New Education Expo2022

ポスト真実時代の情報リテラシー育成を目指した教育

神戸大学 山口悦司先生

先ほどの望月先生のお話にもあったとおり、今は子どもから大人まで、専門家でもそうでない人も、多種多様な情報へのアクセスが可能になっています。

 

例えば、このスライドを作ったときに、Googleで「新型コロナウイルス感染症」を検索してみましたら、2億件以上のwebサイトがヒットしましたし、「コロナ治療薬」というキーワードでは4000万件以上ありました。もちろん、その全てを利用することはできませんが、そういった情報を活用して意思決定や行動選択をすることができます。さらに踏み込んで言えば、そういう情報を活用することが求められる時代になってきていると思います。

 

 

これらの情報を見て、webサイトの感染予防や治療薬は本当に効果があるのかな、ということを考えるときに必要になるのが、「情報リテラシー」です。文部科学省が言うところの「情報活用能力」では、特に「必要な情報を収集・整理・分析・表現する力」や「多角的に情報を検討しようとする態度」が関係していると思います。

 

例えば、スライドに引用している「だいじかなチェック」が提案されています。従来の情報リテラシーの枠組みにおいては、情報の確からしさを判断する方法として、こういったチェックリストを身に付けておいて、自分自身でチェックすることが必要であるとされています。

 

 

さまざまな矛盾する情報が氾濫するポスト真実時代の情報リテラシー

もちろん、従来の情報リテラシーも大切で、それによっていろいろな情報の取捨選択ができていますが、最近の「ポスト真実時代」と呼ばれる状況では、もう少し情報が複雑になっているという認識です。

 

「ポスト真実時代」というのは、一般的には「客観的事実といえる情報よりも、感情に訴えかける情報のほうが強く世論を動かす時代」であると言われています。その中でも、特に今私たちが着目していのは、さまざまな矛盾する情報が氾濫しているということです。

 

また、信頼できそうな情報源からであっても、相反する情報が提供されているということが、ここ最近の複雑な状況を生んでいます。

 

 

特に子どもから大人までが置かれている情報環境では、そういった、よく分からない、かつ信頼できる情報源からの矛盾する情報があったとしても、その中から何が真実であるかを判断して信頼できそうな情報を見極める。矛盾する情報があった場合には、複数の情報の比較・検討をする中で、その情報についてよりよく理解したり、活用したりする必要がある、というのが、私たちが捉えている現状です。

 

 

「ポスト真実時代」の情報リテラシー育成を目指した教育は、「科学的な証拠の把握」を育てること

このような複雑な状況の「ポスト真実時代」に情報リテラシーを育成するために、いますぐに着手しなければならないことはいろいろありますが、汎用性のある資質・能力としてのリテラシーで私たちが重要と考えているのが、「科学的な証拠の把握」を目指した教育であり、私たちはその教育を支援する授業設計やアプリケーションを開発しています。

 

 

「科学的な証拠の把握」については、この後でChinn先生から詳しく説明していただきますが、多種多様な科学に関する情報は、「主張」と「科学的な証拠」から成り立っています。そのとき、いろいろ相反する「主張」が出てきますが、その「主張」を支える「科学的な証拠」を読み解けるようになることが重要ではないかと考えています。

 

これが、現代に求められる「矛盾する情報を読み解くスキル」になるでしょう。科学的な証拠を把握できるようにするための教育として、この後、Chinn先生の解説や大石先生の授業のご紹介、現在私たちが開発しているアプリケーション「EDDiE」のご紹介をしていきたいと思います。

 

New Education Expo2022 ワークショップ講演より