情報処理学会第86回全国大会

電気通信大学における「情報」入試

電気通信大学 小宮常康先生

私からは、「電気通信大学における『情報』入試」というテーマでお話ししますが、最初に簡単に大学の紹介をいたします。

 

本学は、情報理工学域という1つの学部の単科大学です。その下に、ここに挙げた「類」という緩やかなくくりの学科のようなものが3つあります。いわゆる情報系のⅠ類、理工系のⅢ類、2つの融合系のⅡ類です。

 

 

こちらが各類で学べる学問です。左の方に情報系の学問、右の方に理工系の学問が書いてありますが、I類、Ⅱ類、Ⅲ類できれいに分かれているわけではなく、どの類にもまたがる学問もあります。

 

これは、もともと情報分野というのは、他の分野と融合しがちであるからだと考えます。

 

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カリキュラムがこちらです。各類に入った学生は、全員が全学共通の授業科目を受けます。ここでは情報学、理工学全般の基礎である数学・物理・化学・プログラミングを全員が学びます。

 

2年の後期からは、「プログラム」(コースのようなもの)に配属されて、各類の分野をより専門的に学ぶことになります。

 

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「情報」を導入する試験方式と、その内容

 

本学の一般選抜の入試内容は、I類からⅢ類で共通になっています。そこに皆さんもご存じのとおり、2025年度入試で「情報」が入ります。

 

まず共通テストは、「情報」を加えた6教科8科目です。これは、「情報」が「国語,数学,英語等と同様の基礎的な教科であり,文理問わず必要とされるもの (国大協会⻑談話)」であるからです。

 

さらに、前期日程の個別試験で「情報」を加えます。今までは物理・化学を必須で課していましたが、そこを物理・化学・情報の3科目から2科目を選択するという形に変える予定です。つまり、情報を物理・化学と同じ扱いにする、ということです。その選択をどのタイミングでするかということについては、今のところは、当日試験問題を見て、その中からその場で選ぶという形を検討しています。

 

3つ目として、総合型選抜と学校推薦型選抜に「情報」を導入します。これはI類、Ⅱ類、Ⅲ類で少しずつ内容が違いますが、I類においてはCBTで情報なども課すことにしますが、これは基礎学力を確認するために使うことを考えています。

 

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以上の3つがどれくらいの受験生に影響するかと言いますと、本学の昼間部に焦点を合わせると「募集人員720名のうちの87%」の枠を目指す人全員が、共通テストの「情報」の対象になります。

 

個別試験の方は「募集人員の49%の枠」を目指す受験生が「情報」を選択する権利を与えられます。

CBTの方は、募集人員の5%の枠を目指す全員が対象になります。

 

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配点は、前期の共通テストで「情報」は50点の配点です。共通テストの「情報」は100点ですが、どの科目も半分にしていますので、他の科目と同じ扱いです。大学によっては、「情報」を低めにするところもありますが、本学はちゃんと重要視しています。

 

個別試験は、先ほど3科目から2科目を選ぶという形にしましたが、この2科目で200点としています。

 

後期はこれまで通りで、個別試験で「情報」はありませんが、共通テストは受けてもらいます。配点は50点で、これは、後期は個別試験を重視するので、例えば国語などは前期の半分の配点になりますが、個別試験で「情報」を課さない分、共通テストで「情報」をしっかり見ますよということで、前期と同じ配点にしています。

 

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「情報」に優れた人を選抜するために

 

なぜ私たちが個別試験で「情報」を実施するかということにつきまして。共通テストは、文理問わずの力を問いますが、個別試験の「情報」では、専門分野としての「情報」、および「情報」に絡む分野を目指す優れた人を選抜したい、という考えから導入します。

 

本学学長は、「日本社会の情報化や情報教育はとても遅れている。ハードルはあるが、そこを先頭を切ってやっていきたい」と述べています。また、幸い共通テストで情報が入りますので、今個別試験で情報をやるのは、チャンスであると認識しています。

 

 

CBTは、まずI類の学校推薦型選抜において課します。これまで総合問題試験と面接試験で基礎知識や読解力を問うてきたところに、基礎学力検査を見るためのCBTを導入して、その3つで総合的に判断することになっています。

 

CBTでは非認知能力検査をCBTで見る、とありますが、これはあくまで面接試験の参考に使うということです。

 

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総合型選抜は1次選考と2次選考に分かれています。これまで1次選考では、「活動実績報告書」という、「こんなプログラムを作りました。それを説明する動画はこちらです」というものを提出してもらっていたところに加えて、「情報」と数学をCBTの基礎学力で1次選考を行います。2次選考は今までどおりです。

 

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このような体制で導入しますが、いきなり本番というわけにはいかないので、昨年11月下旬のオープンキャンパスで「情報入試体験会」を開催しました。対象者は、2025年度入試の本対象となる高校2年生で、個別学力検査の試作問題を実際に体験受験していただきました。

 

電通大受験を考えている生徒に、情報入試の難易度や内容を知っていただくと同時に、我々としても出題内容や内容を改善するためのデータを収集しました。さらに、この体験会ではCBTシステムの体験も行いました。

 

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個別試験では、特に「コンピュータとプログラミング」で情報技術やデータの活用の論理的思考力を問う

 

個別試験の出題範囲は、「情報I」の全てとして、基礎的な知識と思考力を問う問題を出題します。特に、「コンピュータとプログラミング」の分野、情報技術やデータの活用に関する論理的な思考力を特に問う、としています。

 

 

ここからざっくりと試作問題を紹介します。大問を3部構成で作りました。

 

大問の第1問は、知識とそれに関する思考力を問う問題で、今回はネットワークを題材として作りました。

 

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第2問は、いわゆる論理的思考力を問う問題で、今回は、マトリックスに2人で交互に線を引いていって、最後に線を引けた人が勝ちというゲームで、どちらが勝つかを説明するという問題です。

 

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第3問はいわゆるプログラミングの問題です。

 

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この試作問題でデータを取りました。平均点は100点満点で40点ほどです。こちらの予稿は電通大リポジトリから入手できますので(※1)、ぜひご覧いただきたいと思います。

 

※1 電気通信大学における情報入試体験会の実施結果概要の報告

 

 

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個別試験で「情報」を選択する人は、I類(情報系)志望が多いが、Ⅲ類(理工系)志望も

 

この試作問題を受験した人にアンケートを取りました。「もし電通大を受験するとしたら、物理・化学・情報からどの2科目を選びますか」と聞くと、4割ほどの生徒が、これまでどおりの物理・化学。同じく4割ほどが情報を取りますという回答でした。

 

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もし電通大を受験するとするなら、情報系(Ⅰ類)、融合系(Ⅱ類)理工系(Ⅲ類)のどの類を希望しますか、と聞いてみると、情報系が57%、融合系が17%、理工系が26%でした。

 

先ほどの質問で物理・化学を選択するとした生徒の希望する類を見ると、やはり理工系のⅢ類が44%で、ちょっと多め、という感じでした。

 

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一方、「『情報』を選択する」と回答したグループで、どの類を選ぶかを聞いてみると、やはりI類が多い。ただ、Ⅲ類を希望するという生徒も7パーセントほどいました。

 

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学校の授業以外で「情報」をどこかで学んでいるかについて、その回答と得点の関係をグラフにしてみました。

 

全体の平均が40点ぐらいなので、このラインより上だと、やや高いという感じです。

 

右から3つ目の青い箱ひげ図は平均よりもかなり高かったところですが、「プログラミングなどを自分で勉強している」と「学校のクラブでも情報を勉強している」の両方をやっている人達になります。

 

「『情報I』の範囲に関係なく自分でプログラミングを勉強している」という人は、左から3つ目の箱ひげ図で、やはり平均より高めです。クラブ活動のみで勉強しているという人は、だいたい平均どおりという感じでした。

 

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CBTで使用するシステムは、大学入試センターと電通大で共同で開発しているものを使います。

 

 

サンプル問題がこちらです。

 

プログラミングの問題で、短冊型のコードがあって、それを右にドラッグ・アンド・ドロップしてプログラムを組み立て、実行できるようになっています。そこで実際に実行結果を確認して回答していく、というスタイルの問題を用意しています。

 

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また、データ解析ツールを使いながら、実際に分析して回答をする問題も用意しています。

 

以上の試作問題、CBTのサンプル問題は、電通大のホームページで入手できますので、ぜひ、興味があったらご覧ください。

 

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つい最近、情報処理学会のnote記事連載の「教科『情報』の入学試験問題って?」で、都立産業高専の佐藤喬先生に、先ほどの試作問題の第3問(プログラミング)の解説記事(※2)を書いていただきました。

 

プログラムの実行途中の経過を視覚化するPythonコード付きで、面白いものになっています。こちらもぜひご覧いただけたらと思います。

 

※2 https://note.com/ipsj/n/n896805326f7a?magazine_key=m1ca81b5d1e66

 

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先ほどの体験会の報告を、高校の先生方向けに、5月11日に開催する予定です(※3)。オンラインとのハイブリッド開催です。また、ここではCBTの体験も行う予定ですので、ぜひご参加ください。

 

※3 《高校教諭対象》2025年度入学者選抜における「情報」入試/CBTに関する令和6年度説明会

 

 

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情報処理学会第86回全国大会 情報科が拓く小中高教育の未来