国内最大級の教育機材・ソリューションの展示会
New Education Expo2023 ~4年ぶりの完全リアル開催。教育データの活用に注目が集まる~
最新の教材・教具やソリューション、有識者や現場の先生方による多彩なセミナーが一堂に会する「New Education Expo2023」東京会場が開催されました(東京会場: 東京ファッションタウンビル・6月1~3日、大阪会場:大阪マーチャンダイズ・マート・6月9~10日)。
今回は2019年以来4年ぶりの完全リアル開催となりました。この間、新型コロナ禍の影響を受けたGIGAスクール構想の前倒し実施、「令和の日本型学校教育」を目指した新しい学習指導要領が小中高で完全スタートなど、教育現場の環境は大きく変化しました。
今回は、総務省統計局のe-Stat、文部科学省の文部科学省のCBTシステムのMEXCBTが初めて出展し、注目を集めました。展示やテーマでは、教育のICT化で蓄積された学習データと校務データを連携させるためのソリューションに関するものが目立ちました。また、機材やソリューションの展示では、先生方のちょっとした手間を軽減する機能をアピールするものが多く見られました。
■講演・セミナーレポート
[基調講演]
東北大学大学院/東京学芸大学大学院 堀田龍也先生
[セミナー]
「情報Ⅰ」の実践と課題 ~東京都における専門家の派遣を通じた教育支援を踏まえて考える~
[セミナー]
「教科「情報」の大学入試、どう変わる、どう備える」
パネルディスカッション「教科『情報』の大学入試、どう変わる、どう備える」
■展示レポート
データ分析の授業のリソース満載!
今回、総務省統計局が政府統計の総合窓口「e-Stat」(※1)の紹介のために初出展しました。
e-Statは、統計データを検索するだけでなく、グラフ、地図、時系列などデータを活用するためのサイトや機能も備えられており、データ分析の授業で使える「根拠のあるデータ」の宝庫となっています。
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さらに、総務省統計局では、統計用学習サイト「なるほど統計学園」(※2)、小中学生向けの「キッズすたっと」(※3)など、統計学習のサイトも作っており、授業のヒントとなる非常に充実した内容になっています。
※2 https://www.stat.go.jp/naruhodo/
※3 https://dashboard.e-stat.go.jp/kids/
採点の負担軽減と精度の向上、成績データの利用まで一挙に可能にするデジタル採点システム
今回の出展で興味深かったのが、大日本印刷(株)の紙のテストのデジタル採点システムRealtendant®(リアテンダント)です。Realtendant®は、指定のフォーマットで作成した解答用紙ではなく、先生の自作のテストをスキャナーでpdf化したものを採点できるので、今まで使っていた解答用紙をそのまま使うことができます。選択問題であれば、AIによる自動採点も可能です。
また、設問ごとに答案をまとめて一覧表示できるため、採点ミスをなくしたり、部分点の付与基準をぶれることなく設定したりできます。このシステムを導入した学校では、採点時間を60%削減できた、という報告もあります。
さらに、採点結果を自動集計して採点結果を校務システムと連携することもできますし、個人の観点別・設問別・クラス別など様々な集計も可能です。成績の分布では、生徒の名前をグラフ上で表示することもできるので、個々の生徒の理解度をふまえて優先的に復習すべき内容も明らかになります。
先生の働き方改革と、指導の質の向上を同時に可能にするシステムです。
ファイルサーバの総合管理でデータを安全に・使いやすく
教育の情報化が進み、授業や校務のデータが取得されることで、サーバやストレージ、クラウド上には大量のデータが蓄積されていきます。結果として、「誰が作ったのか・どのバージョンが最新なのかわからない、同じようなファイルがいくつもある」「個人情報が含まれるデータがどれだかわからない」「アクセス権の設定がまちまちで扱いにくい」等などの課題が山積することになります。
ファイルサーバ統合管理ソフトウェア「NIAS」は、定期的に不要データを整理して容量を削減したり、アクセス権の設定を可視化し、わかりやすくすることで情報漏えいのリスクを低減したり、個人情報を含むファイルの検出/隔離/削除等を実施したり、ということが一元管理できます。
データを取るだけでなく有効に使うために、使う人に負担の少ない管理の仕組みが一層重要になることを感じました。
外国にルーツを持つ生徒の支援のために
海外旅行先でのコミュニケーションツールとして人気のAI翻訳機「ポケトーク」ですが、今回は教育現場での活用を前面に出した出展となりました。今後、外国にルーツを持つ生徒が増加することが予想されますが、授業の内容の説明や保護者とのコミュニケーションのために、こういった補助機器の導入も必要になってくることが予想されます。
オンライン会議の接続や切り替えをスムーズに
コロナ禍以降、リモートやハイブリッドの会議が日常的になりましたが、その分、カメラやマイクの接続、発表者の切り替えなど、ちょっとした手間やトラブルがストレスにつながることも多くなりました。
無線対応プレゼンテーション用機器の「Click Share」は、アプリをダウンロードしておけば、PCに挿してボタンを押すだけで、ワイヤレスの画面投影ができます。さらに、新しい機種では、Click Shareとカメラやマイクスピーカーを接続しておけば、ボタン経由でワイヤレス接続できます。
ボタンを押すだけで発表者の切り替えができるので、会議の進行がよりスムーズになります。親機1台について子機が32台まで接続できるので、授業の場面で活用することもできます。
■取材を終えて
New Education Expo2023開催初日には、主催の(株)内田洋行から「次世代型こどもデータ連携の取組み」が紹介されました。今年4月に発足したこども家庭庁を中心に、「こどもまんなか」社会の実現を目指して、各省庁や教育現場が連携し、子どもや家庭に関する教育・福祉等のデータを、分野を超えて連携させる取り組みが進んでいます。
子どもや家庭に関する状況や支援内容のデータを最大限に活用し、個人情報に配慮しながら、真に支援が必要な子どもや家庭を発見して、ニーズに応じたプッシュ型の支援を届ける取り組みを目指します。一人ひとりの状況に応じたオーダーメイドの社会的な課題の解決を可能にし、子ども達がが夢や希望を持つことができる社会の実現に資する、というものです。
管轄が異なる様々なデータを連携させるための環境整備、そもそもデジタル化されていない情報やノウハウをどのように組み込んでいくかなど、課題は山積みですが、教育の情報化を進めることと並行して、蓄積されたデータをいかに活用するか、という次の視点が必要であることを強く感じました。
GIGA端末について言えば、すでに次の学習指導要領改訂に向けた検討も始まっています。現行の学習指導要領改訂にあたっては、1人1台端末の整備のために、児童・生徒1人あたり45000円の補助が付くことになっていたため、各社はそれを前提とした学校用の端末機器の開発を進めたとのことです。
次回の改訂は、端末の更新時期にも重なります。出展企業の方からは、前回のように補助が付くかどうかによって、学校用として提供される端末機器のスペックも変わってくる、というお話もうかがいました。
一方で、補助のための予算を取るためには、1人1台端末の利用によって、具体的にどのような教育効果が上がったか、ということの検証も進めなければなりません。講演の中には、ここ1~2年でどれだけの成果が上げられるかが、今後の教育の情報化の進み方を左右する、という厳しいお話もありました。
昨年登場した生成AIと教育現場はどのように向き合ったらよいか、という話題についても、様々なセミナーで取り上げられていました。現在はその功罪について様々な意見がありますが、検索エンジンと同様に、近い将来私たちの生活と切り離せないものになるでしょう。
そうなったとき、学校教育では何を・どのように教えたらよいのか。授業や校務のあり方はどうなるのか。2040年代と言われていたシンギュラリティが、教育の現場には一足早くやってきていることを感じられた、今回のセミナーでした。