情報処理学会第86回全国大会

校長が果たすべき役割

工学院大学附属中学校・高等学校 中野由章先生

校長のリーダーシップとは

 

私からお話ししたいのは、「校長のリーダーシップというのは非常に大きい」ということです。校長が変わると学校の方針ががらっと変わる、というのは、教育の継続性という点から言っていかがなものかと思いますが、一方で校長が変わっても何も変わらないというのは、それはそれでおかしいだろうと思っています。

 

学校の仕事には2種類あると思います。1つは、教科や分掌など、担当者同士で考えるべきもの。一方で、学校全体の方針として校長が考えるべきものです。

 

 

先日、文部科学省からDXハイスクール(※)の公募がありました。これは、デジタルやグリーン(農学や環境学)領域など成長分野の人材育成を目指して、「情報」や数学などの学びを強化している高等学校1000校を対象に、必要な経費を国が支援するもので、1校あたり1000万円の補助金が出ます。

 

高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)

 

このDXハイスクールに、SSH(Super Science High Schools)校はエントリーできません。SSH校には、そもそもすでに様々な支援が行われているからです。

 

ただ、SSHの予算配分を担当者どうしの議論に委ねてしまうと、歪みが出てきてしまいます。理科の先生は人数も多いですが、情報科の先生は1校あたり1人いるかいないか、という状態ですし、中には数学などとの兼任の先生もいたりします。そこで「担当者同士で話して決めろ」となったら、正直、情報科にはなかなか予算配分できません。そういったところについては、校長がバランスを取りながら、学校の方針としてどうするかということを、決めていかなければならないと思っています。

 

もう一つ大事なのは、校長が暴走してしまうと駄目だということです。そして、校長には分からないこともたくさんあります。校長って寂しいんですよ(笑)。校長室に引っ込んでいないといけなかったり、出張しなければいけなかったり。実際、職員室の様子はなかなか分からないのです。

 

そういったところは、副校長先生や教頭先生が、職員室にいる先生方の担任の先生のような立場でいろんな情報を掌握されてますから、これは校長に伝えるべきこと、これは自分たちの中で解決すべきことということを整理して校長とうまく連携を取っていただくこと。また、教育委員会事務局や各学年主任、教科主任、分掌主任の先生とうまく連携して、校長を助けていただくとともに、副校長先生や教頭先生のしんどい部分を校長が引き受ける、という相互信頼関係が非常に重要だと思っています。

 

責任をとるのが校長の仕事。先生方には思い切って挑戦してほしい

 

また、現場の先生方、職員の皆さん方に申し上げたいのは、学校で責任を取るのは校長だけ、ということです。逆に言えば、全部校長に責任を負わせればいいと言うか、校長しか責任を負えないのです。ということは、先生方が責任を取ることはないのです。

 

もちろん、故意であったり、重過失があったりすれば話は別ですが、善管注意義務を果たしているのであれば、責任を取るのは校長だけです。

 

ですから、現場の先生方には、思い切っていろいろなことを挑戦していただきたいと思います。「これをやって、失敗したらどうしよう」などと心配する必要はありません。失敗して叱られるのは校長なのですから、できることは躊躇せずやればよいと思います。

 

 

ちなみに、明日3月18日に山梨大学のやまなし情報教育推進室のフォーラム(※2)が対面とオンラインのハイフレックス方式で開催されます。また、3月26日には、東京都高等学校情報教育研究会の研究大会(※3)があります。こういったところにも、ぜひご参加いただければと思います。

 

※2 第1回やまなし情報教育推進室フォーラム

  

※3 2023年度 東京都高等学校情報教育研究会研究大会

   

大学・企業の方は学校現場のニーズを理解して

 

また、大学・企業の皆様には、学校現場のニーズをご理解いただきたいと思っています。大学や企業の方が、「うちはこんなことができるから、高校でやらせてくれ」「支援してあげるよ」ということを申し出てくださるのは大変ありがたいのですが、ただ、実は学校現場が困っているポイントとずれてることが結構あります。

 

ですから、まずは学校現場がどうなっているのかという、学校現場のニーズをご理解いただき、それに基づくご支援をぜひお願いしたいと思っています。

 

また、学校現場というのは、どうしても目の前の生徒たちや先生方、保護者などという、非常にミクロなところに視点が狭窄しがちです。ですから、もう少し大所高所から客観的に俯瞰して、「もっとこうするといいんじゃないですか」という形でのご助言をいただけると大変ありがたいと思っています。

 

 

最後に、今申し上げたことをまとめると、このような形になるかと思います。学校を支援する、文部科学省や教育委員会などの教育行政、大学・企業・情報処理学会のような諸団体、そして学校が相互連携して、お互いがお互いを頼るという関係であるべきかと思います。

 

DXハイスクールで採択された学校が、これから1000万円をどのように活用するか。これは結構自由度の高いお金ですので、情報処理学会でも相談や支援の窓口を設けて人的支援も行うことにしています。こちらについては、ぜひ情報処理学会のホームページ(※4)をご覧いただければと思います。

 

※4 高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)に関する意見表明(2024年1月30日)

 

情報処理学会第86回全国大会 情報科が拓く小中高教育の未来 講演より