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教科「情報」の大学入試に備える

河合塾教育研究開発本部 富沢弘和

私からは、今日のセミナーの前段として、大学入学共通テスト(以下:共通テスト)の「情報」をはじめとした、この間の教科「情報」に関わる動きやポイント、あるいは大学の共通テスト「情報」の想定利用方法をお話しいたします。それを踏まえた上で、私ども河合塾の取り組みについてご紹介します。

 

教科「情報」と大学入試をめぐる動き

まず、教科「情報」とそれに連動した「情報」入試に関する動き、この間の経緯についてまとめました。

 

教科「情報」自体は2003年にスタートしています。そう考えますと、もうスタートして約20年経っている状況です。そして2013年に、現在の高校2年生以上が履修している学習指導要領がスタートしました。

 

 

入試という観点で見ていきますと、大学入試センター試験で、1997年から「情報関係基礎」が出題されています。こちらは採用大学数が非常に少なく、科目を選択する場合に制限がある大学もあって、現在、受験者数が数百人規模になっています。

 

個別入試では、学習指導要領の改訂にあわせて2016年度入試より慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部で「情報」出題といった動きもありましたが、決してこの間、「情報」が入試で広く出題されている、といったイメージは持たれていなかったと思います。

 

今回の新課程の学習指導要領告示が2018年3月にあり、その直後に、当時の総理大臣が、共通テストで「情報」を出題すると言ったことが新聞紙上で話題になったり、「情報」に関わる人材育成に関する政策のまとめが相次いでこの時期公表されたりしました。

 

共通テストについては、2020年11月に新課程の出題科目の検討案が公にされ、「情報」についても「試作問題(検討用イメージ)」が関係団体に示されました。おそらく、この頃に、共通テストで本当に「情報」が出題されるんだ、という認識を持たれた方も多かったと思います。

 

2021年3月、大学入試センターから「サンプル問題」が公表され、7月には実際に共通テストでの出題が決定しました。そして、今年の1月に国立大学協会が、国立大学の入試では、共通テスト「情報」を必須にする基本方針を打ち出し、入試で対応していかなければいけない、という雰囲気に一気に変わってきました。

 

この4月から、新しい教育課程で学ぶ生徒たちが入学し、既に「情報Ⅰ」の授業もスタートしています。

 

こちらは河合塾で調査した「情報Ⅰ」の履修状況です。河合塾の模擬試験を受験いただいている高等学校、約700校の状況を調査したものになります。「情報Ⅰ」は1年次での履修が基本だと思いますが、印象としては、2年次での履修が多いと、この集計結果を見て思いました。

 

 

この調査では、例えば一つの高校で文系・理系とコースが分かれている場合、それぞれでカウントしているので、単純に学校数で集計したものではないのですが、それでも2年次での履修が多い状況です。必履修科目「情報Ⅰ」は教材等がなかなか出そろってないので、それを少し待ちたい、様子を見たい、あるいは入試で「情報」が使えることを受けて、入試に近い年次で「情報Ⅰ」を履修させたい、という意向の反映ではないかと思います。

 

2025年度共通テスト「情報」はどうなる?

続いて、共通テストの「情報」について確認します。

 

こちらが2025年度、いわゆる新課程初年度の共通テストの出題科目です。大きな変更点3つを赤字で示していますが、一番下にあるとおり、新たに「情報Ⅰ」が、他の教科とは別の試験時間帯で出題されます。試験時間は60分です。

 

この他、「情報」に関連するところでは、数学②は、科目が「数学Ⅱ・数学B・数学C」の1科目になり、数学Bの『数列』『統計的な推測』、数学Cの『ベクトル』『平面上の曲線と複素数平面』のそれぞれの2項目、計4項目から3項目を選択することになります。現在の共通テストでは、受験生は、数学Bの『数列』と『ベクトル』の2項目で対応が可能でしたが、3項目が必要となりますので、新たに『統計的な推測』を受験対策として勉強しなければいけない受験生が増えそうです。

 

 

それから、2025年度の共通テスト、新課程の科目の検討にあたっては、現行から科目のスリム化が考慮されました。その一環になると思いますが、数学②で出題されていた「情報関係基礎」の出題はなくなります。

 

また一番下にあるとおり、ここでは旧課程履修者という表現をさせていただきましたが、現在の高2生までの課程の履修者については、2025年度の1年目に限り、配慮した必要な処置を行うことになっています。

 

 

具体的には、「旧情報(仮)」として1科目出題されます。ただ、現在の高校2年生以上の課程では、「社会と情報」、「情報の科学」のいずれの科目を履修していても不利益が生じないような形、つまり両科目の共通部分に対応した必答問題と、それぞれに固有の選択問題を出題することになっています。

 

 

時間割は、現在、案として出ており、現行の共通テストと同様に、1日目が文系科目、2日目が理系科目という構成です。教科「情報」については、2日目の最後に実施するということで検討されています。

 

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2025年度共通テスト 今後の動き

 

あらためて、スケジュールを確認しておきます。新学習指導要領は、既に今年度からスタートしています。

 

昨年度、1年間かけて、共通テストに関するさまざまな内容について公表されてきました。この後、今年度の秋冬頃に、共通テストの新科目の試作問題が公表されます。ここでは、先ほどの旧課程に対する経過措置も含めて、試作問題を公表してイメージを持ってもらうとなっており、この辺りは一つ注目点かと思います。

 

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新課程入試科目 公表大学はまだわずか

今、焦点としては、各大学の科目利用方法に移ってきています。「情報」を含めて、新課程の出題科目をどうするのかについては、入試に大きな変更を伴う場合、2年前までに公表しなければならない、いわゆる「2年前ルール」に基づいて、今年度各大学から予告されると考えています。

 

こちらのスライドに、現在、公表している大学についてまとめています。先ほど申し上げたとおり、まず1月に国立大学協会が基本方針を明示し、3月の終わり頃に一部の大学が公表しました。まだ本当にごくわずかで、私どもが確認したところでは7大学だけという状況です。(5月20日時点)

 

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さらに、この7大学のうち、現時点で共通テストと大学の個別試験の出題科目の詳細を公表しているのは、実は室蘭工業大学、大阪大学、九州工業大学の3大学に留まっています。そのうち文系学部を含めて公表しているのが大阪大学です。

 

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大阪大学については、文系学部も含めて「情報Ⅰ」を必須にすることが公表されています。赤枠で囲っている所が文学部の表を拡大したもので、共通テストは「情報Ⅰ」も必須とし、6教科8科目で実施します。

 

 

大学によっては、全ての科目を公表せずに、秋田県立大学や、島根県立大学のように、教科「情報」の出題の有無だけ公表している大学もあります。ちなみに島根県立大学は、共通テストについては「情報」は必須としない方向性を示しています。

 

東京大学は、厳密にいえば、まだ利用する教科・科目のみの公表にとどまっており、それぞれの科類が、利用科目を必須にするのか選択にするのかまでは、まだ踏み込んでいません。ただ、おそらく、先ほどの大阪大学と同様に、「情報」を必須として6教科8科目になるのでは、と考えています。

 

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今後の公表スケジュール

先ほど申し上げた「2年前ルール」に則って、今年度中に公表が進んでいくと思います。動きとしては、国立大学・公立大学の公表がまず先行していくだろうと考えています。私立大学については、これまでの課程の移行時を見ても、方式ごとの細かい詳細は、次年度、あるいは直前になるところもありそうです。

 

また、段階的に公表を行う大学も多いと考えています。スライドに、新潟大学が公表している内容を載せていますが、公表スケジュールのみを発表している状況で、段階的に新課程の情報を公表していくとしています。

 

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そして、共通テスト「情報」の配点の割合はどうなるのかは、とても気になるところだと思います。配点については、先ほどの大阪大学も同様ですが、一手遅れる形での公表も多いと考えています。

 

国公立大学は、来春入試(2023年度入試)の科目を7月末までに、大学入学者選抜実施要項として公表することになっています。それに合わせて、新課程科目を公表する大学が多そうですので、この2か月間ほどは注目していきたいと思っていますし、私どもも、大学には早い段階での公表をお願いするとともに、公表されたものはまとめて、広く周知していけるようにと考えています。

 

スライドは前回の課程の移行時と公表状況を比較したものです。「前回」は10年前の改訂時になりますが、このときは2011年度3月時点で、国立大学は6割近くが新課程の科目を公表していました。それに対して、今回は同じタイミングである今年の3月の時点で、国立大学4校、公立大学2校ですので、今回の新課程の科目の公表が、全体的に遅くなっています。

 

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共通テスト「情報」の大学の利用方法

こちらのスライドは、共通テスト「情報」の具体的な利用方法です。

 

国立大学協会は、これまで共通テストについては5教科7科目を基本としていましたが、そこに「情報」を加えて、6教科8科目を課すという方針を示しています。イメージを載せていますが、一番右に「情報」が加わる形です。

 

ただ、こちらはあくまでも国立大学協会の基本方針ですので、最終的な利用の有無の判断は各大学が行います。大学によっては、学部・学科、あるいは後期日程など日程によって、「情報」を必須にしないケースもあり得ます。

 

 

さて、具体的に国立大学・公立大学・私立大学で、想定される利用方法をまとめてみました。左が国立大学で、ここは原則必須となります。これに伴い、共通テスト「情報」の受験者数は恐らく20万人を超える形になると考えられます。中央の公立大学は、大学によって対応が分かれると考えています。

 

 

というのも、国立大学と公立大学では、現在も共通テストで課している教科・科目数は、状況が異なります。国立大学は基本的に9割が5教科7科目を課していますが、公立大学は、5教科7科目を課している大学は3割となっています。一方、4教科以下で受験できる大学が半数近くある状況ですので、国立大学に追随するところと、そうではなく、比較的私立大学に似通った設定にするところに分かれていくと考えています。

 

 

私立大学については、基本的には他教科との選択という使い方に留まる見込みです。ただ、私立大学の場合、複数の入試方式が設定できますので、国立大学の併願を狙った、例えば「5教科型」のような入試方式については、「情報」を加える動きが出てくるかもしれません。

 

個別入試での「情報」出題は?

一方、個別入試での「情報」の出題はどうなるのか、現状をまとめたものがこちらのスライドです。

 

一般選抜で「情報」を出題している大学は、現状、12大学に留まっています。加えて、必須としている大学はない状況で、いずれも選択科目や、複数の入試方式のうち一つの方式での出題という状況です。

 

 

こちらが今後の状況ですが、共通テストで「情報Ⅰ」が出題されるということもあるので、個別入試がこれまでより大きく増えることは考えづらいと思います。ただ、例えば情報系の学部で、「プログラミングが非常に強い子を取りたい」という意図がある大学が、個別入試で「情報」を出題するといったケースは少しずつ増えてくる可能性はあると思います。右側の総合型、推薦型選抜も同様の状況と考えます。

 

また、新課程で「情報Ⅰ」が必須科目となって、生徒の動き、あるいは高校での授業の内容も大きく変わってくると思いますので、「情報」を課す入試の受験を考える生徒も増えていきそうです。

 

 

「情報」に対する生徒の意識の変化

「情報」に対するニーズの高まりを受けて、大学でも情報系の学部・学科の新設が相次いでいます。特にスライド、左上にあるとおり、2017年に滋賀大学が初めてデータサイエンス学部を設置し、それ以降、情報系の学部・学科の設置が相次いでいます。

 

併せて、高校生も情報系に非常に着目していて、そういった学部を目指す生徒が増えています。同じ工学部の中でも、これまでの人気の中心は機械系の学科、というイメージがありましたが、最近は情報系の学部・学科の人気が非常に高くなっています。

 

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こちらは、東京工業大学の学院別合格者最低点一覧です。東京工業大学は、出願時に、6つの学院から第3志望まで学院を選ぶことができる入試制度を実施していますが、合格最低点が群を抜いて高いのは情報理工学院です。この例からも分かるように、情報系の人気は非常に高いようです。

 

 

こちらは同様に、京都大学の工学部の学科別合格者最低点ですが、こちらも情報系が他の学科に比べると30~40点近く最低点が高いという状況です。そのため、こうした学系を目指す生徒が増えている、さらに、高成績層の生徒が入学している状況にあると認識いただいてよいのではと思います。

 

 

河合塾「情報Ⅰ」サンプルテストの作成

最後に、河合塾の取り組みについてご紹介します。私どもは予備校ですので、当然、受験対策を目的に多くの高校生に通っていただいています。ですので、これから20万人以上が、共通テスト「情報」を受験するのであれば、しっかりとした対応をしていかなければならないと認識しています。共通テストを想定した模擬試験を全国的に実施していますので、その辺りもきちんと対応していこうと、今動き始めているところです。

 

私どもは、共通テストでの出題を見据えて、まだ出題が決定する前から、どのような問題が作成できるのかという調査研究を実施していました。

 

こちらは2019年度に作成したもので、情報科に関わる外部の先生方のご協力を得ながら、作問研究の一環として作成したものです。実際に高校生にもご協力いただいて、モニター調査を実施しました。

 

 

こちらの問題、解答、学習のポイントは下記よりダウンロードしていただけます。例えば、生徒さんたちに受験いただくといった校内での活用に限ったものであれば、ぜひご利用いただければと思います。

 

キミのミライ発見「河合塾作成「情報Iサンプルテスト」公開」

  

 

作成にあたって意識したこと

このサンプルテスト作成にあたって、意識した点をまとめています。

 

共通テストといいますと、非常に凝った場面設定や、特徴的な大問が続くというイメージがありますが、そうはいっても教科固有の基礎的な知識・理解、特に「情報」については、用語の理解も求められています。ですので、スライドにあるとおり、最低限の知識の習得が確認できるような設問も用意しています。

 

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「プログラミング」については、昨年の3月、大学入試センターから出た「サンプル問題」では、選挙の「ドント方式」の議席配分を題材としたものが扱われており、身近な題材を用いているというところも特徴だと思います。

 

私どもが作ったサンプルテストでは、FizzBuzz問題や、「ライフゲーム」といったものを扱いました。ただ、それらを知らなくても解答できるような、丁寧な誘導を付けるといった配慮をしています。

 

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第4問では「情報デザイン」に関わる問題を扱いました。実はこの問題は3ページにわたった出題になっています。場面設定を少し工夫しまして、高校生が妹とのやりとりの中で、ユニバーサルデザインについて考える問題に仕立てています。

 

「情報デザイン」の分野は、昨年の大学入試センターの「サンプル問題」では、大きな扱いではなかったと思いますが、問題の工夫次第で、いろいろな出題の仕方が考えられ、難易度も調整できると考えられます。受験指導のところでは、どうしても「プログラミング」や、「データの活用」といったところに意識が行きがちかと思いますが、「情報デザイン」も非常に重要な分野と認識しています。

 

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「データベース」に関する問題も、場面設定を意識し、リード文等も丁寧な説明を用意するなど配慮して、共通テストを意識した問題を作成しました。

 

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こちらに実際にモニター調査を受験いただいた結果を載せていますが、平均点が約6割になるようなテストであるとご確認いただければと思います。

 

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2025年度共通テストに向けて

最後に、こちらは他の教科の共通テストの問題を載せておりますが、繰り返し申し上げているとおり、共通テストは学習の過程を意識した問題設定や、日常を意識した場面設定など、非常に特徴的な出題があります。

 

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それに向けての対策は、高校の先生方が非常にご苦労される部分と認識しています。ただ、こういった特徴的な問題に取り組む前に、固有の基礎知識の理解が必須だと思いますので、そうしたところへの対応が、まず授業の基本になると思います。

 

一方で、共通テスト特有のところについては、生徒さんが受験学年になったところで、私どもが、教材や模擬試験の提供等でご協力できればと考えています。

 

最後にご紹介です。個別試験で出題されている大学は非常に少ないとお話しさせていただきましたが、それでも実際に出題されている大学の問題を拝見しますと、良問ぞろいと認識しています。こうしたものをご覧いただけるよう、私どものサイト『キミのミライ発見』では、問題を掲載しています。(解答例は7月下旬順次掲載予定)

 

ぜひこちらもご覧いただいて、高等学校のご指導でご活用いただければと思います。

 

キミのミライ発見「入試問題検索サイト」

 

【つづく】

国立大で必須化、教科「情報」の大学入試に備える

日経BP 日経BOOKSユニット長補佐 中野淳氏