ジョーシン2021

新学習指導要領における教科「情報」の実施に向けて

田﨑丈晴先生

国立教育政策研究所 教育課程研究センター研究開発部研究開発課教育課程調査官

(併)文部科学省初等中等教育局修学支援・教材課/教育課程課情報教育振興室教科調査官

文部科学省初等中等教育局参事官(高等学校担当)付産業教育振興室教科調査官

 

「情報I」の開始を前に

ご本人提供
ご本人提供

新しい学習指導要領に基づく「情報Ⅰ」が、来年度からいよいよ始まります。

 

現在は「情報Ⅰ」の教科書採択も終わり、各学校においてはこれから年間指導計画を作る段階だと思います。「情報Ⅱ」は来年教科書採択が行われ、再来年度から授業開始となります。

 

今年は、文部科学省から令和7年度の大学入学共通テストの実施大綱予告とその「補遺」が公表され、共通テストの「情報Ⅰ」をめぐる動向についても注目されていますが、今後はこちらのスライドのスケジュールで進む予定です。

 

今年、文部科学省は「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の実践事例集を、国立教育政策研究所からは「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」(以下、「学習評価に関する参考資料」を公表しています。

 

※1 高等学校「情報」実践事例集 

※2 「指導と評価の一体化」のための 学習評価に関する参考資料 高等学校共通教科「情報」

 

 

さて、文部科学省では、Society5.0の時代を迎えるにあたって必要な資質・能力について発信してきました。Society5.0の時代は情報化社会がさらに高度化し、スマート社会が実現するとされていますが、情報の先生はこれをどう捉えていらっしゃるでしょうか。

 

こちらは「科学技術・イノベーション白書」の挿絵です。情報通信ネットワークが発展発達すると、あらゆる分野においてデータやAI、ICTが活用されていくことが描かれています。その中で、全ての高校生が『データの活用』や『情報通信ネットワーク』、『コンピュータ』や『プログラミング』を学ぶ「情報Ⅰ」を履修する意義を改めて感じます。

 

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経団連でも、Society5.0(創造社会)で必要な資質能力として、イマジネーションやクリエーション、課題解決する力、そして新たな価値を提案する力が必要であると発信しています。

 

 

ここでもう一度、新しい学習指導要領の考え方を確認します。

 

学習指導要領では、「何ができるようになるのか」という観点から,「生きて働く知識・技能の習得」、「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成」、「学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等の育成」と、資質・能力の三つの柱が整理されました。

 

全ての教科や科目の目標においても、同じ項目で再整理し、指導に役立てるようにしています。これからの時代は、「何を教え、何を覚えさせるのか」という観点だけでは不十分であり、「主体的で対話的で深い学び」、つまりアクティブ・ラーニングの視点からの授業改善を行い、生徒の資質・能力を育成することが必要であるとされています。

 

「社会と情報」「情報の科学」から「情報Ⅰ」に科目が変わるだけでなく、教え方も学力観も変わるのだということを、あらためて確認したいと思います。

 

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「情報I」が育成を目指す資質・能力

 

新学習指導要領の目標では、共通教科情報科について、育成を目指すべき資質・能力と、教科の特質に応じた学習課程を再整理しています。

 

具体的には、情報技術を活用しながら問題の発見・解決を行うという学習活動を通じ、スライドに挙げたような資質・能力を育成するとしています。

 

 

各学校内では、これを年間指導計画の中でどのように位置付けていくか、という調整が必要になります。「情報Ⅰ」の冒頭で問題解決の方法を学びますが、年間に数回、特定の単元で問題解決を学べばよいということではありません。

 

例えば、『データの扱い』は、数学Ⅰの『データの分析』と深い関係にありますが、数学Ⅰと「情報I」でそれぞれどこまで扱うか、年間指導計画の策定の際に校内で相談して決めておくのが良いと思います。

 

生徒が問題の発見ができるようになるには時間がかかるかもしれないなど、心配になることがあるかもしれません。文部科学省が作成・公表しております「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の事例集は、問題解決をする活動を重視した指導計画と、生徒の様子が共に掲載されていますので、こちらを参考にしていただいて、生徒の目線に立った問題発見の仕方を汲み取って、指導に生かしていただければと思います。

 

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また、「情報Ⅰ」の履修後に、「情報Ⅱ」を開講するかどうかを検討されている学校もあるかと思います。「情報Ⅱ」は、「情報Ⅰ」の内容を発展させた探究活動を通して、新たな価値を提案していくものです。AIなどの機械学習を扱う際には、数学Bの『統計的推測』と関連の深いところです。「情報Ⅰ」と数学Ⅰが連携するのと同様、情報Ⅱと数学Bを連携させ、横断的な視点で学ぶことは、有用な体験だと思います。

 

こういったことを、カリキュラムマネジメントの視点で考えて、これからの時代により必要な力を学ぶ「情報Ⅱ」を実施していただきたいと思います。

 

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観点別評価にあたっては、教科の目標と評価の趣旨の両方を踏まえて

 

今夏、国立教育政策研究所が「『指導と評価の一体化』のための 学習評価に関する参考資料」の高等学校編を公表しましたが、観点別評価を行うにあたっては、教科の目標と、評価を行う趣旨の両方を踏まえていただきたいと思います。

 

下図は、教科「情報」における学習指導要領の目標と、各教科の評価の観点およびその趣旨を示しています。

 

「知識・技能」を身に付けさせる目標は、上段の(1)に示されています。それを評価するにあたっての趣旨は下段の「知識・技能」の部分です。同様に(2)が「思考力・判断力・表現力等」に関する目標、それを評価するにあたっての趣旨が「思考力・判断力・表現力等」の部分、(3)が「学びに向かう力・人間性等」に関する目標で、それを観点別に評価する趣旨が「主体的に学習に取り組む態度」です。評価規準の設定を含め、指導と評価を行う事例については、「学習評価に関する参考資料」に掲載されていますので、こちらをご覧いただければと思います。

 

 

学習指導要領では、科目の内容についても、内容のまとまりごとに、知識及び技能や、思考力、判断力、表現力等について、どのような力を身に付けることができるようにするのか、分かるように記載されています。ここまでのことを確認して単元の評価規準を考えることになります。評価規準につきましては、共通教科情報科の「学習評価に関する参考資料」では、情報Ⅰ、情報Ⅱの内容のまとまりごとに、例を掲載していますので、参考にしていただければと思います。

 

 

「主体的・対話的で深い学び」の実現のために教科「情報」で求められる学習活動

 

さて、冒頭で「主体的・対話的で深い学び」によって教え方も変わる、といったお話をしましたが、情報科では具体的にどのようなことが求められているのかを学習指導要領から確認していきたいと思います。

 

共通教科「情報」では、「主体的・対話的で深い学び」の実現のために、赤字で示した学習活動の充実を図ることとしています。

 

この冒頭の「情報に関する科学的な見方、考え方」については、スライドの下の所に「思考力・判断力・表現力」で求められる力を生かして、探究的な学びの実現を図ることを意図しています。

 

 

学習指導要領解説情報編では、「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」のそれぞれについても詳しく掲載していますので、ご確認いただければと思います。

 

問題の発見・解決を通してアクティブ・ラーニングを展開する際に、どのような学習活動を組み込めばよいかというヒントになりますし、特に情報科においては、単に特にアプリケーションの操作を教えればよいわけではないことが見えてくると思いますので、授業計画の策定にあたっては、ぜひ学習指導要領に基づいてしっかりご指導いただければと思います。

 

 

専門教科情報科の目標は、こちらのスライドのように設定されており、生徒が学ぶ専門分野において、実践的・体験的な過学習活動を通して、プロフェッショナルとしての力を育成すること目指しています。

 

 

専門教科情報科は、「共通的分野」「情報システム分野」「コンテンツ分野」の各科目群と、「総合的科目」の科目群の、計12科目で構成されています。この中で「情報産業と社会」と「課題研究」は原則必履修科目になっています。

 

 

専門教科情報科においても、評価の参考資料を作成,公表しています。こちらも共通教科情報科と同様に、教科としての資質・能力と、何を身に付けさせるのかという目標に応じて、評価の観点とその趣旨を設定しています。

 

専門教科情報科における「主体的・対話的で深い学び」については、共通教科情報科よりも「情報産業で活躍する」という視点で、より具体的に書かれています。

 

「主体的・対話的で深い学び」の部分で、想定される学習活動自体は共通教科情報科とほとんど変わりませんが、重要なのは「専門教科情報科としての見方・考え方」をいかに働かせながら学ぶか、ということになります。

 

 

「情報活用能力」育成の中核を担う教科として

 

共通教科情報科は、学習の基盤となる資質・能力の中の「情報活用能力」育成の中核を担う教科としても位置付けられています。

 

これによって、「情報活用能力」は情報科だけで指導するものではなく、全ての教科と総合的な探究の時間も含めた全校体制で育成するものとなりました。

 

情報科の先生は、効果的な教育活動が行われるべく、その中核としての役割を担いますから、カリキュラムマネジメントに積極的に参画していただきたいと思います。

 

 

資質・能力の三つの柱に沿って再整理された「情報活用能力」がこちらです。

 

学校全体で共有していただきたいのは、単にICTを活用するだけでなく、さまざまな事象を「情報とその結び付き」の視点からとらえて新たな意味を見出すような指導や、情報社会に主体的に参画し、発展に寄与しようとさせるような指導が求められるということです。

 

これらを踏まえて、どの教科でどの要素を指導するのがよいということを、学校全体で議論していただきたいと思います。

 

 

情報活用能力には、情報モラルの扱いも含まれています。次期学習指導要領解説の総則編には、情報モラルの定義が「情報社会で適切、適正な活動を行うためのもととなる考え方」とありますが、これは現行の学習指導要領からそのまま引き継がれています。「何が良くて何がダメ」というルールを教えるだけでは不十分であることが、この表現からも分かります。

 

GIGAスクール構想の実現で1人1台端末が進むことと関連づけて、情報モラルをどのように指導するかを、こちらも校内で議論していただくとよいと思います。

 

 

端末整備、教員研修、学校内の体制作り…新課程の「情報」授業実施に向けての課題

 

こちらは、文部科学省が公開している情報科担当教員に関する現状についての資料です。

 

情報科の免許を保有する教員の数、情報科を担当する先生数、免許外教員、臨時免許保有の教員数などが都道府県別に具体的に示されています。

 

文部科学省は、これらの数を公表した上で、計画的な教員採用を促したり、免許を持ちながら情報科を担当していない先生方の配置の工夫、研修資料等の活用促進を図るなどの取り組みを進めています。

 

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GIGAスクール構想で、小学校や中学校では、1人1台端末がほぼ開始されています。そのため、来年度高等学校に入学してくる生徒は、中学校で1人1台端末を活用しています。高校においても、全ての自治体が、保護者負担を含めて何らかの形で1人1台端末を実現しているとの回答です。

 

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文部科学省では、1人1台端末を活用する前提として、「主体的・対話的で深い学びの実現」という目的があることを示し、各教科での活用方法について生徒の主体的な学びをいかに引き出し、支援していくか、という情報発信をしています。

 

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特にスライドの中央に示すように、生徒がコンピュータを文房具のように使うことを想定した部分については、例えば先生が許可した時間だけ使うのでは、文房具として使うとは言えないと思いますので、使い方の指導の在り方についても考えていただければと思います。

 

また、小中学校で1人1台端末の活用がすでに始まっていますので、高校でコンピュータの基本的な使い方について、あえて時間を取る必要があるか、ということについても今後議論が進むと良いと思います。

 

「情報」の時間にアプリケーションの操作方法の指導まで担っていたら、「情報Ⅰ」の内容はとても教えきれません。基本的な操作は、全校体制で役割分担をしていくのが望ましいと思います。

 

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新課程の「情報」の研修のために、文部科学省をはじめとして、さまざまな教材が提供されています。情報処理学会の動画教材JMOOCも、8月に第4章まで公開されています。

 

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研修等の機会については、現時点ではご覧の通りを予定しています。2月には、国立教育政策研究所でも研究協議会を実施します。

 

3月には情報処理学会全国大会で中高生情報学コンテストが開催されますので、生徒の探究活動の成果を見られると思います。

 

 

また、技術分野で生徒がどのような勉強をしてくるかということについても、教員用研修資料や事例集で確認することができます。こちらもご覧になっておいていただきたいと思います。

 

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情報入試の実施に向けて

 

最後に情報入試関係の動向です。

 

文部科学省から「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告」が7月30日に、公表され、令和7年から大学入学共通テストで「情報Ⅰ」が60分の試験時間で出題されることになりました。

 

そして9月29日に公表されたその「補遺」では、現行の教育課程履修者(現在の高校1年生以上)に対しては、1年間の経過措置を講じるとされています。

 

この件は、通知文の中で詳しく言及されています。令和4年度中には、経過措置も含む試作問題が大学入試センターから公表されますので、特に現在高校1年生をご担当の先生方はご注意いただければと思います。

 

 

情報入試は、数理・データサイエンス・AI人材育成に向けた取り組みにもつながるものです。

 

数理・データサイエンス・AIに関する小中高大の教育の流れの中で、特に高校と大学の接続の部分で「情報Ⅰ」による入試が位置付けられています。さらにその前提として、小中高で理数・データサイエンス・AIの基礎リテラシーをきちんと習得することとされています。

 

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内閣府の「AI戦略2021」においても、「基本的情報知識の習得取り組み」の1番目に「『情報Ⅰ』の指導方法の不断の改善・充実」がうたわれているとおり、共通テストへの対応として、まずは「情報Ⅰ」の授業を学習指導要領に基づいて着実に実施することが求められます。

 

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「情報I」の指導と評価の一体化を目指して

 

来年度の「情報Ⅰ」の実施に向けて学校が準備しなければならないことは、ご覧のとおり多岐に亘ります。

 

「何を教えるか」という知識のアップデートとともに、「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指した授業の方法の見直しも必要です。

 

 

また、その教科の目標の実現を、指導と評価の一体化という考え方で見直す必要があるでしょう。すべきことはたくさんありますが、「情報Ⅰ」の着実な実施に向けてご尽力いただければと思います。

 

 

また、学会など現場の情報の先生がたを支える方々も対応が引き続き必要になります。

 

特に情報科の先生方の専門性向上については、私どもも重視していますので、引き続きのご協力をお願いします。

 

情報処理学会高校教科「情報」シンポジウム2021秋 講演より