大学入試を中心とした情報分野の学力評価手法の検討シンポジウム2023
グループ4 評価手法の妥当性の検証
放送大学 辰己丈夫先生
グループ4の目標:他のグループが作成したものが実際に使えるかを模試で検証する
われわれのグループは、評価手法の妥当性の検証を行っていきます。申請書には、「開発した評価手法を基に問題セット作成し」「高校、大学、予備校などの協力を仰いで」「模擬試験実施することによって」「その妥当性を検討する」ということが書かれています。
具体的に言えば、「他グループが作ったものを、実際に使えるかどうかを検証する」というのがグループ4の使命です。
評価手法の妥当性の検証に当たって
妥当性の検証にあたって、判断基準として必要な項目としては、まず高校の情報科の学習目標を見る必要があります。
現行の学習指導要領は、高校では2022年から実施されています。次が2032年になるかということは、まだわかりません。そもそも学習指導要領というもの自体がそこまであるのかということも、含めて考えていかなければなりません。
いずれにしても、中等教育全体の位置付けに則って出題することになります。
一方、大学の出題可能性の現実的追求、つまり大学が現実に「情報」を出題するかどうかという点については、受験生募集の観点、入学後の教育体制・制度の観点、さらに告知や試行、実施、評価といった入試に関連する業務についても検討する必要があります。
高校情報科の学習目標に関する課題~様々な関係者との調整が必要
各項目をさらに深掘りしてみましょう。先ほどお話ししたように、高校の学習指導要領は、ほぼ10年おきに改訂していますが、このスケジュールが今後共続くのかどうは、まだわかりません。
現行の学習指導要領がスタートしたのが2022年です。ここで情報科に置かれている「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の趣旨に合った学習をしてきた受験生を選抜するというのが、現在一番やりたいことです。
ただ、大学入学者選抜という点では、総合型選抜や自己推薦などによるものもあり、必ずしも試験だけで選抜するわけではありません。
また、「中等教育全体の位置付けに沿った出題」とありますが、実はこれにはさまざまな利害関係者との調整が必要になります。
というのも、実践的研究に関して言えば、政策も関係します。「そもそも教育学で入試をどのように捉えているのか」という観点で教育学の人の話を聞かなければならない。それから、「学校というものをどう捉えているのか」ということを学校教育学の人に聞かなければならないでしょう。それから、当然、情報教育の研究者にも意見を聞く必要があります。
行政等という意味では、高校教員(「行政等」で括った中に入れてしまいましたが、とりあえず、ということでご了承ください)、校長先生や教頭先生といった管理職、教育委員会等にもうかがう必要があります。私立学校では理事会も利害関係者になります。
さらに、大学の卒業生を受け入れる企業等の採用のことも考えることになりますが、今回に関して言えば、大学入試で情報を入れる云々について、4年後卒業に送り出す先の求めることは、あまり考えなくてよいかと思いますので、最後の部分はほぼ不要かと思います。
大学の出題可能性の現実的な追求~本来情報入試はアドミッションポリシーとして評価されるべき
次に先ほどのスライドの下半分、「大学での出題可能性の現実的な追求」について考えたいと思います。
まず、大学設置・学校法人審議会(いわゆる文科省設置審)というものがあり、大学を新しく設立したり、学部を新設したりする、あるいは学部の定員を増やすといったときは、必ずここにお伺いを立てます。
そして、文科省が「いいですよ」と言えば作ることができますし、「ダメ」と言われたら出し直しとなります。ですから、ここで大学がどのように動くかというところもポイントです。
それから、認証評価制度というものがあります。これは既に動いている大学の質保証のために、認証評価機関(※1)という、文部科学大臣が中央教育審議会への諮問を経て認証を与えた機関に、大学自身が評価を依頼するものです。そして、各機関が調査した結果、この大学はこの点が優れていた、ここは改善すべきだといったことを認証評価として出すのが、認証評価制度です。
また、アクレディテーション(※2)やJABEE(日本技術者教育認定機構:※3)のようなプログラムやカリキュラムの認証評価もあります。JABEEには情報処理学会も協力もしています。
※2 https://niadqe.jp/glossary/5352/
※3 https://jabee.org/about_jabee
ここに挙げた大学の評価機関の観点には、おそらく今のところ、情報入試の実施ということは評価観点として入っていないと想定されます。
大学を評価するには、スライドの上の方に書かれている「ディプロマポリシー」「カリキュラムポリシー」「アドミッションポリシー」の3つのポリシーがあります。情報入試の実施は、特に入学者選抜、受験生募集に関わるアドミッションポリシーに効いてくることになります。
言い換えれば、各大学がどのような卒業生を送り出したいか、ということはディプロマポリシーで決まりますが、送り出したい学生を育てるためには、どのような授業をしていくかということでカリキュラムポリシーが作られ、そのカリキュラムポリシーに合った授業をするためには、少なくともこういった力を持つ受験生に来てもらわなければ困るということで、アドミッションポリシーが作られるわけです。
本当は、アドミッションポリシーには情報入試が関係しなければならないはずですが、現状はあまり重視されていません。この辺りは、また今後数年で変わっていくだろうと考えられます。
大学側に、この情報入試で評価・選抜された学生に対するカリキュラムが準備されていれば、カリキュラムポリシー上の円滑な高大接続に寄与できることになります。
情報入試で入学した学生にどのような教育をするか、というとき、例えばある情報系専門学科で、受験生全員が現在の「情報Ⅰ」を必須受験として、しかもそのレベルがかなり高いとなると、入学してきた学生の1年生の授業では、現在行っている内容よりさらに進んだことができることになります。
一方で、情報系専門学科以外の様々な学部・学科では、入学後に一般情報教育を行います。こういった大学、あるいは学部・学科でも、入試で「情報」を評価するならば、例えば、共通テストの配点で100点満点の「情報Ⅰ」を100%で見るか、30%(=得点×0.3)とするかによって、入学してくる学生のレベルが変わるので、 それを前提としたカリキュラムが作ることが可能になります。これに対して、「本学は共通テストも、個別試験も『情報』は関係ありません」などと言っていると、大学として世の中の流れについていけなくなってしまうのではないかと危惧します。
妥当性の検証のために検討しなければならない「大学での出題可能性の現実的な追及」は、こういったことになります。
大学から高校生へのアプローチは入試以外にも
大学入試以外の、大学から高校へのアプローチの例としては、電気通信大学の「高大連携・基礎プログラミング」(※4)があります。
※4 http://www.kodai.uec.ac.jp/
これは、大学1年次の必修の理数基礎科目である「基礎プログラミングおよび演習」の内容をそのままe-ラーニングで高校生に提供するものです。こちらは修了すると単位も与えられ、入試の際には総合型選抜や学校推薦の志望理由書にも使えるということです。
他に、大学から高校へのアプローチとしては、早稲田大学が附属校の早稲田高等学院に対して、早期履修制度で大学のグローバルエデュケーションセンターの設置科目を履修させる(※5)というものがあります。これは、今のところ情報学に絞ったものではありません。
また、信州大学には長野県内の高校生を対象に、科目の先取り履修ができる、という制度(※6)があります。これも情報分野だけではありません。
このように、大学から高校へのアプローチは入試だけではありませんが、やはり私たちとしては、入試に関係してどのようなことができるか、ということを考えていきたいと思っています。
※5 https://www.waseda.jp/school/shs/education/affiliation/
※6 https://www.shinshu-u.ac.jp/education/highschool/
情報入試の実施にあたって必要になることは…
次に、大学の学内の問題です。
「情報入試をやりましょう」ということになったら、やらなければいけないことはこちらのスライドに挙げただけあります。
まず入試での他教科の出題委員との調整。作題の予算化、委員会の編成、作題作業。採点、受験生評価、場合によっては入学後の追跡として、情報入試で入ってきた学生が、その後学年を追ってどのように成長していくかを追跡する、ということもあります。これは、個人情報の関係で難しいところもありますが、うまく匿名化できれば、統計的なデータが取れるのではないかと思います。
また、実際に情報入試をするとなったら、その宣伝が必要です。受験生に告知してサンプル問題による試行さらに実施した後は結果を評価・分析して、情報入試を実施してこんなことがよかった、あるいはここはこうするべきだった、という報告書が出てくると思われます。
2024年2月・3月に模擬試験を実施 ~2026年以降の情報入試実施の参考に
ここまでの内容を踏まえると、最初にお話ししたように、グループ4の目標は評価手法の妥当性の検証ですが、具体的に言えば、「開発した評価手法を基に問題セットを作成し」というのは、要するに「良い問題セットを作ります」ということですね。
次の「大学・高校・予備校などの協力を仰いで」は、要は「組織を作れるかどうか検討します」ということ。「模擬試験実施することによって」は「実際に模擬試験をやります」。そして、「その妥当性を検証する」が、「私たちがその試行を評価する」ということになります。
ここからが実は大事なところで、模擬試験の実施計画として、現在のところ考えているのがこちらです。
2024年2月・3月のうち数週間程度で、IBT(Internet Based Test)、インターネットを使ったCBTで模擬試験を行おうとしています。
ここまでお話ししたように、グループ1では典型的な問題作成、グループ2ではIRTを考える/考えない、グループ3ではCBTでどのように実施するか、など、それぞれ研究を進めています。その成果を受けて、実際に高校の先生方に募集をかけて、その先生方からご自分の生徒に受験していていただくということをお願いしたいと考えています。そこで得られたデータを基にして、来年度以降のこの研究の評価に役立てようとしております。
現時点では、2025年の各大学の入学者選抜の内容はほぼ決まっている状況です。従って、今回来年の2月・3月に模試を行ってその結果がこうでしたと言われても、それが直接、2025年の大学入試には影響するわけではありません。
しかし、今回2025年は情報入試を見送った大学や、共通テストを配点ゼロにした大学も、2026年、2027年といった辺りで、だんだん変わってくるかもしれません。そういったところにいい影響が与えられるような評価ができるのではないかと考えています。ぜひとも模擬試験にご参加くださいますよう、お願いいたします。