情報処理学会第86回全国大会
専門教科情報科の学び
茨城県立IT未来高校 津賀宗充先生
本校は令和5年4月に開校したので、この3月でちょうど1年が終わることになります。学校自体が手探りで、完成まではまだ時間がかかりますが、取りあえず初年度の振り返りということで、お話ししたいと思います。
まずは、学校の概要をご説明します。
社会の変化や地域のニーズへ対応するために、IT人材の育成を目指して設立
本校、IT未来高等学校は、茨城県の「県立高等学校改革プラン」の実施プラン1期の第2部という位置付けで設立された学校です。
実施プラン1期の第2部というのは、「学科の改編等」として、「社会の変化や地域のニーズに対応する」ことを目標として策定され、他に4校ほどが対象になりました。本校はIT人材の不足に対応するために開校した学校です。
こちらの図は、三菱総研の報告書から転載しています。本校が育成を目指す人材について、入学希望者や在校生に対して説明するときに使っているものです。日本は、将来的にIT技術者も含めて専門技術者が170万人不足することが予想されており、君たちはそこに貢献していくんだよ、という話をしています。
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本校は、昼間2部制の定時制単位制高等学校です。
学科としては、情報に関する学科として専門教科「情報」のIT科を置き、2期制を取っています。
定員は1学年80人ですので、全員で320人ですが、3年で卒業する子もいるので、最大で埋まったとしても280人程度という、非常に小さな学校です。
定員の内訳はIT(A)とIT(B)があり、IT(A)が主に午前中の1時間目から4時間目で学ぶ生徒、IT(B)が3時間目から6時間目で学ぶ生徒になります。ただ、2年次からは6時間授業を取れるようになるので、6時間フルに取れば3年で卒業できる、という形の定時制の学校になっています。
さらに、IT(A)とIT(B)も、それぞれ情報システムコースと情報デザインコースに分かれているので、2年次以降は、生徒は時間によってそれぞれ教室が違う、ということになります。
全ての授業が1時間目から6時間目までで終わるので、放課後の午後3時半以降は部活動の時間になります。本校は1学年80人しかいないので運動部はありません。文化部もほぼなく、コンピュータ部が3つと、もともと地域から要請のあったボランティア系の部の、計4つで動かしています。
コンピュータ室は、まだ最後の1教室の工事が完了していないのですが、5種類で6部屋作る予定です。共用のコンピュータを全部で約250台置き、それ以外に1人1台端末があるので、校内では相当数の端末が動いています。
Wi-Fi環境も、いろいろ頑張っていただいた結果、茨城県の県立高校の中では、回線速度が2番目、ということだそうです。
こちらは、プロジェクト室ということで多目的で使える教室です。
上段のようにセミナーに使ったり、真ん中のようにスクリーンを4面備えて、同時に4つのプレゼンができるように作ってあります。
普通教室も、開校にあたって机等の備品を全て入れ替えました。グループ学習などもやりやすい造りになっています。
いろいろな教科で端末を使っており、机の上に端末があるのは日常風景になっています。
中央・下段の生徒は、3時間目から授業が始まる生徒ですが、いつも1時間目から登校して自習をしていますが、こういった生徒もたくさんいます。
環境整備や、生徒募集の工夫を行った結果、本校が県のちょうど真ん中辺りにあるということもあり、県内44市町村のうち、19の市町にある40の中学校から生徒が集まり、一番遠い生徒は2時間強かけて通学している、という学校になっています。
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では、1年目の振り返りをさせていただければと思います。
進学して、自分の強みを持って就職することを前提としたカリキュラム
こちらが本校の基本的なコンセプトです。本校を志望する中学生から、「卒業してすぐ就職するのですか」という相談を受けますが、「卒業後は進学して、何か自分の強みを持ってから、職に就こう」という話を、中学生だけでなく在校生に対してもしています。
それに向けて、情報システムコースも情報デザインコースも、学校の学びの充実に力を入れているところです。
今のところ、生徒たちに希望は情報システム系が6割、情報デザイン系が4割といった感じです。女子生徒が4分の1ほどいますが、やはり情報デザイン系に興味があるようです。
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専門教科情報科の科目は12科目ありますが、本校では、単位数が少し足りない気もしますが、全科目置いています。学校設定科目はありません。
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教育課程がこちらです。1年次で1日4時間×5日の20単位(20コマ)分、2年から4年次も同様ですが、4年次の20コマ分については、2・3年次の張り出しの部分(スライド右の21から30のところ)で早期履修が可能になっているので、ここで取れば3年間で卒業することができます。
4年間で80コマの授業を受けるうち、専門高校ですので25単位以上が情報科の専門科目になっています。
ただ、全日制の学校では総履修単位数が80コマでなく90コマですので、そこは一つの課題になっています。致し方ないところではありますが、工夫を考えているところです。
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ここからは、専門教科情報科の科目について、本校の様子をいくつかご紹介します。
1年次は、2つだけ専門科目の授業が始まっています。まず「情報産業と社会」、これは学習指導要領では2~4単位の単位設定がされていますが、本校は3単位で実施しています。こちらは教科書もあります。
プログラミングはpythonを中心としており、クラウド教材のpaizaラーニングを活用して学んでいます。
担当している教員たちは、「情報I」や「情報Ⅱ」の教科書も参考にしながら資料を作って授業を実施しています。
1年生でもう1科目、「情報の表現と管理」も、今年度2単位で実施しています。茨城県からライフイズテックの「ライフイズテックレッスン」が途中から提供されたので、こちらも使いながら行っています。
先日、「ライフイズテックコンテスト2023冬の部」(※1)が開催され、本校の全生徒が出場しましたが、数名が入賞することができました。
※1 https://info.lifeistech-lesson.jp/contest/23summer
現在準備しているものの1つが、2年次の「情報テクノロジー」です。これは、教科書がないので、今のところはデジタル教材を使いながらやっていこうか、と考えているところです。
「情報セキュリティ」は、この分野に強い教員がいるので、その人を中心に構築しているところです。来年からいきなりいろいろな専門科目が増えるので、今、準備が大変なところです。
課題研究への取り組み
専門高校ですので、課題研究を核とした探究活動が重視されます。1年次は「ITセミナー」で、与えられたテーマで研究活動を体験し、2、3年次には「情報実習」の中で、プロジェクト型の演習を行い、卒業年次には課題研究を計画しています。
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1年次の「ITセミナー」の中での研究の事例をご紹介します。地元の笠間市は、菊まつりが有名で、そのとき展示する菊を、市内の学校の生徒に栽培させています。
その水やりがなかなかたいへんなので、自動潅水装置を装置をRasbery Pieと、自分で作ったケース、ポンプ等を使って作ってみました。これには約20チームが挑戦したのですが、実際に稼働できたのが4~5チームだけだったので、来年はもう少し精度を上げたいね、ということになっています。リベンジとして、違うシステムで作り直している生徒もいます。
課題研究については、県内の企業様からご支援をいただく予定です。生徒たちの研究に対してメンタリングをしていただく「いばらき版P-TECH」という仕組みを利用し、その中で課題研究を充実させていきたいと考えているところです。
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また、現行の専門教科「情報」の12科目では、AIへの対応が十分ではないところがあるので、この辺りは情報実習の中で、課題や教材を準備していこうと考えているところです。
様々な課題の解決に向けて
本校の課題としては、定時制という縛りがあって、生徒により履修時期が異なるため、科目間の調整が難しく、カリキュラム・マネジメントが難しいということがあります。
さらに、専門教科を25単位以上設置するために、共通教科・科目を最小限にせざるを得ないという縛りがあります。
そもそも、全日制高等学校と比較して総履修単位が10単位少ないという、「マイナス10単位の壁」があるので、定通併修制度(※2)を活用して、公私立通信制高校との連携等も考えています。
また、単位として認定する授業でなくても、学習クラウドを使いながら、課外授業など授業外でやっていこうかということを、現在計画しているところです。
※2 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/1247229.htm
情報科の教員配置については、今年は教員2名でやっていますが、来年度さらに2名増員します。
ここまでほぼ予定どおりなのですが、その次の年度はさらにプラス5名ほしいと考えていますが、県全体でも10名しか採用しないそうなので、そのうちの半分が本校に来てもらうことが実際にできるかどうかは定かではありません。とりあえず、そういった中で、現在動き出しています。
ということで、教員採用試験のPRもさせていただきます。本県では、情報科の教員について、教員免許がなくても、その経験により特別免許を出して採用することもありますので、ぜひご検討いただければと思います。
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一方で、入学して来る生徒達を見ていると、本校はICTをがっつり学ぶ専門高校であることを覚悟しないまま入ってくる生徒がいるというのも実情です。そういった生徒を、いかにその気にさせるか、ということについて、校長として先生たちとも一緒に悩んでいるところです。
私は校長なので授業はできませんから、教室に入って行って、生徒たちに、「今、何やってるの」と聞くようにしています。春先はなかなか答えられなかった子も、最近は「自分が今こんなことを学んで、こんなことをやっています」と言えるようになってきています。ここまで頑張ってきた子たちは、この先もやっていけるのかな、と思っているところです。
情報処理学会第86回全国大会 第5回初等中等教員研究発表セッション講演より