第15回全国高等学校情報教育研究会全国大会
講評・講演
教科『情報』第3ステージ~『情報Ⅰ』の実践~指導と評価の一体化を目指して
国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部研究開発課教育課程調査官
文部科学省初等中等教育局修学支援・教材課 教育課程課情報教育振興室教科調査官
田﨑丈晴先生
オンライン開催+現地パブリックビューイングで交流の場を広げた大会
今回の第15回大会は、オンライン開催ということでしたが、工学院大学様のご協力で、パブリックビューイングの会場も設けていただきました。オンラインはどこからでも参加できるという利点がありますが、パブリックビューイングのおかげで、現地で教室に分かれて分科会を見たり、いろいろな方と交流したりすることができたのは、一つの成果であると思います。来年度、どのような形で開催されるか、私も楽しみにしています。
また、今年も論文集をオンラインで入手してくださるようにしてくださって、ありがとうございました。昨年度の資料もまだ入手できます(※1)。これが継続すれば、全高情研の歴史となった過去の資料が、オンラインで入手できるようにされることによって、どんどん記録として積み重なっていくと思います。今後もこのような取り組みが続くと、仮に参加できなくても、全高情研でどのような発表がなされたのかということを、資料を入手して見ることができるのは大きいと思います。
※1 第15回全国高等学校情報教育研究会全国大会(オンライン大会)ペーパーバック
第14回全国高等学校情報教育研究会全国大会(大阪大会)ペーパーバック
今回の全国大会は、「教科『情報』第3ステージ~『情報Ⅰ』の実践~」というテーマで実施されました。「情報Ⅰ」は、今年から新しい学習指導要領の学年進行で実施されています。初年度ということで、どのような取り組みが報告されるのか、私も心待ちにしていました。今回は3つのテーマで分科会が設定され、それぞれの分科会に若手枠がありました。
次の情報教育を担う若手の先生方が、全国大会で取り組みを共有されるのは喜ばしいことですし、若い先生方にとっても励みになると思いますので、こういった取り組みは、今後もぜひ続けていただきたいと思います。
3つの分科会は、「情報Ⅰ」の内容に関するものだけでなく、「授業の設計と評価」というテーマも設けられました。この辺りは、新しい学習指導要領の考え方の中で、「何を学ぶか」だけではなく「何ができるようになるか」「どのように学ぶか」という部分にも焦点を当てるものとして、今大会の特徴的なところです。ここを1つのテーマとして取り上げていただいたのは、たいへんありがたいことであると思います。
2日目にはポスターセッションも開かれました。ブレークアウトルームで出たり入ったりしながら、ポスター発表を聴く機会ができたことができたのも良かったと思います。
多彩な発表者からの様々な実践発表~どのように自校での実践に反映していくかが課題に
今回の発表件数をざっと数え上げてみました。
今回、発表された先生方の所属を調べながら気が付いたのは、中学校・高校単独だけでなく、大学の先生との連名で発表されたり、同僚の方々との連名、研究会として、一般社団法人から、そして大学の先生や学生さんの発表もありました。
大学の発表は、おそらくゼミで取り組まれたことを、学生さんがファーストオーサーで発表者となり、先生が連名というのは学会発表のようですね。その発表の機会として全高情研を選んでくださったのは、今回の新たな発表者のパターンでした。このように、参加される方も発表される方も、幅広くご参加いただけたのは、非常に良かったと思います
発表は、分科会発表が23件、オンデマンド発表が15件、ポスター発表が4件でした。いずれも新しい学習指導要領の「情報I」の学年実施を迎えての取り組みの現状についてのものでした。発表された先生方の現時点の取り組みの成果や課題を共有していただけたと思います。
様々な実践が紹介されましたが、これが正解だというものではありません。発表者の先生は、いずれも学校の実情に応じて自校の生徒にとってより良い形の授業を工夫し、実践されています。
一方、聞き手の皆様には、発表された実践のどの部分がご自身の学校の生徒に対して生かせるかというところを、一つでも多く感じていただいて、それを2学期からの授業実践に生かしていただければと思います。
発表の内容も、スライドに挙げたような豊富な話題が提供されました。特に、他教科との横断的な視点での連携や、「情報Ⅰ」から「情報Ⅱ」や専門教科「情報」へのつながり、あるいは3年間を見通した教育課程の見直しについては、情報科の先生一人ではなかなか成し得ないことです。学校経営に情報科の先生として、もしくは情報科の主任として、どのように参画していくのか。カリキュラム・マネジメントの取り組みの中で、どのように寄与していくのか、という視点を持っていただけたと思います。
この講演の後半部分でも、情報科の先生として取り組むべきこと、さらに組織の一員として学校経営に参画するという視点で取り組むことというところを、少し意識してお話ししたいと思います。
「情報活用能力」が、学習の基盤としての資質・能力の一つとして位置付けられて、学校全体で育成する、ということをいかに具現化していくのかというところでは、情報科の先生が学校全体に寄与することへの期待は大きいと思います。
また管理職、もしくは指導主事の立場で気が付くこと、という視点からの発表もありました。
情報科は平成15年から始まって、今年で19年になりますが、ここまで教科「情報」を実践されてきた先生方が指導主事や管理職になる時期を迎えています。
私自身も、情報科で採用されて今日に至っていますが、様々な立場で気づいたことや、新しい学習指導要領にどのように取り組んでいったらよいのかということについて、いろいろな立場の先生のご意見をいただけたのは、教科「情報」の歴史の中が生み出したものと言えると思います。
教員養成についても、様々な視点から意見表明がありました。教員採用試験についての話題がありましたが、自治体の方も、こういった分析があるのかということを知ることができたかと思います。
1人1台端末、GIGAスクール構想を推進する現在における情報化に関する発表もありました。こちらについて、私からも情報提供させていただきます。
下図は、6月に文部科学省の大臣官房から出た、高等学校施設整備指針の抜粋ですが、ここにコンピュータ教室について書かれています。この「17コンピュータ教室」の(1)が新たに付け加えられた項目です。
ここを見ると、「1人1台端末環境等の整備に伴い、コンピュータ教室については、教科・科目の内容に応じ、個別の端末では性能的に実現が困難な学習活動を効果的に行うことができる空間として捉え直した上で…」と書かれています。
今後新たにコンピュータ教室を整備する際には、1人1台端末との役割分担を考慮すべきであると思います。具体的には、この資料が示しているとおり、生徒の個別の端末では性能的に実現が困難な学習活動を、効果的に行うことができる空間として作り直すということになります。
これからの時代に合ったパソコン教室とはどのような教室なのか、どのように整備にしていくかということを検討することも必要であると思います。
詳しくは、このスライドの下にあるリンク(※2)に資料がありますので、こちらをぜひご覧ください。
初めから見ていくと、GIGAスクール構想の推進に伴って、国が学校施設においてICTをどのような位置付けとして見ているのか、いうことについて、参考になるような記述がたくさん見受けられます。ご一読いただく価値はあるかと思います。
※2 学校施設整備指針
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こうして、今回も様々なことを共有できましたが、先ほども申し上げたように、この大会に参加して感じたこと、得られたことを、今後どのように自校での実践に反映し、取り組んでいくのか。具体的にどのように行動していくのかということが、やはり大事であると思います。
まず手始めに、直感的に「これは良さそうだ」と思ったものをやってみましょう、ということになるかと思います。考えているうちに時間はとんどん過ぎてしまいます。考え過ぎて時間が過ぎていくよりは、まずやってみようというところが大事ではないでしょうか。
「どのように指導するか」とともに、「どのように評価するか」を考える
様々なご発表の中で、学習指導要領をひもといた上で、考えたことを形にした実践を沢山発表していただき、ありがたいと思いました。私たちは、学習指導要領に基づいて、教科「情報」の授業を実践していくことになりますので、この辺りはあらためて確認していただきたいところです。
新しい学習指導要領の考え方で示されている資質・能力の育成は、「指導と評価の一体化のための参考資料(以降、「参考資料」)においても、育成する資質・能力が教科・科目の目標で示されていて、その目標に対して、どこまで到達しているのかを観点別で評価していくところの説明が書いてあります。
「資質・能力の育成」というところから評価に至るまで、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」の3つの柱で一貫して育成していくということが示されているので、この辺りはぜひもう一度確認していただきたいところです。
後ほど改めてご説明しますが、「知識・技能」に偏らず、「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」の3つの資質・能力をどのようにバランスよく育成するのか、というところについて、1学期、実践されてみていかがだったでしょうか。このように振り返っていただくことは、 2学期からはどのように改善して実施するのか、さらに来年度にどうつなげていくのか、ということにも関わってくるかと思います。
また、「同僚の先生とますます協働する」と書きました。これは、先ほども申し上げたように、情報科の先生一人だけではできない部分があります。他教科との連携はその一つです。数学科や公民科との連携は、情報科の学習指導要領の部分に明記されていますし、「総合的な探究の時間」との連携、あるいは学校全体で情報活動能力を育成する、といったこともこれにあたります。
校内でどのように連携をするのか、それによって生徒にどのようなより良い教育ができるか、という視点で、校内で話し合ったり調整したりしていただくことが必要であると思います。
そして、今回の全国大会でお持ち帰りいただいてご自分の学校で取り組まれた成果の発表を、来年の全国大会でたくさん伺えることを楽しみにしております。
今回も「授業改善」という視点で発表してくださった先生が何名かいらっしゃいました。大変ありがたいと思います。今回の授業についてご報告いただくだけでなく、今後の課題として改善するとしたら、このような視点が考えられる、ぜひともやってみたい、という改善に向けての決意をいただいた発表もありました。来年の全国大会で、またどのように充実されたのか、ぜひご紹介ください。
学習指導要領の着実な実施、より良い実施に向けて
ここから先のお話については、「学習指導要領の着実な実施、より良い実施に向けて」という副題をつけました。今年は、新しい学習指導要領の学年進行実施1年目ですので、まずは着実な実施、そして来年度に向けた改善に向けて何をするかというところです。
今までは、新しい学習指導要領の考え方について理解を深め、その実施初年度に向けて準備をする期間でしたが、今年からはいよいよその実践となります。これまで1学期にどのようなことをどこまでできて、そして、2学期からはどのような視点で改善していくのかという思いを新たにする確認をしていく機会にしていただければと思います。
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大学入試への「情報」の導入について、いろいろ取りざたされていますが、新しい学習指導要領は、これからの時代に必要となる資質・能力を育成する、という視点でまとめられているというところは、確認しておきたいところです。
Society5.0の時代に向かっていますが、「AI」というキーワードでニュースの検索をかけると、連日何らかのニュースが出てきます。
様々な業種で、情報技術を基盤として、AIやデータを活用して課題解決をしていくことが行われています。ひょっとしたら、近所の小さなお店でも、実はeコマースで物販をしているかもしれません。これからは、全ての高校生が「情報Ⅰ」を学んで、様々な業種で活躍するになります。そのとき、「情報Ⅰ」で学んだことを思い出して応用していくことになるでしょう。
大学進学にあたっては、数理・データサイエンス・AI人材育成政策の中で、共通テストの「情報I」の導入は高大接続の一環として位置付けられています。大学に進学するところで、高等学校の情報科において、数理・データサイエンス・AIに関する基礎的なリテラシーを習得することが期待されています。
新しい時代に必要となる資質・能力を、3つの柱に沿ってバランスよく育てていくということが、この4月からどこまでできたでしょうか。
そして、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの学習課程の改善については「どのように学ぶか」のところに書いてありますが、「主体的・対話的で深い学び」の視点での授業実践がどこまでできていて、今後より良い授業のために、どのような視点で改善したらよいのかということは、常日頃考えていただきたいと思います。
そこにあたっては、「指導と評価の一体化」の視点で学習評価の充実を考えていただくことになります。
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「情報I」「情報Ⅱ」あるいは学校設定科目をどのように設置するか、教育課程全体から考える
後半の資料でも触れますが、観点別の学習状況の評価にあたっては、単元を通して「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「主体的に学習に取り組む態度」それぞれの側面で生徒に学習活動を見取って、評価し、総括する。これを単元ごとに行って学期の総括につなぎ、年間の総括につなげていく。ということから言えば、単元ごとに3観点で総括をすることは、単元ごとに「指導と評価の一体化」の視点で授業改善のサイクルが回せるということになります。
ですから、そういった視点でこの1学期の中で授業改善のサイクルをどのぐらい回せたのか、「資質・能力の育成」という視点でどこまで取り組めたのか。この「資質・能力の育成」という視点は、学校として育てたい生徒像とも関連しますから、学校全体としてのカリキュラム・マネジメントにどこまで取り組めたのかということと関わってくることを実感されているのではないでしょうか。
今年、「情報Ⅰ」が始まったので、このスケジュール表は来年からは使えなくなりますが、来年からは、「情報Ⅱ」を始める学校もあるでしょうし、再来年度は、さらに発展的な内容を学ぶ科目など、高校3年生にどのような科目を置くのかということを検討することになっていきます。
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今大会でも、教育課程の見直しについて言及された方がいらっしゃいましたが、高校3年間の教科「情報」の指導計画について検討して校内でご提案いただき、教育課程に位置付けていただくということも、そろそろ具体的にお取り組みいただくのがよいかと思います。
これは、高校3年間を見通して、情報科としてどのような取り組みをしたいか、生徒にどのような力を身に付けさせたいか、そして、卒業後につなげていきたいのかということにもなります。例えば、高校1年生で「情報Ⅰ」しか設定されていなければ、高校3年間の情報科の指導計画は、高校1年生のことしか書けないということになってしまいます。
しかし、「情報Ⅰ」の勉強を通して、さらに「情報」に興味を持って、より深く学びたいという興味・関心を高めた生徒がいるのに、学校側が「情報Ⅱ」を設定していなかったら、と思うと、いかがでしょうか。生徒の高い興味・関心に応えるために、「情報Ⅱ」をどのように・何年生で設定するのか、検討していただいて良いと思います。
もしくは、高校2年生で「情報Ⅱ」を設定して、その後高校3年生でさらに発展的な取り組みをしたいと思ったときは、「情報学探究」のような学校設定科目を置くかどうか、といった、情報科としての構想を考えて、校内で提案・共有していただき、教育課程に位置付けていくことの検討をいただけたらと思います。
この夏の教科書選定で、令和5年入学生の1年生の教科書が選定されましたね。令和4年入学生の高校2年生も教科書も選定されましたので、教科書選定を行った学年の教育課程はすでに決定したことになります。そうすると、例えば今高校2年生に「情報Ⅰ」を置くことにしているけれど、やはり1年生に「情報Ⅰ」を置きたいとなったとき、どのタイミングであればそれが実施できるかいえば、令和6年度入学生から、ということになるでしょう。
教育課程の改善というは大変なことですが、こういった「いつまでに」という時間軸で捉えていくか、という議論も含めて検討しなければならないわけです。
全ての教科を通して学校全体で身に付ける「情報活用能力」
先ほどお話しした情報活用能力につきまして。先生方は、既にご存じかと思いますが、学校中の先生がこれを知っていらっしゃるかということになると、「?」となるかもしれませんよね。こちらは学習指導要領解説の総則に書いてあるものですから、そのまま職員室で共有していただいて良いと思います。
情報科だけでなく、全ての教科で身に付ける力であるので、どの教科でどのような取り組みをするのかということを考えるための資料にしてご活用ください。
この内容をよく見ると、これからの時代、もちろん今の時代にも必要な学び方です。これを身に付けることによって、生徒が学び方を学ぶ、必要な力を身に付けていく。学生の基盤となる資質・能力なんだなということがわかるような記述になっていると思います。
中でも、「情報社会に主体的に参画し、その発展に寄与しようとする態度」の部分も、学習の基盤としての資質・能力の「学びに向かう力・人間性」の中で養うものと書かれています。
つまり、提案性のある課題解決活動を行って、「情報社会に参画し、寄与し、新しい価値を提案する」ということです。情報活用能力の育成を通して、そういった視点での取り組みが全ての教科でできるのではないかと思うわけです。
特に今回お話ししたいのは、下図の赤字のところです。情報活動能力は、「各教科における主体的・対話的で深い学び」とつながっていくことが一層期待されます。課題解決活動の「課題を発見・解決する」ということも、情報活用能力の要素に含まれていますから、もちろん、そのことは重要ですが、各教科に共通する教科である情報科は、「高等学校における情報活用能力の育成の中核を担うもの」と書かれています。全部ではない、しかし中核を担うわけです。
つまり、「情報Ⅰ」や「情報Ⅱ」の学びが高等学校における情報活用能力の育成の中核を担うためには、これらの科目を何年に置いたらよいか、ということをきちんと議論する必要があるわけです。先生方には、情報科と他の各教科・科目や探究活動と相互に関連を図り、積極的に実施していくことをどのようにして実現するのか、という構想を作っていただいて、校内で、情報科の主任として提案していただきたい。もちろん、校長先生のリーダーシップの下で、ということはありますが、ここは非常に重要なところだと思います。
これは、カリキュラム・マネジメントと一言で言ってしまえばそのとおりですが、学校全体で議論しなければいけないテーマです。ただ、今回の学習指導要領で、新たに情報活用能力が「学習の基盤となる資質・能力」の一つに位置付けられていることを機会と捉えて、学校中の先生方に、教科「情報」の可能性をわかっていただけるような取り組みをしていただきたいと思います。
情報モラルについても、生徒が情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度を身に付けるためにはどうしたらよいかということは、情報科だけが取り組めばよいわけではありません。
下図の一番下に、「情報科や公民科、特別活動のみで実施するものではなく、各教科等の連携や、更に生徒指導との連携も図りながら実施することが重要」と書かれています。これも学校全体での取り組みということになります。
1人1台端末が生徒に行きわたって、教育活動全体で使われるようになると、まさに、この赤字の部分にあるように、情報モラルの指導は情報科の先生が一人でするだけでは済まないことになります。これも、学校全体が組織的にどのような取り組みをするのが効果的かということを議論することが必要であると思います。
情報科の問題解決では「情報技術の適切かつ効果的な活用」とともに「新たな情報を生み出す」視点が求められる
教科「情報」で「主体的・対話的で深い学び」や「探究的な学び」についてはどのような取り組みが考えられるかということは、学習指導要領に書かれています。
教科「情報」では、単に課題解決活動をすればよいわけではなく、「情報に関する科学的な見方・考え方」を働かせた上で、情報や情報技術を活用して、問題を発見・解決していくことが求められています。
「情報に関する科学的な見方・考え方」は、学習指導要領解説情報編にも示されているとおり、「事象を、情報とその結び付きとして捉え、情報技術の適切かつ効果的な活用(これはプログラミング、モデル化とシミュレーションを行ったり、情報デザインを適用したりすることを示します)により、新たな情報に再構成する」ということです。
ですから、新たな情報を生み出すという視点と、情報技術の適切かつ効果的な活用、ということが求められるわけです。「情報科としての問題解決」ということを、科目の指導の中でどのように取り入れていくかという視点はもちろん必要ですが、そのとき探究的な学習活動の充実を図るということも、学習指導要領に書かれています。探究的な学習活動をどのように取り入れるのかというところは、「主体的・対話的で深い学び」の実現にもつながります。
「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の内容に基づいた探究活動を通して、学習内容について、繰り返して見直したり、調べたり、試行錯誤したりということを続けていく中で理解が深まっていくことができるでしょう。「主体的・対話的で深い学び」については、学習指導要領解説の中に具体的に示されていますが、特に「深い学び」のところをご覧になると、「探究的な学びの充実」と「深い学び」の関連がわかるように記載されています。この機会にぜひご覧いただければと思います。
情報活用能力の育成については、下図の赤字のように、「中学校までの各教科等において、教科横断的な視点から育成されてきたことを踏まえ、情報科の学習を通して、生徒の情報活用能力をさらに高めるようにすること。また、他の各教科・科目等の学習において、情報活動能力を生かし、高めることができるよう、他の各教科・科目等との連携を図ること」と書かれています。
このことを学校で実現するには、先ほどから申し上げているように、「情報Ⅰ」や「情報Ⅱ」をどの学年に設置いたらよいか、ということをきちんと考える必要があります。学習指導要領には、「情報Ⅰ」や「情報Ⅱ」を何年生に置くべしとは書かれていません。なぜ書かれていないかというと、ここは各学校が考えるところであるからです。カリキュラム・マネジメントの取り組みの中で考えること、その答えを各学校で出すことが必要なのです。ですから、繰り返しになりますが、ここは十分、各学校でご検討いただきたいと思います。
また、これは当然ではありますが、「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の分割履修はしない、「情報Ⅱ」の履修は必ず「情報Ⅰ」を履修した後に、ということは守っていただきたいと思います。
さらに、「(4)公民科や数学科等との内容との関連を図る」あるところについては、公民科や数学科の学習指導要領解説においても、情報科の関連について書かれています。
ですから、公民科や数学科の先生とご相談いただきながら、公民や数学の指導、授業においても「情報」の指導にとってより良い相互作用が図れるように、公民科や数学科の先生とコミュニケーションを取っていただければと思います。
情報や情報技術を活用して問題を発見・解決する学習活動を「個別最適な学び」「協働的な学び」へ
教科「情報」は、情報や情報技術を活用し、問題を発見・解決する学習活動を通して「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう力・人間性」を育てていきます。探究的な学びも、問題を発見・解決する学習活動の一つです。そういった学習が充実してくると、生徒が課題を深めたり、新たな情報を収集しようとしたり、「情報」で学んだ内容についてもう一度勉強したり、といったことがニーズとして生まれてきます。1クラス、40人の生徒が一斉にそういったニーズを表明するということはなかなかないので、一人ひとりのペースになってくるわけですよね。
そのようになりますと、生徒一人ひとりが課題を発見・解決する活動を有効に進めるために、必要なことについて、自分たちのタイミングで気付いていくということになります。それは「個別最適な学び」につながってきますし、課題解決活動をチームで行っている学校では、「協働的な学び」につながります。「主体的・対話的で深い学び」が「個別最適な学び」「協働的な学び」に深く関係している、というところの資料を付けておきましたので、こちらもご覧いただければと思います。
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StuDX Styleのサイト(※3)の中に、「STEAM教育等の教科等横断的な学習」というコーナーがあります。ここには、「総合的な探究の時間」の構造イメージや、STEAM教育の教科横断的な学習の推進に関しての資料が載っていますが、ここでもやはり大切なのは、情報活用能力です。
※3 StuDX Style
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教科「情報」は情報活用能力を育成する中核を担う教科ですから、教科「情報」と「総合的な探究の時間」が連携しやすいということがご覧の図からも考えられますが、注意したいのは、教科「情報」は教科の目標を実現するようしっかり授業を行うことが大切ですから、「総合的な探究の時間」との連携においては、「総合的な探究の時間」に「情報Ⅰ」や「情報Ⅱ」の学びをどのように生かすのかという視点でご指導いただきたいということです。
他教科、あるいは「総合的な探究の時間」で学ぶべきことを、情報が代わりに行うということではないということは、学校全体で共有していただくべきと思います。
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学習指導要領の「共通教科情報」および「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の目標が下図です。先ほど申し上げた、「問題の発見・解決を行う学習活動を通して…」というところは、「共通教科情報科」「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の目標の柱書きに書いてあるので、ご確認いただければと思います。
下図が、「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」で学ぶ主な内容です。「情報Ⅱ」は、「(4)情報システムとプログラミング」で、開発らしいことを行い、「(5)情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究」では、「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」で身に付けた資質・能力を総合的に活用した探究活動を行います。できればここまでご指導いただきたいという思いをこめて、教育課程の見直しについてお話ししてきました。もちろん、専門教科情報科の科目を設置してくださっても構いません。今回、実際にそのようなご発表もありましたね。
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専門教科情報科の目標としては、実践的・体験的な学習活動を行うことを通して、「学びに向かう力・人間性」のところでは、より良い社会の構築を目指して自ら学び、情報産業の創造と発展に主体的かつ協働的に取り組む態度を育てます。
ここから、問題を発見・解決する学習活動を前提としながら、クリアするべき目標がかなり専門的だということがわかります。このような目標を持って、資質・能力が身に付くよう、生徒たちを育てていただきたいと思います。
「指導と評価の一体化」の視点から授業の設計を考える
学習評価につきまして。教科・科目の目標として、資質・能力の育成というものが設定されました。そして、その資質・能力の3つの柱の一つひとつと対応する形で評価の観点が設けられているので、目標とする資質・能力がどこまで育成されたのか、ということを見取って評価していくことになります。その辺りとカリキュラム・マネジメントとの関係は、「参考資料」に示してあるとおりです。
教科・科目の指導、資質・能力を身に付けていくところは、カリキュラム・マネジメントのためにも必要であることが、この資料でわかると思います。
評価に際しては、評価の観点と趣旨について、必ず「参考資料」をご確認いただきたいと思います。
例えば、「主体的学習に取り組む態度」をどのような趣旨で評価するのかについては、「情報社会との関わりについて考えながら、問題の発見・解決に向けて、主体的に情報と情報技術を活用し、自ら評価し、改善しようとしている」と書かれています。ですから、「情報や情報技術を活用して、問題を発見・解決していく学習活動を通して」ということがしっかり行われていれば、この趣旨に基づいて評価ができるということです。
つまり、指導と評価の一体化として、1学期の指導はどうであったか、2学期から完全を図るとしたらどうするかというようなところは、こういった資料を基にお考えいただければと思います。
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そういったところから、単元の内容についても、資質・能力の3つの柱に基づいて内容のまとまりが設定され、それを基に評価基準をどう設定していくのかということ、これは「指導と評価一体化」の参考資料にも載っていますし、教職員支援機構のビデオ(※4)でも説明されているところなので、詳しくはそちらを見ていただければと思います。
※4 https://www.nits.go.jp/materials/youryou/061.html
評価は生徒を順位付けするためでなく、「おおむね満足できる状況」のための働きかけと表裏一体
単元の学習評価の進め方で、特に私から申し上げたいのは、左側の「3指導と評価の計画を作成する」のところで、どのような評価資料を基に、「おおむね満足できる」状況(B)と評価するかを考えることです。
「努力を要する」状況(C)になり得る生徒がいたときには、どのような手だて、働きかけをすれば、「おおむね満足できる状況」に育てられるかを準備しているか、働き掛けることで、「おおむね満足できる状況」と評価できるようになるかということです。そのような手立てを講じることなく、「あなたはCです」ではないのです。
学習指導要領に「育成する資質・能力」が示されているので、学習状況の見取りで「C」になりそうな生徒がいたら、手立てを講じて育てる。これが徹底されれば、生徒はオールBと評価されると期待できます。
3つの観点がオールBであれば、評定は5段階であれば「3」ですから、評定「1」や「2」というのは、手立てを講じることを含めて、学習指導が十分であったか、授業改善に向け振り返っていただくということが考えられます。あくまで「生徒の資質・能力を育てましょう」ということは強調しておきたいと思います。
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「参考資料」に載っている学習評価の事例においても、単元の目標は資質・能力の3つの柱から設定されています。
評価の方法にもいろいろなものがありますから、それらを活用して、単元を通して、生徒の学習活動を見取って、改善に向けた指導を行ったり、もしくは記録を付けたりして、その記録を基に単元を総括することになります。
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具体的に、Aが何個だったら評定をどうするか、という総括の方法は各学校が決めることです。
「参考資料」には、詳細な記述はありません。単元を通して生徒の学習活動を見取って、日頃の評価の積み重ねで総括をして、それを繰り返して学期の評価、さらに年間の評定に結び付けていきますが、その方法は、教科だけの取り組みではなくて、学校全体の取り組みということになります。「参考資料」は、生徒を順位付けするというような考え方は示していません。その辺りは、学校の中で十分、議論していただきたいと思います。
[学習評価に関する資料]
・国立教育政策研究所
「学習評価の在り方ハンドブック」(高等学校編)(令和元年6月)
「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(高等学校編)共通教科「情報」
「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(高等学校編)専門教科「情報」
•教職員支援機構
「新学習指導要領の改訂のポイントと学習評価(高等学校 情報科(共通教科「情報」))」:新学習指導要領編 No61
「新学習指導要領の改訂のポイントと学習評価(高等学校 情報科(専門教科「情報」))」:新学習指導要領編 No73
文科省も様々な取り組みをしています。ICT活用教育アドバイザー事業では、「情報Ⅰ」に関するセミナーや研修会を開いたりするなどしています。ぜひ、そういったことをご活用いただければと思います。
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大切なのは授業を「つくる」こと。事例は発表して共有しよう
「これからの授業を『つくる』を続ける」と書きましたが、ここに表示されていることには、一人でできること、学校全体で行うこと、と様々あります。大切なのは、「つくる」ということです。そこを、どこまで取り組めるか、ということで、来年また研究大会でお会いしたいと思います。行政の方にも、こういった視点でご支援いただければ幸いです。
[質疑応答]
Q.情報Ⅱを進めるにあたり、内容についてより深く研修したいと思っています。何か参考になる資料が
あれば教えていただきたいと思います。また、情報Ⅱに関して今後の履修について、展望などがあれ
ばあったら教えていただきたいです。
A.田﨑先生
「情報Ⅱ」については、教員用研修教材(※)が文科省のwebサイトにPDFで出ています。
また、「情報Ⅱ」に関する動画教材は、前調査官の鹿野先生が作られた「一般社団法人デジタル人材共創連盟」で公開されています(※5)。
「情報Ⅱ」の履修に関しては、学習指導要領が定める必履修科目は「情報Ⅰ」であり、「情報Ⅱ」は選択科目です。よって、「情報Ⅱ」を学校としての必履修科目にするかどうかというのは、各学校での検討課題になります。
例えば数学では、数学Ⅰは学習指導要領が定める必履修科目であり、それ以外の科目は選択科目ですが、数学Ⅱも学校としての必履修科目として設定しているところがあります。このように、各学校の教育課程の検討において、「情報Ⅱ」を学校の必履修科目にするかどうかということは、各学校で議論していただくことになります。学校における必履修科目、選択科目、学校においてふさわしい形で「情報Ⅱ」が多くの学校で履修されることを期待しています。よろしくお願いいたします。
第15回全国高等学校情報教育研究会全国大会(オンライン大会) 講評・講演より