第15回全国高等学校情報教育研究会全国大会

「情報Ⅰ」で大切にしてほしいこと ~よりよい学びに向けた教員としての視点~

和歌山県教育庁学校教育局県立学校教育課 肥田真幸先生 長井映雄先生

左:長井先生、右:肥田先生 ご本人提供
左:長井先生、右:肥田先生 ご本人提供

肥田先生:いよいよ「情報Ⅰ」がスタートしました。各学校の先生方は頑張ってくれていると思いますが、印象はいかがでしょうか。

 

長井先生:そうですね。いよいよこの時が来た、という感じです。先生方はいろいろ準備されてきたので すが、お話を聞いてみると、いざ教科書が届いて授業をスタートするとなると、いろいろな悩みや不安を抱えて授業に臨まれているのだなということがわかります。

 

肥田先生:先生方は本当に頑張ってくださっていますよね。私たちは、研修で和歌山の学校をいくつか回っています。毎回来てくださる先生方は40人くらいですが、実は休憩時間が一番充実していますよね。

長井先生:研修会をやっていると、先生方はやはり1人でいろいろな悩みを持たれていることをよくわかります。休憩時間の「ここ、どうやってるの」という会話から先生方のコミュニティができ、これがもっともっと広がって、和歌山県だけでなく全国に広がって行けば、先生方はもっと授業がやり易くなるだろうという想像がつきます。

 

 

いよいよ「情報I」がスタート~先生方のコミュニケーションが一層大事に

肥田先生:「情報Ⅰ」の目標をスライドに出しています。「効果的なコミュニケーション」とあるように、先生方ご自身の中で、まずコミュニケーションの実践をしていただけるとありがたいと思います。ただ、まだコロナ禍が続く中で、なかなかリアルのコミュニケーションが取りにくく、オンラインで済ませてしまうことがあります。

 

オンラインが悪いわけではないですが、研修をしていて感じるのは、やはり膝を突き合わせてFace to Faceで話し合うのはすごく大事であることです。「情報I」は、これまでと内容がガラッと変わってしまったかというと、そうではないと思います。「温故知新」と言うか、元々あった情報科の良いところ、これから必要になることをより洗練して、上へ上へと積んで行くというイメージではないかと。先生方が授業をしているのを見ると、自分も授業をしたくなってきますよね。

 

長井先生:本当にその通りだと思います。

 

 

担当教員の指導力等について~専門性は必要だが、誰にでも関わってもらえるのが情報科の強み

長井先生:学習内容が新しくなって充実したことで、内容を十分教えられないのではないか、という悩みを抱えられている先生もいると思いますが、この辺りはどう見ていますか。

 

 

肥田先生:新聞などでも、よくこういった記事を見ますよね。確かに、先生方は不安を抱えていますし、これまで他教科が専門だった先生もおられる中で、本当に一生懸命やってくださっていると思います。

 

私が思うのは、新聞が取り上げているような、「『情報I』の内容を教えられないのではないか」という論調の裏には、たぶん共通テストの問題が色濃く出ていると思います。生徒たちが将来どんな力をつけなければならないのかを考えたとき、私たち教員はやはりプロですから、どのように教えて、何がその核になるところなのかということは、しっかり教材研究をすればわかっていただけると思います。

 

これまでも、他教科がご専門の先生に頼って来たということは事実としてあるのですが、異なる専門の先生に関わっていただけているからこそ、情報科独自の良い色がすごく出たのではないかと思います。誰でもできる教科ということはないと思いますが、きっと誰にでも関わっていただける教科であると思うのです。

 

他の教科にも、情報的な考え方やICTの活用という部分が出て来て、「すべての教科で情報活用能力を鍛えましょう、その中核となるのはこの『情報Ⅰ』ですよ」と言われているところもあるので、そういった意味でも、いろいろな先生方に関わっていただけるというのは、すごくありがたいと思います。

 

ただ、「ありがたい」で済ませるのでなく、やはりそのための研修や、専門性を磨くことは重要であると思います。正直、情報科の先生方には、特にこの何年間かは、専門性をとことん磨いていただかないといけないと思います。

 

長井先生:そうですね。一度もともと数学だった先生の授業を見学させてもらった時に、数学の視点を含めた上で、情報のデジタル化の部分を教えていらっしゃいました。そういった、もともと他教科が専門だからこそ、情報との結び付きをよく理解した上で指導されていたのが非常に印象的でした。

 

肥田先生:私も、他の教科のベースを持っていらっしゃる先生が、同じ内容でもアプローチの違う指導を見ると、このような視点もあるんだな、と視野がすごく広がります。「情報科の専門ではないからこそできる授業」というものもあるのではないかと。

 

もちろん、専門性を高めて押さえるべきところは押さえなければいけないと思いますが、「情報科の専門」と一言で言っても、私自身も「問題解決」を大学で学び、得意な分野としてずっとやってきたので、その部分については自信を持っています。長井先生は「情報デザイン」がご専門ですよね。

 

長井先生:情報科は分野が広く、専門と言っても多岐に渡るので、得意な分野もそれぞれです。

 

肥田先生:同じ情報の先生でも、プログラミングが専門の方、ネットワークの専門の方といろいろな方がおられます。いろいろな先生の力を合わせると言う意味では、1人でどの分野も教えられる、という先生がいらっしゃったとしても、やはり他の学校と関わってもらうというのは、絶対に大事であると思います。

 

やはりコミュニティをいかに広げて、先生同士のつながりを大事にしていくということが課題でもあると思いますが、ある意味、情報科という教科の、他の教科にない可能性だと思います。都市部では、情報科教員が1校に1人という県もあるようですね。

 

長井先生:羨ましい限りですね。

 

肥田先生:先日、新聞の記事で、情報科の問題は単位数ではなく、教員が1校に2人は要るだろうという話もあったので、実現すればよいなと思いました。

 

私自身が今年、感じたことは、例えば研修の内容をどうするかということについても、同じ専門性の先生と協議して作ることでよくなると言うことです。ほかの人と積極的に関わることの大事さをすごく感じたので、同じように、授業づくりには、同じ教科・他の教科に関わらず、やはり誰かと関わりながら作っていくことが大事ではないかと思いました。

 

長井先生:私も、今まで1人で2時間も3時間も悩んでいたことが、2人で考えることで、1分で答えが 出たり、もっとより良い方向へ持って行けたり、といったことを本当によく感じています。これは現場の先生も同じだと思うので、今回、肥田先生が和歌山県の情報科の先生に研修をされている様子を見ても、やっぱりコミュニケーションを取ることは大事だな、と感じています。

 

肥田先生:先生方は、研修中も隣の方と相談されたりしていますよね。生徒も授業中にこういったことができたら、コミュニケーションがどんどん進むと思います。私も「これでいいのかな」と思っているところを、長井先生から「それそれ!それでいいよ」と言ってもらえるだけでも、たくさんの勇気もらって、頑張ろうと思いますし、説明をしたり聞いてもらったりすることが勉強になることもあるので、それを繰り返していくべきだと思います。

 

だから、私は自信のない先生ほど他の先生に見てもらうべきではないかと思うのです。恥ずかしいかもしれない。でも、不安だからこそ、見てもらうというのは大事なので、そういう一歩を踏み出してもらいたいと思います。

 

 

大学入学共通テストへの導入~授業が変わらなければならないのは「情報」だけではない

肥田先生:次もまた大きな話です。大学入学共通テストへの導入について。私自身は、待ちに待ったという感じではあります。よく新聞などでも、時期尚早などと言われていますが、「始まってからもう何年経っとんねん!」という気持ちもあります。

 

これまで準備する期間はありましたし、こういうことになることは、ある程度予想できたはずですよね。むしろ早いのではなくて、私は少し遅れていると思います。だから、これからどんどん調整もしていかなければならない。ただ、やはり学校の動きを見ていると、入試対策の授業になってしまわないかという不安もあります。

 

「早く共通テストの問題がたくだん出て欲しい」という気持ちの裏にあるのが、「教えるべき、学ばせるべきことをしっかりと精査したい」ということであればよいのですが、「授業で数を解かせる問題がほしい」ということになってしまうと、本目指すものとは違ってしまうのではないかと思います。

 

 

長井先生:そうですよね。入試のために学ぶ教科ではないので、情報科本来の目標というものを見失わないよう、気を付けないといけないと思います。

 

肥田先生:長井先生、「本来」って何だと思いますか。

 

長井先生:「本来」ですか。情報科の目標というのは、問題解決の力を身に付けさせるということですよね。

 

肥田先生:まずそこがベースですよね。「情報」のものの見方というのは、すごく大事で、まさにそういったことを身に付けさせたいと思います。大学入学共通テストの出題科目になったとしても、それは同じだと思います。

 

ただ、それが例えば、知識ベースみたいな問題になってくると、ちょっと違ってきてしまう。出題する方は、いろいろ試行錯誤しながら作って来られると思うので、試作問題やサンプル問題が世に出てくることを楽しみにしています。

 

長井先生:私も本当に楽しみにしています

 

肥田先生:授業という観点で見ると、「情報」だけでなく、全ての授業が変わらなくてはならないタイミングが来ていると思います。今までのchalk&talkでは、生徒たちの学びは今のまま止まってしまう。もちろん、今までが全て悪かったわけではないのでしょうが、せっかくある道具(ICTの環境)を使わないといけないと思います。

 

というのも、私はICTの活用を進めながら、同時に、授業をどう作り直すか、ということを考えてきました。昨年の全高情研でも、授業の一部を動画に置き換えたり、個別に学べる仕組みを作ったり、といったことによって、授業を「リデザインする」という言葉で表現して発表しました。

 

そこでは、もしかしたら、この「リデザイン」の先に、もっともっと情報技術を当たり前に活用する授業があるのかと思っていたのですが、最近は、それはひょっとしたら思い違いでないかと思っています。学校や教室、家庭にICTの環境があることを踏まえて授業を建て直す、という意味で「リビルドする」というくらいの方がよいかなと思っています。

 

これは、家を建てるときにどんな環境で建てるのかを考えるのが大事であるのと同じで、授業を組み立てるときは、今ある学習環境を考えないといけない。授業の中でICTを使って調べものをする場面で、調べたら出てくるレベルのものかもしれない。でも、実際調べると今まで教科書に載っていた以上のものがいっぱい出てくるわけです。

 

それらをどうやってつなぎ、精査するかということを先生がどうサポートするのか、それとも、生徒に任せるのかということが重要です。そして、ここで一番大事になるのは、どんな課題を提示するか、といったことだと思います。

 

「このテーマで1時間授業をやって」「こういう教材で生徒たちに考えさせて」ということは、生徒たちの力や経験によっていろいろ違ってくるので、どこでも同じものは使えません。だからこそ、私たちは教えるプロとして生徒たちの様子や学習の到達度を見て、そこに合ったものを提供し、それをサポートし、ファシリテートしていく。教えるのではなくて、学ばせるために先生があえて我慢する、ということかと思います。

 

長井先生:その「我慢する」とはどういったことでしょうか。

 

肥田先生:先生が生徒に、教えることを我慢するということです。もちろん、知識がないと考えられない、ということもあるので、ある程度知識を付けてあげるということも必要ですが、そこだけに終始すると、話が違うかなと思います。

 

教科書だけでやっていたら10の学びだったものが、生徒たちが自分たちで学んでいくと、たぶん20にも30にもなっていく。そうなれば、たぶん共通テストにも対応できることになってくると思います。そこを、どれだけ思い切ってやれるかというところはありますが、これは大きなことなので、やはり生徒たちのためにも、どういった位置付けにするかを、皆でしっかり考えていかないといけないと思います。

 

観点別学習状況の評価と授業改善~生徒を伸ばすとともに、授業改善の視点を持って

肥田先生:観点別学習状況の評価と授業改善。ここでは、「改善」の方が大事になります。これについては、ICTの活用の部分ですでにお話ししましたが、長井先生は、ご自身の授業の中で、観点別学習的な取り組みをしっかりやられてきたということはあるでしょうか。

 

 

長井先生:私は採用された時に、指導教員から、観点別というか、テストだけではない評価の指導を受けていて、点数だけで評価するのではなく、生徒が学習に取り組む態度など、レポートやテストに偏ることのない評価というのは、普段から気を付けてやっていたつもりなので、実はそれほど心配はなかったです。しかし、現場の先生からは、「これはちょっと難しい」という声もよく聞きます。

 

肥田先生:そうですね。これまでが、どうしても知識ベースというか、テストの点数が取れるかどうかという一面的な評価をしてきた歴史があり、しかもそれが数字で出るからわかりやすいので、事実、どうしても、テストの点数に重きを置いてしまっていた側面があると思います。

 

本当を言うと、その一面しか見ていないのがちゃんとした、公正な評価なのか。評価を充実するには労力がどうしても必要だと思います。今は、いろいろな変化に乗じるタイミングではありますが、実際に変えるためにはそれなりの労力が要ると思うので、もう一回見直さないといけないのかなと思います。私自身、問題解決の授業をガンガンやって、全高情研の東京大会で発表した当時は、1年生の3学期にテストをしなかったこともありました。

 

長井先生:そんな大事な時に!?

 

肥田先生:もちろん、2学期のところまでと事前に1学期からその話をしておいて。でも、最後に生徒は本当に一生懸命頑張りました。考査の時間には、大きなテストのような評価シートを作って、1時間かけて自分が頑張ったこと、思ったことや考えたこと、自己評価や他者評価、グループ評価を、それまでも毎時間行ってきたものをまとめてもう一度書かせる、ということを行いました。記入のために資料を持って来てもよい、ということにして行いましたが、生徒たちもものすごく頑張ってやってくれました。

 

次の年に、他の教科で「この学年の子はすごい。PBLみたいなことができてしまう」という話になった時は、「それはそうだろう」と言いたかったです。もちろん、たまたまその学年の生徒がそうだったのかもしれませんが。

 

あの時は、自分で考えて、今までにない新しいものを作るという授業をやったのですが、そこで思考をしっかり見てやろう、とか、思考した中でいろいろ出てきたものの中から何をもって判断したのか、とか、最後にプレゼンでちゃんと表現できているか、といったことを見ていました。また、チームワークはどうか、協働して助け合ってるか、足を引っ張っていることはないか、ちゃんとやろうという態度はあるか、ということを見ているうちに、本当に生徒たちが伸びるというのはこういうことではないか、と思いました。

 

正直、題材をもう少し考えるべきだったかと反省するところもありますが、やはり大事な経験だったと思います。

 

長井先生:評価が何のためにあるかといえば、一つは生徒たちの力を伸ばすため。そして、もう一つ大きいのは、授業を改善するためのものでもあります。だから、生徒たちを見ていて、やはりここはちょっとまずかったな、というようことを反省して、次の授業を改善する、という視点を持って評価していかなければならないと思います。

 

肥田先生:本当にそうですよね。自分の授業のために評価する、というのもありますし、それが将来の生徒たちのためにもなる。やはり評価にはきっちり取り組んで行くことが重要ですね。

 

「学ぶ」生徒の育成~自分でたどり着かせる経験を確保することが大切

肥田先生:次は、同じような話で、「学ぶ生徒の育成」です。先ほども出てきた授業デザインを見直すということもありますが、生徒自身が今までのように書いて覚え込んでということではなくて、考えて理解して、それを使えるようになる、というのが大事だと思います。そのための環境を守ってあげなければいけない、ということはすごくありますよね。

 

 

長井先生:答えを出すのではなくて、いかに、ちょいちょいと答えをチラつかせながら生徒に、そこにたどり着かせるという方法とか。

 

肥田先生:そういう場合、もしかしたらチラつかせた答えでなく、私らが想像していない答えを出すことがあるじゃないですか。本当を言えば、方向は示すけど、「答えはここだよ」とは言わない。最低限のルールとして、ここだけは言わない、ここまでは自分でたどり着こうよ、というところは持っておかないといけないですね。さらに、生徒の成果が思った以上の場合はどこまで行っても止めない、ということになると、先生の方もある意味、生徒が何を質問してくれるかというような怖さもありますよね。もしかしたら、授業をデザインするために教員として、そこまで持って行かないといけないのかも。

 

長井先生:まさに探究的な学びですね。

 

肥田先生:探究活動ということでは、長井先生は論文を書かれていますよね。

 

長井先生:課題研究ですね(※1)。

 

肥田先生:あれを読んで、すごいと思ったのは、どこまで飛んでいくかわからないのを、とことんサポートされていたこと。あれはしんどかったでしょう。

 

長井先生:しんどかったですね。生徒は、あっちこっち行くので、それをいわばコントロールしていく面白さもありますが、こっちも勉強しておかないと、生徒からとんでもない質問が来たりします。でも、それに対しては答えを出さなくてよくて、「あーそうなんだ。それ知らなかったからもうちょっと調べてみようよ」と持って行けばいいのですよね。

 

肥田先生:そうすると、子どもは乗って来ますよね。

 

長井先生:うまくファシリテートして行けば、生徒たちはすごく伸びていくと思います。

 

肥田先生:詳しくは、全高情研第15回大会論文集の私たちの発表のページをご覧ください。そこに参考として載っている先生方の中に本を書いている先生もおられて、世の中的には賛否両論あると書いてありましたが、私はすごくいいなと思っています。

 

そこにある実践をそのままやるわけではなく、それをTIPSとして、あるいはただ単にネタとして、自分の生徒と向き合った時に、どう使うか、どのように提示するか、と考えて工夫することが、先生の力量だと思います。

 

こういうことは、すごく面白いので、私たちも研修でいろいろ使わせてもらいましたが、やはりこういったものを参考にしながら自分で深めていくということができないと、あるものを使ってそのままやるという、今までの授業と一緒になってしまう。それを自分で料理できるようにならないといけないだろうなと思います。

 

※1 論文執筆学習に情報デザイン視点を取り入れた 高等学校専門教科情報「課題研究」の授業実践

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjste/62/4/62_367/_pdf/-char/ja

 

 

情報科教員の悩み~一人で何もかも抱え込み過ぎないで

肥田先生:最初の方でもお話ししましたが、情報科の先生方って悩みますよね。1人教科であることもあると思いますが、私も本当にこれでいいのかな、とずっと思っていました。

 

長井先生:そうですね。私は幸い赴任した学校が総合学科で、情報科の先生が複数人いるという、非常に恵まれた環境でした。今思えば、他の先生に相談できたのは、本当に良かったなと思います。同じ学校ではなくても、隣の学校の先生と話ができるという環境が今、一番求められているのではないかと思いますね。

 

 

肥田先生:例えば、情報科の先生同士が昼休みにオンラインでつながるようなことが気軽にできたら、 すごくいいなと思います。私は先生方に「TEAMSでいつでも相談を受けますよ」と投げていますが、「ちょっと聞いてよ」というのはなかなか難いかもしれない。もしかしたら、私たちの方からどんどん声をかけなければいけないのかなと思ったりもします。

 

やることによっては、生徒の方が経験値が高くなることもありますよね。YouTube配信をバンバンやっていたり、スマホで動画を撮ってバズっている子たちもたくさんいたりしますから。そんな時代では、私たちの言葉がどこまで響くのか、ということも難しくなってきます。この教科は、常に生で新しいものを吸収しなければならないので、先生方の悩みは尽きないかもしれないと思います。

 

長井先生:逆に、いろいろなことを勉強して、それが授業に直結するという意味ではすごくやりがいが あるし、楽しい教科ではないかなと思いますね。

 

肥田先生:おっしゃる通りですね。あと、「『情報科の先生だから、校内のICT周りを担当してよ』というのは、違うんじゃないか」という意見もありますが、それに対して私はちょっと疑問があります。というのは、私自身、正直なところ逆にそれで力を付けて来たのかなということもあります。

 

情報学部は出たけれど、大学ではコンピュータサイエンスの自分の研究のメインになるようなところと大学で修めるべきプログラミングを少し学んだくらいです。ずっと問題解決ばかりやってきたので、例えばネットワーク周りなど他のことはあまりわからない。初めはLANケーブルの仕組みすらわからなくて、どことどこをつないだらいいのか、というところから始めて、やりながら覚えてきたというのもあります。

 

そこで実際にやってきたことが、生徒に教えられる自信になっていますから、ある意味大事なのかなと思います。

 

長井先生:そうですね。ネットワークに限らず、校内には授業の教材になりそうな問題がゴロゴロしています。しかもそれを解決することで、先生方は喜んでくださる。

 

肥田先生:難しいですね。そこも我慢するというのが情報科の先生の運命のようなところもありますが、いつまでもそれが当たり前ではいけないと思います。

 

今回、「情報Ⅰ」が共通必履修の教養的な科目になったことを考えた時、私らの世代のように高校で「情報」を勉強してきていない者が80歳まで生きるとしたら、あと40年くらいは、今後の世代が教養として学ぶことになった科目を、学ぶことなく生きていくことになります。

 

私の世代であれば、教員生活があと20何年というところですが、その間本当に教養としての「情報」を知らない状態でいいのか。社会はsociety5.0がやってきて、どんどん進展していきます。その中で、これを学ばない状態でいるのは難しいでしょう。

 

長井先生:確かに難しいですよね。

 

肥田先生:だから、情報科以外の先生にもICT周りのことに関わってもらわないといけないし、逆に情報の先生も、そういう先生方と支え合いながらやっていかないとダメだ、ということが出てくるのではないかなと思います。

 

その意味で、情報科の先生もやり過ぎないこと。お互い、時間も限られているから、周りの先生方も情報科の先生に頼み過ぎない、という配慮も必要になるかと思います。本当は、自分でやってください、とお願いしたいところですが、かといって知識がないと何をしたらいいのかわからないこともある。そういうところを、上手にバランスをとりながら、持ちつ持たれつとなるのがいいのかなと思っています。

 

今は「情報」で採用されてICT周りのことを担当されている先生にとっても、先生自身も勉強になることはいっぱいあると思います。若い先生の中には、私などより技術的なことを知っている先生もいらっしゃるし、知識も幅広いし、日々日々勉強ですよね。

 

先生方は、たぶんこれでいいのかと、悩みながらやっていると思うので、そこを支えるのが私たちの本当の仕事だと思います。

 

長井先生:本当に、そうですね。

 

肥田先生:教科のことを、ああせい、こうせいと言うのではないと思うのです。やはり先生方が何を悩んでいるのかを汲み取って、それを解消しないといけない。私自身が抱えてきた悩みを、今の先生がそのまま持っているのかというと、それはまたわかりませんし、自分たちでコミュニティを作られているかもしれない。

 

でも、学校内で1人でやっていたのが、ちょっと外に出ると、世界がすごく広がります。だから、どこかで発表をしてみようとか、県の研究会に参加して、いろいろな人の話を聞こうといったことをやり始めると、この世界の広がり方が面白くなる。

 

そういうことをできる先生もいるし、やりたくないという先生もいるかもしれないですが、いろいろな先生がいる中で、まず一歩を踏み出してみませんか、ということをサポートできたらいいのかなと思いながら、今仕事をしています。

 

長井先生:特に和歌山県は、令和元年度に全高情研の全国大会をさせていただきました。先生方はあれを経験されているので、熱い思いを持った先生方もいらっしゃいますよね。

 

肥田先生:オンラインでやらなかった最後の大会でしたからね。あれは本当にやって良かったです。やはり、ああいったイベントをすることによって、本当に先生方の機運が高まったということがありましたよね。まだ開催されていない県は、これからぜひやってほしいです。

 

先生方は悩んでいる。生徒たちも経験が高くなっている。だから、新しいものが出て来たら、生徒と一緒に学ぶべきなのです。そのように先生方に進んでもらいたいと思います。共通テストの悩みもあるかもしれませんが、あまりそこは考え過ぎないようにして。

 

長井先生:共通テストは確かに大事なことですが、あまりそこにこだわってしまうのでなく、もっと情報科の楽しい部分を生徒たちに純粋に伝えらえたらと思いますね。

 

今後の情報科の展望と決意

肥田先生:最後に、情報科がこれからどうなるのかということを意識しておく必要があると思います。ようやく始まったというタイミングですが、これからこの教科がどうなるか、ということもそうですし、情報科の学ばせ方がどちらへ進んで行くのかいうことを、しっかり考えて教壇に立って欲しいと思います。

 

新しい技術ってどんなものがあるのかなということにはいつも注視しなければいけないし、次に何をするのかということも考えなければならない。でも、これらは未来の一歩なので、前向きに、建設的に考えるのはすごく大事なのかなと思います。

 

人間は、いろいろな小さなゴールを据えながら進んでいくと思いますが、次にどんな未来を見据えてやるかというのが大事なことで、その中で、生徒たちがどの方向へ行けばよいのかということを教えてあげないといけない。

 

大学入試に入ることで、専門教科的なベクトルであるとか、あるいは逆にふわーっと他の教科に散りばめるべきとかいった方向性もあるかもしれませんが、情報科が本当に情報科であるためには、これらを考えながら、どのようにして情報科というものを形にしていくか、ということがすごく大事だと思うのです。

 

今、情報科を担当されている先生方は、「情報Ⅰ」で全く新しいものがスタートした、という感覚があるのではないかと思います。少なくとも、「情報A・B・C」が今までの「社会と情報」「情報と科学」に変わった時よりも、今回の「情報Ⅰ」のスタートというのは、世間的にも脚光を浴びていて、まぶしいくらいですよね。

 

そう思うと、ここから私たち自身が情報科を作っていくための1人になっていくのですから、授業実践を重ねて、「こういう実践も情報科としていいのではないか」というものをどんどん出して行くべきではないかと思います。もちろん、2単位・70時間の中でどれだけやれるか難しいところもありますが。この点、長井先生はどう思いますか。

 

 

長井先生:そうですね。情報技術を取り入れて、自分たちでどんどん新しいことを作っていけると思ったら、すごくワクワクするし、楽しいですよね。そうやって、とにかく楽しみながらやっていくしかないですね。

 

肥田先生:私は、楽しむためには一人ではいけないと思うのです。今、2人でしゃべっているから面白いわけですが、「これが実践発表か」と言われたら、確かに違うかなと思いますよね。でも、ある意味で、こうやって情報科の指導主事として情報を担当する先生方と向き合うことで、生徒たちに直接向かい合うわけではなくても、先生方の先にいる生徒たちの顔を見ているつもりで研修をやっています。

 

そうすることで、研修をどうしようかなとか、情報科のこの先をどのように進めていこうかなと、考えて実践するのは、ある意味の実践事例ではないかな、と思っています。そういう個人的な考えとも取れるものを、どこまで発信してよいかというところは難しいところもありますが、私たちがやっていることは、これからこういった考え方が出てくるだろうという視点でもって、皆さんで考えていきたいと思ってやっています。

 

こうして研修をやれる機会を持てて、先生方と直接お話しできる対面での研修を実現できているというのはすごく嬉しいことで、そこにおいては、私はずっと問題発見・解決の実践を行っているつもりでいます。

 

日々、先生方が何で悩んでいらっしゃるのか考えることも、研修で何ができるかを日々考えるということもある意味問題解決です。

 

情報科の問題解決はベースにあるものであって、もしかしたら主たる部分とは違うかもしれません。情報科というのは、情報技術の部分が大きいので、メディアやコミュニケーション、発信という部分もしっかりやらないといけない。情報デザインもデータサイエンスも入ってくるし、その先のコンピュータサイエンス、情報科学といった学問につながっていくと考えた時、私たちがやろうとしている情報科の授業は、学問的なところまでは、まだちょっと届かないかもしれません。

 

ただ、そこまでいくと、専門性がどんどん出てきて、高校生全員が学ぶ科目としては色合いが変わってきてしまう。それは他の教科でも同様ですが、教科「情報」が問題発見・解決というのがベースになっているのであるから、「情報的な物の見方」というものをしっかり学ばせていきたいと思います。

 

「どう考えてそうなったのか」というのは、当たり前にやっていることですが、実は意外に意識されていないのです。例えば、雨が降ったら傘をさしますが、これは「雨が降ってきて、濡れると体温が下がるから傘をさそう」なのか、「お気に入りの服を濡らしたくないから」とか、いろいろ理由はありますが、そういうことを意識的に考えながらやる、ということが、実は問題解決の1つで、それをずっと続けることで問題解決をする力がおのずと身についてくると思います。

 

だから、授業の中にその観点を入れながら課題を設定して、生徒たちに意識させていく。それが思考・判断になると思うので、それをどのように見取って評価していくか、ということになります。その考え方を持って「情報Ⅰ」に向き合えば、生徒たちがそこから学ぶものは、私らが教えたいものの10倍にも20倍にもなると思います。そういうことこそ大事なのではないか、と今話しながら思いました。

 

長井先生:今言われたように、生徒自身が主体的に意識しながら問題解決していくような教材を我々が作っていけたら、またそういった授業展開ができたら、まさに今、情報科に求められている、目指している授業にたどり着くのではないかと思います。

 

肥田先生:こうやって話していること自体が協働となって、一人では出て来なかった考えが出てきますよね。これは生徒も一緒だと思います。これだけ話しても、まだ1時間経っていない。でも、その中で、これだけのことが出て来るわけですから、せいとたちに経験させてあげないと、絶対損すると思います。

 

最後に、「Well-Being」と書きました。1人1人の多様な幸せ。長井先生は、どんな幸せを求めていますか。

 

長井先生:私は自由な時間ですね。研究したり、情報と向き合ったりすることができる時間。

 

肥田先生:私は新しいものを作っていくことがしたい。ちょっとでも先生方の助けになりたい。全校情研は何回か出ていて、先生方の実践事例がいっぱい出ているのですが、課題として言われるのは、同じ先生ばかりじゃないかということです。

 

もちろん裾野は広がって行かなければいけないですが、先生方は毎回全部違うものを出してくださっています。だから、数年前の実践を見ても、今でも役に立つ実践はいっぱいあります。だから、このタイミングで以前の実践を振り返って、今活用できるネタを引っ張ってくるというのが、すごく大事なのではないかと思います。

 

長井先生:また来年も発表出来たらいいですね。

 

肥田先生:来年もこんな形の発表だったら、さすがに事務局に(「授業実践的なことを」と)怒られるかもしれないので(笑)、この形は今回だけで。情報科らしいのか、らしくないのかわかりませんが、一生懸命やっている、あるいは不安に思われている先生方の助けになれば、というのと、あんなことを言っているけど、あれは違うんじゃないか、とか考える機会になればと思ってお話ししています。

 

最後に、このスライドの右側、ご存知ですか。

 

※クリックすると拡大します

 

長井先生:これ、知らなかったです。

 

肥田先生:これは、「moon shot目標(※2)」といって、私 も詳しく知っているわけではないのですが、国として ここまで目標掲げるの?みたいな、ぶっ飛んだ計画を 立てています、それがすごく面白いのです。

 

この資料を見ていくと、本当に新しい、これからの技術がいっぱい載っています。そういったものを見ていくと、情報科の学びがどこまで広がる可能性があるのかとか、逆にそこのベースになるものは何なのか。AIってこんなところにも使えるのか、本当に人のために技術があるんだなあ、ということを感じます。

 

私は、この資料を見ながら未来を予想していくというのもいいのかな、と思います。先生方もこれを面白がって見ながら、幅広い知識を持って生徒と向き合ってもらえたら、生徒たちの未来は必ず明るく見えるでしょう。

この話を聞いてくださっている先生方は、そんな力ある人ばかりだと思います。是非また一緒に勉強したいと思います。

  

 ※2 https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/target.html

 

第15回全国高等学校情報教育研究会全国大会(オンライン大会) 動画発表より