情報処理学会第86回全国大会

GIGAスクール後の小・中学校の学びから、高等学校の情報教育を考える

千葉県立流山南高校 校長 滑川敬章先生

教科「情報」は平成15年から授業が始まりました。学習指導要領も2回改訂されて、「情報I」という形でスタートして、2年が経過したところです。

 

2回の改訂でかなり高度な内容を含むようになりましたが、「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」については学校間、地域間でかなり差があります。このあたりの危機感を、皆様方と共有したいと思います。

 

一方、GIGAスクール構想も、令和3年度からスタートして、小中学校では、やはり地域や学校間の差はありますが、端末の導入もかなりスムーズで、授業の中でもよく使われています。

 

ところが、高校のGIGAスクールの端末は、小中学校以上に学校間の差が大きいと考えています。

 

特に千葉県では、令和3年度の時点では高校では端末の導入の話が進んでおらず、スマートフォンでGIGAスクールを進める、という話になっていたようです。令和4年度にようやく方向転換して、秋に中学校にチラシを配布して、保護者に「高校入学の際には端末をご用意していただきます」というお知らせをして、令和5年度から端末の購入がスタートした、という現状です。

 

ところが、その端末の購入も、本校ではほぼ100%( 1人は学校から貸し出し)ですが、学校によっては生徒の購入状況も把握していないところもあると聞きますので、まだ学校間の格差は大きいようです。

 

高校情報教育における校長の役割を考える

やはりこの「情報Ⅰ・Ⅱ」の科目の設置やGIGAスクールの取り組みには、校長の果たす役割はかなり大きく、校長の理解が進まないと進まないのではないか、というのが、このセッションを開こうと考えた大きなきっかけです。

 

もう一つ、この「情報Ⅰ」とGIGAスクールで気になっているのは、小中学校で情報活用能力の育成が進んできたときに、その育成状況が高校とうまく接続されておらず、高校入学時の情報活用能力にかなり差が開いているのではないか、ということです。ある意味、GIGAスクール以前よりも、できる人とできない人の差は開いているようにも思われるので、この辺りについても課題意識を持っています。

 

これらの課題に対応するためには、校長のリーダーシップが欠かせないということと、カリキュラム・マネジメントというものが非常に大事になると考えています。この現状と課題を明らかにするために、今回、高校の校長が5人集まってお話しする機会をいただきました。

 

 

小中の学びから高校の情報教育を考える

まず私から、「小中の学びから高校の情報教育を考える」ということで、お話しします。

 

私は千葉県で高校の教員になりました。平成12年の夏休みに、15日間の免許講習で情報科の免許を取って、平成15年から情報の授業を持っていました。その後、平成19年に柏の葉高校に情報理数科という情報の専門学科を設置することになって、そこの立ち上げに関わり、8年間学科主任を務めてきました。

 

そして令和3年度・令和4年度の2年間は中学校で校長を務める機会がありましたので、先ほど申し上げたように、小中学校のGIGAスクールの様子を間近で見てきました。まず、その辺りからお話ししたいと思います。

 

 

令和3年度に中学校に着任して最初に行ったことは、学校の経営計画に「情報活用能力の育成」を示したことでした。

 

これはグランドデザインの中で示したのですが、実は中学校で4月1日に職員会議があって、着任初日にこれを出さなければいけなかったので、これは大変でした。

 

こちらは、そこから少し改良した令和4年度のグランドデザインです。「目指す資質・能力」として、「生涯にわたって主体的に学び続ける力」「課題を自ら見つけて思考を広げ、解決する力」「身に付けた知識や技術を活用する力」を入れました。単純に知識を付けていくのでなく、資質・能力を意識して、先生方に取り組んでもらいたいということで、このように示しております。

 

そして、「重点目標」の(4)に、「学習の基盤となる情報活用能力の育成」を入れました。GIGAスクールで端末が導入されましたが、その端末を活用するには、情報活用能力が非常に大事になります。小中学校では、この情報活用能力を体系的に身に付けさせていくことが非常に大事だ、ということで、これを掲げて取り組んできました。

 

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端末が配備されても、共有機能が使えないと活用は進まない

実際、どのように活用が進んだかと申しますと、まず令和3年度の着任時、4月1日の時点では、在校生の2年生と3年生は、端末にログインできる状態になっていました。1年生も、4月の中旬にはログインして使えるようになりました。

 

ところが、端末の活用が始まった令和3年度は、1年間いろいろな取り組みを行ったものの、効果的な活用はあまり進まない状況でした。

 

実は、学校ではMicrosoftのTeamsを使っていたのですが、教育委員会の方でTeamsのファイル共有機能や共同編集の機能を制限していたため、それらができない状態でした。

 

ですから、先生方が授業に関する資料を配ったり、子どもから提出させたりするときには、別のクラウドのツールを使って配布したり、回収したり、という形で行っていました。

 

これはあまりよろしくないので、教育委員会に共有や共同編集の機能を使えるようにしてほしい旨、お願いしたのですが、「とりあえず危ないかもしれないから止めている」という感じでした。つまり、教育委員会ではファイルの共有や共同編集が、良いのか悪いのかがなかなか判断できない、という感じだったのです。

 

では、なぜファイルの配布や回収だけでは良くないかというと、クラウドで子ども達が情報を共有しながら学んでいくときは、今までのように紙のプリントを配ったり回収したり、ということをそのままデジタルに置き換えたようなやり方では、デジタル化の意味がないからです。

 

本当は、端末の活用の利点の一つとして、クラウドでファイルを共有して皆の考えや成果をリアルタイムに共有できることがあるわけですが、その機能が制限されたことで、1年間そういった活用が進みませんでした。

 

そのため、端末を使う機会は増えましたが、単純な調べ学習や課題の配布・回収程度で、あまり進んだ使い方にはならなかった、というのが実態でした。

 

 

翌年の令和4年7月に、ファイルの共有や共同編集の機能が解放されてからは、使い方が広がりました。例えば、子どもたちが読書感想文を発表したとき、発表した人への感想や評価をリアルタイムで入力して共有し、フィーバックする、といったことにも使われるようになりました。これをやられたのは、ベテランの国語の先生でしたが、思ったよりもスムーズで、非常に効果があった、と言ってくれました。

 

中学校3年間の情報育成能力の課題~技術科の中だけでは不十分。そもそも先生も足りない

一方で、中学校の3年間で、学校の中で情報活用能力をどうやって身に付けさせていったらよいか、ということをいろいろ考えました。こちらの「情報活用能力の体系表例」 (※)は、「IEスクール」の成果物として公開されているものです。

 

小学校から高校段階までの12年間で、どのような情報活用能力を身に付けさせたらよいか、ということを示していますが、この例を基に中学校の3年間で、どのような場面で情報活用能力を身に付けさせるか、ということを考えていきました。

 

情報活用能力の体系表例

 

中学校には技術科がありますが、技術科の授業で、情報分野を扱う時間は非常に限られていますし、そもそも私のいた中学校には技術科の教員はおられませんでした。

 

私の学校は生徒数が200人ちょっとでしたので、理科の先生や体育の先生が免許外教科担任で教えていました。大きな学校には技術科教員がいらっしゃると思いますが、中・小規模校ではいないことが多いと思います。

 

さらに、そもそも市内で技術科の先生の数自体が少ないので、先生の配置が難しいという状況もあると思います。そのように専門家がいない中で、中学校での情報活用能力をどう付けていくのか。技術科の中でも、情報分野の時間数は少ないので、技術科の中だけで情報活用能力を育成しようとしても、とても間に合いません。

 

そうなると、情報活用能力をつけていくためには、1年生から3年生までのそれぞれの教科や、学校行事の中でやっていくしかありません。

 

そのために、学校行事や教科、科目の授業の中で、ICTを使う場面をどのような順番で配置して、そこでどのように身に付けさせていくか、ということを学校全体で考えてカリキュラムを作っていました。これは1年や2年ではなかなか形にならず、作りかけている段階で高校に異動になってしまいましたが、そういたことをやってきました。

 

 

高校の学び方・教え方は遅れているが…

そして、今年度高校に戻ってきて授業を見てみると、やはり高校の授業は、中学校などに比べると、どうしても座学で先生の話を聞くものが多いと感じます。その部分で、高校の学び方、教え方というのは、中学校などに比べると、対応が遅れている感じを受けました。

 

そこを何とかしたいと思いましたが、その辺りを先生方に話しても、なかなか理解していただけない。「小中学校ではこんな感じですよ」と言うと、「うちは中学校とは違って高校ですから」とを言われてしまったりして、考え方(学力観・授業観)というのはなかなか変わらないな、と思っています。

 

情報活用能力が小中学校からしっかり身に付いてくると、高校の「情報Ⅰ」の履修の前提になる力にも関係してくると思いますし、逆にそこがしっかりできていないと、「情報Ⅰ」の学びもなかなか深まらないと思いますので、この辺りが課題と考えています。

 

情報処理学会第86回全国大会 情報科が拓く小中高教育の未来 講演より