オンラインイベント教科「情報」これからの一年 ~大学入試に向けた取り組み
3年間の学習プランと途中経過 ―これからの1年、どうしましょう―
東京都立立川高校 佐藤義弘先生
私は都立立川高校で情報科の教員をしています。情報科になって20年目ですが、その前は15年ほど数学科の教員をしていました。他に学習指導要領作成の協力や、書籍や教科書の執筆なども行っています。
立川高校は明治34年創立の伝統校です。普通科が7クラス、理数科が1クラスあります。
理数科があるので理系の学校だと思われがちですが、全体では文系理系の割合は半々ぐらいですので、標準的な進学校の割合ではないかと思います。
本校は東京都の進学指導重点校に指定されています。難関国公立大学を目指す生徒が多く、75%以上の生徒が共通テストのフル型を受ける予定です。
また、文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)にも指定されており、1年生は「SS課題研究Ⅰ」を必履修、2年生は「総合的な探究の時間」を「SS課題研究Ⅱ」に組み替えて必履修するカリキュラムになっています。探究的な活動に大変積極的に取り組んでいる学校です。
「情報Ⅰ」は1年次に必履修、「情報Ⅱ」は3年次の自由選択枠に置いています。
3年間の学習プロセス
では本題に入ります。最初に3年間の学習プロセスについてお話します。
本日の講演は「これからの1年」というテーマですが、実際には昨年度、現2年生が1年生のときから仕込みをしています。
1年次は「体験」と「考えること」を重視した授業、「学んだことを活用する」授業を行っています。
2年次は授業がありませんので、探究活動や他教科等で「情報」の学びを活用してもらうようにしています。3学期からは知識事項の埋め直しを行う予定です。
そして3年次になったら、知識事項の定着、体験の呼び起こしをしていきたいと思っています。選択科目「情報Ⅱ」に加えて、講習会や補習などの実施も考えています。
1年生の「情報Ⅰ」~知識はミニマムに~
各学年での指導内容を詳しくお話します。今後のことについては希望的な部分がありますことだけは申し添えておきます。
まず1年生ですが、授業の前に次回予告として、教科書のページを指定しています。
「じゃんけんタイム」と呼んでいるのですが、「情報」の時間は自由席になっていまして、授業の冒頭で、生徒はまず隣の生徒とじゃんけんをして、勝った方が負けた方に予習内容を説明するという時間を設けています。そこで出た質問はできるだけその場で回答するように心がけています。
授業では教科書を簡単にまとめたスライドを使います。本校は45分授業なので、私が話す時間は15分で収まるようにして、残りの30分で学んだことを活用する実習を行うという授業設計にしています。
授業後には授業の振り返りを行い、振り返りで集まった感想や質問は「振り返りのまとめ」という形で生徒に返答します。
私は、1年生の「情報Ⅰ」については、知識の習得はミニマムで良いと考えています。
1年生の間に知識を埋めようとすると、ドリルなどの演習に時間を割かなくてはいけないのですが、実際には家庭学習の時間は、ある程度は主要5教科に使うようにプランニングされています。そこへ「情報」の時間を入れると生徒の負担が重くなってしまうのですよね。
これを調整しようという話も無くはないのですが、それよりも「知識はどうせ忘れるのだから、直前に埋め直せばいいだろう」という考え方で、あえて知識はミニマムにしています。
知識のインプットよりもアウトプットを重視して、説明できるようにしようということで、説明のチャンスとして、授業冒頭に予習内容の説明を取り入れています。その後、学んだことを活用して体験を身につけるようにしてもらっています。
次に他教科との繋がりです。ちょっとしたカリキュラムマネジメントのようなものなのですが、授業で折に触れて「これは他教科で学ぶのだよ」と予告をしておきます。例えば探究活動と「情報」は非常に親和性が高いので、「情報」の授業で少しだけ先回りをして、探究活動で必要な知識やスキルを扱っておいてあげるのです。そうすると、いざ探究活動を行う際に「あ、前に『情報』で学んだことが使えた」となります。こういう体験を生徒にはたくさんしてもらいたいと考えています。
最近はパラサイトと言っているのですが、「他教科を学ぶ際に『情報』で学習したことを思い起こさせる」という仕掛けを、授業のあちこちに埋め込むように心がけています。
「空白の2年生」~他教科の学びで「情報」を思い出す~
次に2年生です。2年生は「情報」の授業がありませんので、いわば空白の1年になります。
ここはもう、他教科の学びで「情報」を思い出すように、まずは1年生の授業で、何としても仕掛けを埋め込んでおきたいところです。
例えば「モデル化とシミュレーション」の単元は、数学の「確率・統計」、物理の「物体の運動」の内容を含みます。ですので、2年次でそれらの単元を学習する際に、「これは『情報』でやったな」と思い起こせるような仕掛けを1年次にしておくわけです。
1人1台端末も活用します。探究活動を軸に、端末を活用してデータの集計やスライド・レポートを作成する場面で「情報」の学びを思い出してもらえるようにしています。
3年生の「情報」は受験対策
3年生になったら受験対策です。スライドの内容はあくまで予定で「こうしたい」という希望です。
1学期は希望者に問題集を販売したいと思っています。全員に買わせるのは難しいので、希望者に販売する予定です。まずはここで知識事項の定着をはかりたい。
「自分で問題集をやっておけ」で済ますわけにもいかないので、オンラインの教材も作成したいと思っています。いわゆるフォーム系のものです。
夏休みはテーマ別の夏期講習を実施するつもりです。これはリアル(対面)でも行いますが、その場合は参加できる生徒は40人程度になりますので、すべて動画にして、アーカイブで配信してしまおうと考えています。
2学期の前半は中レベルの問題、後半は実践レベルの問題を解いていく予定です。
また、3年生では選択科目の「情報Ⅱ」で2つの講座を用意しています。
1つは「情報Ⅱα」という講座で「情報Ⅱを自ら学ぶ」ことを狙いとしています。
ここでは探究的な授業をやろうと思っていまして、生徒たちに教科書の分担を決めさせて、自分たちで説明するといった、アウトプットを重視する授業を行う予定です。1学期の前半で教科書を終わらせたら、2学期は学んだことを生かして、探究的な学びをさせてあげたいなと思っています。
「情報Ⅱα」は、情報系の大学でコンピュータやプログラミングを専攻するつもりの生徒に向けた授業という設計にしています。個別試験の受験対策にもなるかもしれません。
また、「情報Ⅱα」の受講を希望する生徒には、個別に面接をして、丁寧に説明した上で、納得して受けてもらうつもりでいます。誤って「情報」が苦手な生徒が紛れ込んでしまうと、授業が成立しなくなる危険がありますので。
もう1つは「情報Ⅱβ」という講座で、こちらは「『情報Ⅱ』を通して『情報Ⅰ』の学び直しをしてもらう」という狙いがあります。問題演習的な内容にしようと思っています
「情報Ⅱ」と「情報Ⅰ」は、3章と4章の順番が入れ替わってはいますが、似通った章構成になっています。もちろんレベルや深まり方は違いますけれども、内容は似ている部分がありますので「『情報Ⅱ』ではこんなふうに書いてある。じゃあ『情報Ⅰ』ではどんなことを学んでいただろうか」といった形で、「情報Ⅰ」の復習につながるようなことができないかと考えています。
共通テスト対策にもなるとは思っていますけれども、完全に受験対策を狙っているわけではないですので、受講を希望する生徒には、講座の主旨を説明した上で、生徒によっては「取らなくても大丈夫だよ」と話しています。
以上が3年間の学習プロセスになります。
具体的に受験対策をどうするか① ~空白の2年生対策~
では具体的に受験対策をどうするのかですが、…正直に言います。誰か教えてください(笑)。
今からお話するのは「私はこれをやろうと思っています」というものです。
まず一番の問題は「空白の2年」ですね。まさに現在取り組んでいる内容になります。
2年生の夏休みに、『情報』の内容を思い出してもらおうと、試作問題2A(二次元コード)の問題をフォームで投稿してみたところ、回答数は3%でした。
次いで「データの活用」の確認問題も投稿してみたのですが、こちらは8%しか回答はありませんでした。
プログラミングのコンテストである情報オリンピックの参加希望も募ったのですが、希望者は3%。
また、学校で使用している学習プラットフォーム(Classi)に「情報」の学習トレーニングが追加されたので、それを配信したところ、着手した生徒は3%。
さらに「情報Ⅰ」の体験模試をやってみようということで、某社の模試の学校受験を手配したんですが、申し込みは10%でした。
…ということで、非常に低迷しております。
高2模試をきっかけに学習機運を高める
本来ならば2年生の3学期、いわゆる3年生の0学期から、生徒には受験対策を始めて欲しいと思っているのですが、なかなかそういう雰囲気になっていかないのが現状です。
ですので、1月にある河合塾の全統共通テスト高2模試(この模試から「情報」が試験科目に導入されます)で、実際の文章量や難易度に触れて、「まずいぞ」となって、学習機運が高まるのではないかと、少し期待をしているところです。
できれば2年生のうちに基礎中の基礎の部分だけでも確認をしておいて欲しいと思っていまして、Classiの学習トレーニングなど活用してくれることを期待しているのですが、とはいえ、入試でポイントゲッターになるような他教科の学習時間を割いてまで「情報」をやる必要があるかというと、私はそんなことはないと思っています。
共通テストにおいて、10%程度が「情報」に配点されると考えれば、学習時間の10%というのが「情報」の学習に割く時間の目安になるだろうと思います。 60分だと6分ですから、1時間の勉強に対して5分くらいの問題1問であれば、気分転換に「情報」に触れてもらえるだろうということで、現在、問題を作っています。
とにかく「どうやったら生徒の学習時間に入り込めるのか」を一生懸命考えているという状況です。
具体的に受験対策をどうするか② ~3年生の学期別学習スタイル~
3年生の受験対策について、まず1学期です。
生徒には問題集を自分で進めてもらいつつ、私が自作して配信するチェックテストを解いてもらう形を想定しています。
最近は様々な会社から教材が出版されていますが、玉石混交という感じで、共通テストを超える難易度のものもあれば、「情報関係基礎」や資格試験の問題を参考にしたのでしょうか、共通テストでは出題されない内容や出題方法が掲載されているものもありますので、教材の選択はかなり慎重に行う必要があるでしょう。
夏休みはスライドにあるテーマで夏期講習を実施します。
リアル(対面)とオンデマンド配信で学習してもらう形式です。あとは夏休みで完了する形で、基礎事項についてのチェックテストも継続的に実施しようと思っています。
2学期は中レベルの問題集を自分で進めてもらいます。こちらも10分でできるような自作の問題をチェック用に配信する予定です。
直前期には模擬問題集の活用を考えています。
スライドに記載した問題集はオリジナル問題が3回分入っているので、使い出があって良いかなと思っていますが、模擬問題集については今後も色々な会社から出版されると思いますので、あくまで現時点での選択ということになります。いずれにしろ、こちらは希望者に購入してもらう形にしようと思っています。
直前講習は一定数の要求があればやろうと思っています。やるとすれば夏期講習同様にリアル(対面)とオンデマンド配信で、内容的にはおそらくプログラミングの単元を扱うことになりそうです。プログラミングは授業だけで定着を図るのが難しいですので、練習をしたいという思いがあります。
「情報」入試の理解を深め、広げるために
準備の状況です。
現在は学習指導要領と教科書の分析を行っています。
全ての教科書を並べてみるとよくわかると思いますが、やはり「ちょっと難しすぎるんじゃないか」という教科書は存在します。
学習指導要領には「こんなこともやると良いよ」という例がたくさん載っているわけですけれども、記載されている例の文末に「考えられる」と書いてあるものは、「やってもやらなくても良い」という位置づけだと私は認識しています。
そうした内容まで書いてある教科書もあれば、書いていない教科書もあるわけですが、難しすぎる教科書をベースに共通テストの問題が出題されることはおそらくないだろうと思います。
断言してしまうと山を張るようで良くないのですが、「ちょっとやりすぎですよね」という教科書もありますので、とにかくどのような出題の仕方があるのかを一生懸命研究して、生徒が学習内容を漏れなく学べるように、現在はデータを作成しているところです。
使用する教材については、受験対策の問題集と模擬問題集の二つを買わせたいと思っています。模擬問題集は今のところ「これで良いかな」というものが見つかっているのですが、受験対策問題集はまだ検討中です。採択にあたっては、検討のタイミングまでに出版されるかどうかの問題が大きいかなと思っています。
自作の教材については未着手の状態です。
というわけで最後、心配な点です。
自作教材の作成が間に合うのか?
生徒がやってくれるのか?
そして、これで大丈夫なのか?
というのが一番の心配です。
今はとにかく、学習時間の10%を確保するために、どうやって呼び掛けて、納得してもらうのかを考えています。
本校の場合、主要教科の先生がクラスも担任するケースが多いのですが、例えば「情報」の配点が0点である大学とか、そうしたことばかりが報道されてしまう現状もあって、「情報」の配点が10%あるという理解が浸透していないようにも思います。なかなか難しいところです。
第一志望は配点が低いからと「情報」を避けてしまうと、受験直前に当初の志望とは異なる大学を受験しようと思っても受けられなくなる危険もありますので、国公立を目指す生徒たちには、やっておおかなくてはいけないということは、しっかり伝えていきたいと思っています。
以上、これから私がやろうと思っていることをご紹介しました。
どなたか「それだけやれば大丈夫だ」と大きな声で言っていただけないかな、というのが正直なところです(笑)。どうもありがとうございました。
質疑応答
Q1. 高校・中等教育学校教員
自作の教材で授業をされているようですが、教科書や副教材はどのように使っていますか。また、来年度のビデオ教材の準備はとてもたいへんだと思いますが、どのように準備されますか。
教科書は予習の題材として読んでくるよう指導しています。授業冒頭に相方の生徒に説明する時間を取り、アウトプットできるように予習することを促しています。授業スライドは自作で、教科書を読んだだけではわかりにくいところ、理解を深めたいところについて補足説明をする形にしています。教科書を簡単にまとめたようなものです。このスライドは授業前に生徒に公開しています。
副教材は各自参考にというような扱いです。考査前には問題集の質問に来る生徒が多数います。詳しく学びたい生徒には資料集を紹介しています。授業で特に扱うことはしていません。
来年度はWebフォームを使った学習教材を用意する予定で、ビデオ教材は作りません。夏期講習はリアル夏期講習を一発撮りして、参加できなかった生徒にオンデマンド配信するつもりです。
Q2. 高校・中等教育学校教員
情報科は、探究や数学的思考などと絡めて「教科等横断的な学び」をリードできることは自明なのに、他教科の先生方は必ずしも協力的とは言えません。この状況を改善するヒント、事例をご教示ください。
協力してもらえなくても、勝手にこちらから関連付けていけば良いかと思います。「勝手にカリマネ」していくと、生徒の様子が変わるようで、探究担当の先生や、他教科の先生が気配を感じます。ここで無反応な先生もいますが、ほとんどの先生は授業を見に来たり、内容を聞きに来たりします。私の所属校が探究活動に力を入れていることもあり、このあたりは上手く回るのかもしれません。
Q3. 高校・中等教育学校教員
私は現在情報科の教員として働いていますが、授業以外の業務(生徒の端末や学校で購入した機器の管理や生徒・職員のコンピュータに関する対応全般)が非常に多く、対応しきれていません。先生方の学校ではコンピュータ関係の仕事の分担はどのようにされていますか。
東京都では各学校に「ICT支援員」が配置されていて、GIGAスクール端末などについては、支援員さんが対応してくれます。また、機器の管理は物の管理なので、情報の先生でなくてもできることです。各学年に担当の先生を置いてもらうなど、できるだけ多くの人に関わってもらうことや、それを受け入れてもらえるような環境作りも必要だと思います。
Q4 高校・中等教育学校教員
学習に対する意欲(モチベーション)が低い学習集団への動機付けで効果的なものや方法があれば教えて頂きたいです。
楽しい授業を心がけるのが一番だと思います。私と話すより、仲の良い友達と話す方が楽しいですよね。であれば、私が話す時間を短くすれば、楽しい時間になるのだと思います。そんなことを考えて、パソコン室では自由席で、ペアで課題を解決したりするような授業設計をしています。
オンラインイベント 教科「情報」これからの一年 ~大学入試に向けた取り組み~ 講演