情報処理学会第86回全国大会
人文社会系における情報入試
日本大学 谷 聖一先生
今日は「人文社会系における情報入試」ということで、日本大学文理学部の情報入試についてお話しします。
文理学部というのは、「文理」なので理学系も人文系、社会系の学科もあります。このような学部で、どのよな入試をしていくのか、ということ。そして、後半では、私どもの学部のことだけなく、もう少し広く、全ての学部・学科での情報入試についてお話ししたいと思います。
文理融合と高大連携、新課程の履修学生に向けたカリキュラムの改訂も
まず、日本大学文理学部について、簡単にご紹介します。日本大学には17の学部があり、文理学部はその1つです。
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文理学部には人文系6学科、社会系6学科、理学系6学科という18学科があり、文理合わせた総合的な学部となっています。
各学科では、それぞれの領域の専門教育をしていますが、これまでも学科の外側で、文理融合と学生主体の学びの提供ということに取り組んでいます。
具体的には、次世代社会研究センター(RINGS)という組織を立ち上げて、学生と教員が対等に協働しています。学内では「プロボノ」と呼んでいますが、企業や官庁の方にも入っていただいています。
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さらに、高大連携ということで、文理学部の隣の日本大学櫻丘高等学校という付属校で究学習の支援を行っています。こちらは、探究の主体は高校生ですが、それを大学生や大学院生が支援します。さらにプロボノの方にも入っていただいて、様々なテーマで探究学習を行い、高校生が主体的に学ぶとともに、そこに関わる大学生・大学院生も学んでいく、という取り組みです。
そして、令和7年度の入学生からは、高校の学びも変わってきていますので、それに合わせてカリキュラムの改訂をしています。
「情報」については、今までは「情報リテラシー」という科目のみが必修でしたが、全ての学生が「情報Ⅰ」を学んできていますので、令和7年度からは「数理・データサイエンス・AI教育プログラム応用基礎レベル」を、選択科目ではなく、全員が履修することになります。
さらに、より専門的に学びたいという人のためには、データサイエンス副専攻、情報科学副専攻、科学リテラシー副専攻も用意して、人文系・社会系の人も情報や情報科学、さらに幅広くサイエンスについて学べる仕組みを準備しています。
文理学部の一般選抜~「情報」導入の概要とねらい
ここからは、文理学部の令和7年度一般選抜について、具体的にご説明します。
まずA個別方式(各学科で実施する試験)では、人文系と社会系は、これまでは典型的な私立大学文系の3教科型で、国語と外国語(英語)に加えて、選択科目で「地理歴史」「公民」「数学」から1科目選択していました。この選択科目に「情報」が入ります。
ですから、例えば史学科志望の人であっても、「歴史総合」や「日本史探究」の代わりに「情報」で受験できる、という仕組みになっています。
また理学系も、数学と外国語(英語)に加えての選択科目が「理科」と「情報」になりますから、物理学科に入る人も、「物理」の代わりに「情報」で受験できるという形です。
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大学入学共通テスト利用のC方式では、全ての学科で情報を選択できます。特に社会学科では、「情報I」を必須にしているので、社会学科を受験する人は必ず「情報Ⅰ」を選択し、それに加えて「地理歴史」「公民」「数学」「理科」から1科目選択という形になります。
社会系の場合は、やはり学んでいく中でデータを扱うことが出てくるので、「情報」に限らず数学の素養も含めて、しっかり身に付けている人に入ってきてほしい、ということです。
もちろん、入学してから学ぶ機会も用意していますが、高校時代から文理をバランスよく学んでいる方にぜひ入学してほしい、ということで、社会学科では「情報I」を必須にしています。
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どのような学問領域でも「情報」で大学受験に挑める意味
日本大学文理学部では、ここまでお話ししたようなことを考えて、令和7年度入試に臨んでいますが、個人的には、もう少し広い意味で、どのような学問領域でも「情報」で大学受験に臨めるようになっていくべきだ、と考えていることをお話ししたいと思います。
皆さんもご存じのように、現在の学習指導要領では、小学校でプログラミング教育が入っていますし、中学校の技術科ではプログラミングの内容が充実し、高校では「情報Ⅰ」で全員がプログラミングを学び、「情報Ⅱ」でさらに深く学ぶ、という形になっています。
そして、「情報Ⅰ」では、プログラミングだけでなく、ネットワークやデータベースの基礎を必修化してしっかり学びます。さらに、データサイエンスの内容が拡充され、そして他教科との連携や教科横断的にコンピューターを活用した学習活動を充実させる、ということになっています。
このように、小中高を通して「情報」をしっかり学んでいくことの背景には、やはりこの情報化社会では、エンジニアになる人だけでなく、全ての人が「情報」を一定以上のレベルで理解していく必要がある、ということがあります。
国としても、こういった方向を政策としてはっきり打ち出しています。
「AI戦略2019」には、2025年の目標として、「全ての高等学校卒業生(約100万人卒/年)が、データサイエンス・AIの基礎となる数理素養や基本的情報知識を習得」とありますが、これは高校に「情報Ⅰ」が設置され、2025年に卒業する人は全員必履修で学んでいるので、達成されていることになります。
また、「文理を問わず全ての大学生・高専生(約50万人卒/年)が初級レベルの数理・データサイエンス・AIを習得」ということについては、各大学で「数理・データサイエンス・AIプログラム」が実施されています。これは「全ての大学生・高専生」ですので、やりたい人が選択するのでなく、全員が必修で学び、さらに大学生・社会人を対象に「『AIを鵜呑みにしないための批判的思考力の養成を含む』リベラルアーツ教育の充実」ということが、4年前に掲げられています。
先ほどの繰り返しになりますが、今社会にあるどんな職種や業種に就いても、「情報に関する素養」は必要です。
例えば、間もなく自動運転が実用化されますが、自動にした方が当然いろいろな効率が良くなり、事故も減っていくでしょう。しかし、ゼロにはならない。
ではなぜゼロにならないのか、法律をどうしていくのか、といったところを考えていくためには、やはり全ての国民が、一定レベル以上で情報技術の基礎的なところを知っておかなければならない。
さらに仕事の現場でも、中学・高校で学ぶいろいろな科目と同様に、あらゆる場面で情報技術は必要になってきます。
ここは私見ですが、「情報」はプログラミングだけではないとは言っても、やはりプログラミングを体験することでこそ理解できることがあると思います。
情報の技術はどんどん変わっていくので、情報を学ぶということは知識や技能だけではなく、その背景にある法律にもつながります。
20年後、今の高校生が社会の中核になった時代の情報技術に対応するために、そういった力を身に付けておいてほしいということです。
こちらは中教審の昨年2月の提言です。ここでも「文理横断・文理融合の教育大切だ」といった話や、最後には「文理分断からの脱却」といったことも書かれています。
これは、現実問題として早い段階から文系・理系に分かれた勉強をして、特に私立大学に進学する人の多くは、その入試科目にある科目だけしか学ばないからです。
本当は、全ての科目を満遍なく学んで、社会に出てほしいということだと思います。
再掲になりますが、私ども日本大学文理学部では、「情報」を選択科目に入れて、文理融合的な人材に入ってきてもらうことを目指しています。
「情報」のサンプル問題も公開します(※)。
※ https://chs.nihon-u.ac.jp/admission/system/
他の大学の取り組み状況として、現在公開されている大学から一部を抜粋してきました。文系の学部でも「情報」を選択できるところがいくつもあります。
また、すでにサンプル問題を公開している大学もあります。
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情報科学には、日本学術会議の「情報教育の参照基準」でも述べられ (日本学術会議「情報教育の参照基準」より)。その意味で、どの学問領域であっても「情報」をしっかり学んだに入学して入ってほしいですし、われわれ大学側も教育しなければなりません。「情報」が全ての学問領域で選択できるようになっていくべきだと思っています。
情報処理学会第86回全国大会 直前! 新課程「情報」2025年度入試講演より