令和4年度神奈川県高等学校情報部会研究大会

導入テスト結果報告

神奈川県立住吉高校 山田恭弘先生

私からは、毎年行っている神奈川県情報部会「導入テスト」の結果についてお話しします。

 

今年度は、集計数が3,253名ということで、昨年度よりも多くの集計になりました。集計数よりも配布数の方が多いので、実際はもっと多くの高校生が受験したのではないかと思われます。これは、導入テストの取り組みに、神奈川だけでなく県外の学校にも協力していただいたおかげであると思います。この場を借りてお礼申し上げます。

 

この導入テストは、共通教科「情報」を初めて履修する学年を対象とします。出題範囲は情報の基礎、情報と社会、情報通信ネットワーク、マルチメディアと計測・制御で、4択問題50問を2点配点で行っています。実施時間は標準40分です。

 


今回の結果を大きく4つに分けます。正答率が50%以下の問題、正答率よりも誤答率が高い問題、正答率が高い問題(80%以上)、その他正答率が80%未満の問題です。それぞれについて解説します。

 


※以下、問題と選択肢・解答が掲載されているスライドは掲載いたしません。全てのスライドはこちらからご覧ください。

http://johobukai.net/2022/220707_yamada.pdf

 

 

正答率50%以下の問題~相変わらず「拡張子」はでできていない。「表計算ソフト」は正答率改善

まず、正答率50%以下の問題です。3問ありました。

 

今回、新学習指導要領で「情報I」に変わったこともあり、今まで行っていた導入テストを改めて見直して、追加したもの、以前のものをなくして新しくしたもの、ブラッシュアップをした問題もあります。

 


 

今回正答率が50%以下だった問題の1つが、「2進数への変換」で、これは新しい問題です。「拡張子」は、ここ最近ずっと課題となっている正答率が低い問題です。「表計算ソフト」は、昨年は誤答率のほうが高かった問題でしたが、今年は誤答率より正答率が高いものの、50%以下でした。

 

具体的に説明します。(1)は10進数の「5」を2進数に変換した際の正しい評価を選ぶ、という問題でした。作問した段階では、簡単過ぎて誰でも答えられのではないか、と考えていましたが、実施してみると、正答率は47.7%ということになりました。

 

この導入テストの問題は、中学校技術科の教科書に基づいて作成しています。「情報I」の教科書自体が注目を浴びていますが、中学校の技術科の教科書も注目を浴びているという話を聞いたりしています。そういった視点で、この導入テストの問題を見ていただけたらと思います。

 

続いて、拡張子です。これはファイル名の末尾に付けられている文字列は何か、という問題ですが、正しく「拡張子」と答えられたのは39.8%でした。

 

表計算ソフトの問題は、予め計算式が設定されたセルに所定の数字を入れた場合の計算結果がどうなるか、というものです。正しく答えられたのは41.7%で、ここ最近はずっと誤答率が高かった問題でしたが、今年はやや正答率が上がっています。私も授業をしながら、今年の1年生はICTのスキルが高いかな、と感じているので、他の学校の先生方が、どのように感じてられているかも気になるところです。

 

正答率よりも誤答率の方が高い問題~基礎的な用語の意味や働きの定着は相変わらず低い

続いて、正答率より誤答率の方が高かった問題です。

 

全ての問題からざっとピックアップすると、ここに挙げたような問題でした。黒字が正答率、赤字が誤答率です。

 

 

個別に解説します。(5)はコンピューターの機能について問う問題で、これは今年新しくブラッシュアップしました。教科書を見ると、「入力装置」や「出力装置」といった機能のところは難しいかな、とは思いましたが、CPUのところをしっかり理解していれば、選択肢は消去法で2択になります。それでも誤答した人が71.5%あり、用語をしっかり理解できていない、ということがあるかと思いました。同じく(7)の、ソフトウェア・ハードウェア・応用ソフトウェア・基本ソフトウェアといった用語についても誤答率が高かったです。

 

(8)は今年初めて入れた問題で、情報量の最小単位を問うものです。これは「情報I」で扱う内容でもありますが、単位の意味の理解ができていないことがわかりました。

 

(10)はローマ字入力のしかた、(33)は通信機器の名前と働き、(35)はHTMLの特徴に関する問題です。このHTMLの問題は、昨年度までは正答率の方が高かったのですが(ただ50%以下でしたが)、今年は誤答率のほうが高くなってしまいました。

 

(40)は、電子メールのTO、CC、BCCの意味です。継続して出題していますが、今回も正答率は低いです。(42)は、新しくブラッシュアップした問題で、「ファイルの種類」と「ファイルの種類を識別する文字列(=拡張子)」の正しい組み合わせを選ぶものです。これは、拡張子を正しく理解していないと解けない構成になっているので、こういったところが、先ほど(13)でもお話しした、拡張子自体を理解してないというところとリンクしているのかな、と思います。

 

(43)の光の3原色、(47)の計測・制御におけるアクチュエータの役割りも、ずっと継続して誤答率が高く、この辺りは例年とあまり変わりません。問題の作り方も、内容をしっかり理解していないと解けない工夫をしているので、こういったところも正答につながらないのかな、と感じています。

 

正答率が80%以上の問題~ふだんの生活の中での体験や、小中で継続して学んだことの正答率は高い

続いて正答率が80%以上だった問題です。

 

(3)はデジタルデータとして考えられないものを選ぶ問題、(20)は情報が正しいと考えられる条件、(21)はセキュリティ対策、(22)は安全なパスワードの設定、(24)は無線LANに関する説明、(25)はサイバー犯罪に関する記述。こういったところは、正答率がとても高くなっています。

 

 

さらに、(26)Webサイト上で料金請求をされるトラブルに対する判断、(27)SNSと個人情報、(28)インターネットの適切な利用、といったところも、高い正答率が見られました。

 

まとめのところでもお話ししますが、このようにふだんの生活の中で自分が体験していたり、情報モラルとして小中高と継続して取り組んできた内容、教科「情報」がなくても学校全体を通して取り組んできたことについては、導入テストで実際に理解できているという判断ができるかな、と思っております。(29)ではマイナンバーについても個人情報の扱いとして出題しています。(39)電子メールのマナーについても、先ほどのTO、CC、BCCのような使い方については理解できていなくても、コミュニケーションをする上でのマナーについては、理解できているようです。

 

この導入テストでは、アルゴリズムやフローチャート、プログラミングについても出題しています。今年度は新しく問題を作りました。この黒い丸の所で矢印の方向を向いて立っているとして、フローチャートの指示に従って動いた場合に、たどり着く場所を答える問題です。

 

2つ問題を作りました。(44)は「順次」で、フローチャートをそのまま進めていくものですが、正答率は83.2%でした。(45)は繰り返しが入っているもので、真っすぐ進んで、途中で1回向きを変えて最終的にたどり着く、というものですが、こちらの正答率は少しだけ下がって71.3%でした。その代わり、別のところにたどり着くと答えた人が少し多かった印象です。これは、繰り返しが増えたことによってフローチャートを正しく読むことが少し難しくなったのではないかと捉えています。

 

 

正答率50%以上、80%未満の問題~中学校で学んだはずでも理解できていない問題も

最後に正答率が50%以上、80%未満の問題です。かなり数が多いですが、この中で黄色のマーカーを入れたところが、今年新たにブラッシュアップした問題です。

 

もともと導入テストは、入学時に中学校の技術科の内容をどれぐらい理解しているかを調べるとともに、入学段階で知っておいてほしい内容というものも盛り込んでいます。

 

 

今回は、そういった「特に知っておいてほしい」という思いで盛り込んだ問題が新しく増えていますが、その中から3つを取り上げたいと思います。それ以外の問題は、例年50 %以上80 %未満に入っている問題がほとんどで、この辺りはあまり変わりない、というのが昨年との比較になります。

 

(6)はIoTについて適切な記述を選ぶものですが、この正答率が53.9%でした。IoTがネットワークやインターネットに関連することは理解していても、正しく答えられなかった、というのが多かったかと思います。

 

続いて(34)も情報通信ネットワークの問題です。私が中学校の技術科の教科書を見たとき、もう「情報通信ネットワーク」という言葉が登場していることに驚きました。ですので、これはぜひ出題してみたい、ということで入れた問題です。もともと、例年これに近い問題を出題していましたが、ブラッシュアップして、情報通信ネットワーク、インターネット、通信プロトコルについて聞きました。これらは中学校の技術科で登場しています。正答率は69.4%で、これはもしかしたらある程度消去法で答えることができたかもしれないと認識しています。

 

(50)はURLのhttpsや鍵マークとは何なのか、という問題です。暗号化によって安全に情報伝達ができていることを、高校生がどれぐらい理解しているのかを知りたかったので、新しく出題しました。正答率は54.9%ですが、その次に多かった解答が、鍵アカウントと混同しているもので、これが、27.7%ありました。もしかすると、何を聞かれているのかがイメージがしづらいかとも思いますが、httpsや鍵マークでの暗号化通信ということを、生徒は実際理解していないのかもしれない、と認識しています。

 

目に見えるもの・経験から予測できるものは正答できても、見えないものについては理解不足

総括です。昨年度まではここ数年にわたって大きな変化は見られませんでした。ただ、今年度は全体的な正答率が上がっています。新しい問題を加えたり、ブラッシュアップをしたりしたところもありますが、実際に問題を見直してみると、もともとこの導入テストには「中学校の勉強をどの程度理解してるかを聞きたい」という内容が盛り込まれていましたので、「情報I」に変わったことで問題を大きく変えた、というほどではありません。

 

しかし全体的な正答率が上がっているので、もしかしたら、これまで実施した対象の学年の生徒とは、中学校までに習ってきた内容が少し変わってきてるのかな、理解度も少し変わってきているのかな、という印象を受けました。

 

 

傾向としては大きな変化はないですが、生徒にとって身近なことや目に見えるもの、経験があることについては、知識の定着が見られます。また、経験から予測する問題についても正答率が高かったという結果です。

 

一方専門的な用語、例えばハードウエアやツール、コンピューター内部の処理のような、目に見えないものや、日常生活では意識しないような内容について理解が乏しいということにも変わりはありませんでした。

 

学習指導要領の改訂に伴って、一部の問題の内容を作り直しましたが、全体を通して私が感じたのは、「情報I」でも扱う内容は、かなり中学校の技術科の教科書でも扱っています。しかし、技術科の教科書で習っているから「情報I」では教えなくてよいというわけではありません。むしろ、集計結果から考えると、技術科で扱っていても、「情報I」でも改めてしっかり伝えないといけない内容もたくさんあります。特に、用語の理解や、用語同士の関連性といったところを、「情報I」で扱っていく必要があることを、私の総括とさせていただきます。

 

令和4年度 神奈川県高等学校情報部会研究大会発表より