情報処理学会 高校教科「情報」シンポジウム2023秋(ジョーシン2023)

高等学校情報科について

国立教育政策研究所 田崎丈晴先生

今日は事務局からは「高等学校情報科について話してほしい」という依頼がありました。今回のシンポジウムのテーマの中に、「次期改訂」というものがキーワードとしてありますが、現時点で「次の改訂はどうなる」という話はできませんので、学習指導要領の今次改訂の流れを、スピード重視でこの10年を振り返ってみようと思います。

 

 

初めに現在の情報科についてざっと復習しておきます。共通教科「情報Ⅰ」がとりわけ話題になっていますが、「情報Ⅰ」は必履修科目です。これは、社会で生きていくために最低限必要となる力を、共通して身に付ける科目として位置付けられています。

 

さらにもう1ステップ進んだことを学びたいという方のために、選択科目の「情報Ⅱ」が設定されている。これが共通教科の構造です。

 

一方、専門教科情報科は、主として専門学科において学ぶもので、ご覧のような科目があります。「情報産業と社会」は、「情報Ⅰ」の代替を想定している科目です。

 

職業に関する専門学科は工業科、商業科や情報科を含めて8学科ありますが、ここでは実態として「情報Ⅰ」をそのまま学ぶというよりは、その教科の中で設定している情報に関する科目の履修を以て「情報Ⅰ」を代替するということがほとんどかと思います。

 

ただ専門教科情報科は25単位あるので、例えば「情報Ⅰ」の「コミュニケーションと情報デザイン」で学ぶことをさらに専門的に深くした形で、「情報デザイン」として1年間かけてたっぷり学ぶことができます。専門学科情報科の先生は、情報技術に関するひとつひとつのテーマを通年で指導するため、高い専門性が求められます。一方で、共通教科情報科は、さまざまなテーマを幅広く網羅して指導するということになります。

 

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学習指導要領改訂のタイムテーブル

昨年から「情報I」が、今年は「情報Ⅱ」が始まりました。来年はいよいよ大学入学共通テストが行われます。

 

一方、教育課程関係では、次の学習指導要領改訂の準備が始まっています。今年は学習指導要領実施状況調査の予備調査、来年は本調査です。その結果を次の改訂に生かしていくというところです。

 

スライドの下の方に、現行課程の改訂の流れを参考として挙げました。2014年11月20日に、文部科学大臣から中教審に対して、次の教育課程の諮問がありました。

 

10年に1回の改訂であれば、来年諮問が来るかもしれません。もし9年に1回のサイクルであれば今年、11年に1回であれば再来年となりますが、そもそも改訂のサイクルが特に決まったパターンがありませんので、このあたりの動向につきましては、私も高い関心をもちながら仕事をしているという状況です。

 

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さて、中教審の諮問が行われてからの改訂のスケジュールがこちらです。

 

平成26年11月20日に諮問、翌27年8月26日に論点整理、28年8月26日に審議まとめ。28年12月21日に答申。そして高校は30年3月31日に改訂と、結構長い時間かけて議論され、まとめられた上で改訂されていることがわかります。

 

しかし、この間に情報技術がどのくらい進むのか、ということを考えると、時代にフィットした教育課程の基準を考えるのは大変だろうなと思います。今は他人事のように申していますが、自分がこういったことをするのだろうなという覚悟を、そろそろ持ち始めているというところです。

 

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平成26年の文部科学大臣の諮問がこちらです。

 

「何を教えるか」だけでなく、「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」ということ、あるいは「アクティブ・ラーニング」の充実といった全体的な話がここに書かれ、現行の学習指導要領に反映されています。

 

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教科の科目の見直しについては、例えば小学校の英語や、日本史の必修化、今から振り返れば、高校社会科の「公共」や、「理数探究」のことを指しているであろうことなどについて、この諮問の中に含まれています。そして、この諮問からコンピテンシーベースの教育の原型ができていることになります。

 

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まず全体的な論点整理をしてから各教科へ

ここまでお話ししたことが諮問された上で、平成26年12月4日の教育課程部会で、教育課程企画特別部会が設置されることが了承され、平成27年1月29日に第1回の企画特別部会が開催されました。

 

検討体制は、スライド右の図の通りです。この中の教育課程企画特別部会で改訂の全体の方向性を決めます。

 

ですから、いきなり各教科の内容について考えるのでなく、まず全体的なところで論点整理をして、それが各教科に下りることになります。私自身は今次回の改訂には関わっておりませんので、こちらは、公開されている資料をもとにお話ししていることをご了承ください。

 

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平成27年5月の教育課程企画特別部会では、教科科目の現状についての、検討資料が共有されています。高校の情報科だけでなく、小中高の情報教育全体、そして情報活用能力など、全体的なことも含めて検討されていたことがわかります。

 

情報科目が成り立つまでの歴史や背景情報、当時の「社会の情報」「情報の科学」の2科目になった背景やポイントが整理されています。

 

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その中で、プログラミングや情報セキュリティの重要性が指摘されています。一方で履修率は、「社会の情報」が8割、「情報の科学」が2割しかない。一方で、世界を見ると、小中高でこれだけ情報教育をやっていますよ、という研究成果もまとめられていて、特に小学校でプログラミング教育が広く行われているということが示されています。 

 

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そして、情報科目の今後のあり方として「情報の科学的な理解に裏打ちされた情報活用能力」を身に付けることが必要であるから、必履修科目として、今で言うところの「情報Ⅰ」を設定しようではないかというイメージがまとめられています。

 

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小中高で身に付ける情報活用能力についてもご覧のように整理され、当時からクラウドも含めたICT環境の整理が必要であることも示されました。

 

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平成27年8月5日には、論点整理のイメージ(たたき台)が示されました。

 

高校の情報科では、小中高の各教科を通じた情報活用能力の育成について、3つの柱に沿って明確化すること。情報科においては、特に「情報の科学的な理解」に裏打ちされた情報活用能力を身に付けるために、統計的な手法の活用を含め、「情報と情報技術を問題の発見と解決に活用する科学的な考え方等を育成する」ための、共通必修履修科目の設定を検討することとすることが、たたき台として示されたということです。この段階で「情報Ⅰ」の原型が見えているような気がします。

 

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こちらがそのポンチ絵になります。真ん中に横の矢印で、「高度情報社会に対応する情報教育」が必要であることが強調されている形です。

 

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さらにこれが、8月20日に論点整理(案)として更新されました。8月5日のたたき台から変わった点としては、真ん中辺りに「プログラミングや情報セキュリティをはじめとする、云々」という形で、セキュリティの話も加わりました。

 

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そして8月26日に論点整理として、教育課程企画特別部会で共有されました。

 

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教科別ワーキンググループで具体的な教科内容を固めていく

この報告を受けて、教科別のワーキンググループが設置されました。

 

情報ワーキンググループは、共通教科「情報」のみならず小中高の情報教育と情報活用において、包括して検討が行われました。専門教科情報科は、産業教育の一つなので、産業教育ワーキンググループの中に設けられた教科別の部会(非公開)で検討されました。

 

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そしていよいよ平成28年度、答申が近づいてきました。

 

平成28年4月の教育課程企画特別部会の記録を見ると、この時点までに情報ワーキンググループは6回の検討を行っています。

 

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ここでは、小中高を通じた情報活用能力の育成について、情報科の改善の方向、ICTの環境整理の話が扱われていました。

 

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さらに、小中高を通じた情報教育と、高校の情報科の位置付けのイメージが整理されました。

 

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高校の情報科については、現在の教科「情報」の目標に設定されている「情報技術を活用した問題解決の力」、つまり資質・能力を整理して、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性等」の3つの柱でどのような力を身に付けるかを整理しました。

 

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また、情報活用能力を、資質・能力の3つの柱とともに、情報教育の3観点8要素(※1)と合わせて再整理する、ということも行われています。

 

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※1 編集部にて追加スライド

「教育の情報化に関する手引」(令和元年12月)pp20より

 

さらに、情報科としての「見方・考え方」も整理されました。当時「見方・考え方」は、「社会、産業、生活、自然等の種々の事象を、情報とその結び付きとして把握し、見通しを持った試行錯誤と評価・改善とを重ねながら、問題の発見・解決に向けた情報技術の適切かつ効果的な活用を探究する」という整理がされていました。ここからさらにブラッシュアップされて、現行の学習指導要領の記述になっていくわけです。

 

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情報科におけるアクティブ・ラーニングのイメージも、整理されました。

 

情報技術を活用して、問題の発見・解決する学習活動を通して、現在の共通教科情報科の目標の柱書きに書かれている「探究的な学び」をベースに整理されていたことがわかります。

 

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さらに、「問題解決のプロセスの例」を示して、「こういったプロセスで学んでいけば、情報や情報技術を活用しながら、問題を発見・解決することができる」という流れを明らかにしました。

 

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当時、情報科の新科目のイメージ(案)として「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」(仮称)が出ていますが、現在とほとんど変わらない内容です。

 

「情報Ⅰ」が(5)までありますが、当時の検討としては、「モデル化とシミュレーション」は「コンピュータとプログラミング」と別の構成だったのだということが分かりますね。

 

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情報ワーキンググループは、第8回まで実施されました。論点整理を受けて、「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の内容について、先ほどのポンチ絵を基にして明文化されています。

 

同時に、観点別評価をどのような視点で行うか、どういった趣旨で評価するのかということも整理されています。

 

ですから、「主体的に学習に取り組む態度」を評価するというのは、いつも申し上げているのですが、生徒が問題解決をするということを前提とした授業の中で、「知識・技能」も、「思考・判断・表現」も全て関連させながら、学びに向かうとする姿をどのように見守るかということです。この段階では、かなり最終的な形で出されています。

 

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平成28年6月の教育課程企画特別部会で、「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について」の、議論の取りまとめが出ました。

 

小学校のプログラミング教育については、別途3回の会議が持たれた結果ですが、これが共有されて、小学校の学習指導要領にプログラミング教育が位置付けられることになったのかなと思います。

 

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そして、平成28年8月1日には、次期学習指導要領に向けた審議まとめの素案が共有されました。

その中で、資質・能力の3つの柱と情報活用能力が再整理され、ICT活用の環境の整備の必要性についても言及されました。

 

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情報科における見方・考え方は、「事象を情報とその結び付きとして捉え、問題の発見・解決に向けた情報技術の適切かつ効果的な活用(プログラミング、モデル化とシミュレーション、情報デザイン等)について考える」という形に整理されました。

 

資質・能力の3つの柱では、「思考力・判断力・表現力」が増強されています。そして、8月19日に審議まとめの案が共有され、情報活用能力の資質・能力の3つの柱で再整理された形で、3観点8要素と共に、こちらの資料でまとめられました。

 

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この審議まとめは、パブリックコメント(パブコメ)にかけられました。そこで様々なご意見をいただいて、それらを反映させた形で答申の案ができました。

 

さらに改訂の際にもう1回パブコメを行いました。つまり、今次改訂では、2回のパブコメを行ったことになります。

 

このような経過を経て、学習指導要領が改訂され、現在に至ります。

 

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学習の基盤である資質・能力としての情報活用能力を、教科横断的に育成する

学習指導要領の前文は、小中高で共通して同じようなことが書かれていますが、「一人一人の生徒が自分の良さや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら、様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる」という理念が示されています。

 

新しい教育振興基本計画にも、この理念が掲げられています。つまり、こういったことを念頭に置いて、教育活動に取り組みましょう、ということです。

 

特に総則では、学習の基盤としての資質・能力として情報活用能力が位置付けられ、それが教科横断的な取り組みで育成されるべしとされています。

 

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学習指導要領における共通教科情報科の目標は、ここまで申し上げたような、「問題の発見・解決を行う学習活動を通して」ということが、明文化されています。また、専門教科情報科は、「実践的・体験的な学習活動を行うことを通して」と書かれていますが、両方とも問題解決志向の改訂であることには違いはありません。

 

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小学校からの学習の積み上げという点では、プログラミングは小学校の総則には「体験、論理的思考力」という形で、算数と理科には、「(例)」という形で位置付けられました。

 

中学校は技術・家庭の技術分野の「(D)情報技術」に位置付けられています。そういったことを踏まえて、「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の学びがあるということです。

 

 

データの活用はさらにきめ細かく、小学校の算数、中学校の数学の各年次の内容を積み上げた形の改訂が図られています。そういったことを踏まえて、「情報Ⅰ」のデータの活用、「情報Ⅱ」のデータサイエンスの学びがあるということです。

 

 

文部科学省では、情報科が円滑に実施されるために様々な調査や、支援のための情報・教材の提供を進めています。ぜひこの辺りをご活用いただきたいと考えています。

 

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[質疑応答]

Q.高校教員

例えば数学や統計であれば、「小学校1年のときはこれをやって、2年生では…」といったことが、継続的に具体的に示されていますが、情報科はどうもぼんやりしているように思います。もう少しブレークダウンして、具体的に示すことはできないのでしょうか。

 

A.田崎先生

ご質問いただきましたことへの直接的な回答はできませんが、現在、文部科学省では研究開発学校という取り組みを行っています。その中で、小中学校の9年間で「情報の時間」という教育課程の研究開発が進められています。その研究成果にも注目しております。具体的な指定校など詳しくは文部科学省のウェブサイトをご覧ください。