第16回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会)
大学入試を中心とした情報分野の学力評価手法の検討
慶應義塾大学 植原啓介先生、大阪学院大学 西田知博先生、
日本大学 谷聖一先生、京都産業大学 安田豊先生、
獨協医科大学 坂東宏和先生、國學院大學 高橋尚子先生、
電気通信大学 角田博保先生、大阪大学 萩原兼一先生
教科「情報」の知識体系の整理と、学習成果の評価手法の確立を目指す
2003年にスタートした高校の教科「情報」は、2013年・2022年の学習指導要領の改訂を経て、現在「情報I」が必履修となっています。
2025年入試では、この「情報I」が大学入学共通テストに導入され、多くの大学が入試科目に「情報」を課すことを発表しています。しかし、「情報」は他の教科に比べて教科としての歴史が浅いため過去問が少なく、どのような問題が出題されるのかということを心配される高校の先生方も多いと思います。
また、過去の積み上げがないことから、個別入試を検討している大学側もどのような問題を出せばよいのかということについては、暗中模索の状態です。今後情報入試を成功裡に継続していくためには、教育体系や学習成果の評価手法に関して、高校・大学双方の共通認識が必要であると考えます。
さらに、教科「情報」は小中学校にいて対応する教科がないため、数学など他の教科に比べて学習指導要領の詳細な記述が乏しく、また教科書ごとの内容のばらつきも大きいため、入試で問われることの具体的なイメージがつきにくいという問題もあります。
本研究は、教科「情報」の知識体系に基づいた学習評価手法の確立を目指してスタートしました。この研究では、どのような問題を出せば受験生の理解の度合いを判別できるかについて、大学入試の典型的な問題、および多肢選択問題で学習成果を測るためのバックグラウンドの理論を作るというのが基本的な目標です。そして、アウトプットとしては、「『情報』の作題はこのように行うとよい」という手順書の作成、また情報分野特有の問題に対応するCBTシステムの開発を目指しています。さらに、検証のために模擬試験を通して成果を評価することを予定しています。
「思考力・判断力・表現力」に加えて「知識・技能」を問う問題とは
本研究の先行研究である「情報学的アプローチによる『情報科』大学入学者選抜における評価手法の研究開発」(※1)では、思考力・判断力・表現力を客観的に評価するための作問手順書を作成しました。
※1 「情報学的アプローチによる『情報科』大学入学者選抜における評価手法の研究開発」最終報告書
ただ、入試問題となると、思考力・判断力・表現力だけでなく、ある程度は知識や技能も問わなければなりません。その時にどのような問題が適切かということについて、知識・技能の位置付けのマップを作りたいと考えています。
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「典型的な問いによる評価手法」「IRTに基づく評価手法」「CBTシステム」「手法の妥当性の検証」の4本柱で
この研究は、4つのグループで進めています。いわゆる典型的な大問/中問という形で問うていく手法を開発するグループ(上記①)、CBTをにらんで、多肢選択問題によるIRT(Item Response Theory:項目反応理論)に基づく評価手法を開発するグループ(②)、知識体系に基づいたCBTシステムの開発をするグループ(③)、そしてそこで開発した評価手法をもとに問題セットを作成して、大学・高校・予備校などの協力を仰いで模擬試験を実証し、妥当性を検証するグループ(④)となります。
各グループの役割をもう少し詳しくお話しします。
まず、①では、知識体系に基づいて、記述式も含めて思考力なども問うことかできる大問/中問による評価手法を開発します。高校現場では、教科書の文章の穴埋め程度の知識問題の作成はできても、まだ入試問題の過去問の蓄積がないため、思考力を問う問題の作成技法が整っておらず、大学入試に向けた問題演習が難しい、という現状があります。
ここでは、教員が問題を作成する際の助けとなるような手順書を作成します。作問手順については、CBTかPBT(Paper Based Testing)の区別なく、両方に使えるようなものを検討しますが、PBTの限界についても検討したいと考えます。
また、大学入試においては、記述式問題の採点の効率化が重要な課題であるため、機械学習的手法を用いて前処理を行うなど、採点効率化のための仕組みも検討したいと考えます。
②では、知識体系に基づいて多肢選択問題などの自動採点可能な問題による評価手法を開発します。評価にIRTを活用することを念頭に、小問集合として実施問題を作成することを検討し、①と同様に作問の手順書を作成します。
特に、知識体系全体を多肢選択問題において評価する方法を検討しつつ、その限界にいても考察します。さらに、適切に評価するための出題量や、アイテムバンクに格納すべき問題量にいても検討します。
③では、OECDのPISA調査などで世界的に利用されるCBTプラットフォームのTAOをベースとして、情報分野におけるCBTならではの出題形式を実現するための拡張モジュールを開発します。
前述の先行研究(※1)においては、スライドのような独自のCBTシステムを開発し、その上で情報分野におけるCBTならではの出題形式を実現しました。
本研究においては、これらの出題形式、あるいは上記①で検討した出題形式を、TAOの拡張モジュールであるPCI(Potable Custom Interactions)機能を用いて開発することとします。
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④では、①および②において開発した評価手法をもとに問題セットを作成し、模擬試験を実施することによってその妥当性を検証します。具体的には、今後年に1~2回のペースで、いろいろな方に模試の形で提供して解いていただき、手法の妥当性や成績の相関などのデータを集め、そこから得られた知見を体系化していく、ということになります。
この中では、③で開発した拡張モジュールの可能性についても検証するとともに、受検者に対するアンケート調査やヒアリングによる分析も行っていきます。
なお、10月28日(土)にシンポジウム(※2)を開催します。ここで高校・大学の先生方、受験産業の方々のご意見をうかがうとともに、ご協力をお願いしたいと思っています。ご興味のある皆様は、ぜひご参加ください。
※2 「大学入試を中心とした情報分野の学力評価手法の検討シンポジウム2023」
第16回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会) ポスター発表より