情報処理学会第86回全国大会

入学者選抜における「情報」導入の狙い

広島市立大学 井上智生先生

私は広島市立大学情報科学研究科の副研究科長で、入試を主に担当しています。私からは、本学情報科学部が入試に「情報」を導入した狙いについてお話ししたいと思います。

 

はじめに、広島市立大学について簡単にご紹介します。平和都市広島で、科学と芸術を軸に世界平和と地域に貢献する国際大学として設立されました。国際学部、情報学部、芸術学部の3学部で構成され、今年創立30周年を迎えます。

 

情報科学部は定員210名で、情報工学、知能工学、システム工学、医用情報科学の4学科構成になっています。入試は一括募集で、2年生で学科配属になります。

 

 

情報入試導入までの経緯

 

今回、個別入試で「情報」を導入することについては、大学として早めに準備するために、3年前ほど前に検討を開始しました。そして、2025年度入試の予告としては結構早い時期だと思いますが、2022年7月に、2025年度入試の後期日程の個別試験で「情報」を導入することを発表しました。

 

この辺りの経緯は、当時の入試担当で、現在学部長・研究科長の石光が、情報処理学会学会誌に寄稿していますが、文字通りの大激論の末に情報導入を決定しました。

 

その後、共通テストと個別試験の「情報」の配点を発表し、2023年3月に情報科学部の学部長から受験生に向けたメッセージを出しました。そして、模擬問題をA・Bの2セット作って解説会を行いました。

6月には、この模擬問題の解答例と出題意図を公表し、12月には、旧課程措置として、旧課程生も「情報」で受験できることを発表しました。

 

 

情報入試の狙いが、このスライドの上の方に書いてある3つです。

 

まず、先ほど紹介したとおり、広島市立大学は30年前から情報科学部を持っている、いわば情報系学部の老舗の一つです。

 

当時は情報系の学部・学科はまだ少なかったですが、広島市が先見の明を持って開設しました。このように、情報系人材を長年にわたって輩出してきた学部の責務として、情報系人材を求める社会のニーズに応えるべきだということで、導入を決断しました。

 

また、「情報を学びたい」「情報を得意にしたい」という学生をしっかり獲得しようということ。そして、地域の皆さんと一緒になって、情報系人材をしっかり育てて社会に送り出したいという思いがあります。

 

 

そういった思いを込めて出したのが、2022年3月の情報科学部長のメッセージです(※1)。2段落構成になっていて、前半は先ほどご紹介したように、私たちはずっと前から情報を専門としている大学・学部です。しっかり基礎を固めて、情報科学で未来を切り拓ける人を育てています、ということ。

 

後半は、高校生に向けて、情報を得意にしたい、情報が好きという生徒さんはぜひ来てくださいね、というメッセージになっています。

 

合わせて、近隣の高校の先生方には、「一緒に情報系人材を育てましょう」ということをお願いしています。「情報が好き」という生徒さんに来てもらいたいので、ぜひ「情報」で受験させてあげてほしい。そのために、早く模擬問題を公開して解説会を実施し、これを教材に使ってください、ということを伝えるために公表しました。

まだまだ高校現場では「情報」の教材は十分ではないと聞いているので、ぜひこちらを参考になさってください、ということです。

 

  ※1 情報科学部からのメッセージ

 

 

後期日程は「情報」に特化した入試に。「情報」が好きで得意な人に受験してほしい

 

具体的な入試の内容がこちらです。

 

まず一般選抜には前期日程と後期日程がありますが、今回ご紹介するのが、後期日程の個別学力検査です。これまでは数学を課していましたが、「情報Ⅰ」のみ、300点の配点になります。

 

後期日程は、共通テストでも「情報Ⅰ」は必須で、数学・情報I・外国語が各200点、合わせて600点ですので、900点満点中「情報I」の配点が500点と半分以上の配点になるので、この辺りがけっこう話題になっています。

 

もう一つ、前期・後期とも共通テストから国語は思い切ってなくしました。この件に関しては、後半のパネルで時間があれば説明したいと思います。このように、後期は「情報」により特化した形にしました。

 

 

本学全体で募集人員が210人で、このうち後期日程は35人です。内部事情から言いますと、まず試行的に、このくらいの割合を、「情報」でしっかり選抜してみましょう、ということです。

 

 

最初にご紹介したとおり、本学は4学科一括募集で、2年次から希望や成績に応じて学科配属になります。

 

情報科学部の入学者の受け入れ方針としては、アドミッションポリシーをしっかり作って、常にこれに基づいて入試を実施するように工夫しています。

 

アドミッションポリシーは、大きく4つに分かれていて、「関心・意欲」と学力の3要素に対応する「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・協調性」となっています。

 

ポイントとしては、まず「関心・意欲」の視点で、情報工学・情報科学に関心があって、しっかり勉強したいと思っている人。そして、学んだことを社会に役立てたいと思っている人、ということです。

 

これを軸にして、「知識・技能」、そして「思考力・判断力・表現力」「主体性・協調性」の部分についても、「情報科学を使って社会問題を解決したい」という意欲を持っているか、普段からそういう意識で行動しているかを入試で見よう、ということになっています。

 

 

総合型選抜は、情報科学にどっぷりつかっている人が、自分の実績をアピールする場として

 

総合型選抜についてご紹介します。こちらは、先ほどの小宮先生のお話をうかがって、電通大さんの総合型選抜と似ているなと思いました。

 

本学では、入試区分ごとに「特に求める人物像」を用意して、「特にこの入試ではこういう人を重点的に評価します」ということを明示して受験してもらうようにしています。

 

情報科学部の総合型選抜の「特に求める人材像」は、「普段からプログラミングをしたり、情報技術に興味があって活動したりしているという人」としています。いわば高校時代から情報科学にどっぷりつかっている人が、自分が普段やっていることをアピールする場として提供しています。ですから、まず1次選考で活動報告書や志望理由書にしっかりその活動を書いてもらって、2次選考では面接と、それに関する口頭試問を行います。

 

面接では、まずはプレゼンをしてもらって、その後口頭試問で活動内容などを深く掘り下げて聞き、どれだけ情報に関して知識・技能や思考力を持っているかを聞いていくことになります。

 

この口頭試問は、受験生がプレゼンした内容について、面接者がどのような質問をするのか、事前に質問を準備できないので、どのような質問をすればいい生徒さんに来てもらえるか、試験する側も日々研究しています。

 

ちなみに、この総合型選抜で入学した学生には、このあと紹介する「イノベーション人材育成プログラム」を優先して受講してもらうことになっています。

 

 

入学後の教育プログラム~飛び級や地域連携など、様々な形で情報科学をしっかり学ぶ

 

ここまでは、入試の方法についてお話ししましたが、入学した学生に情報科学をしっかり学んでもらうために、それに合わせた教育プログラムを作っています。

 

1つは、今お話しした「イノベーション人材育成プログラム」です。

 

ざっくり言うと、スライド左側のオレンジ色の「革新的ICT実践特別コース」が情報系、青の「革新的情報科学特別コース」が数学系のコースです。それぞれの専門で、特にこの分野が好きだ、得意だ、と言える学生を育てたい、ということで、選抜コースになっています。

 

 

このコースで勉強して一定の成績を修めた学生は、飛び級制度を使って4年生をスキップして大学院に推薦します。学部を卒業しないで大学院までの5年間でしっかり学んで、情報系のプロになってもらおうという狙いのカリキュラムです。

 

本学には、もともと早期卒業制度があり、成績優秀者は3年間で履修・卒業して大学院に進学できますが、このカリキュラムでは、卒業ではなく飛び級という形で、5年間の学びが軸になっています。

 

今年度の実績ですが、ICT実践コースは21名、情報科学コースは7名が修了しました。両コースにまたがることもできて、今回は5名が両方のコースで認定されています。

 

また、実際は本年度が実施1年目ですが、飛び級で大学院進学を認定された学生は5名いて、優秀な学生がうまく育っている、と感じています。もともと特定の分野を得意とする人を育てることを目指していましたが、結果的に、全ての分野で立派な成績を収めている学生が多いです。

 

 

もう1つが、地域社会と連携した教育プログラムです。

 

広島市の大学なので、地域の自治体や企業に協力してもらった授業を、学部と大学院の両方で展開しています。学生に対しては、大学で学んだことがこれだけ地域社会に役立つのだ、ということを授業の中で体験してもらう。企業の方には、共同研究のきっかけにしてもらうとともに、授業に加わることで優れた人材を知っていただき、採用につなげてもらう、という狙いがあります。

 

 

A、B、Cの3段階のタイプのプログラムを準備して、A(出張講義)→B(演習)→C(インターン)とだんだん深く連携する形になっています。これらがそれぞれ単独で学部と大学院の科目に設置され、展開しています。

 

 

高大連携の取り組みも

 

また、高校との連携で情報系の人材を育成も進めています。

 

1つはSSHに採択されている広島県立西条農業高校との「高大連携および科学技術人材育成協働研究協定」で、高校3年生の生徒に研究室に来てもらって、それが高校の授業単位になるという仕組みを作っています。来年度から2名の受け入れが始まります。

 

我々としては、そこで高校生にスマートアグリ(スマート農業)などの情報系の学びを体験してもらおうと考えています。高校と連携して人材育成しながら、高大接続の在り方や、今後新しい入試を開発していくための方法研究をしよう、ということで協定を結んでいます。

 

もう一つが、広島県の教育委員会との共催の「広島県科学セミナー」で、本学の教員が高校生の探究活動を我々が支援することに取り組んでいます。

 

最終的には、高校生の生徒さんに本学に来てもらって、ポスター発表をしてもらいますが、単に会場を提供するだけでなく、年度の初めに高校の先生方に来ていただいて探究活動の指導の助言や進め方の協議をして、最後に発表をまとめるための準備もお手伝いしています。

 

ここでは、地元企業さんに声を掛けて、特別賞を出してもらっています。本学部からは、情報科学部賞を出しています。今年は162名の生徒さんが参加して、情報系では8チームが発表してくれました。

 

 

入試はフィルターからマッチングへ。情報人材育成には高大接続、産学連携が不可欠

 

ここまで駆け足で、広島市立大学の入学者選抜における「情報」導入の経緯や、情報人材育成に関する取り組み、教育プログラム、高校との連携についてご紹介しました。

 

少子化が進み、かつ情報系の大学・学部は、周りにもたくさんできて、本学だけが情報系というわけではない時代になりました。情報人材をしっかり育成するためには、大学だけで閉じるのでなく、産学連携・高大接続といった形で周りと連携しなければなりません。さらに、入試がフィルターであった時代は終わり、マッチング、つまりいかに本学で学びたいという生徒に来てもらうか、という時代になったと認識して、今まさに改革に取り組んでいます。

 

現在、広島県内の高校生・教員を対象に、「情報」のプログラミング講座の実施準備をしています。この詳細については、時間があればパネルの中で紹介したいと思います。

 

情報処理学会第86回全国大会 直前! 新課程「情報」2025年度入試講演より