情報処理学会第86回全国大会

研究会のこれまでとこれから

東京都立田園調布高校 校長 福原利信先生

私は、本大会の後援をしている全国高等学校情報教育研究会の会長と、東京都情報教育研究会の会長をさせていただいています。本日は、このような機会をいたきましてありがとうございます。

 

情報科出身の指導主事、管理職は非常に増えてきました。そして情報処理学会や各県の研究会も非常に頑張っています。

 

もちろん、私たち校長も各校で頑張っていますし、教育委員会や文部科学省、いろんな方が頑張っています「が」、ということで、今日、私からは、「校長ができないこと、できること」いうことについてお話しします。

 

 

校長ができないこと、できること

 

まず、1校あたりの教員定数というのは決まっていて、校長の裁量では、極端に授業数が少ない情報科の教員数を増やして手厚くすることはできません。

 

そのため、地方の先生の中には、主担当校があって、さらに週何回かは他の学校の授業に行く先生がいらっしゃるところもある、と聞いています。

 

その先生は、本務校と他の学校で使う教科書が違うため、年3回の定期テストを2種類、計6種類作って採点しなければならないなど、たいへんな状況であるそうです。

 

また、1クラス40人を1人の先生が教えるのは非常に困難ですが、少人数に分けて授業をすることは、校長が申請をして受け入れられればできることになっていますが、基準がありますので実際はほとんど不可能です。

 

さらに、情報科専任の教員が1名配置の学校が多いため、例えば産休や育休、病休等が発生した場合、代替の教員が見つからない、ということがあり、特に年度途中で時間講師を見つけることはほぼ不可能に近い状況があります。

 

本校でも、実際にそのような事態が起こったことがあり、私も、校長は授業ができませんので、実習監督に行くことしかできなかった、ということがありました。

 

一方、先ほど柴田先生がおっしゃったように、各学校で校長の権限でできることはいろいろあります。ただ、情報科出身の校長でなければ、そこまで細かいことまではできませんし、情報科の重要性というものは様々なところで語られていますが、全ての管理職にそれが伝わっているわけではありません。

 

私ができることとして、情報科の教員に仕事が偏らないように組織的にやっていく体制を作ってはいますが、今回はそれをもう一歩前に進めるために、ということでお話しします。

 

 

情報教育の推進のために「情報教育振興法」の制定が望まれる

 

日本では,1952年に「産業教育振興法」、1954年には「理科教育振興法」というものが制定されています。

 

これらの法律が成立するまでの経緯を見ると、戦前から続いていた実業教育に対する国庫補助がなくなったことを受けて、産業教育の振興のための法律を作ろうということでスタートした、とされています。

 

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この法律を制定するに当たっては、研究会の方、各校の校長先生、文部科学省の方々が尽力されたと聞いています。

 

理科についても、理科教育の振興のために、さまざまな議論を重ねて成立したと聞きます。

 

金額的に見ると、理科教育振興法は昨年度年間で約19億円なので、今回のGIGAスクールの1000万円×1000校の100億円というのは、非常に大きなお金が動いているのだな、と思いました。

 

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産業教育手当(産振手当)というのは、全国一律ではなく、例えば東京都は8%、神奈川県は職種等によって割合が変わるようです。

 

さらに、産業教育振興法は大学等まで含めているのに対して、理科教育振興法は小中高が対象、というところも違っています。

 

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ちょっと大きな話になりますが、これからの時代のために、情報教育についても、国がこういった法律を作っていくことがあってもよいのではないかと思います。

 

特に今、情報科の先生が足りないと言われていることについては、社会全体でこれだけ情報系の人材が足りないと言われている中で、教員にならないでIT企業に勤める方もさらに増えるでしょう。

 

その中で、どのように「情報」を教える人材を確保していくかというところは、まさに今から考えなければならないことであると思います。

 

さらに、今情報系の人材の育成が急務とされているわけですから、やはりそこに関しては、国策としてこのような法律があってもよいのではないか、というのが私の提案です。

 

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単に情報科教員のためだけでなく、日本の産業界を守るために

 

これは、単に情報科の教員を手厚くするというよりも、日本の国が生き残っていくために情報に関する産業が発展していくことが、今、望まれているわけですから、まずそれに関する支援を行っていくべきであると思います。

 

恒久的な法律になるのが理想ですが、教育界と産業界が協力して、健全な情報化社会の実現を目指す取り組みができるような法律になること。そして、デジタル人材の育成や教育が、産学オールジャパンで考えられることを期待しています。そのために、この情報処理学会が中心となって、そういったことの実現に向けた動きができればと思っています。

 

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もちろん、それぞれの学校の中で、一つひとつ改善していくこともありますが、私からは、研究会としての立場から、少し大きなところの話をさせていただきました。

 

まだまだ勉強不足ではありますが、先人たちが作ってくれた産業教育推進法や理科教育振興法などを土台にして、何か少しでも議論ができたらよいな、という問題提起です。

 

教員の確保というのは、まさに近々の問題で、今現在、本当に足りない状態です。教員配置に関して、「このような条件であれば可能だ」というところがあっても、地域や学校によっては非常に厳しい条件のものがありますので、どこでも同じように配置できるような法的根拠があればと思っています。

 

また、「教育の情報化」と「情報教育」ということは、しっかり分けて考えて整備していくのがよいかと思っています。

 

さらに、産業界、外部人材を活用がしやすくなる仕組みのために、教育分野に関してもお金をしっかりと取っていただけるようになればと思っています。

 

情報処理学会第86回全国大会 情報科が拓く小中高教育の未来 講演より