題をじっくり読んで、求められている知識は何かを分析した上で、2単位の授業の中で何を・どのように扱うかという授業のデザイン、他教科や総合的な探究の時間と連携をどうするか、質の高い知識理解とともに、思考力・判断力・表現力を育成するためにはどうしたらよいのかを考えていく必要があると考えます。

 

何よりも、入試という目の前のハードルもさることながら、次世代を担う生徒のみなさんがデータ基盤社会、Society5.0を生き抜く力の育成を支援するという意味で、情報科の担う役割は本当に重いものになっていくことと思います。

 

オンラインイベント「教科『情報』をめぐる動きと情報入試に向けた指導を考える」 講演より