第16回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会)
情報科における学びの充実に向けて
国立教育政策研究所 田崎丈晴先生
今回は、久しぶりの対面での開催の全国大会となりました。非常に充実した2日間だったと思いますが、皆様、いかがでしたでしょうか。
大会の実行委員の先生方のおかげで、つつがなくこの2日間を終えることができました。分科会もポスターセッションの運営も、たくさんの参加者の方がいらっしゃったにもかかわらず、本当にスムーズに進行していただくことができました。今ここで、この大会を運営してくださった先生方に、感謝の拍手を送るというのはいかがでしょうか(拍手)。
今回、北は北海道から南は沖縄まで、全国の先生方がこの会場に集まってくださいました。高校だけでなく、大学、高等専門学校(以下、高専)の先生方、教育委員会の皆様、企業展示に参加してくださった企業の皆様方のおかげで、盛況のうちに開催することができたのは、大きな喜びとなりました。皆様、本当にありがとうございました。
発表・交流を専門性の向上につなげる様々な取り組み
この全国大会については、「発表・交流を専門性の向上につなげる」という視点で、これまで様々な場でご紹介してきました。
私が拝見したどの分科会でも、質疑応答では必ず何人もの方の手が挙がって、積極的に意見交換がなされていて、とても素晴らしかったと思います。
大事なのは、ここで発表されたこと、あるいは発表を聞いたり、質問されたりして感じたことを、ご自身の「専門性の向上につなげる」ことです。今日お帰りになったらすぐ2学期以降の授業計画を作って、その中であれもやってみよう、これを試してみよう、ということを授業の中で試行錯誤していただき、その結果を今度は年末の神奈川県情報部会の実践事例報告会等の場でぜひ発表してください。
神奈川県の実践事例報告会は、現在2022年実施の報告会のサイト(※1)が公開されていますが、毎年年末に開催され、全国どこの先生でも、自由に肩ひじ張らず報告できます。そういった機会をぜひ捉えて、ご自身の専門性の向上につなげていただければと思います。
※1 https://sites.google.com/view/johobukai2022/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0
東京都情報教育研究会(都高情研)も、「都高情研チャンネル(※2)」というページを開設していて、会員が視聴することができます。私が参加したときには、司会の先生とゲストの先生が、授業の振り返りや、生成AIの研究授業などについて緩くトークをされていましたが、振り返っておしまいでなく、次はどう改善するか、ということについても議論されていました。オンラインで視聴できるのもありがたいですね。
他の県の皆さんにも、ぜひこういった機会を作っていただきたいと思います。交流して刺激し合って、それぞれが専門性を高めていくのは、情報科全体としてとても大事なことであると思います。
コンテストとしてご紹介しているのは、「中高生情報学研究コンテスト」(※3)です。こちらは、情報処理学会の研究者の先生がたが、中学生・高校生による研究の成果を、研究者の視点で本気で評価しています。今年度からは、地方大会も始まります。これを目指して、情報科の授業や探究活動でより発展的な活動が広がっていくことを期待しています。
※3 https://www.ipsj.or.jp/event/event_chukousei.html
「データビジネス創造コンテスト」(※4: 慶應義塾大学SFC研究所主催)は、では、学生が実際の企業のデータを分析して、新たな価値を提案していきます。クライアントの企業の方々も真剣に聞いてくださるので、おのずと一生懸命成果をまとめることになります。「データの活用」で、実データをどのように入手してどんな分析をしたらよいか、お悩みの先生は、このコンテストに参加してみてはいかがでしょうか。
※4 https://dmc-lab.sfc.keio.ac.jp/v3/?page_id=431
もう一つ、これは今回のスライドから追加しましたが、「パテントコンテスト/デザイン・パテント・コンテスト」(※5: 工業所有権情報・研修館(INPIT)主催)は、高校生、高専生や大学生等が自ら考え出した発明・デザインのうち優秀なものを表彰するコンテストで、発明やデザインを形にすることの楽しさを知るとともに、コンテストの出願支援で取得した特許権・意匠権の実用化を通して、知的財産権制度への理解を促すことを目指しています。
ここでは、新たな価値を創るクリエーター側の立場から、知的財産権の実際のあり方を学ぶことができます。応募の事前学習用の動画教材や、弁理士による事前セミナーなどの受講もできます。
※5 https://www.inpit.go.jp/patecon/
さらに、意欲的な生徒は、国立情報学研究所の「情報科学の達人」(※6)のプログラムを受講して、情報オリンピックにチャレンジすることもできるかと思います。
最後の「NAIST STELLAプログラム」(※7)は、奈良先端科学技術大学院大学の若手研究者や大学院生がメンターとなって、科学技術に興味のある高校生・高専生に、データサイエンスやプログラミングなどを指導し、探究・研究の姿勢を学ぶ、というものです。
※6 https://www.nii.ac.jp/tatsujin/
※7 https://sites.google.com/view/naist-stella/
授業だけでは飽き足らない生徒を、こういった場に参加させて専門の先生がたの中で揉まれたり新たな発見をしたりといった機会を設けてあげることで、授業だけに閉じることなく、様々なところとの関わりが生まれます。さらに、生徒が学ぶことで、先生方ご自身も様々な知見を身に付けられるというメリットもあると思います。
第16回大会を振り返る
さて、全国大会は今回で第16回となります。私が最後にフルで参加したのは、第6回の京都大会でした。この2年後に指導主事になったので、この時が全高情研では教員生活最後の発表でした。
来年は第17回大会が、どこで・どのような形で行われることになるのかは、この後の閉会行事で発表されると思いますので、その発表された地でまたお目にかかれたらと思っています。
今年も予稿集をオンラインで入手できるようにしていただきました。会場では現金のやり取りもないですし、大会が終わった後でも買える点は、今でも「すごい!」と思います。
全国大会が始まった頃は、自分で資料を印刷して、会場へ持って行きましたので、その頃から見たら、まさに隔世の感があります。技術の活用という点においても、全高情研は、模範的な取組をなさっていると思います。
今回の発表件数がこちらです。びっくりしたのが、高専の先生が2件とありますが、分科会で発表者の方が「私は、先生ではなく学生です」とおっしゃったことです。司会の方が「こんなに大勢の方の前で発表されるのは、まさに先生ですよね」とおっしゃいまして、ここにも学生とは書いてありません。
高等学校以外にも、大学や高専など、高等教育機関の先生方のご発表が増えました。しかも、大学の先生のご発表の中には、複数の大学がグループで発表されているものもあり、そのうちの1件は発表者の中に高校の先生も入っていました。まさに学会のようなクオリティの研究成果を、この全高情研の場で発表してくださって、しかもわかり易く説明してくださっていました。
私もポスター発表でいろいろ質問してお教えいただきましたが、「大学の先生から見た高等学校情報科」について教えていただくのは本当に貴重な機会で、大変勉強になりました。この大会自体が高等学校の先生方だけの会にとどまらなくなったこともありますが、高等教育の先生方からのバックアップをここまでいただけるようになったということには、感慨深いものを感じている次第です。
このように、中学校・高等学校の取り組みの共有のみならず、大学の先生方からのご知見頂戴し、様々な観点から情報の現状について検討することができました。結果的に、中等教育・高等教育の両方の先生方のコミュニケーションの場ができ、これまでより一層実りある内容になったのではないかと感じています。
こちらは、昨年12月の中教審答申の「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について(答申)」の概要です。
この中で、教員資格認定試験の拡大として、高校「情報」の実施がうたわれています(赤 下線部分)。
※クリックすると拡大します。
※クリックすると拡大します。
そして、こちらが先日7月28日に文部科学省から各都道府県等自治体に発出された事務連絡です。「高等学校(情報)教員資格認定試験の再開」ということで、スライド右のようなスケジュールで試験が行われることが決まりました。
その受験資格として、「本試験を受けることができる者は、(…中略…)高等学校を卒業した者、その他、大学(…中略…)に入学する資格を有する者で、別に文部科学大臣が定める資格を有するものとする」と書かれています。
つまり、高校卒業でも受験資格があるということ。さらに、「文部科学大臣が定める資格を有する者」というのは、左下に小さく書かれていますが、「今後『令和6年度高等学校教員資格認定試験実施要項』を策定し、その中で、『応用情報技術者試験合格者又はそれと同等以上の能力を有すると認められる者』と定める予定」とあります。
このような国家資格をお持ちの方は、この教員資格認定試験に合格すれば情報の教員免許を授与できることになります。
ここ最近、専門学科情報科の生徒は、応用情報技術者試験の合格者がおります。ですから、もし生徒がその気になってこの試験を受験したら、高卒段階で情報科教員のライセンスを得る、いうことがあるかもしれませんし、今日ご発表いただいた高専の学生の皆さんも該当資格を持っておられれば、高校の教員免許を得られる可能性が広がるわけです。
最終的には、情報科の先生がもっと増えればよいと思いますが、こういった制度ができましたので、学生の方々にもぜひ、ということでお知らせしておきます。
※クリックすると拡大します。
「生徒が主語の教育課程」を着実に形にした授業実践
さて、今大会に話を戻します。現在の学習指導要領を着実に実施する上では、生徒を主語とした形で実現を目指すことが重要です。
今回の先生方の発表は、「生徒が何ができるようになるか」とか「生徒がどのように学ぶか」という観点での発表が非常に多かったと思います。
生徒の学びの成果だけでなく、生徒が学んだプロセスの中でこういったことをした、とか、生徒がどのような力が身に付いたと自覚していたか、といったところまで触れていただいた発表が多く、「生徒が主語」ということを踏まえて学習指導要領が着実に実施されていることを、大いに実感しました。
今大会、私が共感した具体的な点がこちらです。上の方に挙げたのが、生徒の反応や、資質・能力の育成というところまで触れていただいたもの。
あとは、いわゆる知識・技能偏重と言われていたところから改善されている様子や、問題解決をベースに情報の授業を展開していくという意思の表れですね。
特に探究的な学習活動として、「データの活用」を取り上げてくださった先生が非常に多く、これは本当にほっとしたところです。
「ほっとした」というのは、「『データの活用』は教えるのが難しい」「演習で使うデータをどこから手に入れたらよいのか、わからない」といった声を頂戴している中で、実践事例をたくさんご提供いただけて安堵したということです。そして、それが予稿集として冊子にまとまっていることは非常に心強く、さらにいつでもオンラインで買えるようになっているのは、大きな成果だと思います。
教科等横断的な学習活動の充実の視点では、「情報Ⅰ」と「総合的な探究の時間」との連携についてお話しくださった先生方がたくさんいらっしゃいました。また、情報セキュリティ演習についての発表がありましたが、これはピンポイントかつ非常に実践的で、企業の研修じゃないか、と思ったほどです。実際にサイバー攻撃をする、もしくはそれから守るプロセスを体験しながら、セキュリティについて体験的に学べるというのは、本当に素晴らしい取り組みであると思いました。
CBTの取り組みをご報告いただいた先生方、ありがとうございました。国もさまざまなテストをCBTで行う動きがある中で、最新のご知見や取り組みを共有していただいたのは、非常にありがたいことでした。
そして、「情報Ⅱ」について言及してくださった先生方、心から感謝しています。先生方から、「情報Ⅱ」の授業について共有してくださることにとどまらず、また、「『情報Ⅱ』まで学べるようにしなきゃダメですよ」と主張してくださったのは、本当にありがたかったです。
文部科学省としても、今年は「情報Ⅱ」を推進する年としており、昨年「情報I」で作ったような、生徒が使っても先生が使ってもよい、何なら授業中にそのまま流してもよい動画の「情報Ⅱ」バージョンを今年作ります。
文科省としても、先生方が「情報Ⅱ」の授業をしていただくに当たって、なるべく不安が解消できるような形を考えていますが、それよりも現場の先生が実際に「始めました」と言ってくださることが非常に嬉しく、励みになりました。
また、「情報Ⅱ」の履修状況をつぶさに明らかにしてくださった先生、ありがとうございました。これは私にとっても非常に参考になりましたし、「情報Ⅱ」がこれから広がっていくに当たって、まだまだ伸びしろがあるということをデータで確認できたのは、非常に大きなことであると思います。
そして、専門教科情報科の良さを共有してくださった先生もいらっしゃいました。専門教科情報科は、なかなか実施する学校数が少なく、学科としての情報科を設置している学校と、あとは専門教科情報科の系列を置く総合学科が主だと思いますので、共通教科の視点からはなかなか気付けない教科の内容や魅力を共有していただけたのは、全国大会だからこそ、と思います。
他にもまだまだ取り上げたいキーワードが多々ありますが、「生徒が主語」ということがここまで浸透しているということ、そして「問題解決」が様々な形の実践となって報告されたとことは、教科調査官として本当に感激しているところです。発表してくださった先生方に改めて厚く御礼申し上げます。
大学入学共通テスト、学習指導要領の改訂の新たなサイクル開始…今はまさに情報科の正念場!
ここから、今日の本題に入ります。
文部科学省の立場からすると、今年は非常に重要な年で、共通教科「情報」で言えば、昨年始まった「情報I」は2年目の「着実な実施」、さらに「情報Ⅱ」がスタートしました。
「情報Ⅱ」の採択件数が1万3000冊弱、つまり今年「情報Ⅱ」を実施したのが全体の約1.3%という数字が一部で報じられていたことは承知しておりますが、今年「情報Ⅱ」を実施したのは高校2年生で、来年高校3年生に「情報Ⅱ」を設定する学校もありますから、来年履修する人はもっと増えると思います。
そして、来年度は今大会のテーマにもある大学入試、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)が実施されます。今回も、分科会発表でもポスター発表でも、大学入試がテーマの発表には、多くの先生方が集まっていらっしゃいました。「どのように対応していくか」というところが知りたいという先生方が多かったのだろうと思います。
私は教育課程の調査官なので、教育課程について申しますと、実は、学習指導要領の改訂の新たなサイクルが、すぐそこまで来ているかもしれないです。「かもしれない」というのは、私自身も正確な日を知らないからです。
ご参考までに、現在の学習指導要領の改訂のキックオフとして中教審の諮問が行われたのは、2014年11月20日でした。諮問が行われるのが9年サイクルなのか10年なのかというのは、教科調査官の中でも誰も知らないです。
そして、前回答申が出たのが2016年の12月21日だったので、仮に10年サイクルと考えても、今年から来年、来年から再来年にかけては、忙しくなるかもしれない。そのようなときが迫っているのではないかと思っています。
今回、優れた研究や実践の成果を共有してくださったことは大変ありがたいというのは、お世辞でも何でもありません。
今年、「学習指導要領実施状況予備調査」が行われ、来年にこの本調査が行われます。これは、昨年スタートした現行の学習指導要領が、どのような形で実施されているかを調査するものです。共通教科の評価はペーパーテストと質問紙、専門教科の評価は質問紙調査を行う予定です。
そうしたこともあって、「情報技術を活用して問題の発見・解決を行う学習活動を通して」学ぶ「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」が、学習指導要領に基づいて適切に実施されていることが確認できたのは、私にとっては大きな喜びですし、この結果が実施状況調査で実際に見取ることができ、「次」につなげていけたらと思っています。
ですので、こういった取り組みをぜひ続けていかれて、授業改善によって生徒がいきいきと学べるように、先生がたのお力添えをお願いしたいと思います。
探究的な学習活動が不可欠であることの意味
こちらは、学習指導要領の全体構造です。もう皆さんはよくご存じなので詳しく説明はしませんが、「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」のの頭には「生徒が」が付いて、「生徒が何ができるようになるか」「生徒が何を学ぶか」「生徒がどのように学ぶか」ということで、生徒が主語になります。
教育課程の実施という視点で捉えれば、今のような話になりますが、「生徒が何ができるようになるか」という視点で言えば、「学びを人生や社会に生かそうとする『学びに向かう力・人間性等』の涵養」「生きて働く『知識・技能』の習得」「未知の状況にも対応できる『思考力・判断力・表現力』」を身に付ける、いうことになり、これらをバランスよく育成してください、というのが学習指導要領の趣旨となります。
こういった観点で資質・能力を身に付けさせるためには、共通教科情報科の学習指導要領で示している通り、探究的な学習活動を充実させることが近道であると思います。
ですから、「どのように学ぶか」というところでは、「『主体的・対話的で深い学び』の視点からの学習過程の改善」をうたっています。これまでも、共通教科情報科ではこの部分が重要であり、それが実現できれば、資質・能力の3つの柱のバランスのよい育成が実現されていくと説明してきましたが、それが今回の大会で、実際に様々な形で実現されていることが共有されたと思います。
※クリックすると拡大します。
こちらは、令和5年度の科学技術・イノベーション白書の表紙です。Society5.0の新しい社会において、様々な分野や業種でイノベーティブな活動が起こり、その結果スタートアップ企業が多数立ち上がっている様子が描かれています。
※クリックすると拡大します。
こういったスタートアップで、新たな価値を実現させていくところでは、情報技術を活用することとの関連が深くなります。そして、新たな価値を創造するということは、資質・能力の3つの柱で再整理された情報活用能力における「学びに向かう力・人間性等」のところで、「情報社会に主体的に参画し、その発展に寄与する態度」と示されている点と関連が深いようにも感じます。
特に、専門学科情報科の生徒の中には、勉学に取り組んだ結果起業したい、という人が出てくるかもしれません。情報科の学びとイノベーションの関連の深さを考えると、「問題解決」を通して新たな価値を創っていくことに取り組んだ結果、どんな未来がやって来るのか、本当にわくわくします。
※クリックすると拡大します。
実は日本の生徒は、国際調査で見ると、「自分で国や社会を変えられる」と思う人の割合が低いことが分かっています。しかし、今私が申し上げたような問題解決や探究的な学びを通して、自分で問題解決ができる、何か役に立つ提案ができる、物事を筋道立てて遂行できるということについて自信を持つことができれば、この数値は上がっていくはずです。
※クリックすると拡大します。
生徒が自己肯定感を持って様々な課題解決にチャレンジしていく姿勢を育てることに対して、情報科の果たす役割は大きいと思います。
「高等学校教育の在り方ワーキンググループ」でも、探究的な学びやSTEAM教育、文理横断的な学びを推進して、生徒が意欲的に、文系・理系の枠にはまらない学びを深めることの実現に向けて、何ができるかということが議論されています。
※クリックすると拡大します。
1人1台端末、生成AI、CBT…どんどん進む教育DX
また、先ほどイノベーションの話をしましたが、学校に一番身近なイノベーションである1人1台端末の導入で、学校の教育活動がどのような変わったか、を学校種ごとに紹介するビデオを、GIGA StuDX推進チームが制作して、公開しています。
1人1台端末自体が学校を変えているわけではなく、GIGAスクール構想で校内のインターネット環境が整備され、そこに1人1台端末が入ったことで、デジタルベースの活動ができるようになり、それがどのような効果をもたらすのか、どんな変容をもたらしたのかいうことです。
その中では、機材を配備するだけでなく、校長先生がリーダーシップを働かせることがとても大切であることや、「自分の授業では一方通行だけは避けたい」といった先生の想いを正直ベースに語っていただいています。
また、1人1台端末を使って学ぶ生徒からは、「自分だけではなくて相手の考えている過程を知ることができる」とか「先生や友達の話を聞いて改めて考え直したり、自己調整を働かせたりすることができるようになった」など、端末の活用によって学びの姿勢事態が変化したことも語られています。
いずれも20分程度で見ることができますので、ぜひご覧になって、生徒が、先生方が、学校がどのように変わっていくかを知って、実際に行動を起こしていただきたいと思います。
新しいことに取り組むのは、しんどいと感じることがあるかもしれませんが、「これをすれば学校はもっと良くなる」というところに注目して、仕掛けていく視点が必要ではないかと思います。
※クリックすると拡大します。
政府のAI戦略2022にも、デジタル人材の育成のために、「全ての高等学校卒業生が、『数理・データサイエンス・AI』の基礎となる理数素養や基本的情報知識を習得」するという目標が明記されています。この流れが、大学入学共通テストに「情報1」が入ることのきっかけになったわけです。
※クリックすると拡大します。
そして、今話題の生成AIの利用について、今年7月に「初中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」が公表されました。
このガイドラインは、ここにも書いてある通り、原時点で生成AIの活用の適否を判断する際の参考資料として、暫定的に取りまとめたものであって、一律に禁止や義務付けを行う性質ものものではない、というものですが、基本的には、AIを活用したら、学習活動がどのように変わっていくか、という視点で、活用をするという方向でまとめられています。
「生成AIを使っても使わなくてもよい」とは言いますが、生成AIを活用しないという選択肢は多分ない、避けて通っていてもいずれ向き合わざるを得ないという、それだけ大きな社会的なインパクトを与えているものですから、使う方向で参考にされるのが良いと思います。
これを情報科としてどう捉えるかということですが、情報活用能力を育成するという視点で考えれば、生成AIは情報技術を活用して、問題を発見・解決するものであるので、これが一体どういうもので、どのような仕組みで動いているのか。例えば機械学習とは何なのか、ニューラルネットワークというのはどのようなものなのか、どんな性質があるからどのように使ったら効果的なのかということを、生徒自ら考えるということがあってよいと思います。
※クリックすると拡大します。
この中に「パイロット的な取組(一部の学校が対象)」として、「保護者の十分な理解の下、生成AIを取り巻く懸念やリストに十分な対策を講じることかできる学校において、透明性を確保してパイロット的に取り組みを推進し、知見の蓄積を進めることが必要」とされています。
具体的な段階として、「生成AI自体を学ぶ段階」「使い方を学ぶ段階」「各教科等の学びにおいて積極的に用いる段階」「日常使いする段階」と様々な段階を示していますが、基本的に自分の学習の問題解決のためにどのように使うのか、という視点で紹介されています。
そして、8月初めに、リーディングDXスクール事業追加公募として、生成AIパイロット校の募集が開始されました(※8)。国の指定校として、生成AIの活用の試行をする学校を募集する、ということになりました。
※8 https://leadingdxschool.mext.go.jp/files/2023/08/file_ldx_230803_02-1.pdf
※クリックすると拡大します。
リーディングDXスクール事業(※9)自体は、1人1台端末の普段使いを通して、学習のあり方や校務がどのように変わったか、という事例を集めて横展開していく、というものですが、その中で「生成AIを学校で活用して、その事例を作ってください」というのがパイロット校です。
公募の締め切りが8月31日で、公立の中学校・高等学校を対象に20校募集します。
※9 https://leadingdxschool.mext.go.jp/
リーディングDXスクール事業は、株式会社内田洋行様が受託している事業ですので、自治体は内田洋行様と契約する形になります。配布される予算枠は1校あたり100万円ですので、これを自治体でどのように経理処理するか、ということについても確認が必要です。
ですので、希望される学校の先生は、校長先生とともに、教育委員会にも相談しながら進めていただくのがよいと思います(現在は〆切済み)。
リーディングDXスクール事業は、今年の指定校は小中学校が中心で、高等学校の指定校は3校だけでしたが、今回の生成AIの追加募集は、中高で20校ということになりました。DXという視点でICTを活用していく実践校に入りましたので、お知らせします。
このように、文部科学省は1人1台端末を導入しただけでなく、そこからどんどんDXに向かって使うためのノウハウの蓄積に向けて動いています。
※クリックすると拡大します。
こちらは、PISA2025の予備調査の協力校募集の案内です(8月31日締切り)。こちらはCBTで行います。
国際調査なので、日本のテストとは視点が全く異なる出題も予想されますが、CBTで試行錯誤させる問題とはどんなものか、生徒はどのように取り組むのか、このような取組の協力校となることで、分かることがあるかもしれません。
※クリックすると拡大します。
こちらは今年6月16日に閣議決定された、令和5年度から令和9年度の教育振興基本計画の概要資料です。これから各自治体が教育施策を検討する上でも、影響力が大きいものでます。
※クリックすると拡大します。
情報科に関係のありそうなところに赤線を引いてみました。これから国の政策、そして、皆さんの自治体の教育施策の中で、情報教育がどのような形で計画され、実行されていくのか、ということに関わることとして、ぜひご覧になっていただきたいと思います。
また、GIGAスクール構想は、すでに「教育DXの推進」に位置付けられておりますので、今後も続いていくことが分かります。
※クリックすると拡大します。
そして、今後5年間の教育政策の目標と基本政策の一番初めと2番目に記載されている項目が、、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」と「新しい時代に求められる資質・能力を育む学習指導要領の実施」ですので、この2点を踏まえて学習指導要領を着実に実施していくことが重要と思います。
※クリックすると拡大します。
評価はランキングではなく「見取り、育て上げる」ために
共通教科「情報」は、学習指導要領の柱書きに「情報技術を活用して問題の発見・解決を行う学習活動を通して、問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用し、情報社会に主体的に参画するための資質・能力を育成する」ことを目指す、と書かれている通り、問題解決を通して学ぶ教科です。
今回の大会の実践事例を見て、これが着実に実施されているのは、たいへんありがたいところです。ぜひこれを続けていただきたいと思います。
評価については、生徒が情報技術を活用した問題解決活動をすることを前提として、観点別評価をすることになります。
このうち、「主体的に学習に取り組む態度」については、ご質問をたくさんいただきますが、共通教科情報科の評価の観点及びその趣旨として、「情報社会との関わりについて考えながら、問題の発見・解決に向けて主体的に情報と情報技術を活用し、自ら評価し改善しようとしている」とあります。つまり、授業の中に「自ら評価し改善しようとするような学習の場面」を意図的に設定し、生徒の取組を見取ることが、「主体的に学習に取り組む態度」を評価するために必要ということになります。
つまり、授業の中で探究的な学習活動を行えば、生徒は問題解決をしますし、自分の解決案をより良くしようとします。知識のインプットが足りないと思ったら、自己調整を働かせるなどしてもっとインプットしようとするでしょう。このように、おのずと「主体的な学習に取り組む態度」が現れることになり、評価できるようになります。生徒に自己調整を働かせてどのように取組を改善しようとしているのか、ということなどを振り返りとして記録してもらうようにするといった工夫も考えられます。
共通教科「情報」で育成を目指す資質・能力は、生徒が問題解決を行うことや、探究的な学習活動の充実を通して身に付けられ、その評価ができることを今一度確認していただきたいと思います。
学習指導要領で、共通教科「情報」で探究的な学習活動の充実を図ることについて言及しているのが、こちらのスライドです。
「情報Ⅱ」には、「創造的」という言葉が入りました。生徒のクリエーションを育てるということが目標となっています。ですから、「(5)情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究」という内容が入っています。ここをぜひ活用して、生徒が楽しみながら充実感をもって学べるよう実施していただければと思います。
専門教科情報科は、「実践的・体験的な学習活動を行うことなどを通して」とあるように、より職業的な、プロの仕事に近い学習活動を行って、資質・能力を育てていくことになります。
実践的・体験的な学習活動となると、「プロはどのような視点で仕事をするのか」という視点も入ることになります。そこでもやはり創造、新しい価値を創っていくということが、専門教科情報科だからこそ求められることになります。
専門教科情報科も共通教科情報科も、問題解決をして、新たな価値を創っていく、提案していくという視点では同じですが、専門教科は、より専門的な視点から問題解決を行うという視点でのご指導をお願いします。
ただ、いつも申し上げているように、専門的というのは、決して教え込むとか、やらせるとか、そういったことではないということは、改めて申し添えておきます。
学習評価については、文部科学省は、観点別評価がしっかり行われることを期待しています。学習評価の基本的な流れがこちらです。
学習指導要領に示された教科の目標と「評価の観点及びその趣旨」の対応関係を踏まえた上で、科目の目標に対する「評価の観点の趣旨」を作成し、さらに「内容のまとまりごとの評価基準」を作成します。
※10 「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(共通教科「情報」)
具体的な単元の学習評価の進め方がこちらです。
今回の分科会発表で、「観点別評価『C』は敗北だ」と言われた先生がいらっしゃいましたか、まさにその通りだと思います。
何が敗北かと言いますと、「学習評価に関する参考資料」の中で、「B」は「おおむね満足できる」状況で、「C」は「努力を要する」状況です。そして、「『C』であれば、『B』に引き上げるための手だてを考えたりすること」とされています。
てすから、生徒が「C」になりそうだ、と思ったとき、先生は「B」と評価できるように生徒を支援することが必要です。最終的に「C」にならざるを得ないということは、「B」の水準まで育てる指導ができなかったことになります。
※クリックすると拡大します。
この評価を実現するためには、これまでのようにランキングして5から1の「点を付ける」という視点ではなく、「育て上げる」という視点が非常に重要であると思います。
「評価は順位付けではない」ということはこれまでずっと申し上げていますが、相対評価から「育てる」という視点で評価を見直すチャンスであると思います。
力が身に付いたことを見取る、もしくは身に付けさせるように育てることが大切であることはこれからも何度も繰り返して申し上げますが、この学習評価自体が、学校の教育活動の質を保証することになるということは、こちらのスライドに書いてあるとおりです。
先生方の支援のための事例集や解説動画、研修を準備
こちらは、各自治体の指導主事の先生に、「情報I」の学習指導と評価の事例をまとめていただいたものです(※11)。
ここに挙げたような様々な事例が挙げられています。
これらは、ポンチ絵形式で説明があり、最後のページには指導主事の先生によるお褒めのコメントも付いています。これは、指導主事の先生に「ぜひ褒めてください」とお願いして、書いていただいたものですので、ぜひこのお褒めのコメントまでご覧ください。本当に、褒めるというのは大事なことです。
※11 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01833.html
文科省では、今年も情報科のオンライン学習会(※12)を開催しています。8月7日には都立立川高校の佐藤義弘先生に講師をお願いして第2回を実施しました。こちらは全10回予定で開催してますので、ぜひご参加ください。
「情報1」の授業動画(※13)もたくさん作りました。授業の中でそのまま流していただいてもけっこうですし、先生の教材研究や、生徒の自習など、どのようにも使っていただける作りになっています。
※13 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01832.html
※クリックすると拡大します。
また、先ほどご紹介した学習会については、去年の学習会の動画とスライドがアーカイブに掲載されています(※14)。こちらもぜひご覧ください。
※14 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_02154.html
解説動画の中で紹介している「問題解決」の例がこちらです。一言で「問題解決」と言っても、いろいろな形がありますが、この動画では「デザイン思考」と「共感マップ」を組み合わせてコンテンツを制作する手順がまとめられています。
※クリックすると拡大します。
今年度は、「情報Ⅱ」の解説動画も制作する予定です。コミュニケーションとコンテンツの動画では、コンテンツの制作→発信→分析→改善まで示せるようにしたいと思います。
※クリックすると拡大します。
プログラミングは、「情報Ⅰ」の解説動画ではただプログラムを書いて実行するということではなく、データを取って分析して評価するところまで扱っています。
「情報Ⅱ」の動画では、情報システムを作るという視点まで含めたものを作っていきます。
※クリックすると拡大します。
データの活用については、身近な事例を実際のデータを使いながら、PPDCAサイクルに則って分析を進める方法報を解説していただきました。
「情報Ⅱ」では、重回帰分析や主成分分析、ニューラルネットワーク等、様々な方法論を使いながら、データを深堀りできるようになることが大事です。こちらも動画ができましたら、ぜひご覧ください。
※クリックすると拡大します。
情報科教員向けの研修として、今年も情報処理学会がオンデマンド研修(※15)という形で実施してくださいます。
※15 https://www.ipsj.or.jp/annai/committee/education/KENSHU2023.html
※クリックすると拡大します。
NHK・Eテレの高校講座も始まりました。すでに全20回のうち、やく半分が放映されています。
20分の枠の中で、各回で扱う知識を活用して問題解決するという視点で編集していただいています。私も、協力させていただいておりますが、良いコンテンツですので、ご覧いただければと思います。
※クリックすると拡大します。
※クリックすると拡大します。
今回、教育委員会のご参加も多数いらっしゃいますが、各都道府県で研修をされるにあたっては、このような視点で研修していただきたい、というお願いがこちらです。いずれも情報教育の充実にとっては大切なことばかりですので、ぜひよろしくお願いします。
研究開発学校の取り組みがこちらです。昨日の堀田先生の基調講演で紹介された春日井市の学校は、この研究開発学校です。この学校では、小学校や中学校で「情報」の授業が可能か、ということにチャレンジしていただいています。
この取組でチャレンジされた成果についても、注目したいと思います。
国立教育政策研究所の教育課程実践検証協力校事業のうち、「E-assessmentに関するもの」A枠というのは、自分の学校でMEXCBTでのCBT問題を開発して、生徒に解いてもらう、ということで、現在都立高校1校が指定されています。これも、国のCBTに関する大きな流れの中での実施ということになります。
情報入試については、文科省から6月に「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱」が公表され、大学入試センターからは令和7年度の大学入学共通テストについての情報が更新されていますので、こちらもご確認ください。
特に情報科については、旧課程科目で「ご留意いただきたいこと」として、注意事項(※16)が挙げられています。こちらをご覧になって、生徒さんに遺漏なくご指導いただきますよう、お願いいたします。
※16 https://www.dnc.ac.jp/hspersons/R7_highschool_siryo.html
特に、専門学科の科目や代替科目が、「社会と情報」「情報の科学」、あるいは「情報Ⅰ」にしっかり対応しているということは、学校としてご説明いただきたいところであると思います。
※クリックすると拡大します。
授業改善を続けて、全国の先生方と事例の共有を!
最後に、来年に向けて。
これは毎回同じスライドですが、継続して取り組んでいただくことこそが大切であると思います。
新たな取り組み、継続して改善された取り組み、実直な取り組み等など、こういった視点で取り組んで来られた成果を、また来年、全国大会の場で共有していただきたい。来年は学習指導要領の「より良い実施」という視点で、しっかり実施されていることを示していただけたら、これほど嬉しいことはないと思います。
また、他の研究会等での発表でも同様ですが、このような視点で授業改善してくださった成果を全国で共有して、先生方同士で高め合っていただければと思います。
また来年、この後事務局から発表される会場で、お会いできることを楽しみにしております。ありがとうございました。
第16回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会)講評・講演より