令和5年度神奈川県高等学校情報部会研究大会

座談会〜情報の先生に聞いてみたいことを聞きまくる60分〜

東京都立若葉総合高校 山本博之先生 

大阪府立夕陽丘高校  勝山衿佳先生 

神奈川県立上鶴間高校 相馬臣彦先生 

[司会] 神奈川県立生田東高校 大石智広先生  

 

2017年神奈川県情報部会実践事例報告会より
2017年神奈川県情報部会実践事例報告会より

大石先生

今日は「情報の先生に聞いてみたいことを聞きまくる60分」ということで、事前にいろいろなところで集めた質問を3人の素晴らしい先生にそれぞれ答えていただくという内容になっています。

 

最初に、簡単な自己紹介をします。では、僭越ながら司会の私から。

神奈川県立生田東高校の大石です。この2年ほどは、本校がICT利活用授業推進指定校になったので、学校全体で組織的な授業改善するのがすごく面白いなと思っているところです。

  

 

それでは、まず山本先生からよろしくお願いします。

 

2019年神奈川県情報部会実践事例報告会より
2019年神奈川県情報部会実践事例報告会より

山本先生:

東京都立若葉総合高校で勤務している山本です。経歴を書きながらわかったのは、「情報A・B・C」、「情報の科学」「社会と情報」を全部やっていました。我ながらすごいなと思いました。

 

今は総合学科にいるので、専門科目を3科目置いています。「情報デザイン」、「情シスのプ」というのは「情報システムのプログラミング」のことで、これまでは「アルプロ(アルゴリズムとプログラミング)」という科目だったものです。そして「情報コンテンツ実習」(これは今の学習指導要領では「コンテンツの制作と発信」という名称に変わっています)を持っています。

 

これだけたくさんやっているのに、なぜか「情報Ⅰ」だけやっていないという、非常に残念な状況で、「情報Ⅰ」はどうしているの?といったテーマの話にどう答えたらよいか、少々微妙です。また本校は総合学科なので、普通の学校とはちょっと毛色が違うかもしれませんが、今日はせっかく呼んでいただいたので、今考えていること・感じていることをお話しできればと思います。

 

大石先生

もしかしたら、日本一いろいろな種類の情報科の科目を教えた先生になるかもしれませんね。そういう統計は、どこも取っていないのかな。では続いて勝山先生、よろしくお願いします。

 

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大石先生

もしかしたら、日本一いろんな種類の情報科の科目を教えた先生になるかもしれませんね。そういう統計は、どこも取っていないのかな。

 

では続いて勝山先生、よろしくお願いします。

 

ご本人提供
ご本人提供

勝山先生

こんにちは。大阪府立夕陽丘高校の勝山衿佳と申します。今年で教員11年目になりました。

 

1校目の三島高校では、現役の大学生スタッフと一緒に授業をすることを8年間やってきました。2校目の現任校では、情報科教員は1人だけです。いろいろと奮闘しているところです。

 

本校の特徴は、府立高校で唯一音楽科を設置していることです。今年度の担当授業は、1年生全クラスの情報Ⅰと、2年生の探究の「GoogleWorkspaceを用いた教材開発」です。

 

神奈川県情報部会さんには、2020年から毎年、年末の「実践事例報告会」でお世話になっております。自分のキーワードとしては、「学習指導法」や「学びを深めるツール」といったことに興味があります。授業での生徒たちの反応を思い描きながら授業展開を考えることが好きです。本日はよろしくお願いいたします。

 

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大石先生

ありがとうございました。では相馬先生、よろしくお願いします。

 

ご本人提供
ご本人提供

相馬先生

神奈川県立上鶴間高校の相馬です。

 

今回、パネリストに選んでいただきましたが、すごい方々の中に私が入ってよいものかと思い、大変緊張しています。今日はよろしくお願いします。

 

実践事例報告会には、2019年から参加させていただいています。さまざまな刺激を受けつつ、日々奮闘しているというところが、私の日常ではないかと思います。

 

今は1年生に「情報Ⅰ」を教えていますが、担任クラスは2年生なので、自分の担任する学年の授業ができないという感じです。来年度は「情報の表現と管理」という科目を開講する予定なので、その準備もしつつ、「情報Ⅰ」のことも考えている、という状況です。また、「歌で覚えるシリーズ」という動画のシリーズも作っておりまして、他の先生と違う切り口で頑張らなくては、ということで、ちょっと変わったことを真面目にやっている感じです。本日はよろしくお願いいたします。

 

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■「なぜ情報科の授業を学ぶのか」 あなたはどう答えますか?

 

 

大石先生

さて、きょうの座談会のコンセプトは、今の自己紹介で既にわかっていただけたかもしれませんが、「回答の差を楽しむ!」ということです。ですから、「さっきの先生と同じです」という答えは極力避けてください。 


 

皆さんも、授業中に生徒が「○○さんと同じです」と言うと「何だよ!」と思われると思いますが、今日はできるだけ違いを明らかにするようにしていただけたらと思います。


また、ある程度、質問の数もあるので、私からさら問いすることはしないようにしようかとは思っていますが、この辺りはやりながら考えます。


先生方も、他の先生の回答が気になるところがあったら、食い気味に突っ込んできていただけると助かります。自分の番が来るまでミュートで待っているとかではなく、どんどん来ていただければと思いますので、よろしくお願いします。


では、1問目。いきなり重い質問ですが、一番優先して聞かなければいけないと思ったので、ここから行きます。

 

生徒から「なぜ情報科の授業を学ぶのかと聞かれたらどう答えますか?」ということで、まずは山本先生からお願いします。

 

 

山本先生

数年前、「家庭科が最強の学問である」ということがちょっと話題になりましたが、確かにな、と思います。皆さんも家庭科の教科書を読まれたらわかると思いますが、生きる上で必要なことが結構書いてありますよね。その意味で、「保健」もそうじゃないかなと思っていましたが、ここへ来て「情報」というのはやはり最強の学問だな、ということを実感することがたくさん起きています。

 

よく考えると、受験科目になったということもありますが、コンピュータ1台で、世界を変えられる可能性があると考えたら、やはり情報という教科が最強なのではないか。

 

ですから最近は、生徒から「何で『情報』を勉強するの」と聞かれたら、「コンピュータ1台で世界を変えられる。コンピュータ1台とインターネットにつながっていれば、それで世界を変えられる可能性がある学問は、情報だけだよ」と言うようにしています。

 

大石先生

なるほど。素晴らしい。ありがとうございます。一言でまとめると「最強だから」ということですね。

勝山先生、いかがですか。

 

勝山先生

この質問は、「なぜ勉強をするんですか?」という質問に対する答えとほぼ同じことだと思っています。世の中では、効率のよい方法を知っていたり、道具を上手に使えたりできれば、得をしたり、嬉しかったり、楽しかったり、という気持ちを味わえることがたくさんあります。

 

例えば、ネット申し込みの際に、「自分の顔写真データを添付して送る」というシチュエーションがあったとします。SNSと同じような要領で画像をアップロードして、「申し込みが完了しました」という画面が出たからそれでOKで、それ以上のことはもう考えない人になるのか。それとも、写真を撮った段階で「このファイル形式で画質は大丈夫かな?もしかして、サイズが大き過ぎてアップロードできないんじゃないかな?容量が大きいものを送ったら相手に迷惑を掛けないかな?」といったことまで考えを巡らすことができるのか。こういった考えは「情報」を学んでいる、知っているからこそできるのであって、みなさんはどちらの人になりたい?と問いかけます。

 

大石先生

勝山先生のお答えは、デジタルデバイド的な視点が結構入っているのかなと思われますが、そんな感じでしょうか。

 

勝山先生

そうですね。知っていると得だし、知らないと損だというのは、情報科だけでなく、勉強自体がそうだと思っているので、その辺りのことを話します。

 

大石先生

実生活でもいろいろ困るよね、という視点が入っているという感じですね。ありがとうございます。では相馬先生、いかがでしょうか。

 

相馬先生

ちょっと抽象的になるかもしれませんが、生徒に「なぜ情報を学ばないといけないの?」と聞かれたら、私はいつも「君たちが活躍する第5の新たな社会がやってきたとき、少しでも君たちがポジティブな選択ができるようになるために勉強する教科だからよ」と答えています。

 

これは自分の経験によるところがあるのですが、私が高校生だった頃は、「情報」という教科はありませんでした。高校生のときWindowsが出てきて、世の中がコンピュータに注目するようになって、「情報A・B・C」が出てきました。「情報」は、これから1歩先、2歩先、3歩先の社会を創っていくための基盤になる知識を扱う教科だと思いますので、「君たちがこれからを生き抜くために必要なことを扱う、そのための基礎を学ぶ」という話をいつもしています。

 

大石先生

なるほど、ありがとうございます。「ポジティブな選択ができるように」というのはどんなニュアンスなのか、もう少し説明していただけますか。

 

相馬先生

知っていると知らないのとでは、選択の仕方が変わってくることがあると思います。ポジティブな判断とは自分にとって良い判断というニュアンスです。いいかげんに聞いているだけでは、結局知らないという状況になり、良い選択肢があっても選択できない、ということもあるだろうと。なので、「これから先、デジタルが当たり前になるときに、ポジティブな判断に必要なことを扱っているんだよ」というような感じで話しています。

 

大石先生

ありがとうございます。この質問は「聞かれたらどう答えますか」ということでしたが、先生方はこれを授業の中、例えばオリエンテーションなどにもともと折り込んでいるのか、あるいは生徒から聞かれたら答えているのか、どっちかな、とお聞きしたいのですが、相馬先生から聞いてみます。どうですか。

 

相馬先生 

私は最初の授業で自分から話しています。AIが出てきているので、君たちに取って代わられたらどうするのか、といった話から、今言ったポジティブな選択のことを言っています。

 

勝山先生

私も自分から言っています。「情報」は高校で初めて勉強する教科であることと、共通テストに入ってくるということもあり、まず定期考査や入試のことを気にかけてくる新入生が多いのですが・・・コンピュータも上手に使えたらより豊かな選択ができることが多いし、知らなかったら、時間やお金がかかるといった形で損をしていくことになる。このあたりの考えは相馬先生と近いと思いました。

 

山本先生

私も自分から話している気がします。

 

「『情報』が一番で、他はやらなくていい」みたいなことは言いませんが(笑)、どれを頑張るかと言えば、これを頑張るのが一番いいんじゃないのという話は、冗談も込みでしています。

 

大石先生

山本先生の場合、総合高校ですから選択科目が多いので、たぶん科目選択説明会などでそういったことを話されるといった面もありますね。

 

山本先生

そうですね。そういったこともあると思います。

 

■「情報I」や1人1台端末のスタートで授業は変わりましたか?

 

大石先生

ありがとうございます。実はこういったことは、聞かれたら答えるのではなく、生徒に対する話の中に織り込まれていということですね。私の授業でも自分から話しています。この話は、深掘りしていくと3時間ぐらいはしゃべれると思いますが、次の質問にいきたいと思います。

 

「情報Ⅰ」が始まってから、もしくは、「情報Ⅰ」を教えているとも限らないので、同じ頃にスタートした1人1台端末で授業の形が変わりましたか、ということです。ここは、相馬先生からお願いします。

 

 

相馬先生

授業の形は変わりました。本校はカリキュラムの都合で、今年度までは3年生で旧課程、1年生新課程の授業をしているので、「情報Ⅰ」は一般教室で授業をしている、ということも背景にあります。

 

「情報Ⅰ」は一般教室で実施するので、1人1台端末を積極的に使うようにしているのですが、今年度は納入が遅れたので、ようやく使い始めたというところです。

 

昨年の「情報Ⅰ」の開始当初は、共通テストを意識し過ぎて空回りしてしまい、座学が多くなってしまった感じです。このことについては、失敗した授業の事例として、昨年の全高情研のオンデマンド発表で報告しました。このことから、結果的に授業の形態が変わってしまったかな、というところもあります。今年度は積極的に1人1台端末を活用しています。教材については、実践事例報告会にて紹介できたらと思います。

 

大石先生

なるほど。ありがとうございます。勝山先生はいかがでしょうか。

 

勝山先生 

授業の形は変わりましたし、変えました。「情報Ⅰ」になって、プログラミングやデータ分析を深く教えるようになったという、授業内容はもちろん大きな変化ですが、それよりも1人1台端末の導入によるところが大きかったです。転勤先の生徒はすでにGoogle Workspaceのアカウントを持っていたので、秋から始まる一人一台端末の導入に先立ち、まずはGoogle Workspaceを使った授業を一から始めることにしました。このように、1人1台端末活用を見据えた授業スタイルに変えたというのが大きいですね。

 

Google Workspaceをプラットフォームとする授業に変えて一番大きかったと思うのは、実習・制作の授業をするときに、自分の満足行くまで家で課題をやってくる生徒が増えたということです。そこを期待しながら授業計画を組める点も変わったなと思っています。

 

大石先生

ありがとうございます。山本先生はいかがですか。

 

山本先生 

私が担当するのは2年生の選択科目なので、1人1台端末が2年前に始まって、ようやく今年使えるようになった、という感じです。自分の中で一番変わったのは、宿題が出しやすくなったことですが、授業での活用となると、自分の中ではまだしっくりしない状態です。ただ、宿題は圧倒的に出しやすくなったというのが現時点の感想ですね。

 

大石先生

山本先生の担当は専門科目なので、普通の1人1台端末で対応できないような、例えばPhotoshopを使うような活動が多いように思いますが、そういった活動も宿題でできるのですか。

 

山本先生

本校の場合は、Adobe Creative Cloudを年額660円で使うことができ、生徒の1人1台端末は、そのスペックが一応満たされている端末を買わせています。ですから、家でも対応できるようになっています。

 

大石先生

なるほど。ありがとうございます。この質問を考えた人の意図としては、今山本先生が言われたように、ICTの活用方法という面もあれば、教え方を変えるというニュアンスもあるのかなと思います。

 

先ほど相馬先生は、どちらかと言うと座学が増えたとおっしゃっていましたが、勝山先生は、ツールがGoogle Workspaceに変わったというだけでなく、教え方、授業のスタイルが変わったということはないですか。

 

勝山先生

そうですね。そこもまたGoogle Workspaceを使って新しい教材をやるようになりました。例えば、同時に編集できるようなスライドを使ったり、Jamboardで意見を出し合ったり、ネットワークの接続を考えるときにイラストを画面上にちりばめておいたものを線でつないだり、といった活動を取り入れるようになった、というのが変化だと思っています。

 

大石先生

なるほど。相馬先生は、同じ座学でも、いろいろ思考させるところとかに変化があったりしましたか?

 

相馬先生 

そうですね。Google Classroomで共有させて作業したり、共有機能を使って考えを共有させて、いろんな考えがあることを見たりする、といったところでは、取り入れているつもりです。

 

■プログラミングの評価はどうしていますか?

 

大石先生

ありがとうございます。こういったツールとともに、授業のスタイル自体も変わってきているということであると思います。私自身、宿題はとても出しやすくなりましたので、本当によくわかります。

 

次の質問は、「プログラミングの課題の評価はどうされていますか」というものです。この答えは、プログラミングの量や生徒数によっても、かなり意味が変わってくると思いますので、そのあたりは踏まえて答えていただければと思います。これは勝山先生、いかがでしょうか。

 

 

勝山先生 

生徒数でいうと、私は普通科も音楽科も含めた全クラス(8クラス)を1人で担当していて、全学科共通の教材を使っています。プログラミングは「最終振り返りレポート」にソースコードを貼りつけて提出させたものを評価に使っています。全部開けてチェックしています。

 

課題の評価は、3観点に当てはめて行っています。

 「知識・技能」については、まずコードがちゃんと動くかどうかということを見ます。

「思考・判断・表現」については、簡単なゲームを作らせるために、一応サンプルコードのようなものを配っているのですが、それをほぼそのまま使っているものは、クリエイティブ性が少ない、自分が作りたいものを表現する姿勢が弱い、と評価しています。

 

「主体的に取り組む態度」については、振り返りレポートで、「今回実装したかったけれど、やり方がわからなくて(あるいは時間切れで)できなかった」といった自分の課題に対する取り組み状況が説明できているか、さらに次なる課題を克服するため「手立て」まで説明できていればなお良しと、評価しています。

 

大石先生

レポートにソースコードを貼って、それが動くかどうかは、先生がレポートからコピペして確かめる、ということなのか、あるいはソースコードは別に提出させているのでしょうか。

 

勝山先生

「つちのこ」(※1)という、日本語でプログラミングができるツールがありまして。作成したソースコードからURLを生成することができるんです。そのURLを提出させて、採点時にはソースコードを1つずつ開いて確認します。

※1 https://t-daimon.jp/tsuchinoko/

 

大石先生

ありがとうございます。いずれにしろ、三百何十本のプログラムを1人で見るということですね。

 

勝山先生

300人分、大変ですけどやりきりました。

 

大石先生

ありがとうございます。では山本先生、お願いします。

 

山本先生

私が持っているプログラミングは選択科目なので、人数的には少ないですが、いわゆるペーパーテストと作品制作、作品レポート。あと、去年やったのは「あなたが作った作品を動画にして、解説もしてください」という動画レポートを出してもらう、というものです。動画レポートはおもしろいですよ。

 

大石先生 

いろいろな評価軸があるのはいいですね。動画レポートは、例えばプログラムはスカスカであっても、プレゼンがすごく上手だったら、その面は評価されるということですか。

 

山本先生

はい。micro:bitのように物理的に動くものを使うと、結構動画レポートのほうが、「うそをつける」ということはありますよね。「このボタンを押したら、ここでスマホの通知が鳴るように実装したかったけど、残念ながらできませんでした」といったことまで含めて発表できるという面はあります。

 

大石先生

なるほど。きょうは勉強になりますね。ありがとうございます。相馬先生、お願いします。

 

相馬先生

私は36人クラスの8クラス(今年度は9クラス)の内の6クラス、210人前後を担当しています。プログラミングの授業では冊子を3種類作って、1冊目と2冊目は各冊子に17問、ほぼ写経からだんだん考える問題まで入れて、Google Colaboratoryを使ってPythonで演習をしました。ほぼ写経の問題は、見たとおり写したら動くというレベルで、考える問題はFizz-Buzz問題(※2)を参考にして作りました。

 

※2  1から順に数を読み上げていき、3の倍数の場合は「Fizz」、5の倍数の場合は「Buzz」、3の倍数かつ5の倍数の場合(すなわち15の倍数の場合)は「Fizz Buzz」というゲーム。[Wikipediaより]

 

3観点の評価については、「知識・技能」は、プログラムが動く/動かないというところや、プログラミングの技術のところを、「思考・判断・表現」は、アルゴリズムをどのように考えてどう作ったというところを中心に見ました。「主体的に取り組む態度」については、取り組みや振り返りの過程について、振り返りシートなどで振り返った、というところです。

 

全部ができてからチェックするのは大変なので、授業中に「5問できたら言ってね」と声をかけて、私が回りながらその場でチェックをして、OKなら先に進むという形で行いました。できていたら、スタンプをたくさん押してあげるという感じです。

 

大石先生

ありがとうございます。それでは、その評価方法の課題は何だろうというところを、教えていただきたいと思います。逆順で相馬先生、いかがですか。

 

相馬先生

「思考・判断・表現」のところで、アルゴリズムというのはいろいろなパターンがあるかと思うのですが、できるだけ行数を少なく、コンパクトにできたほうがよいのか、あるいは行数が多くても目的を達成していれば良いのか、どの軸で見てあげるのがよいのか、というところは考えないといけないのかなと思います。

 

大石先生

そこはもしかしたら、行数をコンパクトにする課題も別途出したらよいかもしれませんね。山本先生はいかがですか。こうしたい、こうしたらよかったといった点はありますか。

 

山本先生

本校では、観点別評価として3観点を全部同じパーセンテージで行う、という指示が出ているので、「主体的に取り組む態度」を、どうやって他のものと同じウェイトで評価するのかという点で迷いがあります。ただ、これはプログラミングの問題だけではないというところもありますが。

 

大石先生

わかります。これは難しいですね。勝山先生は、いかがでしょうか。

 

勝山先生

私も課題が2つあります。

 1つ目は、相馬先生と重複する内容になります。ちゃんと動くソースコードを書いたらB評価はあげよう、というラインはありますが、生徒にとっては、行数が多いコードは大作だという印象があるようです。でも、書き方によっては、そうとも限らない。そのあたりの「動けばよい」という以上のところを、きちんと言語化してルーブリックに落とし込む方法で悩んでいます。

 

2つ目は、1人1台端末で、家で課題の続きをできるようになったので、例えば工学部に行っているきょうだいにソースコードの書き方を教えてもらった、といった話も耳にします。そうすると、周囲の友達同士で教え合って、というレベルを超えてきてしまうのですね。そういったところまではチェックできないので、ちょっと悩んでるところです。

 

■定期試験の問題はどう作る?

 

大石先生

ありがとうございます。いろいろな課題がありますね。

 

今聞いていて思ったのは、求められる評価の深さと、対象とする生徒の人数が釣り合っていないということです。今、先生方が言われた課題を解決した評価方法を、はたして300人分きちんとできるのか。どれだけ時間が必要になるのか。評価の問題は、先生の負担という問題と隣り合わせですね、

 

次は、ちょっと視点が違う質問です。「共通テストをちょっと意識するとして、定期試験の問題はどのように作られますか」というものです。定期試験を作るときに、共通テストの問題の形式などを意識していますかという質問だと思いますが、山本先生、意識されていますか。

 

 

山本先生

はい、意識しています。「情報デザイン」では試験は作っていないですが、先日プログラミングの試験を作ったときは、それなりに意識しました。

 

たぶん、情報科の先生の多くの先生は大学入試センターや情報処理学会の「試作問題」とか「サンプル問題」を一度は解いてみたか、ちょっと見て保留にしているか、といった状態だと思います。

 

私も一応「試作問題」や「サンプル問題」、あと「情報関係基礎」あたりの問題は引っ張ってきて、せめて問題形式は何となく寄せていった方がいいかなと、一応その程度は意識している状態です。

 

大石先生

わかりました。ありがとうございます。続いて勝山先生、いかがですか。

 

勝山先生

形式で言うと、今は定期テストはオール記述式でやっています。ただ、今お話を伺いながら、大阪府もそろそろデジタル採点が入りそうなので、選択問題に変えていくのがよいかなと思いました。問題の作り方としては、おおかた今までとあまり変わっていないと思っています。

私の作る問題は、第1問はデジタル化について、第2は著作権についてというように、分野がはっきりわかるような形の問題が4割くらいで、あとの6割くらいをいわゆる複合問題にしています。複合問題はかなり正答率が下がります。でも、共通テストでは、この手の複合問題に対応できる力が必要だと思いますので、この形式を続けていきたいと思っています。

 

複合問題の例として、例えば「学年団の先生の誕生日を祝う企画として、その先生の校務パソコンの壁紙をこっそりお祝い画像に変更しておくことにした」という設定で、その壁紙画像に関するデジタル化の問題を出したり、「実際に他人の壁紙を変更するなんてことは、不正アクセス行為ですよ」というオチがあったり。いろんな単元から問題を出せるようなストーリーを考えています。

 

大石先生

ストーリーを立てているところは、むしろ共通テストの問題に近そうな気がしますね。

 

勝山先生

そうですね。共通テストによくある会話文よりは、ストーリー仕立ての方が多いです。

 

大石先生

ありがとうございます、続いて相馬先生、お願いします。

 

相馬先生

共通テストを意識して定期試験の問題を作っているかというと、情報は基礎力が重要だと考えますので、内容面では共通テストをあまり意識せずこれまで通りですが、フォーマットでは会話文形式のものをちょっと入れるようにしています。

 

あと、私は勝山先生と逆で、ほぼマークシートの問題を作っているので、選択肢の設定の仕方を少し意識してみるかなと思っています。ただ、共通テストにゴリゴリの内容に寄せるということはしないです。

 

会話文から試してみたのは、多分その方が、大学入学共通テストを受験する生徒からすれば抵抗感なく受け入れられるのではないかと思ったので、ちょっとトライしてみています。

 

■あと5時間授業数があるとしたら…

 

大石先生

ありがとうございました、勉強になりました。今度どこかでテスト問題を持ち寄って交流し合う会があったら面白いかもしれないですね。

 

では次の質問です。

 

「もし、あと5時間授業があるとしたら何を教えますか」。これは私が考えた質問ですが、これは、やり残したことや、本当はやりたかったけれどやれなかったことが出てくるのかなと思って、こういう質問を考えたのですが、いかがでしょうか。

 

どの科目についてでもいいですし、5時間のかたまりでも、全ての単元に振り分けるということでもけっこうです。勝山先生、いかがでしょうか。

 

 

勝山先生

その5時間をいろいろな単元に、振り分けてよいのであれば、各単元に実習・制作タイムを、あと1~2時間ずつ積みたいというのが本音です。理由としては、動画制作やプログラミングは、ほぼずっと個人制作でやっているので、各自が家で作業を進めることはできますが、どうしてもグループでの制作は厳しいからです。グループで相談しながら制作する時間を取りたいので、実習の時間数を厚くして、その分、今まで個人制作で完結していたところを、グループ活動に変更していきたいです。

 

大石先生

なるほど。先ほどの話で、1人1台端末があるので、個人の作成は宿題でできるけれど、グループでやる実習的な時間をもっと増やしたいということですね。

 

その中でも、これだけは本当はグループでやりたかったというのは何でしょうか。

 

勝山先生

動画作りですね。これまで、個人で別々に撮影したものを結合するということはできたと思うのですが、今はwebブラウザ上で動画を共同編集できるツールも出てきているので、複数人で同時に字幕を入る作業などを、コンピュータ室で皆でワイワイガヤガヤ言いながらやらせるというのをやってみたいです。

 

大石先生

ありがとうございます。続いて、相馬先生はどうでしょう。

 

相馬先生

昨年度、自分でやってきた授業を振り返ったときに、それぞれの単元で扱ったこと同士が、本当はつながっているのだけど、つながっていないように思われたことがありました。ですから、「情報Ⅰ」はこういうものだよ、習ったことを使ったらこんなことできるんだよ、という総合演習的なことをやりたいな、と思います。5時間でできるかどうかというのが問題ですが、できたら面白いかなと思います。

「情報」は全ての単元同士がリンクしてるんだよ、ということを言えていたのかというと、ちょっと疑問が残ったので、そんなことを考えました。

 

大石先生

1年間で学んだことはこういうことだね。これをまとめると、「こんなことができるね。やってみよう」といったところが大事かもしれないですね。そう言われると、確かにそういったことが入っていないとダメかもしれないなという気がしてきます。ありがとうございました。

 

山本先生は、いろいろな授業があるから、何で設定するか難しそうですが、いかがでしょうか。

 

山本先生

そうですね。今は年間通じて、作品を作る→提出するということを繰り返しているのですが、プラスアルファで時間がもらえるなら、作品を作る→提出する→次の課題ではなくて、作品を作る→中間発表する→いろいろな人から様々なアドバイスもらってやり直す、というやり直しの時間を取りたい、ということがあります。
PDCAを回す、という話もありまが、回し切らずに次に進んでしまうというのが現実なので、同じことでも2回目、3回目とやり直していくことに時間を使いたいという気持ちはあります。

 

■「情報デザイン」で、ここだけは伝えておきたいこと

 

大石先生

それはとても大事ですね。私も去年まで「情報デザイン」の授業を持っていた時に、途中から中間発表を入れるようにしたのですが、今度は、時間が足りなくなるというジレンマになってしまいました。今のお話から、学習指導要領に書かれている進め方には、ゆとりが必要であることがわかってきました。ありがとうございます。

 

次は、情報デザインに関する質問です。「教科で考えてもいいですし、単元としてでもいいですが、『情報デザイン』で、ここだけは伝えておこう、みたいなことは何ですか」ということです。相馬先生、お願いします。

 

 

相馬先生

私が「情報デザイン」で一番伝えたいのは、「伝える」ということを意識して表現してほしい、ということです。抽象化とか構造化とか、様々な手法があると思いますが、時と場合と相手によってどのように伝えるかを意識する、という視点を持ってほしいと言っています。

 

大石先生

ありがとうございます。続いて勝山先生、お願いします。

 

勝山先生

「伝えたい相手や対象を思う気持ちを第一に作ること、表現することが大事」ということをいつも言っています。ポスターを作るにしても、学校の中に貼って校内の人に見てもらうものなのか、校外に貼って外部の方を呼びこむためのものなのかで、盛り込む情報は違います。クラスの人を対象にアンケートを取るなら、一人ひとりの顔を思い浮かべながら設問を考えるつもりで!と言っています。

 

大石先生

ありがとうございます。山本先生、お願いします。

 

山本先生

私も多分皆さんと同じだと思いますが、一番伝えたいこと、伝えていることは、「誰のために、何のためにそれをやったのか」をきちんと説明できるようにする、ということです。

 

結局「何のためにそれを作ったのか」とか「何のためにそうしたのか」という意図かあるかないか、ということは結果的に全然違うので、そういうことをきちんと説明できるようにしてくれというのをいつも強く伝えています。

 

■「情報デザイン」どう評価する?

 

大石先生

なるほど。確かに、「受け手の立場に立って考える」ということについては、生徒だけでなく、先生方にも必要な姿勢ではないと感じますね。

 

続いて、「情報デザイン的な側面をどのように評価したらよいか」という質問です。これも先ほどと同じ順番で、相馬先生からお願いします。

 

 

相馬先生

デザイン的な側面をどう評価するかということについては、美術の時間ではないので、受け手をどのように意識して、カラーリングや配置にどういった工夫をしたか、ということを中心に見ていくのかなと思いますが、私自身、そこがなかなか不勉強で、どのような客観的な指標で、どう評価していくのかというのが課題であると思っているので、この座談会の中でぜひうかがいたいと思っています。

 

大石先生

ありがとうございます。せっかくですから、どんどん聞いていきましょう。勝山先生はいかがですか。

 

勝山先生

3観点に当てはめながらお話しします。

 

「知識・技能」のところは、見やすいデザインの配色や配置など、一定のルールを理解できているか、ということだと思います。「思考・判断・表現」のところは、受け手を意識して、何のために作っているのかというのをうまく表現できているか。そして、「主体的に取り組む態度」のところは、全単元で基準はほぼ同じなので、先程のプログラミングの評価と同じく、自分の制作物の出来に対する自覚や気付き、改善に向けての手だてがあるか、ということを見ています。

 

先ほど山本先生から、作品を作る過程で中間発表をして、その後また改善する機会を入れたい、というお話がありましたが、なるべくそのような流れにできるようにして、生徒の取り組みが中間から最終提出までの間にどう変容したか、ということを見るようにしています。

 

大石先生

ありがとうございます。山本先生、お願いします。

 

山本先生

私が担当しているのは専門科目の情報デザインなので、まず必ず作品があります。そして、それを何のために作ったのか、誰のために作ったかという制作レポートがあります。さらに、作る前の段階で、最初の設計図として「どういうコンセプトで作るのか」というデザインシートを書かせています。このデザインシート、作品、作品レポートの3つで評価をしています。

 

大石先生

山本先生が言われた、「意図をちゃんと自分で説明できるか」というところから見ていくのがよいかと思いますね。ありがとうございました。それでは振り返りにいきたいと思います。山本先生から、ここまでの55分間を振り返って一言ずつお願いします。

 

山本先生

まず、今回の内容云々というよりは、やはり人と話すことは大切だな、と思いました。いろいろな人がいろいろなことをやっていて、雑談でも何でもいいので、こうやって話していくからこそ見えてくる世界や思い付くことかあるので、人と話すことは本当に大事だというのが私の振り返りです。

 

勝山先生

本当にあっという間の時間でした。今まで自分のやったことをまとめて発表するという機会を頂くことは多かったのですが、こういった座談会という形式は初めてでした。皆さんから頂いた質問や、司会の大石先生からの追加質問に答えながら、自分がどのように情報科と向き合ってきたのかということを、改めて整理し直す時間にもなりました。そして、お二人の先生からもまた新たな授業展開のヒントをいただけました。本日は本当にありがとうございました。

 

相馬先生

貴重な機会をありがとうございました。今回の座談会で、自分の考えをまとめてお話しすることの大切さを感じることができました。同じテーマであっても、さまざまな視点でいろいろな答えをうかがえたのは、自分の中の気付きにもなりましたし、今後の授業に生かせる新たな視点を得た、充実した時間になりました。

 

共通テストなど、情報科の話題は尽きませんが、自分の中でやはり「情報は基礎力が重要」で、その上の「応用力」なのではないか、と思っています。今日伺ったことをまた実践していきたいなと思いました。大変いい機会になりました。いろいろ勉強させていただきました。

 

大石先生

ありがとうございました。いろいろ差があって面白い答えをたくさん聞くことができ、私自身も本当に勉強になりました。司会という特権で、勝手にさら問いをして自分の聞きたいことを聞きまくることができたので、たいへん参考になりました。

 

特に、テストの作り方では、定期テストに会話文を入れることもやってみたいと思います。3人の先生方、ありがとうございました。