第85回情報処理学会全国大会 イベント企画「2025年度情報入試のトレンド」

国立大学/電気通信大学における情報入試

電気通信大学 小宮常康先生

私からは国立大学、特に電気通信大学の情報入試ということで紹介いたします。

 

まず簡単に自己紹介をいたしますと、情報入試関連では、過去に「情報関係基礎」の作問に参加いたしました。現在は情報処理学会の情報入試委員会の委員をしております。ただ、私は入試関係を専門にしているわけではありませんので、勉強させていただいているという立場です。

 

私の専門分野は、プログラミング言語や、言語処理系の設計や実装などです。また大学では、1年生のプログラミングの講義を担当していますので、その意味では、私が一番高校を卒業したての人に近いところで接しているので、今回の「情報I」が、大学1年生のプログラミングの講義にどのような効果をもたらすのか、非常に楽しみにしています。

 

今日は、国立大学の、情報系の教員という立場でお話しさせていただきます。

 

 

国立大では多くの学生が情報入試を経験して入学してくることに

 

まず国立大学の一般選抜の共通テストにおける「情報」について。すでに今日もいろいろな方がお話しされていましたが、大学院大学を除いた国立の82大学の9割弱が何らかの形で「情報」を課すといということになっています。

 

この話のポイントは、国立大学には選抜の方式がそれほどたくさんあるわけではなく、一般選抜の枠が8割程度という、メジャーな選抜であることです。ですから、国立大学に入学する人の多くの人が共通テストで「情報」を受けている、ということになります。これが、大学の初年次の情報教育にどのような影響を与えるのか、ということは非常に楽しみにしています。

 

「情報」が共通テストに入ることで、どれくらい底上げされるか、ということですが、個人的にはループや配列がそれなりに使えるようになってくるのかどうか、というあたりは、先生方のお話を聞きながら、非常に楽しみにしています。

 

さらに本学では、「情報」はまさに専門分野ですので、底上げだけでなく上位層の水準も上がってくれると嬉しいと思います。大学としては、「情報I」を2次試験に課すのに合わせて、1年生の情報教育も変えていく必要がありますが、これはうれしい悲鳴ということになると思います。

 

 

電気通信大学の情報入試~一般選抜前期では情報が物理・化学と同等の扱いに

 

この後、電気通信大学の情報入試を簡単にご紹介いたしますが、その前に電気通信大学の学問領域についてご説明いたします。やはり工学が一番の中心で、そこに理学も入ってきている感じです。建築系・土木系は入っていません、総じて、情報系の先生はとても多いです。

 

教育課程はI類、Ⅱ類、Ⅲ類という3つに分かれていて、それぞれ情報系、融合系、理工系ということになっていますが、Ⅱ類もかなり情報の先生が多くて、かなり情報色の濃い大学になっています。

 

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そういう中で、先日アナウンスされたように(※1)、令和7年度の入学者選抜で、まず一般選抜で、他の多くの国立大学と同様に、共通テストで「情報」を課します。募集人員の87%が一般選抜で入学しますので、その87%の枠を目指す全員が、「情報I」を受けてくれる、ということになります。

 

それから、個別学力検査、2次試験の前期日程で、現在は数学・英語・物理・化学の4科目全てを必須として受けることになっていますが、この物理・化学を、物理・化学・情報として、その3つの中から2つを選択する形にする予定です。つまり、「情報を物理・化学と同等の扱いとして見ますよ」ということです。

 

前期課程が本学の募集人員の約半分を占めていますので、入学者の約半数が、この3つから2つを選ぶという選択権を与えられるということになります。

 

※1 https://www.uec.ac.jp/news/admission/2023/20230117_5094.html

 

そして、総合型選抜および学校推薦型選抜では、CBTで情報などを課すことを予定しています(※2)。

ただしこれは、先ほどご説明したI類からⅢ類までのうちのI類、つまり情報系に限っています。

 

総合型選抜は、例えばアプリの作品などで合否などを判定しますが、やはり入学してからきちんとついていけるかどうかも見たいので、その辺りの確かな学力、基本的な能力があるかということを見るためにCBTを活用する感じです。

 

※2 https://www.uec.ac.jp/news/admission/2023/20230117_5092.html

 

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情報技術そのものを発展させられる人材を育てるために

 

次に、なぜ電通大で情報を導入することになったかということにつきまして。

 

こちらは、予告の案内のところから抜粋してきた文章ですが、デジタル人材の不足は社会的な問題になっており、高度な人材育成を急務としていること。そのために、優秀な情報の素養を持った学生を受け入れたい、ということですが、単純に不足する人材を供給するのではなく、また、情報技術を使って何か作る人材だけでなく、情報技術そのものを発展させるような、いわば情報ど真ん中を専門とする「濃い」専門の人を育てていきたいという思いがあります。

 

本学の学長いわく、「日本の情報がもうちょっと頑張れてもいいんじゃないか、という思いがあるので、先頭を切っていきたい」ということです。

 

私が心配するのは、「情報」が初めて入試科目になるので、大学と高校がお互い様子見してしまって、その結果うまく回らず、しぼんでいってしまうことです。そうなってしまっては非常に残念なので、何とかうまく回っていけるようになるとよいなと思っております。

 

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入学してくる学生のサポートも必要に

 

ただ、問題もないわけではありません。

 

これは学内的な心配事、それに対するサポートですが、現在は一般選抜で物理・化学を必ず受験して入学してきますが、令和7年度以降は物理と化学、あるいは物理と情報、あるいは化学と情報という形で入学する学生が出てきます。しかし、情報系に入っても物理や化学の授業もありますので、情報以外の科目が弱い、あるいは苦手な学生のサポートがやはり必要だろう、あるいはそれに対応できるカリキュラム作りが必要だろうと考えられます。今後それをきちんとやっていくということで検討が進められています。

 

それから「情報」の入試問題を物理・化学と同等の扱いのレベルにしなければならないということです。個別学力検査ですので、共通テストの「情報I」よりは、恐らく難易度が高くなるだろうと思いますが、これが非常に悩ましく、難しいところです。

 

何しろ、初めてのことなのでデータもありませんし、簡単すぎても難しすぎてもいけないので、ここは非常に慎重にやっていきたいと思っています。ひとまず年内に試作問題を公表する予定になっていますので、これを見ていただいて、いろいろご意見を聞きながら進めていきたいと考えております。

 

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ここは本学のことからは外れるお話ですが、これまで情報を個別入試で行われている大学もありますが、「情報I」が始まって、本学以外にも個別入試に導入するところが現れていますので、簡単に紹介します。

 

まず広島市立大学が、後期で「情報I」を必須にするということを発表されてます。また、つい最近の朝日新聞で、日本大学の文理学部が、人文系・社会系・理系の全学科で選択科目として個別試験で「情報I」を方針で採用することを検討しているという話がございます。

 

さらに京都産業大学も、一般選抜の前期日程の一部で「情報I」を実施することを検討していると。これは、情報理工学部だけでなく、それ以外の学部でも導入することを検討しているという話を聞いております。このように、大学の方でもいろいろ準備ができてきて、「情報I」を活用することがうまく回っていくようになるのではないかと期待しています。

 

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