令和5年度 神奈川県高等学校情報部会研究大会

教科情報の現状と展望

国立教育政策研究所・文部科学省 調査官 田崎丈晴先生

今こそ、授業・評価のあり方を見直してみよう

ご本人提供
ご本人提供

今日ご発表いただいた導入テストですが、これは「高校の情報科は、中学校の技術科とのつながりを意識していますよ」というメッセージにもなっています。非常に貴重な取り組みだと思いますので、ぜひ継続していただきたいと思います。さらに、出題内容について先生方から意見を収集しているのも、とてもよいと思います。中学校において、どこまで学習指導要領に基づいた資質・能力を身に付けて高校に進学しているのかという観点で、適切な出題となるようご配慮いただけるとよいと思います。

 

林先生からのご報告の中で、座学と実習についてお話がありましたが、共通教科情報科も専門教科情報科も、いずれも情報技術を問題解決に活かして探究的な学びや十連的な学び、体験的な学びを充実させて、主体的・対話的で深い学びの実現、充実を目指すということからしますと、座学か実習かということだけではなく、実習をメインに実践的、体験的に授業を行ってもよいのではないかと思ったりします。

 

教科書を情報源のように使って、生徒が「情報」の世界を探検していくうちに「情報」の知識に出会っていくようなスタイルも考えられます。

 

こういった「授業をどうするか」という問いへの答えは、先生の数だけあると思っています。先生方がお取り組みになったことについて、ぜひお話を聞かせていただきたいと思います。

 

その意味で、今日の「緩く語り合う座談会」は、私も興味深く聞かせていただきました。神奈川の大会であるのに、東京都や大阪府の先生方にもご参加いただけたのは、幹事の先生方の、大切なことを皆さんと共有したいという思いの表れだと思いますし、たいへん有益な会だったと思います。ありがとうございました。

 

「なぜ情報科を学ぶのか」というのは、よいテーマでしたね。そもそも我々自身、なぜ情報科の教員になったのか、ということとも通じるかもしれません。情報の教員になろうと思ったときのワクワク感を、ぜひ生徒と共有したいですよね。

 

GIGAスクール構想で変わる授業の形としては、クラウド環境で生徒が同時編集や意見交換ができることに1人1台端末を介在させたことになりますが、よく考えると、「学び方を学ぶこと」の大切さの示唆を得たように思います。

 

学び方を学ぶことに通じる情報教育の大切さについては、情報科の先生方が一番よくわかっていらっしゃることと思います。ぜひ校内でご活躍していただきたいと思います。

 

また、レポートや動画で作品の説明をさせる、というお話もありましたが、生徒が自分で考えたことをアウトプットすること、それを先生が、また生徒同士で授業の中で見取ってフィードバックをかけてることが大切です。そのためには、時には先生が説明をする時間をカットしてでも、生徒にフィードバックする時間を設けて学びを深くする展開も、考えられることではないかと思います。

 

今は、単純な内容を説明することであればChatGPTでできることも増えてきました。そうであれば、事前に基本的な事項を確認した上で授業に臨むこともできるわけですから、授業内では生徒が自分で一生懸命考えてアウトプットしたことを、先生方が見取って評価することに注力することも可能であると思います。これをどのように教室で実現するのかということも、工夫のひとつかと思います。

 

そういった中で、相馬先生から「ここまでできたらスタンプを押してあげる」というお話がありましたが、これは生徒にとっては、先生から自分の学びを見取ってもらえた、ということが自覚できるよう働きかけるものになっていると思いました。

 

生徒にとっては、先生にスタンプを押してもらうことで、その時間の学びを振り返るきっかけにもなると思います。授業での学習過程を見取り、学習が進むよう積極的に関与していこうとする先生の姿は立派だと思います。

 

観点別評価について国立教育政策研究所がお伝えしているのは、普段の学習活動を見取り、フィードバックをかけ評価することの積み重ねで総括し、評定につなげていくことが大切であるということです。

 

生徒が試行錯誤しながらより良い学びになるよう取り組もうとする学習過程の実現には、生徒へフィードバックをどれだけかけられるか、ということも関わってくると思います。問題解決をしながら学びを深めていくことが、授業を充実させていく上で、とても重要なのではないかと思いました。

 

情報科をめぐる政策の動き

 

今回「教科情報の現状と展望」という大胆なテーマをいただきました。このように大きなテーマでお話しするのは、緊張することしきりですが、大事なのはとにかく「探究的な学習活動を充実させましょう」ということです。

 

スライドがたくさんありますので、こちらからダウンロードしてご覧ください。

 

(配布用)20230706_神奈川県高等学校教科研究会情報部会研究大会.pdf
PDFファイル 31.7 MB

 

まず、科学技術・イノベーション白書です。令和5年度版ではイラストが変わりました。Society 5.0がやってくるぞ、ということで、令和3年度版の仮想空間の絵に加えて、あちこちにスタートアップ企業が立ち上がって、イノベーションが生まれている、いろいろな知識・技術がさまざまな分野で産業として開花している、という絵になっています(※1)。

 

※1 令和5年版 科学技術・イノベーション白書

 

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先生方は、生徒が「何か起業したい」と言ってきたら、どう答えるでしょうか。

 

私は、「情報」の領域は、新しい価値を創造したり、提案したりすることと非常に関係が深いと思います。「情報」の授業では、問題解決をすることによって、自分にとって、あるいは他の人にとって嬉しかったり驚いたりすることを提案していけるようになると良いと思います。

 

そして、こういった生徒たちが考えた新たな価値の創造や新たな仕事の提案が、一つのスタートアップとして立ち上がることもあり得るのではないか。専門教科「情報」を実施している総合学科などでもあり得るのではないか、と感じています。「科学技術・イノベーション白書」には、大学発のスタートアップの事例も載っておりますので、ご覧いただければと思います。

 

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6月16日に、新しい教育振興基本計画(※2)が閣議決定されました。アンダーラインは私が引いたところですが、次期計画のコンセプトに、「未来に向けて自らが社会の創り手となる」「課題解決を通じて持続可能な社会を維持発展させていく」「社会課題の解決をイノベーションにつなげていく」「主体性、リーダーシップ、創造力、課題発見解決力、論理的思考力、表現力、チームワークなどを備えた人材を育成する」といったことに注目しました。

 

もちろん、これらは教育全体のことで言及されていることですが、実は情報科の授業で身に付けた素養やできるようになることと、関係が深いのではないかと感じています。

 

 ※2 https://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/

 

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共通教科「情報」では、情報や情報技術を活用して、問題を発見・解決していく学習活動を通して資質能力を育成すること、専門教科「情報」は、体験的・実践的な学習活動で新たな価値を創造する取り組みを通して学びを深めていくことが求められています。ご紹介した事項でピンとくる先生方は、早速明日から、あるいは2学期の授業から何ができるか、考えていただければと思います。

 

また、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善や、探究学習、STEAM教育、文理横断・文理融合教育等を推進することが、「グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成」に位置付けられたことで、自ら学び続けることがとても大切であることが示されました。それをかなえるための第一歩として、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善や探究的な学習活動の充実が大切だということです。

 

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教育DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進のために、GIGAスクール構想が位置付けられています。生徒の学びや先生方の校務が、どのように変わっていくのかというところが注目されていきます。学習指導要領の着実な実施含め、線を引いたところは、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

 

1人1台端末とクラウド環境が整備され、年々、情報科だけでなく、様々な教科や教育活動でICTが活用されるようになるでしょう。その中で情報科が果たす役割は何かということは、常にお考えいただきたいと思います。

 

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ここからは、現在の若者の状況についてのデータをいくつかご紹介していきます。まず、日本の中高生は自己肯定感が低いと言われますが、諸外国に比べて「自分で国や社会を変えられるかもしれない」と回答する生徒が少ないことが見て取れます。

 

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一方、大学卒業生に期待される資質・能力・知識を見ると、能力では「課題設定・解決能力」が、知識では「文系・理系の枠を超えた知識・教養」がトップにあがっています。

 

それ以外にも「数理・データのサイエンス・AI・ITに関する専門知識」や「情報活用能力・データ分析力」などが挙がっています。社会の中でも「情報」で身に付ける資質・能力が必要とされていると感じています。

 

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「高等学校教育の在り方ワーキンググループ」の論点整理から

 

「高等学校教育の在り方ワーキンググループ」での論点整理ではこのような問題を踏まえて、「今後深めていくべき主な論点」に、「探究的な学び」な「STEAM教育」というものが入っています。

 

各学校で探究的な学びやSTEAM教育を推進するとき、情報科の学びは非常に役に立ちます。

 

探究的な学びは課題解決活動の一つですから、課題解決活動評価し改善しようとする態度として、「学びに向かう力、人間性等」の涵養につながる学習活動が展開できます。粘り強く課題解決に取り組もうとしたり、さまざまな人のアドバイスを受けて自己調整を働かせてより良い解決策を見いだそうとする姿勢などを見取ることにより、「主体的に学習に取り組む態度」を評価することができます。

 

生徒の活動にフィードバックをかけて、より良い取り組みにつながるよう応援することで、生徒の自己肯定感も高まってきます。「やったぞ!」という実感を伴う授業になっていくことで、学びに向かう力が向上する。「主体的・対話的で深い学び」の実現のためには、探究的な学習活動の充実を図る、ということが、平成30年3月に告示された学習指導要領の、共通教科情報科の「内容の取扱い」の箇所でしっかり書かれています。

これは、今の時代の流れから見ても重要ですので、学習指導要領に基づき、情報科の授業の着実に実施するという視点を持っていただきたいと思います。

 

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ここまで申し上げたことは、特段情報科だけの課題ではありません。

 

学習指導要領の前文には、「持続可能な社会の創り手となる人材」を輩出する、ということが掲げられています。総則の第1款には、習得・活用・探究型の授業が大切であること、第2款には、情報活用能力の育成が大事であって、これは教科横断の視点から育成する、ということが書かれています。

 

こういったところは、学校内の教職員の中でベクトル合わせをする上で、全体に関わることとして確認するのが重要であると思います。

 

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「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」について

 

そして、情報活用能力を育成する上で、単にICTを活用するのではなく、問題の発見・解決にICTを生かしていくという考え方が重要です。

 

情報活用能力を教科横断的に、全ての教科で育成しましょう、というときには、全ての教科で、それぞれの教科特性に応じて何らかの問題解決が行われていることになります。こういったことを後押しするべく、情報の先生方が頼りにされていくことになればと思っております。

 

情報活用能力の育成と関連した動向として、7月4日に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン(ver.1)」(※3)が公表されました。全体で二十数ページありますので、ここでは抜粋をお見せしますが、ぜひ全体をご覧になって、学校内で先生方と確認していただきたいと思います。

 

※3 https://www.mext.go.jp/content/20230704-mxt_shuukyo02-000003278_003.pdf

 

 

このガイドラインは、生成AIを全面的に禁止するとか、絶対使いなさいとかいうことではなくて、生成AIというのは結局どのようなシステムなのか、ということを踏まえて、情報技術を適切かつ効果的に活用するという視点でどのように使えばよいのか、というところに関して、基本的な考え方と助言としてまとめられています。

 

つまり、生成AIが出力するものをそのまま何も考えないで「これが答案です」と出してしまったのでは、何の勉強にもなりません。

 しかし、自分が学んだり考えを深めたりするための、サポート的なものとして活用できる技術としてしっかり使っていくという視点が大切であることを、生徒たちに伝えていただきたいと思います。

 

インターネットが学校に入ってきた頃、先生の問いに対して、検索してぱっと答を出してしまうような生徒が出て来たら問題だ、と感じた先生方がいらっしゃったかもしれません。

ChatGPTにちょっと尋ねて出てくる答えというのは、おそらく生徒の自学自習の範囲で済むことかもしれません。生成AIの登場により、生徒の基本的な知識や技能の習得度合いをどうやって確認するのか、工夫が要るかもしれません。

 

一方で、探究的な学びの中で、自分で問いを立てて答えを見出さなければならないような取り組みの中で、ChatGPTを助言者として使ったり、基本的な知識事項の確認の壁打ちのために使ったりと、いろいろ利用の方法はあると思います。使ってみないとメリットもデメリットもわかりませんし、こういう使い方がうまくいった・いかなかった、ということも共有できません。

 

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特に、情報科においては、この生成AIなるものは、情報システムという視点で見たとき、どのようなものなのか。ガイドラインにも「ニューラルネットワーク」や「機械学習」という語がありますが、ニューラルネットワークって、機械学習って何だろう。情報システムとしてどのように動いているのだろう、ということを探究してみるのも、教科の学びとして有効であると思います。「情報Ⅱ」の学びの中で、生徒自身がこうした「謎」に迫ることが可能になります。

 

今後、オペレーティングシステムもアプリケーションソフトも、AIによって一部自動化されたり、ユーザーを補助する機能が搭載されていくことになるでしょう。情報科の学びは、常に技術の移り変わりと共にあると思えば、生徒の学びに変革が訪れる、まさに最前線に立っていることになります。

 

そういったところで、先生方はこれからの時代を担う生徒たちを育てるという役割を担っています。ぜひお力添えをよろしくお願いいたします。

 

 

著作権についても、文化庁が「AIと著作権」というセミナーを行って、映像も資料も公開していますから、こちらもぜひ参考になさってください (※4)。

 生成AIが出力したもので、どういう場合に著作権としてどんな権利が関係してくるのか、といったことがわかりやすくスライド構成されています。

 

※4 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/93903601.html

 

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今まで述べたことは学習指導要領解説の総則編にも書いてありますが、情報活用能力は情報科だけでなく、他の教科と横断的に指導されていくということが大事だということです。

 

 

そして、情報モラルの所で掲げられているように、情報社会において適正な活動を行うための基になる考え方と態度をいかに養うのかということは、この生成AIの登場のインパクトとともに、時が経てば経つほど重要かつ身に付けるべきものになってきます。先生方には、ぜひこういった観点でご指導いただきたいと思います。

 

 

リーディングDXスクール事業~1人1台端末を使った個別最適・協働的な学び、校務DXの事例を共有する

 

そして、文部科学省では予算事業として、学校デジタル化プロジェクトチームは、今年ご覧のような「リーディングDXスクール事業」(※5)を始めています。

 

こちらは、1人1台端末やクラウド環境の活用を通して学びがどう変わったか、働き方がどう変わったかという事例を創出して横展開してください、というものです。今、情報教育で頑張っていらっしゃる学校には、今後募集がありましたら、ぜひ応募していただきたいと思います。

 

※5 https://leadingdxschool.mext.go.jp/

 

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リーディングDXスクール事業の下にある、「高等学校情報科等強化によるデジタル人材の供給体制整備支援事業」は、自治体が産業界や大学の先生方と協働して、「情報I」や「情報Ⅱ」の資料の充実に向けて取り組む仕組みを作っていただけるのであれば、補助します、という事業です。

 

この事業での取組事例は今後、ということになりますが、例えば東京都では、既に産業界と協働してデータサイエンスやプログラミングの授業のサポートをしてもらう事業を展開しているとのことで、先日のNew Education Expoでも発表されています(※6)。

情報科の授業を先生方1人で抱え込むのでなく、いろいろな人の力を借りていい、ということでご紹介しました。

 

※6 https://www.wakuwaku-catch.net/kouen230701/02/

 

今年のリーディングDXスクール事業では、こちらのスライドのように、1人1台端末を日常的に活用し、個別最適な学びや協働的な学び、校務DXの実現に向けた取組が進んでいます。

 

今日の前半の座談会の中でもありましたが、GIGAスクールの環境を活用することで、生徒が自分のペースで自分の学びを作ることができ、深めたいところはどんどん深めていくことができます。あるいは、生徒同士で、生徒と先生でコラボレーションしながら深い学びを実現できます。このような事例は、ぜひ多くの学校で共有していただきたいと思います。

 

今年のリーディングDXスクール事業では、高校は3校指定しています。今後、もし高校の指定校が募集されることがありましたら、ぜひ応じていただきたいと思います。

 

 

1人1台端末活用の現状と課題

 

ここからは、小学校と中学校の全国学力調査の、質問紙調査部分の結果です。

 

どのような場面でICTを使用しているかを、小学校・中学校で聞いたものです。詳しくは、スライドの資料をご覧ください。

 

「自分で調べる場面」でほぼ毎日活用したり、週3回以上活用している学校は全国平均50%を超えていますが、「自分の考えをまとめて発表・表現する場面」や「生徒同士がやりとりする場面」といった、探究的な学びになればなるほど、もう少し伸びしろがあるといった結果になっています。

今提示したのは小学校・中学校のデータですが、探究的な学びの場面での活用のための方策は、高校でもぜひお考えいただきたいと思います。

 

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また、全国全ての公立小学校・中学校の校長先生に、こちらの7つの項目について端末利用の効果についてうかがってみたところ、授業での利活用頻度が高くなれば高くなるほど、全ての項目で効果認識が高くなる傾向が見られました。

 

探究的な学習活動で、ICTがこなれた状態でどんどん使われていくためには、まずいろいろな場面でとことん使ってみるということが必要ではないかと思います。

 

 

全ての教科で1人1台端末が活用されるほど、情報科の授業でどのような力が備わるのか、ということは、学校の中でも関心が高くなるかもしれません。年々、小学校・中学校で1人1台端末やクラウド環境を活用して基本的な技能を身に付けて高校に進学してきます。生徒たちは、高校に進学後、各教科の特性に応じた使い方でICTを活用する場面では、中学校で身に付けたことを活かして学ぶことができるかもしれません。

 

情報科としては、「教科等横断的な視点で学習の基盤としての資質・能力の一つである情報活用能力を身に付ける」という点で、情報科での学びの成果を他の教科の学びにおいても活用する取組を積極的に行っていただきたいところです。情報科は「情報の科学的な理解に裏打ちされた情報活用能力」を育成する教科であるとともに、学習の基盤としての資質・能力の一つである情報活用能力を育成する中核の役割を担う教科です。情報で身に付けた力とはどのようなもので、総合的な探究の時間や、その他の教科においてそれらがどのように活用できるのかといった視点で、他教科の先生方とコミュニケーションを取っていただきたいと思います。

 

こちらは、6月29日に出た「1人1台端末の利活用促進に係る実施方針」の通知です。ここでは、小学校・中学校では、端末をともかく毎日使ってください、ということが示されています。

 

そして、このように小学校・中学校で活発に使った生徒たちが高校に進学してきますから、高校でも教科に関係なくICT環境を活用していくことが生徒の学びの充実につながる、という実感を持って取り組んでいただきたいと思います。

 

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文部科学省のGIGA StuDXチームは、小学校・中学校・高校それぞれに向けて、こちらのスライドのようなビデオを作成し公表しました(※7)。1人1台端末やクラウド環境の活用が、どのような形で生徒の学びの充実につながっているのかがよく分かるように編集されていますので、ぜひこちらご覧いただければと思います。

 

※7 「1人1台端末で授業が変わる!」

 

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この中で、希望ヶ丘高校の柴田先生から、校長先生がリーダーシップを働かせることの重要性を伝えていただいています。また、生徒の皆さんからは、1人1台端末やクラウド環境を使うことで、学びを進める上でどのような効果やメリットを感じているのか、ということを自分の言葉で伝えていただいています。先生方も、自分の授業の在り方でどういったことを願っておられるのか、それを1人1台端末やクラウド環境の活用を通して、どのようにかなえていらっしゃるのか、ということをお話ししていただいています。こういったものを職員室の皆さんで視聴していただけると、イメージが共有しやすいかと思います。StuDXスクールのサイト(※8)の新着情報に、今のビデオのお知らせがありますので、ぜひご覧ください。

 

※8 特設WebサイトStuDX Style

 

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共通テスト情報科の役割

 

共通教科情報科における情報活用能力の育成について、学習指導要領で定められていることは、中学校までに培われてきた情報活用能力を踏まえて、情報科の学習を通して生徒の学習活動の活用能力がさらに高められるようにすること、そして教科横断的な視点で、他の教科・科目と連携しながら情報活用能力を育成する指導が充実される、ということです。さらにGIGAスクールがあり、生成AIが登場したことを通して、ますますこういったことの重要性が際立ってくるのではないかと思います。

 

 

来年6月から7月にかけて、PISA2025の予備調査が行われます。資料を見ますと、CBTで実施されることが分かります。学校全体で育成した情報活用能力が試される機会かもしれません。ご協力の検討をいただけたらと思います。

 

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共通教科情報科は、今年「情報Ⅱ」の授業が始まりました。教科書採択数から見ると、全国で約1万3000人の生徒が「情報Ⅱ」の授業を受けているようです。高校生の1学年が約100万人ということを考えると、約1.3%です。これはもっと増えるとよいですね。

 

また、来年度は共通テストが行われますが、学習指導要領の主観点から言えば、今年は学習指導要領の実施状況の予備調査を、そして来年度は本調査を予定しています。

 

このスライドの欄外に、「参考」として、現在の学習指導要領が作られたきっかけになった中教審諮問のことが書かれていますが、2014年11月には諮問が行われています。今年は2023年ですから、いつ次の学習指導要領改訂のターンが来るか、と考える状況なのです。

今の学習指導要領の着実な実施を通して、先生方が頑張って授業を作り上げて来られたところを、良い形で次の改訂につなげていきたいと思っております。

 

 

共通テストへの「情報」の導入について言えば、内閣府のAI戦略で、「全ての高校卒業生が、数理・データサイエンス・AIに関する基礎的なリテラシーを習得する」という目標設定がされています。

 

つまり、高校で数理・データサイエンス・AIの基礎的な素養を身に付けて大学に進学する、という意味において、高大接続のところに大学入試があるいうことです。

 

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大学入試をゴールにして、傾向と対策に終始するような授業だけは、していただきたくないと思います。

 

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情報科が目指す目標に、「情報技術を活用して問題の発見・解決を行う学習活動を通して」とあります。共通教科「情報」を履修したその先には、情報技術を活用して問題の発見・解決を行うところの素養というものが備わっているということになるはずですよね。

 

 

「情報Ⅰ」を学んだ後に、さらにもっと問題解決の経験を深めるために「情報Ⅱ」を、ということになります。ぜひ、この共通教科「情報」の目標をかなえる視点で授業をしていただきたいですし、その評価においては、観点別評価の趣旨を踏まえての評価が実現されるように取り組んでいただきたいということは、従前から申し上げているとおりです。

 

 

評価では普段の授業での「見取り」が重要

 

学習評価において、特に「主体的に学習に取り組む態度」を評価する際の趣旨では、「情報社会との関わりについて考えながら、問題の発見・解決に向けて、主体的に情報と情報技術を活用し、自ら評価し改善しようとしている」とあります。このことから、授業の中で問題解決を行い、趣旨に基づいて見取ることができる場面を設定することが重要です。

 

ですから、生徒が問題を発見・解決するという学習活動をベースとして、そのプロセスを通じて知識や技能に出会ったり、思考・判断・表現をしたり、試行錯誤しながらより良いものを目指す、といった授業が行われていれば、これらの観点の趣旨に基づいた評価ができると思います。

 

 

専門教科情報科も同様です。ポイントとなるのは、「実践的・体験的な学習活動を行うことを通して」というところです。さらに、「思考力・判断力・表現力等」にも、「学びに向かう力、人間性」のところにも、「創造」というキーワードが入っています。

 

情報社会の創造と発展に協働的に取り組む態度を養うには、問題解決がしっかりできることが必要になりますので、教え込んだり、やらせたり、といったことに陥らないよう、学習指導と学習評価を常に見直すことが必要です。

 

 

学習評価については、冒頭の感想でも申し上げたように、普段の授業での見取り、普段の評価の積み重ねで総括することを国立教育政策研究所の「指導と評価の参考資料」で示しております。ですから、学期末にペーパーテストを行って、その得点でランキングして評定を決めるのでなく、各単元の学習を通じてどこまで到達したのか、というA、B、Cの評価規準を設定し、生徒の皆さんがおおむねBになるような指導を目指していただくとよいかと思います。

 

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先ほどの座談会の中でも、「BとAの境目をどうしたらよいか悩む」いうお話もありましたが、あらかじめ、「ここまでできたらA」として設定し、評価したら、あとは生徒の取り組みを通して、「評価規準がもう少し具体的な方がよかったかな」とか「もう少し規準を易しくしてもよかったか」といった授業者としての振り返りを通して授業改善につなげていただくとよいと思います。

 

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情報Ⅰと情報Ⅱの内容のまとまりごとの評価規準は、この「指導と評価の参考資料」の巻末に例を掲載しております。参考にしていただけたらと思います。

 

 

さらに、学習指導と学習評価は、学校全体で教育活動の質の向上を図るために中核的な役割を担っています。このことを念頭において学習指導と学習評価にあたっていただければと思います。

 

 

授業のサポートも様々な形で

 

こちらは、2021年3月に公表された「情報Ⅰ実践事例集」(※9)の事例です。指導主事連絡会を通じてご覧のようなテーマで事例をいただき、公開することができました。

 

神奈川県の事例も掲載しています。授業で「こういうことについて知りたい」と思われたときには、これを開いてみて、事例や指導主事の方からのコメントを見て、参考にしていただければと思います。

 

※9 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01833.html

 

 

また、昨年文部科学省では「情報Ⅰ」の授業動画を作りまして、こちらもリンク集になっていますのでご覧ください(※10)。こちらも神奈川県の先生方に多大なご協力をいただきました。ありがとうございました。

 

※10 https://www.mext.go.jp/content/20230619-mext_jogai01-000030391_004.pdf

 

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この中で、「インターネットサムライがやってきた!」のビデオは、ぜひ見ていただきたいです。ここには、「だから情報を学ばないといけない」というフレーズが3回出てきます。どういったところで出てくるのは、お楽しみということにしておきます。

 

これらの授業動画は、それぞれ授業の中でそのまま使っていただいても、先生方の研修資料として使っていただいてもけっこうです。

 

「問題を解決する」ということを意識しながら、そのプロセスで出会ういろいろな知識をいかに問題解決に生かしているのかということがイメージできるように、また問題解決を進めるパターンのようなものがわかるように編集していますので、ぜひご覧いただきたいと思います。

 

また、「情報Ⅱ」の学びにはどのようにつながっていくのかといった例も、資料に含めておきましたので、こちらも資料でご覧ください。

 

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8月には全国高等学校情報教育研究会(全高情研)の全国大会が工学院大学で開催されます。今年は久しぶりに現地開催ですので、たくさんの先生方にお目にかかりたいと思います。こういった学会等のイベントに参加していただくことで、専門性の向上につなぐことができるでしょう。

 

また、生徒が参加できるイベントとして、コンテスト以外にも、JST採択事業で言えば国立情報学研究所の「情報科学の達人」プログラムや、奈良先端科学技術大学院大学では、「『共創』が育む主体性の未来」など、教科等横断的な視点で情報科の素養が役に立つことを、実際の研究を通して実感できるようなプログラムがあります。生徒たちに、こういったものへの参加を促してみられるとよいかと思います。

 

 

また、今年も情報処理学会はオンデマンド研修を行います。こちらについては、文部科学省から事務連絡も出しています

(※11)。

 

※11 https://www.ipsj.or.jp/annai/committee/education/KENSHU2023.html

 

今年は団体申し込みということで、例えば各都道府県の情報部会や研究会等の単位で、1団体3万3000円でお申し込みいただけば、その研究会に所属する先生方は、費用負担なしでオンデマンド研修参加できる形を設けられています。ぜひご検討ください。

 

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NHKの高校講座も順次アップされていきますので、こちらもご参考にされながら、授業に役に立てていただければと思います。

 

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研修等の支援で考えられることとしては、毎回申し上げていることになりますが、まず神奈川県の皆様には、「導入テスト」を通じて、中学校技術科とのつながりについて、わかりやすい形でお取り組みいただいていること、厚く御礼申し上げます。

 

また、カリキュラム・マネジメントという視点で、他の教科との連携の充実といったことについても、研究会、もしくは県の研修等でお取り上げいただけるとよいと思います。

 

 

国立教育政策研究所では、今年も実践検証協力校事業を行っています。協力校には訪問させていただきます。ので、よろしくお願いいたします。

 

 

「『E-Assessmentに関するもの』A枠」というのは、MEXCBT(※12)で使う問題を開発して実証・検証を行うというもので、今年は1校指定しております。こちらは教育DXの流れを汲んだものとなっています。

 

※12 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/mext_00001.html

 

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研究開発学校は、今年は小学校2校と中学校1校です。ここでは、小学校や中学校における情報のカリキュラム開発にお取り組みいただいています。

 

 

先生方におかれましては、ご覧のようなテーマで、引き続き授業改善の取り組みを続けていただきたいと思います。こんなことをしたらうまくいった、あるいはうまくいかなかったことでもけっこうです。

先生方が試行錯誤をされているということに、常に敬意を払ってお話をうかがっています。これからもどうかよろしくお願いします。

 

令和5年度 神奈川県高等学校情報部会研究大会より