情報処理学会第86回全国大会

パネル討論 これからの小中高校の情報教育の未来と校長の役割

[司会] 

千葉県立流山南高校 校長 滑川敬章先生

[パネリスト]

神奈川県立希望ケ丘高校 校長 柴田功先生

東京都立田園調布高校 校長 福原利信先生

茨城県立IT未来高校 校長 津賀宗充先生

工学院大学附属中学校・高等学校 校長 中野由章先生

 

 

GIGAスクールで高校の現場はどう変わった?

滑川先生

ここまで5人の校長先生から、様々な立場からのお話をうかがいました。いくつかの流れの話の流れがありましたが、その中の1つとして、小中高校でGIGAスクールが始まったことで、情報教育も大きく変わるのではないかいう考えがあります。

 

特に情報活用能力の育成については、今の学習指導要領が作られるときに、幼稚園、小学校から中学校、高校までの情報教育の体系的な在り方をどうするか、という議論がありました。

 

私が中学校で勤務していたとき、中学校の先生方には、そういったことはあまり認識されていませんでした。小学校でも同様です。これは、高校には情報の専門の先生がいますが、小中学校にはいないことが一つの原因かと思います。

 

ですから、小学校でローマ字は教えますが、タイピングの技能についてはほとんど教えられていない、というのが現状かと思います。そのため、GIGAスクールで端1人1台端末が導入されても、例えば「Fn」(ファンクション)キーを押しながら他ののキーを押すとどうなるか、といったことも全く分かっていません。

 

実際にあったのが、タッチパッドが反応しないというトラブルです。実はファンクションキーやDeleteキー(機種により異なる)を押すとタッチパッドが無効化されるのですね。なぜかそれを押してしまっただけなのに、子どもは「壊れた」と言っていました。キーボードの機能などをそういったことを全く教えられることがないまま、取りあえず使っているという状況です。これについては、情報の専門家がいる高校から、地域連携として小中学校にアプローチしていくということも考えられるかと思います。

 

そして、高校の教科「情報」も大きく変わりました。小中高を通した情報勝能力の育成や、GIGAスクールを進める上でも、高校情報科の役割は大きく、小中高が連携していくことに関しても、何を・どのように進めていくかを考えていくのは校長の役割であると思います。ここからは、その辺りについて話していきたいと思います。

 

まず、小中学校で、GIGAスクールで学び方が変わっていることについて、高校の校長としてどのように認識しているかということを、皆さんから一言ずついただきたいと思います。

 

 

柴田先生

小中学校での情報活用能力の育成状況がばらばらで、ムラがあるという状況は、高校ではある程度仕方ないので、そこを普段の授業で生徒の学び合いや教え合いで解消していけばいいのかなと思っています。

 

これについては、「情報科で何とかすべきだ」というのでなく、生徒が課題研究のような取り組みをグループでやっているうちに、生徒同士で教え合って、いつの間にか身に付けていく、そのような学校づくりが理想ではないかと思います。

 

多少ムラがあっても、課題設定をして探究的な学びをしていく。そのうちに情報活用能力の凸凹は、おのずと解消していくのではないかと思います。

 

 

福原先生

先ほどは、私だけ少し毛色の違う話をしましたが、私の学校でも、今柴田先生がおっしゃったように、情報科だけで何とかしようとするのでなく、目の前にいる生徒達が何を求めていて、それに対してどうしてあげたらよいかを考え、背伸びしないで、できるところをできる範囲でやっていく。

 

校長としては、そういったことができる教員をほめたたえ、皆が「やってみよう」となるように仕向けていけばよいのでは、と思っています。

 

津賀先生

本校の情報科の教員は端末を日常的に使っているので、できることは多いですが、他の教科の教員には、全員に市内の小中学校のどこかの公開授業に行ってもらうようにしました。

 

そうすると、小中学校のICTの活用について、必ず何かしら知見を持ち帰ってきます。何が良かったか、ということを報告として聞いて、良かったことを本校でもやってみよう、と。百聞は一見に如かず、ですね。

 

地域にそういう資源はけっこうあるので、それをどのように拾い上げて、先生たちに使ってもらうか。そこが校長のスキルの一つかな、と思っています。

 

 

中野先生

本校は私立の中高なので、いわゆる6年一貫の生徒もいますし、高校から入ってくる生徒もたくさんいます。中学は1学年定員が105人、高校が1学年290人なので、高校から入ってる生徒のほうが多いです。通学範囲も非常に広範囲です。

 

特に市町村は、首長さんや議員さんの影響を大きく受けるので、情報教育に積極的な市町村では、小中学校でも相当経験してきていますから、生徒のレベルもバラバラです。ただ、バラバラなのは他の教科でも同じで、情報に限った話ではないと思います。

 

そして、教科・科目間の連携が重要であると思います。数学は数学だけ、理科は理科だけ、情報は情報だけの中で閉じるのでなく、相互に乗り入れて、いろいろなところで活用したり応用したりする。そういった普段の学びの中で力が付いていって、そこで必要だと感じたことは自分から学んで深めていくことになるのが理想です。

 

その意味で、科目間連携、さらにカリキュラム・マネジメントというものが非常に重要ではないかと思っています。

 

「情報I」「情報Ⅱ」の課題、大学入試とのつながり

 

滑川先生

ありがとうございます。私も中野先生がおっしゃるように、先生が話している時間よりも、生徒が活動する時間のほうが大事だと思っています。中学校は、生徒が班別で活動する時間は結構ありますが、高校になると、途端に前を向いて座っ先生の話を聞くだけの授業になりがちです。

 

それを変えてほしいのですが、なかなか先生方も変えられない。若い先生は、比較的工夫しようとされているのですが。

 

学び方を変えていくために、探究的な学びを授業の中に取り入れてほしい、と考えています。子どもたちが探究するような問いを投げかけたり、自分たちで探究的な問いを立てたりして、それを解決するときに、必然的に端末を使うようになるのが理想ですが、なかなかできていません。改革を進めるには時間がかかるだろう、という印象です。

 

一方で、小中学校は結構なスピードで学び方の変化が進んでいて、そのスピード感の違いがちょっと気になります。そこを何とかするためには、校長としてやっていかなければいけないことがあると感じているところでした。ありがとうございました。

 

続いて今度は高校の「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の問題です。千葉県では、「情報I」を3年生に置いている学校が何校かあって、その先生方から「『情報I』を12月までに終わらせることはできるでしょうか。私が着任する前から3年生に設置されていたのですが」という相談をされたことがあります。

 

教科・科目のどのような場面で情報活用能力を育てるのか、という、内容まで含めたカリキュラム・マネジメントが大切ですが、科目をどの学年に配置するか、ということも当然あります。

最終的には、校長が教育課程を決めるので、3年生に置いてしまう、というのは、学校教育目標や生徒の実態もあると思いますが、情報の先生がいる・いないにかかわらず、校長自身の判断が大きいと感じています。

 

先生方から、「情報I」「情報Ⅱ」の今後や、大学入試とのつながりということについて、一言ずつお考えを聞かせていただければと思います。

 

 

中野先生

個人的には、「情報Ⅲ」まであるべきだと思っています。次期の学習指導要領でそうなればよいと思いますが、もしならないのであれば、「情報Ⅲ」に相当する学校設定科目を置いて、1年生で「情報I」、2年生で「情報Ⅱ」、3年生で「情報Ⅲ」という形ができればと思います。

 

実際、科目の設置の学年移動というのはとても大変です。例えば、2年生にある科目を1年生に持ってこようとすると、担当の先生は授業数が倍になるし、コンピュータ教室が足りなくなる。逆に後ろにずらそうとすると、1年間その授業がなくなってしまう。そうすると、情報科の先生は、いても各校1人ですから、次の年は授業がなくなってしまう、という大変な事態になります。

 

ですから、本当に教育課程は、本当によくよく考えて決めないといけない。取りあえずこの辺でいいか、ということで決めてしまうと、後々大変なことになります。特に、前の校長が決めておいたことを、次の校長が変えなければならないことになると、本当に泣きそうになります。

 

 

津賀先生

こちらが本校の教育課程の編成表です。定時制ですので、1日4コマ×5日で20コマというのが週当たりのコマ数で、これが4年ですから80コマです。

 

4年次の授業を3年次、2年次で履修すれば、3年で卒業できますが、ご覧いただくと分かるように、かなり尖った時間割です。

 

専門教科が25コマありますが、例えば、理科は6コマしかありません。また、選択科目が多いので、数学のI、Ⅱ、Ⅲを優先すると、2年生から英語が消えるなど、いろいろな問題があります。

 

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カリキュラム・マネジメントは、本校にとって非常に大事な問題です。3修と4修の違いで、科目間の調整等が難しいので、単純なカリマネではいけない、というところがあります。

 

また、先ほど申し上げたように、専門教科が25単位以上になることによって、共通教科はその分圧迫されるので、英語や理科、地歴なども科目編成で課題があります。

 

そもそも定時制は全日制に対してマイナス10単位、つまり全日制は6時間×5日×3年ですから90単位ですが、本校は80単位なので、都合マイナス10単位という壁は大きいです。

 

ですから、中野先生が最初にお話しされていたように、学習クラウドサービスを使うしかないと考えて使っています。実際、英語はスタディサプリを使っていますし、他の教科・科目でも、授業でやれること・やれないことを明確にしています。プログラミングのpaizaも、最初は授業内でやっていましたが、やっているうちに進度が違ってくるので、途中から家庭学習中心にしています。

 

コンピュータ言語も、Pythonから始めていますが、他の言語まで広げている生徒もいます。これは授業でやるのではなく、空き時間や家庭学習等でやってもらうというように、学校にいるからこそできること・学校ではやれないことを明確にしながら取り組んでいるところです。

 

 

福原先生

私は、ちょうど本校で新課程のカリキュラムを作って決定するときに校長として着任しました。「情報Ⅱ」はなかったのですが、ちょっと裏技として、「芸術Ⅱ」の裏で「情報Ⅱ」を入れて、2年生で「情報Ⅱ」、3年生で「情報演習」を置きました。本校は6クラスですので、1年生の授業は12時間、2年生は2展開で4時間、3年生の自由選択が1クラス2時間、計18時間を、情報科の教員1人で全て持つ、という形でスタートしました。

 

ただ、やってみると選択科目の「情報Ⅱ」と「芸術Ⅱ」で評定平均がかなり違ってしまうことがあったりと、いろいろ課題はあります。今年は3年生まで授業が始まりますので、今後は検証が必要になります。

 

また、「情報」を教える教員には相当なスキルが必要です。そのような中で、もし教員がお休みしてしまうと、これを全部講師にお願いしなければならないことになり、逆に教育力が低下してしまうという懸念もある状況です。

 

 

柴田先生

本校はSSH、スーパーサイエンスハイスクールですが、SSHに指定されると、教育課程の特例が認められています。今までのSSHの多くは、教科「情報」と「総合的な探究の時間」を合わせた5単位を、「○○探究」という学校設定科目に代替しています。

 

現在、SSHが200校ほどありますが、このような形で「情報I」を他の科目で代替している学校がたくさんあります。本校もかつてはそうでしたが、「情報I」を独立させてしっかり学びながら、さらに探究を5単位学ぶ形に変えました。私見ですが、SSHでありながら、「情報I」を代替科目にして、本当に情報活用能力や理科的・科学的なものの見方・考え方を養ったことになるのか、と言いたいところです。

 

今、SSHは岐路に立っていると思います。「情報I」をきちんと学んだ上で探究をやる学校にしなければいけません。本校も「情報Ⅱ」を3年生の選択科目に置きました。やはり「情報Ⅱ」までやることで、「情報I」がしっかり身に付くという考え方もあり、より高度な学びをすることで、「情報I」の学びがしっかり定着するのではないか。もっといろいろな学校で「情報Ⅱ」を設置してほしいと思っています。

 

 

情報の学びと他教科の学び

 

滑川先生

これは、私が以前に勤務していた柏の葉高校の情報理数科のカリキュラムです。濃い緑になっているところが、「情報」の科目で、選択科目にもよりますが、最低でも25単位あります。

 

こうなると、専門教科「情報」以外の教科の単位数は結構少なくなります。大学に入学するための学力を担保しながら専門学科の学びをするのはなかなか大変、という現状もあって、専門学科の情報科は、大学進学の指導にいろいろ苦労しているところが多いと思います。

 

千葉県立柏の葉高校ホームページより 情報理数科令和6年度シラバス
千葉県立柏の葉高校ホームページより 情報理数科令和6年度シラバス

※クリックすると拡大します

 

普通科の学校でも、情報系の大学の人気は高まっています。大学の方から、「もう少し『情報』をきちんと勉強してきてほしい」というメッセージを出してくれた方が、高校としても授業がやりやすいのかな、という気もしています。

 

この会場には情報系の大学や企業の方が多いと思いますので、そういったお話も後ほど聞けたらと思いますが、この辺りについて、まずパネリストの方からコメントをいただけますでしようか。

 

 

柴田先生

「情報I」を充実させることと、他の教科や教育活動も充実させることを両立しようとすると、本当にカリキュラムがいっぱいいっぱいになってしまいます。特に、7校時まであると、先生の会議も設定できなくなるなど、様々な課題があります。学習指導要領のボリュームが、学校経営や教育活動の圧迫になっている印象があります。

 

 

福原先生

基本的には、高校でも大学でも、社会に出てから活躍できるIT人材の育成が求められています。そのためにどうしたらよいか、ということは高校だけでなく、小中高大、さらに産学の全てが考えていかなければいけないことであると思います。

 

我々は、高校の校長として自分の高校のことに一生懸命取り組んでいますが、ここで登壇している仲間としては、先ほど申し上げたように、もっと大きなことを言ってもよいのかなと思います。

 

 

津賀先生

本校は専門高校ですので、そこに寄った話をいたしますが、環境も含めて、どんなことをしているかをぜひ見ていただきたいと思います。大学の先生方にも、昨春からいろいろ視察に入っていただいています。来ていただけたら、こちらからも情報提供させていただきます。

 

また、茨城にはいろいろな研究機関があって、そこに出入りするソフトハウスが非常に多くあります。そういったところを対象に、経営者団体が学校見学ツアーを取りまとめてくださっています。このような形で、情報科の学びを広く皆さんに知っていただきたいと思っているところです。

 

 

中野先生

こちらのスライドは、まず読める・書ける・表現することのベースとしての国語があって、その上にスタディスキルズとしての「情報」が絶対必要で、さらにその上に、「情報」ならではの領域や、数学・理科といったいろいろな教科・科目の学びがあるよ、ということを示しています。

 

例えて言えば、読み書きの土台としての国語が地盤で、その上にスタディスキルズとしての「情報」という基礎があり、その上に初めて家が建つというイメージです。これは、学校の中でも、いろいろな教科の先生と共有するべきだと思っています。

 

 

そして、大学について言えば、今回の全国大会のシンポジウム「直前! 新課程『情報』2025年度入試」でも紹介されていましたが、例えば、日本大学文理学部は、2025年入試から「情報」の個別試験を実施します。さらに、文理学部社会学科の共通テスト利用方式の入試では、「情報I」の受験が必須となっています。これは、社会学科は文理両方の領域をしっかり学んだ人に入学してもらいので「情報」が必須である、と言っているわけです。

 

また、電気通信大学大は、率先してデジタル人材の育成を進めるために、「情報」の高い素養のある学生に入ってもらいたい、だから情報入試をする。広島市立大学は、「我々は情報系学部の草分けであり、情報系入試の実施は当然の責務だ」ということで、情報を学びたい、情報を得意にしたいという、とにかくモチベーション高い学生に入学してもらいたい、ということをWebページで訴えています。

 

ですから、もっといろいろな大学がそういうことを訴えて、大学ではこういうことを求めているということが明らかになってくると、地域や保護者の理解も深まるのではないかと思います。特に保護者の影響は大きいと思います。

 

 

フロアからのQ&A

 

滑川先生

今までのところで、フロアの方からも、お聞きになりたいことやご意見がありましたら、うかがいたいと思います。いかがでしょうか。

 

 

Q1.首都圏市議会議員 

高校生の学び方があまり変わらない、というお話がありましたが、授業でディスカッションなどを行うことが望ましいと言っても、これには反転授業などに代表されるように、かなりの予習を必要とされると思っています。日本の高校は、アメリカなどに比べて予習に関してそこまでの厳しさはないのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

 

 

A1-1.柴田先生

本校の事例を申し上げると、主体的・対話的で深い学びを充実させるために、反転学習というのは手段の一つで、必須ではないと思います。例えば、活動の導入で、これまで学んできたことを1つのスプレッドシートに皆で意見を書く、という場面があります。対話的な学びは、導入で使うだけでなく、展開やまとめなど様々なところで可能です。これは授業のやり方の工夫で、反転学習が必須という意識は、私にはありません。

 

「対話的な学び」も、例えばペアで話し合ってみようっていうのは、これも様々な場面で30秒でもできるので、工夫の仕方はいろいろあると思います。

 

 

A1-2津賀先生

「対話的な学び」には、実は机の構造というのも大事だと思います。従来であれば、高校の机は木の天板でスチールの脚のものが通常かと思いますが、本校では全て入れ替えて、強化プラスチック製で、脚も軽めものにしています。

 

そういった活動に特化した部屋も4部屋ありますが、そこは全てキャスター付きの机と椅子になっていて、場面によってすぐグループになれるようにして、気軽に話し合う場を作っています。

 

授業の中でタブレットがあるのが当たり前になっているので、この時間はタブレットを使う、この時間は使わないといった区別はあまりしないよう、配慮しています。

 

 

A1-3中野先生

本校の場合は、全教科・全科目で、グループでやって、また戻って、ということが普通なので、その切り替えはスムーズにできています。かつ、予習を必要とするようなものは一切ありません。その場でテーマを与えられて、その場で調べてディスカッションして、その時間内で完結しなかったら、放課後や家に帰ってから続きをするという形で、ネットワークを使って協働で1つのものを作り上げていきます。

 

前もってやっておかなければならないことも、特にはありません。ですから、学びに対してのモチベーションがそれほど高くなかったとしても、最後に提出しなければいけないということはありますが、前もってこれをやっておかなければいけないというものはありません。

 

 

A1-4福原先生

先に何かやっておくということもありますが、やはり知識の定着という点では、しっかり覚えなければいけないという部分は必ずあるので、そこに関しては、定着を図るために、先生方が小テストやドリル的なことをやらせたりしているところがあります。東京都のよいところは、ネットワークが強靱で、非常につながりやすいことです。そのためには、しっかりした環境整備も必要であると思います。

 

 

A1-5滑川先生

私が中学校の校長をしていたときは、普通の授業でGIGAの端末を日常的に使っていました。欠席の生徒がいれば、授業内容を配信もしています。中学校は、事前に予習が必要ということはありませんが、高校の場合は覚えなければならない知識量が多いので、端末を使っていると授業が終わらない、という話をする先生もいます。

 

 学習の定着という意味で言えば、単に知識を詰め込んでも、人間は何か月か経つと忘れてしまうことも多いので、議論したり一生懸命考えたりする中で、しっかりと身に付けることとのバランスかと思います。

 

とはいえ、小中学校で学び方が変わってきていますから、高校の学びも必然的に変わっていかなければならないと思います。ただ、その過渡期としての難しさがあるのかな、という感じはしています。

 

 

Q2.国立大学情報系学部職員 

先ほど、高校では座学による勉強が主になって、議論したり手を動かしたりする勉強が少なくなる、という話をされいました。

特に教科「情報」では、基礎知識としてのプログラムの書き方だったり、情報学の歴史のようなことを知るためには、ある程度の効果はあると思いますが、一方で情報学がどのようなことを目的としているのか、というのことを知るためには、実際にソフトウエアを触ったり、プログラムを打ち込んだり、という形で、自分で手を動かしたり頭を動かして何か目的のものを作ったりしないと、本質的な理解や定着にはつながらないのではないかと思います。

 

今後、「情報」のカリキュラムの中に、実習などを含めた実学的な学びをもっと取り入れていくべきと思います。実際は、とても難しいことだと思いますが、先生方、いかがでしょうか。

 

 

A2-1滑川先生

ありがとうございます。私も、情報の専門学科にいたときは、ほとんど授業(座学)というよりも実習を行って、生徒が実際に手を動かして取り組んでいく中で、アドバイスをしたりしながら進めていましたので、教える内容は基礎的なことで、あとは机間指導、という形が多かったです。

 

「情報」は特に実習の要素が大きいですが、他の教科でも、程度の差はありますが、自分で進める方ががよいところと、全体で共有して議論しながら進める方がよいところを、授業時間の中でどのように組み立てるのか、各先生が教科の特性に合わせて考えることが必要であると思います。端末が一人ひとりに行き渡った今だからこそ、考えていかなければならない課題だと思っています。

 

 

A2-2柴田先生

授業づくりの中で、「活動あって学びなし」という授業を批判する考え方がありますが、情報の授業に関しては、活動がなければ学びがない、と思っています。ただの座学で身に付けたものは、本当に瞬間に消えてしまいます。実際に操作したり、話し合ったりしながらトライ・アンド・エラーで学んでいくということは、「情報A・B・C」を担当したいわゆる第1世代の先生方は、皆その感覚でいると思います。

 

 

A2-3福原先生

「情報A・B・C」の時代は、「授業の半分は実習を行う」という縛りがあったので、我々はそれに慣れているところはあります。ただ、本当にいい実習というのは、やらせていればよいものではなく、やはり先生が内容を精選したものでなければならない。学びにつながるような実習をされている方の実践を、しっかりと学んでいただきたいと思います。

 

 

A2-4津賀先生

本校で、一番遠い生徒は通学に2時間以上かけて来ています。興味があるからこそ来てくれているのですが、彼らの学びの保障を考えたときに、やはりクラウド教材というのは捨てられない、むしろ大事なものであると思うので、いろいろな教科でクラウド型のものを使っています。

 

授業でも使いますし、通学時間や家庭学習で使うことで、学校の学びは極力体験型・協働型の学びにして、そうでないものはそれ以外の時間で、ということを意識しながらやっています。

 

 

A2-5中野先生

今の学校は、知識というより、総合的な問題解決力を付けさせることが大事だと思っています。これは体験的な学びを通してでない限り、絶対に身に付かないものですので、「情報」に限らず、体験的な学び、しかもできる限り実物、本物に触れる学びが大事であると思っています。

 

 

校長の果たすべき役割・リーダーシップとは

 

滑川先生

それでは、最後に先生方に校長の果たすべき役割やリーダーシップについて、一言ずついただきたいと思います。

 

 

柴田先生 

リーダーシップというのは、時代とともに変わってきいると思います。私は、今の校長には、自分自身がデモンストレーションをして見せるようなリーダーシップが求められているのではないかと思います。言葉で言うのでなく、実際にやって見せる、デモンストレーションできるコーチングが大事かなと思っています。

 

 

福原先生

私は、最初に言ったように、情報科出身の校長がこれだけ並んだので、その校長がさらに協力してできることがないかを考えたいと思っています。

 

 

津賀先生

去年の3月までは、私は校長に「頑張れ」と言う立場でしたが、校長になって、実際に地域を歩いてみると、地域には使える教育資源がたくさんあることが分かりました。それをどう拾って学校で使うか、というのは校長だから提案できることであり、具体化は教員にやってもらうにしても、きっかけは校長が作るべきだと思っています。それをこれからもやっていきたいと考えています。

 

 

中野先生

私は、お釈迦様みたいな校長がいいのかなと思ってます。先生方が孫悟空のように暴れ回っても、校長は、ここで先生方が成長してくれるようにする、ここはフォローする、ということを緻密に考えておく。校長が「何かやれ」と言ったからやるのでなく、孫悟空自身が暴れ回って、自分で発見して、問題解決して、結果的に「やった!俺はできた!!」と思ってもらえるような環境を作っていくのが、校長のリーダーシップなのかなと思っています。

 

 

情報処理学会第86回全国大会 情報科が拓く小中高教育の未来 パネルディスカッションより