第85回情報処理学会全国大会
パネル討論「どうする情報科教育!~情報ⅠⅡ,高大接続から考える」
司会
東京都立町田高校 小原 格先生
パネリスト
電気通信大学 成見 哲先生
世田谷学園中学校・高等学校 神藤健朗先生
東京都立六本木高校 千葉 緑先生
小原先生
最初に、簡単に今日のディスカッションのゴールのご説明と、自己紹介をいたします。
私は東京都の教員です。今となっては随分少なくなりましたが、いわゆる「現職講習」で情報科の教員免許を取りました。平成15年から「情報」をやっていますので、早いもので20年になります。
その間、大学の非常勤講師や、都や国の委員、学会や執筆、講演などいろいろやらせていただきました。最近のモットーは、「心に『ゆとり』を」です。今日は少々早口になりますが、ゆとりを持って進めたいと思っています。よろしくお願いいたします。
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今日のディスカッションの流れです。
最初に、先ほど赤澤先生からお話がありましたが、新学習指導要領1年目の「情報I」の授業がどのように行われたかということ。それから、大学の教育内容、大学入試のヒントになることなどを中心に議論を進めたいと思います。
特に今回は、東京都教育委員会後援の企画でもありますので、高校の先生がたにもお役に立てるようなディスカッションを心掛けていきます。よろしくお願いいたします。
今、3名の先生からお話を頂戴した中で、いくつか大事なキーワードが出てきたと思います。
1つ目が、千葉先生のお話にあった「進路指導としての情報教育」です。高校生全員が大学に進学するわけではないので、進路指導として情報教育をどのようにしていくべきか。もちろん、ここには尖がった生徒、つまりコンピュータにものすごく強い生徒をどう指導するかということも、情報系以外に進む生徒や就職する生徒への対応も含まれます。
2つ目が、神藤先生からお話のあった「大学進学に向けた情報教育」です。あとは年間計画や授業設計、他教科との連携といったことについて。先ほどは詳しく説明されませんでしたが、ビーバーチャレンジ(※1)のお話も出てきたので、時間があるようでしたら、その辺りはどう取り組まれているかということも、現場の先生方の参考になるかと思いますので、ぜひお願いいたします。
3つ目が、「大学の教育内容と学部の構成」です。私達高校の教員からは、大学の詳しいことはなかなか見えないので、ぜひ今日お聞きしたいと思っています。
さらに、電気通信大学さんの高大連携やCBT入試の取り組み。入試については、なかなかお話しづらいこともあるかと思いますが、お話しできる範囲でうかがいたいと思います。
高大連携や進路指導の情報系の部分に関しては、明日のイベント企画でもお話があると聞いていますので、今日はその入り口という位置づけになればと思います。
それでは、最初のキーワードとして挙げた「進路指導としての情報教育」について、千葉先生にお聞きしたいと思います。先ほどのお話によると、千葉先生の学校では、全員が大学に進学するとは限らないのですよね。そういう中での情報科の指導や、逆に尖がった子をどう指導するか、いろいろなお悩みがあると思います。その辺りのお話を聞かせていただけますか。
進学or就職、情報系orそれ以外、大学or専門学校…生徒の多様な進路ニーズに応えるには
千葉先生
私は担任ではないので、クラスの個別の生徒の進路のお手伝いすることはほぼないですが、授業を見ていると、ゲームが大好きでゲームを作りたい、という生徒も一握りくらいはいるという印象です。またゲームを作りたいけど、どんな方面に進むといいのか。専門学校か大学かと、悩んでいる生徒もいます。
また、本校はけっこうベテランの先生が多い学校ですが、中にはデジタル関係があまりお得意ではない先生もいらっしゃいます。そうすると、「うちのクラスの誰々がこんな方面に進みたいと言っているけど、どこかいい学校はない?」という相談を受けたりしますね。
小原先生
ありがとうございます。今のお話の中で、専門学校と大学はどう違うのかというところは、実際現場の多くの先生方も説明に悩んでいることですので、予定の順番とは違いますが、いきなり成見先生にお聞きしたいと思います。
成見先生、電通大はまさに情報系のトップを進んでいる大学というイメージがありますが、実際に入学してくる学生さんには、どういう人が多いですか。あるいは、大学としてどういう学生さんに来てほしいといったことはあるのでしょうか。
成見先生
厳密に調査したわけではありませんが、印象として、本当に尖がっている人は1、2割で、皆が皆尖った学生というわけではないと思います。
先ほどの専門学校と大学の違いという観点で言いますと、よく「ゲームを作りたいけど、電通大でゲームを作るための授業ってどれがありますか」といったことを聞かれます。
先ほどもお話ししましたが、特定のツールや目的に特化しない汎用的な仕組みは、数学的にきちんとした裏付けの上に積み上がっています。今の子達はその積み上げの部分を学んできていないので、そこをしっかり学ぶのが大学です。
その意味で、先ほど言ったような尖がった人が入学して来ると、「大学の授業はつまらない」と言います。でも、その人たちには活躍する場があります。大学内には、技術系サークルがいろいろあるので、そこで自分たちでサーバを立ててシステムを作ったり、アルバイトでお金を稼いだりしています。
「ゲームを作るために、このツールを使うといいよ」ということを教えても、そのツールがなくなるとそれ以上作り続けることができなくなってしまう。大学で育てたいのは、そういう人ではなくて、何十年と働き続けられる人なんだよ、という説明を学生にしています。
小原先生
ありがとうございました。いきなり振ってしまって申し訳ありませんでした。
神藤先生は「大学進学に向けた情報教育」ということでかなり熱心に計画していらっしゃいますが、先ほども出てきた他教科との連携、外部との連携ということについて、具体的にお話ししていただけますでしょうか。
神藤先生
特に大がかりな連携をしているわけではなくて、どの時期にどういった内容を扱っているかということを、できる限りいろいろな教科の先生とコミュニケーションを取りながら聞き出しています。
「情報科では、この時期にこういうことをやろうと思ってるんだけれど、先生の教科では、今までどういう感じで進めて来ましたか。この先、どのように進める予定ですか」ということを、お互いに情報交換しながら確認する、という程度ですね。
小原先生
なるほど。例えば、先ほど2進法やその計算は、かなり毎回丁寧にやられているということでしたが、 数学でも2進法やn進法を扱いますよね。その辺りの棲み分けは、どのようにされているのですか。
神藤先生
n進法は、かなり早い段階で学んでいる内容ですので、「情報I」ではあくまでも復習的な位置付けです。中学入試を経て入ってくる子は、小学生のときにn進法のさわりの部分をやってきていますが、何のために使うのか、ということがあまりイメージできていません。ですので、「情報I」では、何のために使うのかということをしっかり伝えるように心掛けています。
小原先生
ありがとうございます。もう1点、私がぜひお伺いしたかったのは、先ほど外部との連携のお話の中で、ビーバーチャレンジのお話が出てきましたが、その辺はどのように外のサービスと連携されているのでしょうか。簡単にご紹介いただけるのであれば、ぜひ教えていただきたいのですが。
神藤先生
こちらは、実際に2学期の期末テストで出した問題ですが、ビーバーチャレンジの問題を改題して出題しています。
ビーバーチャレンジは、情報科学の基本的な内容を、小・中学生から高校生に向けて分かりやすい形で出題しているものなので、これらを「情報I」の内容に即して問題を書き換えてやらせています。
内容としては、暗号文の送信に関連する内容の問題にハフマン符号化の内容が含まれているものや、ルールに従ってタイルの並べ替えを行う方法をプログラムに実装して条件を考えさせるプログラムを作るとき、どのような条件を記述すればその結果が実現できるか、といった問題です。
ビーバーチャレンジ自体を成績に入れることはしませんが、「情報I」で学んだ内容に結び付く問題を出題して、学んだことの意味を体験してもらうように、また授業でも意識できるように心掛けています。
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小原先生
差し障りがない程度で結構ですが、生徒はどのくらいできましたか。
神藤先生
2学期の期末試験に入れましたが、この大問全体の平均は5割程度でした。
ただ、プログラミングの問題の方は、プログラミングをやった直後だったので、なかなか苦戦しました。授業でやったプログラミングはまだ初歩の段階なので、次のステップでしっかりフォローしなきゃ、という感じでした。
CBTをどう考えるか
小原先生
ありがとうございます。それでは、次の質問にまいります。成見先生からは、大学の教育についてたくさんのご示唆をいただきました。先生から、大学として高校の先生に伝えたいこと、お聞きになりたいことがあればぜひ頂戴したいですが、いかがでしょうか。
成見先生
私の業務として、先生方にお聞きしたかったことが一つあります。
先ほど私の話の中で、CBTに関するアンケートの話をしましたが、あれは「CBTにどれぐらい抵抗感がありますか」ということを、今の高3生に聞いたものです。
これについては、おそらく大人の方が抵抗感があるかと思いますが、同じ試験区分内で、同じ問題が出ないような入試、あるいは、場合によってはバラバラの日程で実施するかもしれない入試といったものに対して、どのような印象を持たれているかということをお聞きできればと思います。
小原先生
ありがとうございます。CBTに対するイメージということですね。それでは、先生方、いかがでしょ うか。
神藤先生
私自身、企業に勤めていたこともあって、CBTで資格試験というのは当たり前でしたので、それほど違和感はないですが、実際子ども達がどう捉えるか、ということについては直接聞いたことがないので、今のところ回答できないかなと思います。
ただ、コンピュータ上で問題を解かせること自体は、小テストを解かせたり、知識やスキルの課題を満点になるまで繰り返してチャレンジさせたり、ということで経験させているので、操作自体には慣れているとは思います。
ただ、それが選抜に使われるということになるとどう変わるかというのは、ちょっと分からないですね。
千葉先生
私は、教員としては採点業務が非常に楽になるので、CBTの方が嬉しいですし、すごくやりたいです。ただ、生徒からすると、例えば選択式の問題で、選んだ選択肢のボタンを押したつもりだったのに、実は押されていなかったということもあり得ますし、スクロールすると、画面が一度にワーッと動いてしまってイライラしている生徒も結構いたりします。
実は、本校は定期テストを全てCBT、オンラインで行っています。情報科の先生が4人いるので、それをフルに生かす形です。ふだんの授業は、60人の生徒を先生1人当たり15人ずつに分けて行っていますが、テストは30人ずつ2クラスに分けて行います。課題は授業に出席している生徒だけにTeamsで生徒個人のiPadに配信します。
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ただ、iPadの充電ができていなかったとか、そもそも忘れて来た、という生徒もいますので、そういう生徒はパソコン教室のWindows端末でテストを受けます。また、遅刻した場合も配信されないので、同じ問題を紙ベースで行います。
本校はいろいろな生徒がいるので、問題文のルビ対応や時間延長が必要な場合もCBTの中で対応します。問題は記述式と選択式の両方を出題しています。CBTなので問題のシャッフルをしたかったのですが、シャッフルするとうまく作動しないので、今年はやめました。
新しい学習指導要領は、観点別評価が入ってくるので、観点に合わせた記述式の問題も入れています。
プログラミングでは選択肢から選ぶものに加えて記述させる問題や、わざと間違いそうな選択肢も入れた中から選ばせるということもやってみました。
こういった形式がよいかどうかは、生徒の感想を聞いてみる必要がありますが、今はこのようにやっています。
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小原先生
ありがとうございます。おおむね好意的な意見が出ているようですので、ご参考にしていただければ と思います。また、先ほど高大連携関係のお話が出ていたと思いますが、大学の先生方から見たときに、高大連携でプログラミングをするとしたらどうあったらよいのか、こういうしたらよいのではないか、ということで、何か高校に要望されることがありましたら教えてください。
成見先生
今、入試の方式で、全大学で言うと総合型や推薦が定員の半分くらい、国立でも約25%あります。私たち世代は、大学入試というのは一般入試が当たり前で、推薦は例外という感じでしたが、今や完全に逆転していると思います。
そういう時代ですので、高大連携に来る人のモチベーションが心配なところがあります。やはり受験に有利になるから参加している、という人が多いかと思いますが、大学としては、受験ということはあまり考えていないのです。純粋にプログラミングに興味があって、より高いレベルのことが学びたい、そこでもしマッチすれば、入学してほしいということです。
この高大連携プログラムは、生徒が電通大に進学したいのかどうかというところと、その生徒のレベルが本学に合っているのかというところの折り合いが難しいところがあるので、今後はプログラミングに尖がった人は総合型、そうでない人は一般受験などのような棲み分けが必要になるかなと思っています。
小原先生
ありがとうございます。やはり高校側からは、大学入学後の単位になったり、電通大の場合は、総合 型選抜の参考資料の一つにしていただけたり、ということもあるので、本校の生徒にもかなり張り切 ってこのプログラムに参加する人もいます。
ちょうど入試の話になったので、神藤先生にうかがいます。今回、「情報」が共通テストに入ったということで、授業の中でどのように入試対策を考えていかなければいけないのか、先ほど、少し触れていただきましたが、実際に実践されていることや考えていらっしゃることをお話しいただけますか。
神藤先生
先ほど、期末試験の問題をご覧いただきましたが、私の授業では定期試験もなるべく共通テストの形式に揃えて、第1問は基本的な知識問題あるいは計算で、第2問以降は文章を読み解きながら知識の応用をする問題にするように心掛けています。
また、「情報関係基礎」の過去問をちょっと改題したり、あるいはそのまま出題したりしながら、生徒がどのくらい対応できるかを確認している状況です。
ただ生徒の反応を見ていると、やはり正答率がなかなか上がらず、難しいというのが本音です。共通テストになって、「情報」以外の教科・科目も問題文が長くなり、条件を読み解く力が求められるようになってきているので、それにどう慣れさせていけばよいのか、ということは、今悩んでるところです。
限られた授業時間内で何を・どこまで扱うかを見きわめるには
小原先生
ありがとうございます。まだ時間もあるようですので、少しフロアからご意見をいただきたいと思います。高校の先生がもしいらっしゃったら、今、悩まれていることについてお話しいただけたらと思います。
公立高校教員
私も今年度「情報I」を担当しました。4月当初に1年間のカリキュラムを組むのですが、初めての教科書で、初めて扱う内容も出てきますので、どうしても途中で計画を変更せざるを得ないことが出てきました。
また、教科書の中にも、基本的な内容と発展的な内容がありますが、どれが発展的な内容なのか、外すとしたらどれを外すのか、というところの判断が難しいと思いました。
今年度行ったことを参考に、来年度のカリキュラムの中身を改善していきたいと思っているところですが、もし何かアドバイスがありましたら、ぜひお願いします。
小原先生
ありがとうございます。なかなか貴重なご質問を頂戴しました。カリキュラムについては、先ほど千葉先生から、4人の先生で全体として統一したカリキュラムを組まれているというお話がありましたが、4人の中でどんなような形で題材を選ばれているかとか、難易度はどのように区別しているかといった、どのような着眼点でカリキュラムを組まれているか、教えていただけますか。
千葉先生
先ほどお見せしたこちらの年間計画は、実は何回か作り変えていますが、今年は「教科書の内容は全部やろう」というコンセプトで作っています。
授業の順番は、教科書の順にしています。それが子どもたちに分かりやすいからです。
本校は、いろいろな背景や課題を持つ生徒がいるので、1年間で小学生から高校生のレベルまでもっていく、というなかなか大変なことをしています。基礎ができる子は、発展もできるようになるので、基本的に教科書に書いてある応用のところまで全て入れたカリキュラムを組み、手順書やマニュアルも作っています。ただ、実際にやるかどうかは生徒の能力次第です。
先生が4人いるので、授業案の作成は、大体4回に1回自分のターンが来るという形で作っていますが、「自分はぜひこの分野をやりたい」という先生がいると、そこは柔軟に組み替えています。大体1人が授業案を作って、「こういうふうに授業をします。評価の規準はこうします」とプレゼンをした後、全員で「ここはこうしたほうが分かりやすい」「ここはわかりにくいからこっちにするべきだ」といったディスカッションを夜な夜な行って、素晴らしい教材を作って生徒に提供するということをしています。
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小原先生
ありがとうございます。同じ質問を神藤先生にもお願いします。重点的に行うところ、簡単に扱うところをどういった着眼点で決めて行かれるのか、お話しください。
神藤先生
情報科の先生が4人もおられるのがうらやましいですね。一般的な私学でも、情報科の先生は1人しかいませんし、その1人も他教科と兼任している学校もかなりあるかと思います。非常勤の講師に任せきりの学校もあるかもしれません。
私は、常々基礎・基本のところに関しては、なるべく説明の時間を割きたくない、と思っています。読めば分かるようなことについては、参考になるような動画がYouTube上にもたくさんあるので、そういったものを活用すればよいですし、有用なものがなければ、凝った編集をしなくてもスライドと説明だけの動画を作ってしまう、というのが手っ取り早いかなと思っています。
こちらは麗澤大学の中園長新先生が、昨年夏のICTカンファレンスで発表された内容ですが、「情報I」12冊の教科書の索引に載っているキーワードで、共通して掲載されているものは39しかありません。
これらは、共通テストでリード文なしで出てくる可能性が高い用語になると見ています。逆に、ここにない用語は、教科書に載っていないことになるので、ある程度リード文付きで出てくるのが前提になるのではないかと思っています。
例えば、昨年11月公表のDNCの「試作問題」にAND・OR・NOTの真理表が出ていましたが、真理表が載っていない教科書もあります。あのように、教科書に載っていないものに関しては、問題文の説明を読み取って理解した上で、それをどう活用できるか、ということがポイントになると思っています。
この3学期は、このキーワードを一つひとつ埋める形で、関連する周辺情報も含めて復習する授業を組み立てました。ここに載っている「個人情報とは」や「暗号化の仕組み」も、先ほどのキーワードの中からピックアップしたものです。
ですので、今年度は基礎・基本を押さえつつ、さらに発展的な内容とつなげながら、キーワードをなるべく落とさないように授業をした、というところです。あとは、リード文がしっかり読めるようになればよいかな、という方針で進めています。
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教材作りのポイント~他の先生が作ったものや既成の教材の効果的な取り入れ方は?
小原先生
ありがとうございます。今の質問にも関係して来るかと思いますが、ネット経由で「千葉先生、神藤先生にお伺いします。教材作成はどのようにされていますか」という質問が入っています。
先生方が相談して作るのか、特定の先生が作ったものを皆で使うのか、他の学校の先生が作ったものを使うのか、既成のものを使うのか、といったことになるかと思います。
千葉先生には、先ほど詳しくお話ししていただいたと思うので、補足する形で簡単にご説明いただけますでしょうか。
千葉先生
私たちは教科書内容メインで作っています。ただ、先ほど神藤先生も言われましたが、YouTubeにも 結構いい動画があるので、それを見せたり、自分たちで動画やPowerPointのスライドを作ったり、いうということをしています。
他の学校の先生が作られたものについては、今年の「情報I」では使っていませんが、「社会と情報」「情報の科学」のときは、自分たちで作った教材を持ち寄って、それをブラッシュアップしたり、自分の学校に合わせてアレンジしたりして使うこともしていました。
小原先生
私からの質問ですが、そのように他の先生が作られた教材を使うのはけっこう頻繁ですか。自分の全部の教材の中で、どのくらいの割合でしたでしょうか。
千葉先生
「前の学校ではこうやっていたよ」と紹介されて、皆で見て使えそうであれば使うという感じなので、全てのターンで誰かしらがこういったものを持ち出してくることを考えると、大体半分ほどでしょうか。
小原先生
分野的に、この分野は比較的動画やYouTubeが使いやすい、というところはありますか。
千葉先生
生徒にイメージさせるものがそうですね。例えば「ガチャって何?」というものでは、ゲームのガチャもありますし、リアルのガチャもある。そういうものをイメージできない生徒もいるので、これはやはり動画がわかりやすいですね。適当なものがない場合は、自分達で動画を作ったりもしています。
小原先生
つまり、どちらかというと授業の中で補助的に使うイメージですかね。動画を使うから先生は何もしない、というよりも、何かをちょっと説明するときに、短い動画を見せて導入に使ったり、生徒の気持ちを引き付けたり、あるいは効果的な理解を促したりといったイメージで使われているという感じですね。神藤先生はいかがでしょうか。
神藤先生
私は全高情研の8月の全国大会や、12月の神奈川県の実践事例報告会で発表された先生方の取り組みを、取りあえず試しに1時間だけやってみる、ということをしています。実際にやってみることで気が付くことがいろいろあるので、やってみてうまくいかなければ、それはそれで割り切りますし、うまくいきそうだったら、そこに何か自分なりのアイデアを加えてやってみたりしています。
結局、最後は自分で責任を持って成績を付ければよいので、やれることはやってしまおう、という感じで進めています。
ですので、教材会社が作った教材も、無料で使えるのであれば試しに使ってみて、生徒がどういう反応を示すかを見てはどうでしょうか。ただ、やはり人の敷いたレールで授業をするのは、やることも加工するのも難しいですし、自分自身が生徒の反応をイメージしながら作っているものではないので使いにくいな、というのが私の本音です。
小原先生
ありがとうございます。成見先生におうかがいしますが、大学でもコロナの影響もあって、オンラインで授業をされることも多かったと思います。
大学の先生方は、どのように、どのくらいの時間をかけて授業を作っていかれるのか、非常に興味があるのですが、例えば大学の授業で、遠隔授業や動画の作成には、どの程度のエネルギーをかけていらっしゃるのでしょうか。
成見先生
大学は、本当に先生によるので、一概には言えませんが、遠隔授業が好評だったかどうかというのは、ふだんとはまた別の評価だったと思います。特に非常勤の先生は、かなりの時間をかけて準備されたようですが、大学の基本的な考えは、あくまでその先生の流儀でやる、ということなので、他の人が作ったYouTubeを使う、ということはあまりないですね。
私は先ほどご紹介したように、板書をオンラインでも見やすくなるように、ということを研究していたので、わざわざオンライン用の教材をたくさん用意する、ということはせず、技術力で頑張ってふだんの授業と同じスタイルでできるようにしました。
小原先生
ありがとうございました。
続いて、「今後『情報Ⅱ』は扱いますか」というご質問をいただいています。神藤先生、いかがでしょうか。
神藤先生
本校は、今のところ「情報Ⅱ」はカリキュラム上には置いていないので、教科「情報」に関しては、高校1年生の週2時間、50分×2コマの「情報I」しか扱いません。
ですので、今後大学がどのように出題の方針を立ててくるか、あるいは、子どもたちが受験する大学に対して、どのように対策をしなければいけないか、というところですが、放課後の補習で対応するのか、長期休み等の講習で対応するのか、ということはまだ決めかねている状況です。
ただ、他の私学の話を聞いてみると、高3で週1時間の入試対策用の講座を置くという話もあります ので、私立学校では管理職の方針によって大きく変わってくるかな、と感じています。
千葉先生
本校は、2年次以上で、1年次で「情報I」を履修した生徒が選択するという形で「情報Ⅱ」を行います。総合学科で好きな授業を取れるので、情報が好きで取る人もいるし、情報入試のために取る人もいるかもしれません。また、今後、就職するのであれば「情報」はやっておいた方がいいと考える人、「パソコンはできたほうがいいよ」と保護者に勧められて取る人もいると思います。どうなるかはまだわからないですが、開講するからには、頑張って授業を作りたいと思います。
小原先生
ありがとうございます。私も「情報Ⅱ」、やります。3年生で、バリバリに尖った授業をやろうと思っています。
よくいろいろなところで、「『情報I』は3年になると、やったことを忘れてしまう。どうしたらよいか」という質問をいただきます。私自身もいろいろ考えていますが、まずオンデマンドでやってみよう、ということが一つ。あとは、夏休みや土曜日などの講習である程度やろうかなと思っています。
また、本校は幸いにして東京都教育委員会経由で、いろいろな業者サービスが入る計画があるということが新聞報道にあったので、情報科もそういったところと連携しながら対応できたらと思います。
それでは、残り時間もわずかになりましたので、最後に今日のキーワードの「高校の授業」「大学の内容」「高大連携・進路指導」「情報入試」「年間計画」などについて、一言ずついただけますでしょうか。
成見先生
今日皆さんにお聞きしたかったのが、やはりCBTに関することです。
CBTで4択問題を出すと、生徒はどうしても早く正解を知りたいという気持ちになるのではないか、と思います。コンピュータを目の前にすると、紙ベースと同じ問題であっても、考えにくいような気がして、今後記述テストとCBTの棲み分けが出るのではないかと思います。
生徒たちに、しっかり考える能力というのがだんだん失われている気がしていて、物理や数学も解き方のパターンを覚えていて、これは過去問に似ているから解けるといった感じですね。その意味で、CBTで測る力は、本当に大学の求める学力に合っているのかと危惧するところがあります。
確かに高校の先生には便利ですし、手軽に能力を測ることはできますが、一方で見落としてしまう能力はないのか、というところは気にしていただいて、これからもそこを議論できればと思っています。ありがとうございました。
神藤先生
今日はありがとうございました。先生が1人で悩んで授業を作っている、というのが情報科の置かれている現状であると思いますので、私もこれからは、なるべく自分の授業実践を公開していこうと思っています。
今日も千葉先生から、なかなか表に出てこない実践を聞くことができたので、授業の中にうまく取り込めないか、と考えています。いろいろな場で発表してくださる方が増えれば、情報科の教員同士でネットワークを作って、お互いに良い授業をつくり上げることができると思います。
千葉先生
本校は、たまたま4人教員がいるので、日々教材のブラッシュアップができるのですが、逆に中に閉じこもってしまって、外に出ていく暇がなくなってしまうのが、欠点と言えば欠点かと思います。
他教科との連携もしたいのですが、うちの生徒ではなかなか難しいところがあります。ですので、小学校・中学校に行っていなかった生徒のための授業を作っている先生がいらっしゃったら、ぜひ仲良くなって、一緒に教材を作ったりしたいと思います。また、自分も外に出て発表していきたいと思います。今日はありがとうございました。
第85回情報処理学会全国大会 イベント企画「どうする情報科教育!~情報ⅠⅡ,高大接続から考える~」より