情報処理学会 高校教科「情報」シンポジウム2023秋(ジョーシン2023)

パネルディスカッション「高校情報科のこれから、でなくて、いま、どうするAIリテラシー」

コーディネータ:萩谷 昌己先生(東京大学)

パネリスト:堀田 龍也先生(東北大学/東京学芸大学)

      田﨑 丈晴先生(国立教育政策研究所)

      稲垣 俊介先生(東京都立神代高等学校)

 

AIリテラシーとは何か~「個人が批判的にAI技術を評価する能力のセット」という考え方から

萩谷先生

本日は、高校・大学の先生方に多数お集まりいただいているので、このシンポジウムのテーマである高校の情報教育にも影響を与えている生成AIについて考えざるを得ないのではないか、と思います。

 

技術の進歩が非常に激しく、次期学習指導要領が出て来るのを待っているわけにはいかないので、今回のパネルのテーマを『これから、でなくて、いま、どうするAIリテラシー』とさせていただきました。

 

参加者の方から、AIリテラシーについて今回の登壇者全員に対して、まさにこの方向の質問をいただいています。

 

「今後も生成型AIのような新技術が出てくると思われます。このような新技術を高校の情報科へ取り入れていく上で、大切になることは何だとお考えですか。特に、情報通信技術における普遍性という観点からお話をうかがいたいです。

 上記のような技術の発展の速度と、学習指導要領の改訂のペースに差があると思います。この点を補っていくのか、補う必要がないのか、パネリストの皆さんの私見で構いませんので、うかがいたいです」。

 

これは、まさに私が思っていたことと同じことです。

 

ここからは、最初に10分くらいずつ、パネリストの皆様から講演の順番で一人ずつお話をうかがいます。その後、いわゆるパネルディスカッションという形で、お互いに質問し合ったり、フロアやオンラインで御参加の方から質問をいただいたりしながら、議論を進めていきたいと思います。

 

その前に私の方から、「AIリテラシーとは何か」ということで、お話をさせていただきます。

 

今年9月に私の属している、Beyond AI研究推進機構で、Northwestern 大学のワークショップがありました。そこでDuri Longという方がAIリテラシーのお話をされました。今回のテーマにぴったりなので、ご参照します。

 

『What is AI literacy? Competencies and Design Considerations』は、ACM(Association for Computing Machinery)の2020年のCHI(Human-Computer Interaction)の出ている論文です。

 

AIリテラシーに標準があるわけではなく、これは一つの考え方です。この論文では、AIリテラシーとは「個人が批判的にAI技術を評価する能力のセット」であるとして、AIとコミュニケーションを取りながら効果的に共同作業を行ったり、AIをオンラインツールとして家庭および仕事で活用したりする能力のことを指している、と言っています。

 

さらに、具体的に17のコンピテンシーと、AIシステムに対する15のdesign considerationsを示しています。

 

この17のコンピテンシーには結構深い内容があり、高校でというよりも、さらに大学教育も含めて身に付けるべきリテラシーという位置付けであると思います。

 

 

17のコンピテンシーをざっくり見ていきます。

 

まず『What is AI?』ということで、AIがどこで使われているか。知能とは何か(AIを含めて)。AIの多様な技術ということで、具体的に知識工学と機械学習とロボットが挙げられています。そして強いAIと弱いAI、ということが挙げられています。

 

こういったことに関して、例えば高校の「情報Ⅰ」で教えようとすると、学習指導要領で言えば「(1)情報社会の問題解決」で、身の回りのAIを取り上げて議論することが可能ではないかと思います。ただ、技術の背景がないと議論を深められないかもしれません。

 

次の『What can AI do?』では、AIの強みと弱み、AIの応用の構想と社会への影響といったことを挙げています。「情報I」での扱いは、先ほどと同じですね。

 

 

『How does AI work?』では、先ほど言ったように、知識工学、機械学習、そしてロボットに関して、かなり詳細な内容を挙げています。

 

これらは、さすがに「情報Ⅰ」ではなかなか難しい。例えば、情報デザインやデータベースが関係するかもしれませんが、「情報I」ではここまでの内容はほとんど扱われていないと思います。

 

さらに、機械学習のステップと各ステップの課題、機械学習における人間の役割、データ・リテラシー、データからの学習、批判的なデータの解釈、といったことがコンピテンシーとして挙げられています。これらの一部は、「情報Ⅰ」の「(4)データの活用」で学びますが、高校レベルの学びでは不十分だと思います。

 

「情報Ⅱ」では、「データからの学習」について多少扱っています。ロボティクスでは、アクションとリアクション、センサーといったことが取り上げられていますが、これは、「情報I」よりも、むしろ中学校の技術・家庭科の内容になるのではないかと思います。

 

 

『How should AI be used?』は、倫理の問題です。「情報Ⅰ」の「(1)情報社会の問題解決」で扱われている内容に関係しますが、それほど十分ではないと思います。

 

そして最後に『How do people perceive AI?』という項目があって、そこでプログラム可能性、要するに「AIというのは、人間がちゃんとプログラムすることができる、ということを教えるべきだよ」というコンピテンシーが入っています。

 

これは、プログラム可能性の理解が重要であって、プログラミング自体は重要ではない、ということですね。ですから、この部分に関しては、「情報Ⅰ」でも十分にカバーされているのではないかと思います。

 

 

ということで、AIリテラシーは、海外ではこのような捉え方をしているという例を参考までにご紹介させていただきました。

 

それでは各パネリストの方々からご意見をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 

高校生は生成AIをどのように見ている?使っている?

稲垣先生

『いま、どうするAIリテラシー』というテーマなので、まさに「いま」をご紹介するために、本校の高校1年生に、アンケートを採ってきました。本校がどのような状況かというところも踏まえてお話ししたいと思います。

 

本校は、ほぼ9割の生徒が大学進学する、中堅クラスの学校です。文系か理系かを聞いてみると、比較的文系志望が多いです。

 

 

彼らに「普段、生成AIを利用しますか」と聞いてみますと、6割の生徒は全く使用したことがない、という回答でした。一方で、「頻繁に活用する」「時々利用する」と答える生徒も2割くらいいます。

 

 

「生成AIのサービスのうち、利用経験があるものを全て選択してください」と聞いてみました。

 

すると、ChatGPTなどのテキスト生成系AIを使ったことがある生徒が299名中108名。画像生成系AIは52名でしたが、動画生成や音声生成を使っている人は少ない、という状況でした。また、全く利用したことがない、と答えた生徒が約56%でした。

 

 

「生成AIのアルゴリズム(しくみ)について知っていますか」という問いに対しては、「よく知っている」を選んだ生徒が、少数ですがおりましたが、ほとんどが「あまり知らない」「知らない、興味がない」という回答でした。

 

 

また、「生成AIが良い出力を出せるような質問の仕方を知っていますか」という、実用的な使い方に関しては、多くの生徒が「知らない」と言っていますが、「よく知っている」という生徒も7人います。この7人は、よく使っているのかもしれません。つまり、ほとんどの生徒が知らない中で、少し詳しい生徒が混じっているという状況かなと思います。

 

 

「生成AIのリスクについて認識していますか」ということについて尋ねてみると、7割が「リスクは認識していない」という状況です。

 

 

一方、「将来のAIに対する印象を教えてください」という質問ですが、これが少し興味深く、8割弱の生徒は、「将来のAIに対して期待をしている」と答えています。

 

「まだ使ったこともないのに…」と思われるかもしれませんが、生徒達はいろいろなところで言われていることを聞いて、期待する気持ちはあるのだな、と感じました。

 

 

これは全ての高校生の意見ではなく、あくまで本校の生徒の意見です。それを踏まえて、私なりにAIリテラシーの育成について考えてみました。

 

先ほど萩谷先生がお話ししてくださった定義を存じ上げなかったので、そこに合わせて考えることはできていないことはご了承ください。

 

私は、AIリテラシーというより、「AIの使い方」で考えてみましたが、そうするとやはり情報モラルの考え方が大切だろうと思います。

 

 

学習指導要領の総則には、「情報の収集、判断、処理、発信などの情報を活用する各場面での情報モラルについて学習させることが重要」「将来の新たな機器、サービス、あるいは危険の出現にも適切に対応できるようにすることが重要」と書かれています。

 

つまり、この「将来の新たな機器やサービス、あるいは危険の出現にも適切に対応」というのは、まさに今回の生成AIのような新しいサービスのことを指しているのだろうと思います。

 

しかし、「適切に対応できるようにすること」と言われても、ではどうしたらよいのか、ということはなかなか難しいので、学校では「段階的に高めるように使わせていくこと」が求められるのだと思います。

 

すぐにぱっと対応できる、というレベルのものではないからこそ、例えば生成AIについて学ぶ段階があり、次に使い方を学ぶ段階、さらに各教科の学びにおいて積極的に用いる段階、その上で日常的に使っていく段階がある、といったステップ感ですね。

 

私自身も、まさしくそれが良いと思っておりますし。また、せっかくAIに興味があるとは言ってくれているからこそ、ちょっとずつ触れさせていきたいと考えています。

 

現行の学習指導要領で、AIをどこまでカバーできるか

田﨑先生

先ほど萩谷先生から「学習指導要領はAIの流れに乗っていない」とご指摘いただいてしまいました。ご指摘を受け止めつつ、今の学習指導要領の「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の枠の中で、今何ができるのか、ということを短時間で触れてみたいと思います。

 

まず、文部科学省の動きの中で、私が注目しているのは、先ほどの水野先生、堀田先生のお話の中にもあったAI戦略です。

 

AI戦略は2019年に立ち上がり、文部科学省だけでなく省庁を超えて取り組んでいるものです。

 

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その中で、およそ年間100万人の全ての高校卒業生がデータサイエンス・AIの基礎となる技術の素養や基本的な情報知識を習得するという目標が設定されていて、そこで共通教科「情報Ⅰ」の指導力向上が位置付けられています。

 

現在は「AI戦略会議」となって、先ほど萩谷先生が言及されたように、生成AIをどう使っていくのかということが、省庁を超えて議論されています。

 

既に高等教育では、数理・データサイエンス・AI教育のカリキュラム化が急速に進んでいます。2021年にスタートした「デジタル田園都市国家構想実現会議」の中でも、デジタル人材の育成が目標として重要であるということになっています。

 

それを受けて、大学ではデータサイエンス系の学部などがたくさん設置されているなど、変容しています。小中高校では、先ほど申し上げた「数理・データサイエンス・AIの基礎的リテラシー習得」ということで、まずは学習指導要領を着実に実施することやSTEAM教育の充実、そして高大接続の観点で、「情報Ⅰ」が共通テストの教科として導入されたと理解しています。

 

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大学の数理・データサイエンス・AI教育のカリキュラムについて、見てみました。

 

こちらは数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアムのサイトに掲載されているモデルカリキュラムです。左側がリテラシーレベル、右側が応用基礎レベルとなっています。

 

リテラシーレベルは「導入」「基礎」「心得」「選択」に分かれて、「選択」にはテキスト解析や、画像解析なども入っています。

 

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「導入」では、「社会におけるデータ・AIの利活用」について扱います。

 

これは講義だけでよいらしいのですが、その中で最適化の話についても触れることになっています。

 

講義だけ、とは言っても「情報I」や「情報Ⅱ」で学ぶこともあり、そうでもない、心もとないところはありますね。このように、「導入」とは言っても、高校の情報科で対応できているところと、ちょっと心配なところが混在している状況です。

 

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また、日本学術会議の情報学委員会で整理していただいた「情報教育課程の設計指針」の中で、最適化については、「モデル化とシミュレーション」で、統計や人工知能は「データの扱い」のところで触れられています。これは令和2年に出されたものです。

 

学習指導要領が告示されたのは、平成30年3月で、数理・データサイエンス・AIの動きも、この情報教育課程の設計指針も、学習指導要領が改訂された後の話なのです。ですから、次の学習指導要領を考える際には、こういったことや現在の動向を踏まえて考えていく必要があると思います。

 

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生成AIのガイドラインについては、後ほど堀田先生からお話があると思いますので省略しますが、パイロット的な取り組みを行うリーディングDX事業のパイロット校を公募しました。こちらはすでに募集を締め切っています。

 

生成AIを学習の場面や校務で活用することで、学習や校務が変わる事例を創出してくださいという事業ですが、全国で小中高合わせて53校が指定校になりました。

 

これらの学校で得られた事例から、今後授業や校務で生成AIをどう活用していくのかということが、取り組みとして進められているという状況にあります。

 

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GIGAスクール構想について、これは令和6年の概算要求の資料ですが、スライド中央の一番右の辺りには、「生成AIを活用した校務・授業の実践研究」という言葉がうたわれています。この案が成立すれば、進められること、ということになります。

 

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生成AIの利用に関するオンライン研修会も、既に5回行っています。アーカイブがありますので、ご興味がありましたら、文科省のサイト(※1)でご視聴ください。

 

※1 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_02476.html

 

 

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さて、学習指導要領です。

 

先ほどの私の話でも少し触れましたが、学習指導要領の本文には、AIについての具体的な記述はありません。

 

学習指導要領の解説では触れられています。解説では「人工知能」や「機械学習」といった学びがどの辺りで想定されているのかが示されているという扱いなので、「全ての学校でこれをやるべし」ということではありません。

 

「情報Ⅰ」の「(1)情報社会の問題の解決」では、人工知能や、人工知能を巡って情報社会に寄与するために情報と情報技術を適切に活用できる力、望ましい情報社会の在り方について考える力、とつながって、人工知能やロボットなどの情報技術の補助を受けたときに人に求められる仕事がどのように変わるかを考える云々ということで、情報社会における人工知能と自分との関わりということについて示されています。

 

また、「(3)コンピュータとプログラミング」では、人工知能などの既存のライブラリを組み込んだプログラミングが想定されています。

 

「情報Ⅱ」の「(1)情報社会の進展と情報技術」は、「情報Ⅰ」の(1)と似ていますが、人工知能の機能や性能の向上や、自分と社会の関わりといったことを学びます。

 

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「情報Ⅱ」の「(3)情報とデータサイエンス」を、「人工知能」だけでなく、「機械学習」「回帰、分類、クラスタリング」といったキーワードで見ていくと、学習指導要領解説では、こういったものを活用した予測、訓練データを処理して所望の結果を得る方法といったことを勉強していくということが想定されています。

 

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さらに、「(5)情報と情報技術を利用した問題発見・解決の探究」は、「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」で学んだことを総動員して、問題解決に取り組むという内容ですが、そこでも、解説の部分で、機械学習などの外部プログラムを活用することや、人工知能の発達による社会や生活の変化について多角的に検討することが想定されています。

 

例えば、「ChatGPTが登場しました。それは、情報システムから見るとどのようなシステムなのか。何でも、『ニューラルネットワーク』というものがバックにあるらしいが、ニューラルネットワークとは何なのか。機械学習というものの一つらしいが、機械学習とは何なのか」ということを学ぶのが「情報Ⅱ」ですから、生成AIをどう活用しているのかという視点とともに、AIの仕組みに迫っていくことも学習に含まれることになります。

 

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学習指導要領は平成30年時点でまとめられたものですが、その中でもここまではできますということは、今お伝えしたとおりです。ということは、生成AIの活用で、工夫できることはもっとあるということです。

 

今回、文科省では生成AI利用のパイロット校を募集しましたが、これは情報科で募集したのではなく、どの教科で活用してもよい、という形になっております。ですから、「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」含め、あらゆる分野で、生成AIを活用した学びができるのであればどんどん進めていただけることになっています。

 

共通教科情報科は、情報技術を活用して問題の発見・解決を行い、学習活動を通して学ぶ科目ですから、生成AIを情報技術の一つと捉えて、そういったものを活用して情報科の学びが充実するのであれば、積極的に活用してください。

 

情報技術の革新が世の中に影響を与えるという話題には事欠きませんが、先生方には、そういった時代に学ぶことができる良さを最大限に生かしていただきたいと思います。

 

 

情報活用能力を育てるツールとしてAIとどのように向き合うか

堀田先生

テーマが「高校情報科のこれから」でなくて、「いま、どうするAIリテラシー」に変わっていて、ちょっとびっくりしております(笑)。「いま、どうするAIリテラシー」というのは、「直近のことをちゃんと考えましょう」という萩谷先生のお考えだと思います。

 

実は先日、東大でこのようなシンポジウムがありまして、萩谷先生と同席させていただきました。

  

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そこで私がパネリストの一人として紹介した例が、東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹先生の授業です。

 

この先生は、ICT活用で非常に有名な方ですが、ChatGPTを用いた授業をされています。附属小学校ですから、そういった先進的な取り組みをする役割があるのですね。

 

この授業がNHKのニュースで紹介されました。もちろん、子ども達は今のところ年齢的に直接は使えないことになっているので、先生が子どもたちの前で使ってみせるという形です。

 

 

この授業は、4年生の国語の授業でしたが、子ども達が自分達で考えたことが大体、こういう感じかな、とまとまってきたところで、子ども達と話し合って、に「じゃあ、こういう質問にしてみようか」といった感じで質問を投げると、ChatGPTがかなり分かりやすく説明してくれます。

 

子ども達は、「すごいなAI、僕たちと同じだ!」という感じになって。憧れの表情でAIを見るわけです。

 

子ども達はすごさを経験するのですが、これは同時にちょっと怖い部分があります。子どもはモノにも人格を感じるので、例えばぬいぐるみのクマにぶつかると「クマさんがかわいそう」と言ったりしますよね。擬人化する、アミニズムのようなところがあります。この子達は4年生ですが、それでもAIに「どこの国の人ですか」などと聞いたりします。

 

これが技術であることが実感として分かるのは何歳からだろうというのは、難しい課題です。鈴木先生も、何年生でどのぐらいのことを経験させればよいのかは難しいことだ、とおっしゃっていたというのがニュースで報道されていたことです。

 

文部科学省は、7月4日に生成AIのガイドラインを提示しています。お読みになった方はおわかりと思いますが、かなり玉虫色の書き方、つまり、現段階では安易に賛否は付けられないような感じになっています。

 

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まず、一番下に「暫定的なガイドライン」、右上に「機動的な改訂を想定」とわざわざ書いてあります。これは今、7月4日の段階でこうですよ、すぐ変わる可能性がありますよ、というものなのですね。

 

これは、社会の動きや、国民の認識などいろいろなことによって変わるということだと思います。

 

 

このガイドラインの一番大事なページがこちらです。ここにはいろいろなことが書かれていますので、一番上と一番下のところを、拡大してご説明します。

 

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一番上に基本的な考え方として書いてあるのは、まず、「学習指導要には、情報活用能力が大事であると位置付けています」ということです。

 

情報技術を、学習や日常生活で活用できるようにすること。これは、先ほど私がお話ししたように、GIGAスクール構想で、そういった活動をすることの重要性を強調しています。

 

このことを踏まえれば、新たな情報技術であって、多くの社会人が生産性の向上に活用している生成AIが、どのような仕組みで動いているかという理解や、どのように学びに生かしていくかという視点、あるいは近い将来使いこなすための力を意識的に育てていく姿勢が大事であるとされています。つまりこれは、無視とか禁止とかいう話ではなく、むしろ教育の内容であるということです。

 

 

このスライドの下の方、結論に近いところには、「現時点では、(国として)活用が有効な場面を検証しつつ、限定的な利用から始めることが適切である」と書かれています。

 

そのために、一部の学校でパイロット的な取り組みをするとして、リーディングDXスクールの中でAI活用のパイロット校を52校指定して、動き出したところです。パイロット校では、今後授業活動の中で活用して、今年度の末には成果報告会を行うことまで決まっています。

 

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このことは、前教科調査官の鹿野先生が頑張られた、高校情報科の学習指導要領の改訂のプロセスから言うと、現行の「情報Ⅰ」になる前、「情報の科学」と「社会と情報」の2科目からの選択必履修だった頃は、8割が「社会と情報」をやっていたことに対する国家的な危機感が大きく作用したと思います。

 

つまり、情報技術のことを理解できないような国民ではまずいのではないか。全ての高校生に、一定程度の情報技術に関する体験や理解が必要ではないか、ということで「情報Ⅰ」が作られることになり、それが必履修になったわけです。

 

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そういったことを考えると,先ほどの私の話とも関係しますが、情報活用能力を育てる学習体験の中で、何となく経験的に身に付くことと、やや専門的・体系的に教えなければならないことがあります。

 

スライドの水色の方が、専門的・体系的に教えるべきことです。今、高校の情報科でも行っていますが、中学をどうするかとか、小学校でもある程度は体系的に教えることが必要ではないか、といった議論があります。

 

ただ、既にカリキュラム・オーバーロードと言われているので、これ以上新しいものを入れていくことについては、たぶん、他教科から大反対されると思います。田﨑先生のこれからのお考えが大事になってくるかと思います。

 

 

最後にまとめです。

 

AIはさらに身近になり、サービスとして子どもも使うことができるようになります。現在は「何歳以下はダメ」ということになっていますが、例えば子ども用のサイトで夏休みの宿題の相談をする、というものがありました。これは実は後ろではChatGPTが動いていました。

 

このようにカプセル化してしまえば、いろいろなサービスとして、子どもでも利用できるようになると思います。そうなったとき、それがAIであるという技術の理解があってこその情報教育ということになると思います。

 

情報モラルについても、これまでのように「相手の気持ちを思いやる」というレベルではなくて、「技術の観点から考えて、それはやっちゃいけないでしょう」ということを考えるのが、「情報教育としての情報モラル」ということになるでしょう。技術理解を踏まえて、正と負の影響を常に推論するという思考が、様々な形で必要ではないかと思います。

 

一方で、使う経験ナシで生成AIを理解するというのは相当難しいことなので、使いながら学ぶことが必要です。その意味では、一定程度の活用というのは前提にするときが来るのではないかという期待を持っています。

 

次の学習指導要領が施行される頃には、生成AIが子どもにとっても身近なものになっているのではないかと思われます。

 

先ほど田﨑先生が紹介されましたが、現行の学習指導要領の作成時には、AI・人工知能という言葉は話題にはなりましたが、「ではどこからどこまでを人工知能と言うか」とか、「技術がどこまで発展するか分からない」といったことが決めきれなかったので、最終的に学習指導要領の本文の文言には入れなかったという経緯があります。

 

世の中の動きから見ると、おそらく次回の学習指導要領には入ると思いますが、一方で技術の進展は非常に速いので、どのように書くのか、というのは大きな課題になります。今回ご参加の方の中にも、学習指導要領を書くご担当になる方もいらっしゃると思いますが、そこはぜひご協力いただきたいと思います。

 

 

生成AIの仕組みの技術を、情報科はどのように教えていくか

萩谷先生

ありがとうございました。それでは、ここからはパネリストの皆さんに話し合っていただきます。

 

私から、1つ質問をさせていただきたいと思います。

 稲垣先生のお話にもあったように、少なくとも高校の現場では、まだまだ生成AIを活用するところには至っていないと思います。

 

ただ、田﨑先生のお話のように、生成AIのパイロット校の募集があったり、堀田先生のお話で実際に活用の事例をご報告いただいたように、次第に教育の現場にも入ってくることが予想されるようになっています。

 

ただ、3人の先生のお話を聞いたところでは、生成AIが本格的に入ってくるのは、どうも情報科ではなくて、他の教科の教材の中にどんどん入ってくるのが先ではないかと感じました。

 

そうやって、他教科から生成AIが入ってきて、学校全体としても、使うことがごく普通になっていく、という過程の中で、その仕組みはどうなっているか、ということは理解する必要があると思います。

 

私の質問は、生成AIの仕組みの技術がどうなっているか、いうことが問われるところに関して、現行の学習指導要領の「情報Ⅰ」で対応できるのか。あるいは、田﨑先生のご説明だと「情報Ⅱ」までいけば、ある程度応えられるのではないか、ということだったと思いますが、その辺りに関して、再度ご意見をいただけたらと思います。いかがでしょうか。

 

稲垣先生

「学習指導要領で」ではなくて、「学校で」という視点で申し上げますと、先ほど、他教科から入って来る、というお話がありましたが、私自身は、「段階的に使わせていくことが求められている」ということであれば、生成AI自体を学ぶこと、あるいはその使い方をある程度学ぶことは、情報科の役割としてあってよいのではないかと思います。

 

そして、そこから各教科の学びの中でいろいろと使っていき、いずれは日常使いをしていく、と流れが良いと考えていますので、私自身は、そのように使わせていくつもりです

 

ただ、世の中のサービスとしてはすでに始まっています。本校でも少し問題になったのは、英語のエッセーを書く課題で、生成AIを使える生徒が早速使ってみたわけです。使っただけならまだよかったのですが、それをそのままをコピーして、しかもわざわざ自分の手書きに直して、提出したのですね。

 

ただ、あまりに秀逸な文章で、またうまい言葉遣いだったので、ALTの方に読んでもらったら、「まるでネイティブのようなすてきな文章だ」ということになったのですね。それでさすがにちょっとおかしいじゃないか、という疑いが出たので、本人に聞いてみると、「生成AIで作成した文章をそのまま書きました」と素直に言っていたそうです。

 

だからこそ、こういった倫理の部分も含めて、生成AI自体や、その使い方を学ぶということは、ある程度、情報科の中で触れていくべきだったかなと思いました。

 

田﨑先生

「情報Ⅰ」のプログラミングの単元では、ライブラリを組み込んだプログラムを作る、という活動もあります。そこで生成AIの代表的モデルのAPIを取り入れて、自分の目的に合った応答するようなアプリを作るといったことは、「情報Ⅰ」の内容でも十分想定できると思います。

 

その結果、どのような価値を自分が提案したことになるのかといったことは、「情報Ⅰ」でも学べると思います。

 

例えば、私は原稿を書くときに結構生成AIを使います。GoogleのBardというサービスで、「Pythonで画像のRGBの各要素を取り出すには?」と尋ねると、やり方を教えてくれます。そして、教えてもらった方法でRGBの各要素が数値で取り出せた。ならばそれをRチャンネルの要素を使って画像化してみよう、ということで画像化すると、グレースケールに見える画像になります。

 

そこで、なぜグレースケールになったのか、赤色として見えるためにはどうしたらよいかということを考えることで、マルチメディアに関する学びが深まっていくわけです。

 

このように、生成AIの回答を基に自分で考えるという学習活動が有効ではないかと思います。

 

 

堀田先生

例えば、小学校の社会科で「宅配便はどうやって家まで届くのか」ということを学びます。これは、私たちの生活を支える産業を学ぶ中で、「運輸」と「情報」のクロスしたものとして学ぶわけですね。

子ども達は、宅配便が届くということを日常的に経験しています。その仕組みを改めて学ぶのが社会科で、これは生活経験が先にあることで学びが深まると考えるのがよいと思います。

 

先ほど、萩谷先生が「他の教科の方が先に使う」とおっしゃいましたが、他の教科の内容として入ってくるというよりも、「生成AIは、私たちの日常生活のいろいろな場面で使われるようになったけれど、どうして機械があんな賢いことをできてしまうんだろう」と改めて考えみることで、そこに技術があって、こういう仕組みになっているということを、きちんと学ぶのが情報科の役割だと私は考えています。

 

現行の学習指導要領には、これを題材として扱うかどうかは書いてありませんが、情報技術が私たちの社会を支えていることや、使い方によっては倫理的に不適切な場合があるというような、もう一段抽象的なところでは、既に入ってきている内容ではないかと思います。

 

つまり、題材としての生成AIは扱われていないけれど、哲学としては情報科という教科の理念に入っていると私は感じています。

 

 

生成AIを使うことが前提になったとき、現場で問題になってくることは…

 

萩谷先生

非常に完璧な形でまとめていただきまして、ありがとうございます。それでは、パネリスト同士でこれまでのご意見に関して、お互いに質問などありましたらお願いしたいですか、いかがでしょうか。

 

堀田先生

それでは、稲垣先生に質問です。

 

生徒が、生成AIに作ってもらったものを自分の答案として出すというのはわかりますが、そのまま提出したらバレるだろう、ということくらいはわかりそうなものですが、それを「先生はわからないだろう」と思ってしまうのは、いかにも浅はかですよね。その辺の駆け引きのようなことは、どうやって教えたらいいのかと考えてしまいました。

 

これは、大学生でもあることです。これは明らかにあなたが書いたものではないよねと言ったところで、「私が書きました」と言い続けたら、生成AIが書いたという証拠は簡単には見つけられません。

 

東北大学の教員向けのホームページ(※2)には、今年3月の段階で、生成AIの活用について、「生成AIで作ったものを多少修正して提出しても多分見破れないので、評価にあたっては、それが通用しない方法を取るよう、留意しなさい」ということが書かれています。

 

今後こういったことはけっこう起こってくると思いますか、そのときに、例えば「せっかく使ったのであれば、その技術を説明しなさい」という問いを付加するといった、情報科らしい学びに持っていくような工夫は考えられるのでしょうか。

 

※2 https://olg.cds.tohoku.ac.jp/forstaff/ai-tools

 

 

稲垣先生

ご質問ありがとうございます。見分けるのは非常に難しいと思いますし、実際に見破れないだろうと思います。

 

先ほど、田﨑先生が「仕事の中で使う」とおっしゃいましたが、それは田﨑先生の文章が100%生成AIか書いたものというわけではなく、ご自身のお考えや言葉と組み合わせて書き上げていかれているという意味であると思います。

 

これは、例えばちょっと前、私が教員になりたての頃、当時Yahoo!やGoogleといった検索エンジンが使えるようになって、教育現場では「こんな簡単に調べられていいのか。調べものは図書館に行って本を使ってするべきであり、インターネットで出てきたものをそのまま持ってくるのはいかがなものか」という議論がありましたが、ChatGPTも同様で、恐らく使い方の問題だと思います。

 

そのまま貼って出すというのは、さすがにいかがなものかと思いますが、それをどのようにうまく利用していくのかというのは、文章を書くだけでない使い方や仕組みを教えるという意味では、情報科の役割だと思います。

 

例えば、文章を書くという意味では、国語であったり社会であったりしますが、そこでどのように取り扱っていくのかということを、様々な教科で教えていくことによって、そのままコピペして提出するのではない、やり方も身に付けていけるのではないか。そういう学び方を教えていくことも、これからの学校教育の中で出てくるのではないかと思った次第です。

 

 

田﨑先生

私も稲垣先生に、現場の実情を教えていただきたいのですが、生成AIをとことん使っている生徒はいますか、ということ。また、その生徒はどんなことを言っていますか、ということです。

 

以前、私があるテーマで生成AIを使ったとき、質問を重ねていったら堂々巡りになってしまって、おお、これは自分で引き取らないとダメだな、と思ったことがありました。また、自分の文章を生成AIにかけたら、すごく当たり障りのない文章になってしまったこともあります。それは確かに整っているけれど、一方でどうなんだろう、と思ったりしたわけです。

 

ですから、実際にとことん使っているという生徒がどんな感想を持っているのか、エピソードがあったら教えてください。

 

稲垣先生

実は、先ほどお見せしたアンケートに回答した生徒の中に、とことん使ったかどうかまではわかりませんが、ある程度、わかって使っているだろうなという生徒達がいたので、本当はアンケートの前に尋ねてしまうのは、よろしくないような気もしつつ、どのように使っているのか、雑談のように聞いてみたところ、「使い続けているうちに、うまい質問の仕方がわかった」と言うのですね。

 

その生徒達の場合は、ChatGPTでなく画像生成AIの、しかも外国のサイトを使っていて、英語の文章を使ってプロンプトを書いていくというレベルのことをやっていました。

 

この点は堀田先生がおっしゃったことにもつながりますが、おそらく使い続けない限り、うまく使えるようにはならないと思います。もちろん、だんだんマニュアルなどが出回ってきて、そのとおりにやれば、ある程度はできるようにはなると思いますが、子ども達が読めるレベルの、そこまでのうまいマニュアルというのはまだないと思います。

 

そうすると、彼らは繰り返し使っていくことによって、体得的にできるようになったのだろうと思います。もちろん、彼らからそういった発言が聞けたわけではありませんが、ひょっとするとスポーツの練習と同様に、続けて使っていかない限り、できない部分があるのかもしれないなという印象でした。というわけで、エピソードとは少し違うかもしれませんが、そういった話が生徒とできました。

 

 

萩谷先生

ありがとうございます。Googleフォームにも類似の質問が来ています。

 

『ChatGPTには年齢制限がありますが、APIを使用したサードパーティーをトンネルすることで、未成年にも使わせることができます。初等中等教育局の通知文を前提として、どこまで現場判断で許容するべきでしょうか』ということですが、これは田﨑先生、いかがでしょうか。

 

田﨑先生

先ほどご紹介した生成AIのオンライン研修会で、高校の先生がお話ししてくださった事例では、その学校は保護者から確認を取った上で、全校展開で使っているという話がありました。

 

トンネル云々ということは聞かなかったことにしますが(笑)、それこそまさに倫理的にどうなのか、という話ですよね。技術を使うことの倫理性を国が考えることになるかもしれませんけども。まずルールがあるのであれば、それを確認することが第一だと思います。

 

 

子どもに生成AIを使わせることの懸念は…

 

萩谷先生

ありがとうございます。フロアから、ご質問あれば、ぜひお願いしたいと思います。

 

Q1-1.国立大学教員

AIというのは、基本的に莫大なデータベースに依存しているわけですよね。つまりそれは、過去のデータをいかにして最適に再現するかということで、私から見ると、創造性や独創性には至っていないと感じます。日本の教育は、特に独創性や創造性がはじかれがちですよね。

 

一方で、附属学校の教育は独創性を育むことが目標だと感じますが、そうすると、生成AIから出てきたものの独創性は何なのか、という技術的な評価ポイントがあるのかどうか。筋違いな質問かもしれませんが、ご存じの方おられたらお答えいただきたいと思います。

 

もう一つ、これは堀田先生にお聞きしますが、お話の中に出てきた附属小学校の授業で、生徒が、「自分の考えと同じことを言ってる!」と感動していましたが、これは私にはちょっとショッキングで、そうなると教員は要らないということになってしまわないか。けっこう教育の根幹にも関わってくると思いますが、学校の現場、特に附属などがどれくらい考えているのか、ということをお聞きしたいと思います。

 

A1-1.堀田先生

ありがとうございます。おっしゃったように、附属学校は新しいことをやってみるという役割のある学校で、特にこのご時世は、そういうことに対する圧はかかっていると思います。

 

先ほど紹介した先生は。非常に前向きに取り組んでいらっしゃいますが、子どもたちが「僕らの考えたことと同じだ」と言ったことは、結構ショッキングだったようです。

 

子ども達の反応は、「そんなことまで(生成AIは)考えつかないだろうと思っていたら、かなり近いことまで出してきた」という。つまり、自分たちの予想を超えたことに対する驚きだったということです。

先生は、あの段階でまだ、十分に何かを教えたわけではないので、子ども達は、AIが自分達の予想と同じようなことを言ってくるということにびっくりして、機械が何か人格を持っているように感じていたというお話でした。

 

過去のデータベースの話は、おっしゃるとおりですね。一方で、あのクラスは、別の国語の授業でも生成AIを使っています。そこでは、宿泊学習に行って、お世話になった方々にお礼の手紙を書くときに使ったのですね。

 

最近は手紙を書く機会があまりないので、国語の授業で手紙の書き方を教科書で勉強してから、自分達で手紙を書くときのモデルを生成AIに聞いてみようということで、先生がある程度やってみせました。

そうすると、結構見事な文が返ってきて、子ども達も、「これはすごい!」と見ていました。

 

ただ、自分達が実際にやったことや、お世話になった方が言われた印象的な言葉は入っていません。

データベースに入っていないから、当たり前ですよね。

 

これを通して、子ども達は「生成AIが出してくるのは、いろいろな人の意見をかき集めたうえで平均した何かであって、自分たちの体験がそこに出てくるわけではない」ということを実感したということでした。

 

ですから、今先生がおっしゃったように、これは過去の膨大なデータベースで、他の人の経験もたくさん入っている。その意味では、非常に参考になるけれど、未来のことや自分しか体験していないことが出てくるわけではないということになります。

 

だからこそ、人間がやらなければならないことは何か、人はなぜ学ばなければならないか、自分達は何ができるようにならないといけないかいうことを、鮮明に子ども達に感じさせるという意味で、教育的にも非常に根本的なことを取り扱うことになります。

 

そのことがちょっと大き過ぎて、多くの先生が「私には無理」と思ってしまうことはないかというのが、今のところの私の実感です。

 

 

Q1-2国立大学教員

最初の質問について言えば、これは私の個人的な感想ですが、私はどちらかというと、生成AIに対する創造性というものを非常にネガティブに捉えています。「創造性」の定義にもよると思いますが、そもそも、生成AIの情報処理能力というのは非常に限定されたものだと思っているからです。もちろん、もとの膨大な学習データがあるとは思いますが、それに対して実際に情報処理をして何かを作り出す能力というのは、非常に限定されたものだと思っています。

 

ただ、それがどのように限定されたものかということについては、なかなか特徴づけられなくて、悩んでいるというところです。

 

 

A1-2.田﨑先生

過去のデータをすぐ使えるというのは、とても便利なことで、プログラミングのコードにしても、画像にしても、生成されたものを基に、そこから自分でどんどんいろいろな工夫を加えて、オリジナルを作っていくことができるようになっています。

 

ですから、例えばウェブサイトを作るにしても、「こんな感じの見栄えのもの」という画像を生成AIに放り込んだら、コードを作ってくるでしょう。ただ、それが正解ということではなくて、そこから自分が何をするか、ということが大事です。

 

おそらく、教養や素養が深い人ほど、「そこから何をするか」というところのスピードが早まると思います。そこで、自分のオリジナリティーや創造性というところを創っていくところで、生成AIが有効であると思います。う

 

 

生成AIを使うのであれば、「コンピュータの限界」も同時に教えるべき

 

Q2.国立大学教員

大学で生成AIを何に使っているかという例として、論文のアブストラクトを何百字で作るということは割合よくできるので、実際に使われています。

 

また、先ほどお話に出た「創造性」については、これは定義にもよりますが、様々な組み合わせを考える場合に、今まで気が付かなかったものを見つけることができるということは十分にあって、それを創造性と言ってよいかはわかりませんが、そういったことには十分使えます。

 

生成AIの原理についてですが、私も専門家ではないので何とも言えませんが、おそらく高校生が原理を理解するのは難し過ぎてわからないと思います。こういった処理をして、次にこれをして、ということは言えるかもしれませんが、内容的には、大学生でもわからないところがあります。

 

また、堀田先生がおっしゃったように。生成AIがすごい文章を出してくるということは、逆にあんなに基本的な処理で、人間と同じような文章が出せるということは、人間の思考というのも、実は大したことはないところで回っているんだなとも思います。

 

もう一つ、生成AIが出してきた答えが正しいかどうか、という問題は、ここが一番嫌なところです。

 

例えば、車のナビを使っているとき、自分がよくわかっている所で別のルートを出してきたら、「何でこんな道を行けと言うんだ!」と思いますよね。ところが、全く知らない所だと、ナビの言うことに素直に従います。その意味で生成AIの文章も、自分がよく知っていることであれば「何、これ?」と思うかもしれませんが、あまり知らないことであれば、感心しながら見ているということはないでしょうか。

 

ですから、堀田先生にお願いしたいのですが、子ども達に「コンピュータの限界」をきちんと教育していただく必要があると思います。コンピュータは何でもできる、ではなくて、できないことは何か。生成AIの限界というものは難しいですが、アルゴリズムの限界、計算の限界といったことも教えておいてほしいと思います。

 

Q2’.萩谷先生

私も、コンピュータの限界という点については同じ思いです。その限界が分かりにくい。だから、そこ

を、特徴づける研究が進んでほしいと思っています。

 

A2-1.堀田先生

先ほど名前が出たのでお答えします。コンピュータの限界を高校生に教えたらわかるのかというのは難しいですが、コンピュータから出てくることを100%信じてよいわけではないということは、小さい頃から教えなければいけないと思います。

 

コンピュータはしょせん機械であって、自分が組んだプログラムは、そのとおりにしか動かないし、誰かが組んだプログラムは、その人が組んだとおりにしか動かない。あらゆるデータを使って、いろいろ処理をしている生成AIであっても、その「あらゆるデータ」というのはネット上にあるものにとどまっている、ということを示すことで、何らかの限界があり得ることを教育内容に入れるべきだと思います。そういうことは、田﨑先生のお仕事かなと思っております。

 

A2-2.稲垣先生

今、「限界」というお話が出ましたが、私もちょっとその辺りは難しいと思っておりました。逆に、今まではどちらかというと、「これから、Society5.0の時代になって、とてもいい世の中になるからこそ、頑張って参加していこう」という話を多く生徒にしてきました。限界というよりもむしろ無限に広がっていくよ、という話を生徒にしてきたので、そうか、限界というところも考えなければいけないな、と少々自戒を込めて思いました。

 

ただ、生成AIなどに関して「限界」という意味では、今堀田先生がおっしゃられたことに大きくかぶるのですが、例えばインターネットで物事を調べたとしても、しょせんは他人が書いたものであるからこそ、そこに書かれた記事が正しいかどうかというのは、結局メディアリテラシーを働かせたり、様々な知識をクロスチェックしたりといったことを経て、初めてわかるわけです。

 

「実は生成AIは、もっともらしいけれども正しくないことを言う」ということが結構話題になりましたが、確かに生成AIの言っていることの信憑性をどのように見極めていくかを教えることを通して、子ども達にコンピュータの限界を考えさせるきっかけになるのかな、と思いました。

 

ただ、これから技術がさらに発展していくと、また話が別になってくるかもしれません。難しいところです。

 

A2-3.田﨑先生

確かに、コンピュータにはいろいろな限界があります。例えば、地図アプリで経路を調べると、道のない所をそのまま通って行くように指示してくることがありますよね。生成AIを使っても、まさに爽やかにウソをつかれるわけです。この爽やかさといったら、体験した人でないと分からないわけですよね。

 

このことは、「このシステムって何?」ということを自分自身レベルで理解しようとしながら、それを使っていけるかを検討するという点においては、生成AIも他のサービスも同じなのかなと思います。だから、「コンピュータは万能でもないし、魔法の箱でもない。生成AIも同じだね」ということは、授業の中で使えるかなと思います。

 

 

Q3.萩谷先生

ありがとうございます。あと1つ、気になる質問があります。

 

『今はAIを使う人と使わない人がいる状態だと思いますが、使う人はよりうまく活用できていき、使わない人が取り残されていくと、そこで格差が生まれてくると思います。教育側としてはどのようにしていくべきでしょうか』という質問です。こちらはいかがでしょうか。

 

A3.堀田先生

これは、常々言われることで、例えば、GIGAスクールで端末が配られると、「端末を使うところと使わないところがあって格差が生まれる。だから入れないほうがいい」という話が出て来るのです。最後の結論のところが「ええ?!」となりますよね。本来は「だから、みんなが使えばいい」という話だと思うのですが。

 

だから、できるだけ活用するような方向に持っていかないと、結局活用できない人がどんどん増えてしまうことになる。社会コストの増大というのは、今のわが国にとって大きな課題であると思います。その意味でも、一人ひとりの能力ということだけでなく、社会コストのような観点も無視できないと思っています。

 

 

萩谷先生

ありがとうございます。それでは、最後にパネリストの皆さんから一言ずついただいて、終了にしたいと思います。

 

稲垣先生

本当に、ご清聴ありがとうございました。改めて、生成AIは本当に難しいと思いました。私自身は生成AIを全て理解しているわけではないので、ブラックボックスになっているものをどのように使い、どのように教えていくのかということは非常に難しく、悩むところだなと思います。

 

ただ一つ、今回落としどころになったのは、私の教えた生徒が、使い続けたおかげで使えるようになったと言ったことです。ということは、やはりまず使い続けてみることによって、うまくいったこと・失敗したことが広がって、結果多くの人が使えるようになれば良いな、と考えました。

 

田﨑先生

情報科は情報技術を活用して問題解決する教科ですから、学んだ成果を探究しながら一定の結論を出す、という学習プロセスには、生成AIは向くのではないかと思います。ですから、正解主義から脱却するためのツールとして、生成AIを活用できたらと思います。

 

 

堀田先生

高校の情報科について申し上げたいのは、今、あらゆる教科が問題発見・解決的なプロセスに向かい、誰かが正解を知っていて、その正解にたどり着けばいいという時代ではなくなっています。

 

さらに、情報技術があふれて、子ども達はこれまでにないような学習経験をしています。そうなったときの高校の情報科の役割というのは、おそらく、子どもたちが断片的に・様々な形で経験してきたことを、情報技術の観点から整理したり、体系化したり、技術とその影響という形で理解させたり、といった物の見方をさせることになると思います。

 

昔は、情報科の授業で初めて知ったり経験したりすることが結構ありましたが、これからは、皆がそれぞれ経験してきているので、知っているつもりになっています。それを情報技術の側面から整理して、わかり直させるというのが、大きな役割になってくるのではないかと感じています。次の学習指導要領に期待したいと思っています。