情報処理学会第86回全国大会

パネル討論 直前! 新課程「情報」2025年度入試

司会     : 日本大学                谷 聖一先生

パネリスト: 神奈川県立生田東高校   大石智広先生

      東京都立六本木高校   千葉 緑先生

      電気通信大学      小宮常康先生

      広島市立大学      井上智生先生

 

情報入試の導入に対する期待と懸念

谷先生

パネルを始める前に、先ほどの私の話の最後に私立大学の情報入試の導入状況についてお話ししましたが、既に東北学院大学や京都産業大学では、サンプル問題を公開しています。また、南山大学が3月26日に公開予定ということです(※1)。

 

※1 東北学院大学 2025年度一般選抜サンプル問題『 情報 』 

  京都産業大学 2025年度入学者選抜「情報」模擬問題(サンプル問題) 

  南山大学 教科「情報」サンプル問題   

 

また、大学入試センターが開催する全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会(※2)で、「個別入試への情報出題」というセッションを実施します。こちらは5月23日(木)10時~12時の予定ですので、そちらでも議論ができるかと思いますので、ぜひご覧いただければと思います。

 

※2 全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 

 

 

この後は、「直前!新課程『情報』2025年度入試」ということで、高校の先生方からの期待や要望、大学側としてのメッセージをもとに議論できればと思います。

 

 

前提としては、教科「情報」による大学入試ではありますが、大切なことは、高校での「情報」の学びが良い方向に向かうことであると思います。その中で、今後どのようなことが期待されるのか、ということが明らかになればと思います。

  

 

 

それでは、パネリストの皆さんからこのパネルに向けてということで、簡単にお話をいただこうと思います。大石先生から、よろしくお願いいたします。

 

大石先生

今日の講演では「小さな探究」ということをお話ししましたが、パネルに向けては「大きな探究」の話をしたいと思います。ここで言う「大きな探究」というのは、「なぜ情報を学ぶのか」ということであると思います。

 

これについては、大人が大人に説明する場面、大人が生徒に説明する場面など、いろいろ皆さんがいろいろ苦労され、納得できるように工夫して来られたと思います。

 

その一つの答えとして、今私が強く思っているのが、先ほど谷先生が言われた「受験があるから学ぶものになってほしくない」ということです。

 


そういった視点から、「受験のための授業になってはいけない」という記事がいろいろ書かれていますが、一方で、受験科目に入らないと、「なぜ情報を学ぶか」という問題があることを発見すらしない自治体や学校があったり。先生方がいたりします。

 

「情報をなぜ学ぶのか」「どう教えるのか」ということが、探究のスタンダードになってほしいと思っています。

 


千葉先生

本校は、そもそも入試対策をほぼメインにしておらず、「情報Ⅰ」以外は、全て本人たちが「この授業を受けたい!」あるいは「この先生の授業は楽しそうだから!」等の理由で選択するということになっているので、入試とはあまり関係がありません。

 

ただ、大学入学共通テストを受ける上で、生徒たちがどのように対策をするのかを考えてみると、学校で「情報Ⅰ」の授業を受けたのち、

 1つ目は、受験対策は全て独学でやるという方法。

 2つ目は、「情報Ⅱ」など「情報」に関係ありそうな科目を受講し独学でやる方法。

 3つ目は、学校側で受験対策的な科目を設置して、その科目を受講する方法。

 4つ目は、最近増えてきたプログラミング塾などに行って勉強するという方法。

このどれかの方法で対策を行い、受験をするのではないかと思っています。

 

 

 

ただ、本校の「情報Ⅰ」の内容は、多くの部分が必要最低限の内容で指導をしています。他の学校では、例えば2進法等の計算方法等の難しい内容もしっかり扱って授業を行っていると思うので、学校の授業でもある程度は対策できるのではないかと思います。

 

小宮先生

情報入試がうまく回って持続するためには、情報入試対策の良し悪しが重要であり、この点を心配しているところです。その意味で、受験生には入試対策をちゃんとしてほしいような、ほしくないような、というところがあります。

 

その理由として、受験者にとっては対策できる方がありがたいですし、情報入試もそれなりに普及するでしょう。そうなると大学側も嬉しいですが、一方でそれによって変な入試対策のテクニックのようなものが発達してしまうと、思考問題が単なる暗記問題になってしまったり、あるいはメジャーな科目にはなっても、「情報」はただの受験科目だ、という認識が広まってしまったりするのはとても嫌だな、と思っています。

 

 

理想論としては、知的好奇心を維持させつつ、自然に情報入試に対応する力が付くとよいと思いますが、「情報Ⅰ」は2単位と聞いていますし、日頃の学習と入試対策の内容はまた違うでしょう。

 

一方で、ちゃんと情報が好きな人を積極的に増やしたい、という気持ちもあり、そうすると、ただ待っているだけではよくないだろうな、と思います。

 

入試対策の内容や方法はいろいろあり、共通テストと個別入試でもまた違うかもしれませんが、私自身は共通テストの「情報」については、対策することはあまり心配していない、というところです。

 

 

 

井上先生

こちらのスライドは、先ほどご紹介したように、本学が「情報」を入試に導入した狙いです。

 

 

そして、下のスライドが別の視点から、もう少し現実的な課題や狙いをまとめたものです。

 

これまで情報科学部は受験者の学力を測るために、個別学力試験では情報科学に一番近い数学を課していました。

 

ところが実際は、「数学で点数が稼げるから」という理由で受験する人が多いのです。入学した学生の中には、「パソコンは嫌い」とはっきり言う者もいます。

 

苦々しく思う一方で、少子化に加えて情報系の学部・学科が急増して、学生の奪い合い状態になっている中で、しっかり「情報」ができる学生を獲得して育てたい、という思いがあります。

 

さらに、高校側の現実問題として、先ほど受験対策というお話がありましたが、入試があるからこそ勉強する/させられる、ということはあると思います。また、「『情報』が大事」と言いながらも、現場ではきちんと教えられる教員が足りていない、ということをよく聞きます。

 

そういった中で、広島市立大学情報科学部としては、あえて「入試対策をしっかりしてほしい」と申し上げます。わざわざ「情報」を選んで、対策までして受験してくれるというのは、よほど「情報」が好きで得意で、うちの大学のことが好きなのだろう、と。

ですからその分、高校と連携してサポートすれば、情報が好き、得意だという子を送り込んでくれるだろう、という狙いです。 

 

 

次のスライドが、情報科学部入試の設計の基本的な考え(アドミッションポリシーのもとにあるもの)です。「高校での学びを大切にする」という試験科目・試験内容・選抜内容の工夫をしています。

 

総合型/学校推薦型選抜では、とにかく高校のときから「情報」を一生懸命学んで、それを大学の学びにつなげようとしているかを見ます。

 

一般選抜で、今回取り入れる個別入試に関しては、「情報Ⅰ」の教科書を徹底的に調査して、できるだけ共通部分を選んで入試にする、という形で模擬問題(※3)を作りました。

※3 https://www.hiroshima-cu.ac.jp/guide/category0001/c00038636/

 

特徴的なのは、プログラミングをノーコードの問題にしていることです。アルゴリズムをきちんと理解してるかどうかを問うために、言語に依存しない・言語の暗記にならないような問題を作っています。そして、設定・説明文の多い設問にして、しっかり読んだ上で解いてもらう問題を工夫しています。 

 

 

高校現場の受験指導を応援するために、昨年12月末に入試対策講座を試行しました。主な対象は、受験学年となる高2生で、200人強の生徒さんに来てもらいました。情報科の指導を担当している先生の参加もありました。おかげさまで大好評でした。

 

 

参加した方からは、「何を対策したらいいか分からなかったけれど、今回の講義でよく分かりました」「プログラミングは苦手だったのですが今日を通してしっかり理解することができ、問題もすらすら解けるようになりました」という感想をいただいています。

 

きっかけを与えてあげることで「情報」を気に入って、「情報」で頑張ろうかな、と思う生徒さんが増えたり、情報科を担当する先生方の励みや参考になったりすればと思います。

 

今後も、広島県の教育委員会とも連携しながら、「入試」ということを前面に出すのでなく、情報の勉強をしっかりやろうという形で、広島県内何か所かで実施していきたいと思っています。

 

 

過度な入試対策にならないような入試とは

谷先生

小宮先生と井上先生は、お二方とも情報系の学部・学科で、私自身も文理学部の情報科学科ですので、総合型選抜では、その場でプログラミングのコードを書いてもらうような入試もしていますが、今日の私の立場としては、情報の専門ではない、特に理系ですらない学部・学科の立場で、文理横断・文理融合と「情報」の関連、というところでしょうか。

 

先ほどのスライドで言えば、「文理分断からの脱却」というところですね。高校の「総合的な探究の時間」では、いろいろなことが行われています。

 

調査をしたり、調査で取った結果をデータとしてまとめたり、ということばかりが探究ではないと思いますが、広い意味では必ず「情報」に関わる知識や技能を使います。

 

そこで、実際にいろいろ手を動かして、現実の問題解決と「情報」の学びを両方やってきた人を、入試でうまく評価できるようになっていけたら、と思うのですが、入試問題というと、我々はどうしても試験時間60分で大問を4問、という出題をしてしまいます。

 

そういった問題で、本当に「情報」をきちんと学んできた人が力を発揮できるのか、というところが、我々の課題であると思っています。

 

 

一方、共通テストには「情報Ⅰ」が入って、私立大学の共通テスト利用型の入試では「情報」を選択科目に入れるところが大学も多いですが、個別入試でも「情報」を選択科目として出題する大学があります。

 

ただ、人文系や社会系の学科で、情報が専門分野の教員数が少ない場合、作題はかなり難しいと思います。個別入試だけでなく、共通テストには「情報Ⅰ」がありますから、うまく活用することでいい形ができるのではないかと思っています。

 

※クリックすると拡大します

  

ということで、パネルとしては、しっかり「情報」を学んでほしいけれど、変な形の「入試対策」はしてほしくない。もちろん、ある程度の対策はしてほしいけれど、それはあえて言えばということで、それぞれの高校でしっかり「情報」を学んでもらうことのきっかけの一つ、ということになると思います。

 

この「過度に入試対策にならないための情報入試」というのは、どのような可能性があるかということについては、先生方からいかがでしょうか。

 

 

小宮先生

私自身、その辺りのいいアイデアがないのですが、もしかすると、「情報」というのはそもそも対策がしにくい科目ではないか、という感があります。

 

先ほど谷先生のお話にもありましたが、結局、問題を解くよりも、実際にプログラミングを経験したほうが、手っ取り早くしっかり理解できる。そもそも暗記すればよい、ということにはなりにくいような気がします。

 

今、私は対策する側の話をしていますが、もしかしたら、作問側が対策のしにくい問題を作り続けることができたら、それでよいのかもしれません。しかし実際のところ、「情報」の作問というのはけっこう難しくて、今後このレベルを維持するにはどうしたよいか、ということについては我々も心配しているところではあります。

 

さらに、今後情報入試がメジャーになって、こちらが思いもしないような試験対策のための穴埋めの解き方やアルゴリズムのようなものが考えられてしまったらどうしたらよいのか、といった懸念もあります。

 

 

大石先生

高校の立場から見ると、「情報」の問題はあえて対策しづらく作っているのだろうな、という気がしています。例えば、「共通テスト用プログラム表記」も、あえて言語として完成しないことを目指しているのではないか、と見ています。ですから、それ自体を勉強するのでなく、PythonでもJavaScriptでもよいので、何らかの言語をきちんと勉強したら解けるようになるよ、というメッセージが込められているのではないか、と。

 

最初このプログラム表記の仕様を見たときに、「全然足りていないじゃないか」とか思いましたが、いや、これはわざとじゃないか、ということに気が付いてからは、あえて対策しづらいようにしているのだろうな、と思います。ある先生が、どこかで「結局(共通テストの試作問題は)実力を問う問題になっていて、対策できないようになっている」と書かれていましたが、その通りだと思います。

 

ただ、私自身、作問したことがありますが、このレベルの問題を作り続けるのは相当難しいのではないかという不安はありますね。

 

また、そもそも「育てたいこと」と「受験に使える精度で測れること」というのは、必ずしもイコールではないので、そこが重なる部分だけを出題することになると思います。

 

例えば、「情報デザイン」の問題が出しにくいというのは、もちろん「情報デザイン」の力は育てたいけれど、生徒の人生を左右するような重要な試験において精度良く測れるような分野ではない、というところがあると思います。

 

教える側として、受験対策を意識すればするほど、精度良く測れることに偏っていってしまうということは、意識として持っていなければならないと思っています。

 

 

谷先生

今のお話の中で、「精度良く測れる問題」というのは「情報」の広い領域の中でも分野が限られているのではないか、というお話がありましたが、そのあたり、出題する側からは(あまり詳しいことは言えないかもしれませんが)いかがですか。

 

実際、「情報デザイン」は出しづらいけれど、ここは比較的出しやすい、というところはあるのではないかと思いますが。

 

 

井上先生

確かにありますね。私たちは情報科学部として、情報を教えるということははっきりしているので、今のところは、そこに関わる分野から出題しますよ、という覚悟を決めて、そこから出すようにすることで、入試としての精度を保つように工夫しています。また、ここからは出しませんという分野も、もちろんあります。その辺りは、入学してきてから何を学ばせたいかということと関係するので、そこを手厚くしたいとは思っています。

 

先ほど「対策」の話がありましたが、私も先生方と同じく、情報そのものが、そもそも対策しづらい学問分野であると思います。

 

というのは、とにかく新しい分野なので、時代とともにどんどん変わってしまうからです。例えば、ChatGPTの話なんて、1年ちょっと前までは話題にもならなかったのに、ここへ来て急に騒ぎになりました。学部内でも、オンラインでテストをやろうとしても、勝手に答えさせるプログラムを組んでしまう者がいたりして、どうしようもないわけです。

 

そんな時代なので、何を問うかというときには、先ほども申したように、「興味を持って試験問題を解きたいと思ってくれているか」という評価尺度に軸足を置かないと、何をやってもなかなかうまく測れないと思います。理想的には、解いていて楽しい、解けて嬉しい入試問題をやりたいと思っています。ちょっと話はそれましたが。

 

どの分野が出題しやすくて、どの分野が出題しにくいか、というのは確かに難しく、一概には言えないです。我々は専門的に情報を研究していますが、「専門の人が知っている○○を使ったら解ける」という問題ではダメで、知っている・いないに頼らず、本当に純粋な思考力を問う問題にしなければならない。一方で、では、そもそも勉強してそういう力を付けることはできるのか、という問題はあるかもしれませんが。

 

実は、プログラミングにしても、知っているアルゴリズムを、単にそのままコピーすれば済むということはなく、自分の使いたい形に少し直さなければいけないですよね。その意味で情報学は、専門的に学ぶときにも、結構メタな力を必要としています。そうすると、純粋な思考力を問う、というのは間違ったことではないだろうなと思います。

 

ただ、正直なところ、作問を継続するのは難しいです。作問が得意な人はいますが、あれはセンスが必要でしょう。一方で、作問方法論のようなものが出てきてしまうと、おそらく対策されてしまうので、なかなか悩ましいところです。

 

ですから、大学のスタッフ自身もいろいろ対策をしないといけないという気はしています。

 

 

高校現場への情報入試の影響は…

 

谷先生

今までは出題側の話でしたが、高校側の話題に変えたいと思います。

 

学校によって、進学率等でいろいろ違いがあるかと思いますが、ご自身の「情報」や探究の実践に入試の影響はあるのか、ないのか。また、実際の影響の有無にかかわらず、影響されずやっていかれたいのか、といったことをお話しいただけたらと思います。千葉先生、いかがでしょうか。

 

 

千葉先生

私の学校は、そもそも入試をメインにしているわけではないので、入試だからどうこう、ということはありません。「情報Ⅰ」も「情報Ⅱ」も、ベースには算数、数学があって、それが分からないと、そもそもその意味が理解できないため、ほぼ全ての問題が解けないことになってしまいます。

 

さらに、最近の共通テストの問題は、文章量が多いため文章を読み解く力がないと、そもそも何を問われているかが理解できないということになってしまいます。生徒からすると、問題を解く前に、まず文章を読まなければならず、それだけで疲れてしまって…ということになります。本校について言えば、受験対策に特化しているわけではありません。

 

 

谷先生

先ほど広島市立大学さんは、共通テストの国語は採用しない、ということでしたが、もしかすると、「情報」の問題に国語的なものがあるのでしょうか。また、今算数のお話も出ましたが、現行の学習指導要領では、中学校の数学や小学校の算数に、統計の基礎的な内容が下りてきていていますよね。そうすると、中学校の数学で躓いた人たちが、高校で「情報」を学ぶ際のサポートのようなことは、結構大切になるのではないでしょうか。

 

 

千葉先生

六本木高校では、不登校の生徒も多くいるため小学校・中学校の学習内容が分からない生徒がいることを前提に授業を作っています。そのため、「分からない人もいるかもしれないけど、大丈夫。みんなで一緒に頑張ろう!」というスタンスで全ての授業を行っているので、一般的な学校とはスタンスが違うかと思います。

 

そのため、授業の展開は「このプログラムはこういう意味なんだよ。こうやって考えてごらん」と丁寧に説明して、やってみたら「おお、できた!」となるようにしています。

 

 

大石先生

本校も、共通テストを受けるのは学年で数人なので、その意味で言うと、授業で受験対策が求められたり、それによって授業の内容が左右されたりすることはありません。

 

ただ、後付けになってしまいますが、先ほどお話した「小さい探究を多く取り入れた授業作り」というのは、共通テストの問題の形の流れと同じなので、その意味では、つながると言えると思いますが、それが実際の対策になっているのか、と言われると、よく分からないところはあります。

 

それでも、入試のパワーは凄いな、と感じるのは、共通テストに「情報I」が入ったことで、本校に見学に来られる地方の自治体がすごく増えました。大体が教育委員会と進学校の先生がセットで来られて、「受験対策はされていますか」と聞かれるので、「いや、本校は(共通テストの受験者がいないので)その必要はありません」と答えるのですが。

 

ただ、情報科の授業を見せると、やはりインパクトを受けて帰って行かれます。そういった地方自治体は、そもそも情報の教員がいなかったり、全員がもともとは他教科の先生が情報科を担当していたり、というところなのですね。

その意味で、入試というものがもたらす影響力というのは絶大で、それが良い方向に行く可能性もあれば、先ほどからいろいろな先生が危惧されているように、一人歩きして、とんでもない方向に行ってしまう、ということもあるかもしれません。

 

また、保護者や社会が求める授業というのが、「入試に対応できるもの」ということになって、そういう授業をする高校に生徒が集まるようになってしまうのではないか、という懸念もあると思います。こういったところを、どのようにうまく乗り切っていけばよいのかということを、答えが見つからないですが、考えているところです。

 

 

谷先生

受験対策はなかなか難しいかもしれませんが、入試に入ったことで、多くの学校でこれまで以上にしっかり「情報」を教えるようになったので、そこをしっかりやってもらえれば、結果的に良い方向に行くのですが、そうなると、「対策」に走ってしまうということが心配だ、というところですね。

 

 

大石先生

はい。そしてもう一つ、これは対策のしようがないことなのですが、生徒の方が「じゃあ、『情報』で受験するのはやめます。数学とか他教科で受けます」という感じになってしまって、入試に取り入れるために先生方が苦労されたのに、元のもくあみになってしまう部分もあります。

 

さらに、対策されたらされたで。言い換えると他教科のように、入試に出るところだけをパターンで勉強するものになってしまう。そこのバランスがすごく難しいと思っています。

 

 

谷先生

ここで会場のほうから、今のパネル、または最初の講演について質問されたいという方がおられましたら、お願いいたします。

 

 

Q1.関東圏 市会議員

高校の先生お二人にお聞きしたいのですが、「情報」の授業はパソコンで行うのが基本だと思いますが、これをスマホでやる、というのは可能なのでしょうか。少し前までは、家電量販店でも安いノートパソコンがあったと思いますが、最近は高額なものしか置いていないように思います。それもあって、若者にはノートパソコンはあまりなじみが内容にも思いますが、いかがでしょうか。

 

 

A1-1.千葉先生

私は去年この学会で「情報I」の、今年は「情報Ⅱ」の授業事例の発表をしていますが、スマホだと、多分難しいです。

 

私の学校の生徒も、一人1台端末のiPadを持ってきて、パソコン室ではデスクトップパソコンを起動して、タブレットとの2画面で行っています。

 

iPadでマニュアルを見ながら、デスクトップパソコンでプログラムを組んだりするのですが、このiPadの画面がスマホになると、小さすぎて見にくく、プログラムを打つのもやりにくいです。「情報Ⅰ」でプログラミングをやらなければいけないので、同様です。そのため、可能・不可能で言ったら、可能ではあるが、難しいと思います。

 

 

A1-2.大石先生

スマホでできるものもある、いうのが正直なところかと思います。本校は、パソコン教室で授業をしてるので、ノートパソコンと、1人1台端末のiPad、さらに個人持ちのスマホとの計3台使える状態で授業をしています。学校の指導としては、「スマホは使ってはダメ」ということは何となく言っていて、「授業中はiPadを使いましょう」と言っています。

 

私自身は、生徒がiPadの代わりにスマホを使っていても、あまりとやかく言わないようにしています。むしろ、どの端末を使うかを適切に選択できる能力を育てることが大事ではないか、ということがあるので、あえてあまり言いません。

 

ただ放っておくと、生徒はどう見ても適切ではないのにスマホに流れていくところがあるので、「ここはiPadでやろう」とか「ここはキーボードで打った方がいいよ」という形で、声をかけています。

 

ですから、スマホだけで授業ができるか、と言われたら、それは無理ですが、一部はスマホでできる、ということは言えます。ただ、スマホが常に適切かというと、そうではないですね。

 

例えば、先ほどの講演でお見せした長文を読むときにも、「文章はiPadで見て、答えはパソコンに打とうね」と言っても、あの細かい字をスマホで読んでいる生徒もいます。読めればいい、というところはありますが、何も言わなければ、どうしてもスマホに寄っていくので、そこはきちんと指導しないと、適切にデバイスを選ぶ能力は育たないと思います。

 

 

Q2-1.私立大学情報科教員

今回ここへ来るにあたって、何人かの先生に「貴学では情報入試はやらないのですか」というようことを聞かれました。個人的には、自分が情報学専門なので、情報入試をやりたいとは思っていますが、大学の内情を考えると、なかなか難しいところがあります。

 

そこで、これは主に小宮先生に質問するのがよいかと思いますが、ご発表の中でも、作問が非常に大変だ、ということをおっしゃっていましたよね。確かに、自分の大学の中で作問をしようとすると、作問できる人が果たして何人いるだろう、と考えてしまいます。

 

一方で、数学であれば長い歴史がありますし、本当はいけないのかもしれませんが、ある程度問題がパターン化している面がありますよね。先ほどのお話では、入試問題の対策ができる方がよいのか、いや、できない方が理想だとか、かなり理想と現実のはざまで揺れていらっしゃる感がありましたが、実際に作問をされた苦労話や、今後作問委員会のようなものを維持していくことについて、何か知見がありましたら、お答えいただければと思います。

 

 

A2-1小宮先生

その辺りの知見は、これから作っていかなければと思っています。ちなみに、私自身は作問が苦手なので、なおさら作問を続けていく難しさを感じています。

 

そもそも数学が専門の先生方は、入試問題の作問経験はけっこう豊富です。ところが、情報分野の先生は、入試と言ってもこれまで数学などでちょっと関わることはあっても、主体ではありませんし、大学院の入試問題は作ったことがあっても、高校から来る人を選抜する経験の蓄積が全くありません。

 

ですから、まずはその辺りを作っていく必要があり、それに加えて「情報」ならではの作問の大変さがあります。 ですから、こちらが根負けして妥協したような問題を出し始めてしまうと、ひょっとするとどんどん解かれてしまうような問題になってしまいますし、逆に変に難しいひねった問題を出すようになると、これも非常にまずい。しばらくは体力勝負ですので、皆さんにも育てる気持ちを持って見守っていただくというのが、一番の対策かもしれないと思います。

 

 

Q2-2.私立大学情報科教員

ありがとうございます。もう1点だけ、半分冗談でお伺いしますが、例えばキーボードの図があって、一部、虫食いになってて、「ここは何のキーでしょう」みたいな問題というのはいかがでしょう。なぜこんなことを言うかというと、プログラミングをする人であればすぐに分かると思いますが、プログラミングをしていない人や、フリック入力がメインの人にはわからないと思うのですね。ただ、それこそすぐに対策はできてしまいますが。

 

 

A2-2.小宮先生

高校で学ぶときは、どんどんそういうことをやっていただいてよいと思いますが、入試となると、少なくとも電通大では、まず間違いなく出さないと思います。

 

 

「情報I」をきちんと学んできたことが正しく評価される問題を

 

谷先生

ここで稲垣先生にお聞きしますが、良い入試、良い授業と、その間の入試対策に関して、何かコメントがありましたらお願いいたします。

 

 

都立神代高校 稲垣俊介先生

もしかすると、今皆様が議論されていたことと反するような物言いになってしまうかもしれませんが。私自身は対策をしたいと思います。なぜかというと、対策ができない問題というのは、その子が一生懸命勉強しても、成果が測ってもらえないということになってしまうからです。

 

個人的には、天性の才能がある程度あって、ぱっとひらめいて、ぱっと解けるっていう問題ばかりになるよりは、生徒が一生懸命努力して勉強して、そして入試に挑んだ成果が見てもらえるほうが嬉しい思うからです。これは、私が高校現場で一生懸命受験勉強している子ども達を目の当たりにしているので、ついこういう物言いになってしまうのかもしれませんね。

 

逆に、今度は大学の先生方に厳しい言い方になってしまうかもしれませんが、暗記で入試対策をされることがないような問題。例えば、「情報」の授業に実習をたくさん取り入れて、実習を通して考えるようにさせている先生方がいらっしゃいます。

 

私も授業のほぼ9割が実習です。そういった実習が自然に入試対策になり、ペーパーで解けるような問題になっていると最高だと思います。

 

つまり、先生が一生懸命授業をして、子ども達が一生懸命学んで、そういった実習中心の授業を受けた子たちが、その入試問題を受けたらちゃんと解けるという問題になっていれば一番良いと。自分でも何と厳しいことを申し上げているのだろうと思いつつ、お話を聞いていて、そのように思いました。

 

 

谷先生

対策はしてもよいけれど、その対策が単なる暗記や、パターン化した問題をひたすら解くのではなく、情報の力を身に付けるような、実習を含めた対策をしっかりやる。「情報Ⅰ」なり、「探究」なりで、本来やりたいことをやっていれば、自然に身に付くはずのことが確かめられるような出題であるとよい、ということですね。

 

 

井上先生

稲垣先生がおっしゃったとおりだと思います。だからこそ、本学は、高校の現場で情報教育に困っているとお聞きしているので、模擬問題を早めに出して、「こういうことが大事ですよ」ということを伝えました。

 

中には、もちろんキーワードの暗記的なものもありますが、思考力が必要な問題をできるだけ入れて、そこで考えてもらう。そして、もう一つは「情報Ⅰ」の教科書にできるだけ沿うような問題を示して、「教科書どおりやっていたら、こういう問題が出てきたら答えられるよ」と、先生の方から生徒に言えるような問題を作るように心がけたいと思っています。

 

 

谷先生 

最後に、大切なことは、高校の「情報」の学びがしっかりしたものであるということ、大学は、そこでしっかり学んだ人が、結果的にいい点が取れるような入試問題を出していくということができるのかどうか、ということであると思います。結論が出たわけではありませんが、いい議論ができたと思います。ご参加の皆様、ありがとうございました。

 

 

情報処理学会第86回全国大会 「直前! 新課程『情報』2025年度入試」より