オンラインイベント 教科『情報』授業のあり方を考える ~共通テスト試作問題をうけて~

総括 学校全体で取組む情報教育と情報入試

東京都立田園調布高等学校 校長

全国高等学校情報教育研究会 会長

東京都高等学校情報教育研究会 会長

福原利信先生 

ご本人提供
ご本人提供

長い時間、いろいろな先生方のお話をお聞きになって、いかがでしたでしょうか。私からは、最後に私の思っていることをお話しします。

 

私は、2000年の情報科教員養成講習で免許を取りまして、2011年まで情報科の教員として勤め、その後、管理職として佐藤先生がいらっしゃる立川高校などに勤務し、現在は田園調布高校の校長をしております。

 

様々な背景を持つ情報教育。大学入学共通テストは、学習指導要領に基づいた「学びのものさし」

今日は、「学校全体で取り組む情報教育と情報入試」というタイトルでお話しします。

 

最初に、今日このイベントをお聞きになっている先生方、たくさんいらっしゃいますが、情報科の先生の配置は、専任の先生もいらっしゃれば、他教科と兼任の先生、時間講師の方と、本当に各県・各地域で違うと思います。

 

また、設置者(公立学校であれば教育委員会、私学の場合は理事会)からの支援や教育環境の整備、人的な支援、教員研修なども、全国各地で大きな違いがあると思っています。

 

さらに、生徒の進路希望についても、多くの生徒が国公立大学を目指す学校。私立大学が中心の学校、専門学校や就職する生徒が多い学校など、多様な学校があって、今日お聞きになったお話で全部の学校のことが網羅できているとは、私は思っていません。学校の情報教育に取り組む姿勢についても、校種や施設整備、学校規模、仕事の分担など、様々な要因があって、これも各学校・各地域によって大きく違いがあると思っています。

 

 

今までも、これからも、という視点でお話しします。現在の高校2年生までは、「社会と情報」か「情報の科学」のどちらか、そして現在の1年生は「情報Ⅰ」を学んでいるわけですが、私たち情報科の教員の使命は、これからの高校生が学習指導要領に示された「情報Ⅰ」の内容を学び、身に付けることができるように指導することであると思っています。

 

一部、専門教科や科目を履修することによって、必履修科目の代替という形ができることは認められていますが、これはきちんと「情報Ⅰ」の内容と同様の効果が期待できる場合において認められていることであり、全ての高校生が「情報Ⅰ」の内容を学ぶということには変わりはないと思っています。

 

 

そして、これからは、ということにつきまして。

 

今までは、大学入試とは関係のない情報科の授業があったと思いますが、令和7年度大学入学共通テストに「情報I」の出題が決定しました。そして国立大学協会は、2022年1月に入試における「情報I」の原則必須化を決定しました。

 

私が思うのは、「情報Ⅰ」の学びの指針は学習指導要領であり、「学びのものさし」の一つとして大学入学共通テストができたと考えてよいのではないか、ということです。大学入学共通テストは、大学入学を志願する者の、高等学校段階における「基礎的な学習の到達度を判定する」というのが目的にあります。

 

 

ですので、教科「情報」を教える先生方は、基礎的な学習の到達度を測る大学入学共通テストを、ある程度意識しなければならないのではないか、と思っています。ですので、多くの大学には、高等学校で学ぶ「情報Ⅰ」の内容がこれからの社会で必要な能力であるということを発信していただき、高等学校での学びが充実するよう、適切に入試を活用していただくことをお願いしたいと思っています。

 

情報科の先生だけに任せず、学校全体で情報教育を展開するためには

では、情報教育をどう展開するかということですが、情報科の教員だけに任せず、学校全体で考えていくのがよいかと思っています。

 

そのためには、「情報Ⅰ」で学習した内容を、他教科や「総合的な探究の時間」などで活用できる仕掛けがあるのが理想であると思います。今日のお話の中でも、数学とコラボしたらどうか、などいろいろありましたが、実際はこれは非常に難しいということはあると思います。

 

 

また、他教科の学習内容や学習活動との関連をよく検討して、カリキュラム・マネジメントを行い、効果的な指導計画を作っていくのがよいとは思いますが、一方で、どこまで教科横断的な取り組みができるのか。それを意図的に作り出す仕組みは、管理職のリーダーシップと、あとはそれぞれの教科の先生方との関係によるところが大きいと思います。

「情報」の先生と、「一緒にやろう!」と動こうとする先生の仲がいいとうまくいく、という部分がかなり大きな比重を占めるのかなと思っていますが、個人的な関係に頼らない、よい方法があれば一緒に考えていきたいと思います。

 

さらに、情報モラルやインターネットの使い方などは、情報科だけでなく様々な教科で取り組んだり、学校行事のセーフティ教室などで取り上げたりするなど、いろいろな形で情報教育を充実させていったらいかがでしょうか。

 

また、生徒アカウントや情報機器の管理、ネットワークの不具合への対応などは、情報科の先生に全部お願いするということではなくて、委員会や分掌の業務として位置づけたり、デジタルサポーターを活用したりするなど、情報科の先生に負担が過度に集中しない形で進めていただけるとよいと思います。

 

大学入学共通テストにどのように対応するか

大学入学共通テストにどのように対応するかということですが、昨年、前任校の先生方に、大学入学共通テスト対策についてインタビューしてみました。前任校というのは、佐藤先生がお勤めになっている立川高校です。

 

理科や社会の先生は、「生徒全員が自分の担当する科目を受験するわけではないので、講習のプリント等を配布したりしている」「2次試験でその教科を受験する生徒は対応できているけれど、共通テストのみの生徒には、各自でやるように指示をしている」とのことでした。

数学の先生は、選択科目での問題演習や、夏期・冬期の講習を行ことで学校として対応している、ということです。

また、英語科の先生からは、入試1か月ほど前からの直前講習で、リスニングを含めた対策を、文理を問わず全員に対して教科全体で実施しているというお答えをいただきました。

 

 

情報科の先生は、佐藤先生ですが、「情報」は1人教科ですから、3年生で全員に対して直前講習を行うのは、絶対無理ですよね。

 

佐藤先生:そうですね。不可能ですね。

 

福原先生:その辺りは、どのように対応したいと思っていらっしゃいますか。

 

佐藤先生:「情報」は後から出て来た教科なので、1人で講習をやるといっても、320人相手では無理であることは確実なので、今のところはビデオを作って教材を用意して、オンデマンド型にするしか方法はないかな、と考えています。

 

福原先生:ありがとうございます。

 

私の学校の場合は、国公立大を目指す生徒は1クラス、40人程度ですので、「情報Ⅰ」は1年生で2単位実施して、「情報Ⅱ」は、2年生で音楽・美術・書道と同じ時間帯で1講座開設することにしています。3年生では、学校設定科目で「情報演習」を自由選択科目として開講する予定です。

 

立川高校のように、ほとんどの生徒が国公立を目指す学校では、先ほど佐藤先生がおっしゃったように、通常の授業時間帯に「情報」の授業を入れることは難しいので、オンデマンドやビデオ、あるいは直前問題集や予備校の模擬試験、web上の教材などを活用していくしかないかな、と思います。

 

これはやってほしくない対応としては、「情報Ⅰ」を3年生で開講して、共通テスト対策に特化するということです。これは、教科「情報」の本来の目的としては少し外れているのではないかと思います。

 

 

大学入学共通テストと授業設計・授業計画については、竹中先生をはじめ、いろいろな先生からお話がありました。

 

問題の形として、とにかく問題文が非常に長い。これは全部の教科で共通する傾向です。そして、一問一答ではない、具体的な技術を深く知らなくても、きちんと考えていけば、問題を解く中でその技術が理解できるつくりになっている、などいろいろな特徴があります。

 

授業をどのように行っていくか、ということについては、それぞれの先生の工夫で、体験を生かした授業を行っていくのがよいと思います。ただ、「2単位では『情報I』の内容はやり切れない」という問題もあります。これについては、2時間しかないのであれば、授業の中で扱うことをいかに精選していくか、ということが必要になると思います。

課題や宿題などで生徒自身ができることや、オンライン教材や動画教材などで対応できることについては、できるだけそういった形でやっていくしかないのではないか、と思います。

 

 

進路指導部や管理職の協力も必要

今日は進路指導部や管理職の先生方もいらっしゃっていると聞いています。進路指導部の先生方にお願いしたいのは、正確な情報を伝えていただきたい、ということです。琉球大学のホームページには、「情報Ⅰ」の学びが大切である、という大学のメッセージ(※1)が掲載されています。生徒たちにはこういった情報も紹介して、情報科の学びが必要であることを伝えていただきたいと思います。

 

 ※1 https://www.u-ryukyu.ac.jp/wp-content/uploads/2022/11/message.pdf

 

あと、現在の1年生が2年生になると「情報I」の模擬試験が始まるということですが、6教科8科目となると、模試の校内実施では全ての教科を実施できず、持ち帰り受験になる科目も出てくるかもしれません。そのような状況でも、「情報Ⅰ」の試験を持ち帰りではなく、授業時間で実施する、というのはいかがでしょうか。生徒の解答の様子も見られますし、振り返りを授業内で実施する、ということもできます。本校も実施する方向で、今検討しているところです。

 

 

さらに、管理職の先生方にお願いしたいのは、まずは「情報」を受け持つ教員を確実に配置できるように、学校設置者と協力する、ということです。そして、情報科の先生が困っていることに耳を傾けて、一緒に考えてあげてほしい、ということもあります。

 

また、「情報」を担当する先生に何でもお願いしないこと。授業準備や研修等にかける時間を確保してあげてください。

 

それから、カリキュラム・マネジメントをすること。私自身もそうですが、カリキュラム・マネジメントがどこまでできるかというのは、非常に難しい問題です。これについては、学校の経営目標に入れたり、授業観察の視点で情報活用能力や他教科との連携を目標に入れたりする、ということもできるかと思っています。

 

 

先生方からの事前アンケートで、「授業に対する不安」については、圧倒的に「2単位ではできない」というものが多かったです。これについては、東京都高等学校情報教育研究会(都高情研)が作った「56時間のミニマムモデル」に基づいた授業案についての発表(※2)が、「キミのミライ発見」に載っていますので、ぜひご覧になってください。

 

※2 次期学習指導要領「情報Ⅰ」 年間指導計画とその具体案

 

 

また、共通テスト対策をどのようにすればよいのか、ということについては、今日の先生方のご発表で、やはり体験をさせることと、考えさせる授業が必要である、というお話があったと思います。全ての内容をバランスよく扱い、その上でオンライン教材や問題集、模試などをうまく利用されていくのがよいかと思います。

 

プログラミングに関する不安をお持ちの先生も多かったと思います。いろいろな考え方はあると思いますが、やはり佐藤先生がおっしゃったように、大学入試センター言語(DNCL2)に特化した授業ではなくて、実際に使えるPythonなどをきちんと学ぶのがよいと思います。

これについては、文部科学省の「高等学校情報科に関する特設ページ(※3)」や「キミのミライ発見」に、様々な事例(※4)が載っているので、参考にされてください。また、DNCLの実習の是非を考える研究発表(※5)をされている先生もありますので、こちらも参考になると思います。

 

※3 高等学校情報科に関する特設ページ

※4 「キミのミライ発見」プログラミング・アルゴリズムの授業事例

※5 「『情報I』のプログラミング学習環境に関する考察」

 

ChatGPTの登場で、教育のあり方は大きく変わる?

ここからは、 ちょっとここまでとは違うお話をします。先ほど竹中先生がChatGPTの話をされましたが、大学入学共通テスト「試作問題」の、第1問の問1をコピペして入れてみました。すると、解答が出て来ます。竹中先生、これはAIが答えている、ということでよろしいですよね。

 

竹中先生:そうですね。一般的な言い方ではそれで正しいと思います。

 

福原先生:ありがとうございます。次の問題も、同じようにやれば、正しい答えが出てきてしまいます。つまり、試験問題として成立はしていますが、AIで調べ上げれば解けてしまうのですね。私自身、ChatGPTというものを知ったのが、つい最近のことですが、実にいろいろなことができてしまいます。

 

※クリックすると拡大します

 

例えば、プログラミングの授業で、「1から100までの整数の和を表すプログラムを作りたい」と入力して実行ボタンを押すと、自動的にソースコードを作ってくれます。そしてこのソースコードをコピーして、web上で実行すれば答えがすぐ出てくる。

 

※クリックすると拡大します

 

さらには「じゃんけんゲーム作ってほしい」などという、抽象的な指示を入れて実行しても、確かにじゃんけんゲームのプログラムコードがでてきましす。竹中先生、これはAIも調べている、という理解でよいでしょうか。

 

竹中先生:そうですね。このChatGPTは機械学習を使っていて、こういったプログラムをたくさん保存してあるサイトにあるデータを「教師データ」としています。そして、過去にこういうデータ、つまりプログラムを作った人がいるよ、というところから最適なものを引っ張っている、というところですね。

 

※クリックすると拡大します

福原先生:ありがとうございます。さらに、「以下のプログラムを、1行ごとに日本語で解説してほしい」と入れて、先ほどのプログラムを入れると、1行ごとに解説をしてくれるということもできてしまいました。

 

私は、このChatGPTを見た瞬間、これからの先生方の授業の作り方が変わってくるのかな、と思いました。子ども達に知識を教えるのはもちろん必要ですが、こういった最新の技術を使いながら、子ども達が自分で学ぶような授業になっていくことが必要かな、と思いました。

 

※クリックすると拡大します

 

文部科学省のサポートも利用していこう

情報科の教員の配置について、文部科学省は下のスライドのような形で「適正に配置する」と言っています。本当にそうなってほしいなと思っています。

 

※クリックすると拡大します

 

情報科指導体制の充実については、今回いろいろな先生からご紹介がありましたが、文部科学省の特設ページ(※6)で、様々な取り組みが紹介されています。

 

※6 文部科学省「高等学校情報科に関する特設ページ」

 

※クリックすると拡大します

 

そして、教員の指導力向上の取り組みに対しても、さまざまな支援がされていると思います。先生方も、ぜひこういったものを積極的に利用していかれるとよいと思います。

 

※クリックすると拡大します

 

全国の先生方とつながって、情報交換の輪を広げよう

情報科の授業のあり方を考えるということで、まずは普段の授業の充実をしていきましょう。さきほどお話ししたように、いろいろな新しい技術が出てきますので、常にアンテナを張って、準備をされていかれるとよいと思います。

 

それから、大学入学共通テストは、学校の実態に応じて対応していくということになると思います。全部のことを、情報科の先生が1人でやるのは本当に大変だと思いますので、管理職や進路指導部の先生方は、ぜひ協力をしてあげていただきたい。そして情報科の先生方は、これから模擬試験や問題集など、いろいろなものが出て来ると思いますので、うまく利用していくとよいと思います。

 

大学入学共通テストを受ける生徒がいない学校の先生方も、物差しの一つになっていくと思います。何をやってもいいというわけではなくて、学習指導要領にある学びをしっかりと教えていくことが必要だと思います。

 

「情報Ⅱ」の設置も学校として検討することで、情報科の教員が複数名配置されたり、情報科自体の地位向上といったことが、実現されていけばよいと思っています。

 

 

最後に、情報科の先生同士でぜひ情報交換をしていきましょう、ということを申し上げたいと思います。 

 

私が会長を務める全国の情報科の研究会(全国高等学校情報教育研究会:※7)や、都高情研(東京都高等学校情報教育研究会:※8)は、多くの先生方が交流する場となっています。先生方も1人で悩まずに、ぜひいろいろなところに参加して、全国の先生方がなさっていることに目を向けていただければと思います。

 

また、先ほど鎌田先生からお話のあった、神奈川県の実践事例報告会オンライン発表会(※9)は、第2の全国大会ともいえる形になっています。ぜひ、皆さんもいろいろなところでつながりを持って、情報交換に参加していただけたらいいなと思っています。今日は先生がたに情報提供とエールを送らせていただきました。ありがとうございました。

 

※7 全国高等学校情報教育研究会

※8 東京都高等学校情報教育研究会

※9 神奈川県情報部会実践事例報告会

 

 

 

質疑応答

 

Q. 高校 情報科・数学教員

「情報」の授業の内容を活用した方が、他教科の教員にとっても労力が少なくなるとは思うのですが、実際にはいかがでしょうか。具体的な事例をご存知でしたら、ご教示ください。

 

A.福原先生

先生がおっしゃるように、情報の授業内容をいろいろなところで活用していただければ、生徒の情報活用能力が向上し良い点はたくさんあると思います。学習指導要領でも、「他の各教科・科目等と連携を図ること」とあります。

 

佐藤先生がお勤めの立川高校では、情報科の授業でプレゼンテーションやレポートの作り方などの基本的なスキルを取り扱い、探究の時間や他教科の発表で、そのスキルを使いこなしていました。もう一歩、深めて数学で学ぶことと「情報」で学ぶことの連携は、教える先生方の連携が非常に重要だと思います。情報科専任の先生ではなく、他教科と兼ねて教えていらっしゃる先生は自分自身で教科横断的な授業が出来るかも知れませんね。

 

講演でもお話ししましたが、カリキュラム・マネジメントで学習内容を調整するのは、なかなか難しいところがあります。「情報Ⅰ」の初年度が終わり、「情報Ⅰ」の授業の進度、指導内容が学校ごとに定まってくると、いろいろとできる事が増えるのではないかと思っています。

 

ピッタリの実践事例は少ないですが、全国高等学校情報教育研究会全国大会や、鎌田先生からご紹介があった情報科実践事例報告会、河合塾の「キミのミライ発見」のサイトなども参考にされたらいかがでしょうか。

 

オンラインイベント「 教科『情報』授業のあり方を考える ~共通テスト試作問題をうけて~」講演より