第17回全国高等学校情報教育研究会全国大会

「情報I」との差異にみる「情報II」の位置づけ

ノートルダム清心女子大学 大西洋先生

「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の違いが不明瞭なために、「情報Ⅱ」が形骸化するおそれも

今回は、「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」は何が違うのかを明らかにするために、この発表を行います。背景にあるのは、何せ「情報Ⅱ」という科目の立ち位置がわかりにくいということです。

 

「情報I」と「情報Ⅱ」を、必ずしも厳密に区分しなければならないわけではありませんが、後続の選択科目である「情報Ⅱ」の位置付けが不明瞭なために、必履修科目の「情報Ⅰ」でどこまでの内容を扱えばよいのか、教員が判断しにくい状況にあります。

 

 

そのため、内容が過度に高度であると見なされて必要以上に難しい授業が行われるため、生徒が「情報Ⅱ」の履修自体を敬遠したり、逆に「情報Ⅱ」が「情報Ⅰ」の共通テスト対策の補習の時間になってしまったり、ということにもなりかねません。結果的に、「情報Ⅱ」が形骸化してしまうおそれがあります。

 

今回は、「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の差異を明らかにして、授業を設計する上での指針を示したいと思います。

 

教科調査官の講演ではどのように説明されていたか

学習指導要領で、「情報I」と「情報Ⅱ」の位置付けについてどのように述べられているか、ということについて、前・文部科学省教科調査官の鹿野利春先生(現・京都精華大学教授)が、学習指導要領が公表された前後に、様々な場で講演された記録が「キミのミライ発見」(※1)に載っていましたので、そのご発言を整理してみました。

※1 https://www.wakuwaku-catch.net/講演-シンポジウム-バックナンバー/

 

 

その中で、わかり易くお話しされているのが、2018年の「ジョーシン2018 (高校教科「情報」シンポジウム2018秋)」のご講演の質疑応答です(※2)。「情報Ⅰと情報Ⅱは何が違うのですか」という質問に対して、「情報Ⅱ」というのは、プログラミングについては、「情報システムを考えたときに,それを分割したり統合したりする」「チームでやっていく」とされています。また、「データの活用」については「データを実際に扱って、データサイエンスの入り口まで」であり、数学Bと連携する。「情報デザイン」については、「明快な線引きがない」とおっしゃっています。

※2 https://www.wakuwaku-catch.net/kouen181101/

 

 

「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」 学習指導要領の科目目標を比較してみた

こちらが、「情報I」と「情報Ⅱ」の学習指導要領の文言を比較したものです。この7か所に違いがあります。これを整理したのが右側で、AからDの「情報Ⅱの特徴」は、私の方で文言を作っています。

 

 

まず特徴Aとして、「情報Ⅱ」では、『創造的』『発展に寄与』『新たな価値の創造』という言葉が使われているので、何か新しいものをつくることを目指していることになり、これが「情報Ⅱ」の特徴ではないかと考えます。

 

つまり、「情報Ⅰ」は、今あるものを使う、ということですが、「情報Ⅱ」はクリエイターとして新しいものを作っていくことを目指していると考えられます。

 

また、特徴Bとして、現在の情報社会と人がどのように関わっているか(「情報I」)、ということだけでなく、「情報Ⅱ」では、これまで情報技術がどのように発展・変化してきて今に至り、さらに今後どのように発展して、それによって社会がいかに変化していくかということを考えていく。つまり、今の1ポイントだけでなく、過去から未来まで経時的に俯瞰する、ということがあります。

 

そして、「情報I」で使われた『効果的な』という言葉ではなく、「情報Ⅱ」では『多様な』という言葉が使われています。『効果的な』というのは、何か1つのもの、尺度や軸があって、「これは効果がない/ある」ということを測ることができますが、そうではなくて、もっといろいろなものがあるよ、というのが「情報Ⅱ」であるということです(特徴C)。さらに、先ほどもあったように、1つのコンピュータではなく、複数名が協働で構築する大規模の情報システム、というのが特徴Dであると思います。

 

この特徴 B、C、Dについては図を作ってみましたが、実はどれも似たようなことを言っています。

要は、「情報Ⅱ」では一つの狭いポイントに縛られずに広い軸で見たり、いろいろな手段を視野に入れたり、より規模を大きくしたりして、もう少し広いものを扱おう、ということです。これによって、新しい価値を作っていきましょう、ということになるかと思います。

 

 

今回、この研究を行ったのは、「情報I」と「情報Ⅱ」の違いを曖昧なままにしておくと、わざわざ「情報Ⅱ」を別科目にする必要はないのではないか、「情報Ⅰ」をもう1単位置けばよいのではないか、ということになってしまうからです。

 

今後学習指導要領が変わるときに、「なぜ情報Ⅱがあるのか」ということがわからなくなってしまう。これに何か歯止めをかけたい、というわけではなく、違いをはっきりさせる目安があるといいな、というお話です。

 

Wittgensteinの思想から~「情報Ⅰ」は静的モデル、「情報Ⅱ」は動的モデル

ここからは、こういった特徴と、哲学者のWittgensteinの思想が対応付けられないか、と考えてみたものです。

 

Wittgensteinの前期の思想は、1つの精緻な理論モデルを作ろうとしているのが特徴ですが、この前期モデルが「情報Ⅰ」に対応するのではないか。「情報学というのはこういう背景なんだよ」ということを示してあげるのが「情報Ⅰ」の要点ではないかと思っています。

 

一方、後期のWittgensteinは、前期のようなきれいなモデルは破綻し、もう少し対話的に組み上げなければいけない、という「言語ゲーム」という考え方を言い出します。これは、文脈や場面の状況を動的に捉える考え方で、こちらは「情報Ⅱ」の考え方に合っているのではないか、ということです。この部分については、先日の情報科教育学会で発表しましたので、こちらをご参照いただければと思います(※3)。

 ※3 大西「Wittgensteinの思想の深化に即した「情報I, II」の差異の分析」JAEIS2024 

 

 

今回の発表では、学習指導要領の文言をもとに「情報Ⅱ」の特徴を整理してみました。そして、Wittgensteinの思想と「情報I」「情報Ⅱ」を対応付けて差異を明らかにしました。

 

課題としては、Wittgensteinの思想から「情報学」というのはこのようなモデルだ、というものを提示したいのですが、ここに当たるモデルがまだ明確ではない、と思っています。そのために基礎情報学や記号論を参考にして、今から作っていく必要があると思います。

 

最後に、こちらは「情報Ⅱ」の用語について。情報処理学会が5月に公表した「情報科善教科書用語リスト」(※4)から、「情報Ⅱ」だけに載っている用語をピックアップしてみました。これを見ると、何となく「情報Ⅱ」のイメージ感が出てくるかと思います。

※4 https://sites.google.com/a.ipsj.or.jp/ipsjjn/wordlist

 

第17回全国高等学校情報教育研究会全国大会(愛知大会)ポスター発表