第16回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会)
SSH指定校における情報Iの扱い~「国民的素養」の徹底した育成の実現を目指して
お茶の水女子大学附属高校 山上通惠先生
理数系人材育成のために、「情報」を減単する学校が少なからずある
SSHは、文部科学省・JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の事業で、将来国際的に活躍しうる科学技術人材の育成を図るため、先進的な理数教育を実施する高校等のことです。理科や数学などに重点を置いたカリキュラムを実施し、実験や観察等を通じた問題解決的な学習を行っており、大学などとの共同研究や、創造性、独創性を高める指導方法や教材の開発も行われています。
平成14年に始まり、この調査を行った令和4年度には全国で217校がSSHの指定を受けていて、指定を受けた学校には5年間にわたって、毎年数百万円という結構な金額の助成があります。
さて、学習指導要領では本来は2単位の科目は減単してはいけない、という規定がありますが、SSHの指定を受けた学校に限っては、より高度な理数系人材育成のために、その縛りを外してもよい、という特例が認められています。
2単位科目の「公共」や「家庭科」を減らして理数系科目に振り向けるというのは、特例措置の意図するところかと思いますが、残念ながら「情報」を減単する学校が、少なからずあります。
私は、これまで3校のSSH指定校に勤務した経験から、各学校における情報科の扱いの差異について関心を持ってきました。
そこで、全国のSSH指定校を対象に調査を実施し、「サイエンス」としての情報科を確立すること、そして将来的には高校での科目増や単位増、中学校での教科「情報」の設立に至るロードマップを見つけることにつなぎたいと考え、この調査を行いました。
調査は、SSH指定校が年度末に発行する成果報告書を全217校分精査するとともに、webアンケートの回答を依頼して得た結果を反映させ、不明な点は直接担当者に問い合わせたものを集約しました。
現在も2割以上の学校が「情報I」を減単
共通教科「情報」の教育課程上の実施単位数がこちらです。令和4年度から新課程になったことで、旧課程の「社会と情報」「情報の科学」で減単をしていた学校の一部が標準単位数に修正しています。これは、「情報I」が大学入学共通テストに採用されたことの関連が強いと考えられます。また、ごくわずかですが、「情報I」単独で3単位に増単している学校も増えました。
一方で、令和4年度においても、「情報I」を1単位とした学校が17.5%、0単位(=実施していない)の学校が5.3%と、まだ2割以上の学校が、何らかの形で「情報I」の単位数を減じる特例措置を実施しています。
減単した学校の大半が、代替科目で「情報I」を十分に学習できていない
「情報I」を減単して、その代替科目で扱う内容が「情報I」の内容を網羅できているか、という質問に対する回答がこちらです。
令和4年度で、「情報I」を減単した学校で、20.0%は「情報I」と同等かそれ以上の内容を扱っていますが、他教科との連携のためという理由で一部割愛したり、あるいは、他教科の増単に使われて、全く単位が減っただけ、というところが80.0%(全体の18.1%)です。
つまり、減単した学校の大半が、「情報I」の内容を十分に学習する時間を配当できていないことがわかります。
「情報I」を減単した代替科目の担当者も、情報科の教員が受け持っていないことが多いようです。つまり、情報科の内容ではないのです。
SSHで行われる研究分野の偏り~「情報」の研究をしたい生徒はSSHへ行かない方がよい?
次に、SSHで行われている研究の分野には、相当偏りがある、というお話です。こちらは令和4年度の生徒研究発表会の生徒発表220本の内訳です。
情報と数学は、合わせて11%しかありません。あとは全て理科で、生物は動物・医学系と植物・農学系の2つに分かれて、合わせれば3分の1強が生物という状況です。
理科さえ良ければいいのか、という現状を、どうしたらよいのか。私の中にはまだ答えがまだ見えていません。小学校から慣れ親しんでいる理科に偏るのは仕方がないかもしれませんが、高校から始まる情報は極めて不利です。より手厚く情報科に取り組む必要はないのでしょうか。
ですので、中学校で情報科学に興味を持って、高校でもっと勉強したい人がSSHに行くと、「情報」の時間がSSHではない学校よりも減ってしまう可能性が大きいわけです。現状では、情報科学を勉強したいと思ってSSHへ行くのは間違いだと言わざるを得ない。しかし、それではいけない、この状況を改善しなければならないと思うのです。
SSHの指定を受けていない学校は、当然ながら特例措置はないので、「情報I」は2単位で実施されています。科学を標榜するSSH指定校においてのみ、「情報I」の授業が手薄になっているという矛盾は、「国民的素養」と言われる「情報I」にふさわしい扱いとは言えません。
「情報」を他教科の下請けではなく、独立したサイエンスとして扱うべき
今回の調査では、他教科との連携の名のもとに情報科が他教科の下請けになってしまっている実態が垣間見られます。
また、「情報I」の欠けた部分を特別の時間割で補填している学校が半数近くありますが、必要ならば本の教育課程に入っているべきであって、本末転倒であると言わざるを得ません。
単にSSH指定校として、特別措置をアピールする道具に使われているのであれば残念です。
本来の教科連携で言えば、例えば統計・データ分析で言えば、今回の学習指導要領には、数学と連携しなさい、ということが明記されており、理論の話は数学で、実際の分析は情報科でという棲み分けをしましょうと、されています。
また、「公共」との連携では、「情報モラル」について社会的な問題は「公共」で、技術的な問題は「情報」で、という形で連携して授業を展開することも可能です。
ある高校では、普通科とSSHの指定を受けているコースがあって、普通科では「情報I」を1年生で行いますが、SSHのコースは2年生で行う、という別々のカリキュラムになっているそうです。
これも、私は疑問を感じます。2年生で理科での探究活動のテーマを決めた後に、「『情報』でこんな使い方ができるよ」と言われても、それは理科のデータの分析の下請けになってしまっています。仮に「画像解析がおもしろい」とか「GPSデータを使うとこんなことができるんだ」と思っても、この時期には探究活動のテーマはすでに決まっており、情報科学は入り込めないのです。これでは、純粋に情報科学のテーマの発表が出てくるはずがありません。
1年生のときに「情報」の面白さをきちんと伝えておけば、こんなことにはならないのてはないでしょうか。情報科は独立したサイエンスであるべきだと、私は思います。
この発表をしたまさにその当日、神戸で「令和5年度スーパーサイエンスハイスクール生徒研究発表会」(※)が開催されており、群馬県立高崎高等学校の生徒の皆さんによる「TERASU MAP ~視覚障害者の方の危険箇所マッピング~」が「科学技術振興機構理事長賞」を受賞されました。数学・情報分野での受賞を心からお祝いしたいと思います。
※https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/r5sshssf.html
第16回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会) ポスター発表より