高校教科「情報」シンポジウム2024秋

高等学校教科「情報」をめぐる状況

文部科学省初等中等局学校デジタル化プロジェクトチーム 川口貴大氏

私が所属する情報教育振興室は、ICTの活用、情報活用能力の育成や教科「情報」の振興といったことを担当しているセクションです。

 

私からは、これまでの教科「情報」の歴史、現在置かれている状況を確認し、次の指導要領改訂に向けた動きにも触れながら、今、私たちは何をすべきかということを考えたいと思っています。

 

 

教科「情報」の歴史

 

まず、共通教科「情報」の変遷です。これまで3回にわたる学習指導要領の改訂によって、現在に至っています。

 

最初は平成11年告示、平成15年から適用の高等学校学習指導要領で「情報」が新設されました。30代の後半以上は「情報」の授業を受けた経験がなく、徐々に「情報」の授業を受けた経験のある世代が広がっている状況です。

 

「情報」の歴史について考える上では、「情報活用能力」に触れざるを得ません。始まりは昭和61年4月の臨時教育審議会第2次答申に話はさかのぼります。

 

この答申において「情報活用能力」の育成が提言され、初等中等教育の教育課程の中でどのように扱っていくのか、という話が始まりました。

 

ただ、昭和62年の教育課程審議会で審議された高等学校学習指導要領では、まだ新教科「情報」の誕生を見ることはありませんでした。高等学校教育については、数学と理科でコンピュータの基礎に関わることを少し学ぶことになりました。

 

その後、高等学校における「情報」の設置を期して、平成9年に有識者会議での検討がなされ、「情報活用能力」の具体的な内容が、3つの観点から整理されました。

 

「情報活用の実践力」は、課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し、受け手の状況などを踏まえて発信・伝達する能力です。2つ目の「情報の科学的な理解」は、情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と、情報を適切に扱ったり自らの情報活用を強化・改善したりするための基礎的な理論や方法の理解。そして、3つ目の「情報社会に参画する態度」は、社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し、情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え、望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度です。

 

 

これを受けて、平成11年改訂の高等学校学習指導要領で、「情報」ができました。当時は「情報A」「情報B」「情報C」という3つの科目から成り、この3科目の中からの選択必履修という形でした。

それぞれが情報活用能力の3つの観点を重視する形になっていましたが、これが引き継がれる形で、科目が変遷してきております。

 

 平成21年改訂の高等学校学習指導要領で「情報の科学」と「社会と情報」の2科目構成になり、現在適用されている平成30年3月改訂の高等学校学習指導要領で、「情報Ⅰ」が共通必履修科目として位置付けられました。今回初めて選択必履修から共通必履修に変わりました。

 

確認しておきたいのは、「情報の科学的な理解」を重視した「情報B」が「情報の科学」へと引き継がれ、「情報Ⅰ」へとつながっていることです。

 

今次の改訂の際にも「情報の科学的な理解」に裏打ちされた情報活用能力の育成、情報と情報技術を問題の発見・解決に活用するための「科学的な考え方」が必要ではないかと指摘されていたところです。

このことを受け、具体的には、「情報Ⅰ」ではプログラミングや、科学的な技術の理解に基づく情報セキュリティ、さらにデータの取り扱いに統計的な手法を取り入れる、といった内容が充実されました。

 

もう一つ確認しておきたいのが、現行の学習指導要領では「情報活用能力」が学習の基盤としての資質・能力として位置付けられたことです。「情報」は高等学校の情報活用能力の育成の中核とされております。このことは、教育課程上の「情報」の役割を考える上で重要です。

 

 

教科「情報」の現状

「情報Ⅰ」の内容は4つに整理されています。今日は高等学校の先生、大学の先生、教育事業関係者の方など、いろいろな立場の方がいらっしゃっています。それぞれのお立場から「情報Ⅰ」の各内容について、生徒の修得状況の課題を聞いてみたいと思います。挙手でお答えください。(挙手)

 

ざっと見て「情報社会の問題解決」が2割、「コミュニケーションと情報デザイン」が4割から5割、「コンピュータとプログラミング」と「情報通信ネットワークとデータ活用」はそれぞれ8割、という印象でした。皆さんの実感に合っていますでしょうか。

 

 

こちらは「情報Ⅱ」の開設状況をまとめたものです。令和5年度の入学者に対する教育課程を各学校にお尋ねする形で取ったデータで、「情報Ⅱ」が開設されている学校は、およそ14%です。

 

教育課程の編成は各高等学校において行い、科目の開設はその学校が判断するので、これ自体に良い、悪いという評価はありませんが、他教科における必履修ではない科目の開設状況と比較してみますと、14%という数字は、決して大きいものではありません。

 

ずいぶん前からデジタル人材の育成の必要性が言われているところ、現在の高等教育では、分野を問わず数理・データサイエンス・AI教育が推進されています。こうした中、初等中等教育の段階から考えなければいけないのではないか、という話になって、「情報Ⅱ」の開設状況が14%というのはこのままでよいのかと言われることもあります。

 

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DXハイスクールに期待されること

DXハイスクールには、令和5年度の補正予算から非常に大きな予算が付いていますが、今年度の「経済財政運営と改革の基本方針」にも、DXハイスクール事業の継続的な実施が盛り込まれております。

 

文科省では令和7年もDXハイスクールをさらに強化するという形で概算要求をしています。現在1010校が指定されていますが、さらに指定校を250校増やすとの考えでおります。「情報Ⅱ」などの科目の設置・履修の促進も継続して推進します。

 

こうして事業を進めようとしているのは、やはり高等学校の改革や、「情報」の学びによる人材育成に期待がかけられているのだと思います。

 

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今後に向けて

今年9月に、「今後の教育課程、学習指導および学校評価等の在り方に関する有識者検討会の論点整理」が出されました。現在文科省のホームページに掲載されています(※)。

https://www.mext.go.jp/content/20241003-mxt_kyoiku01-000038070.pdf

 

この論点整理自体は、今後検討を深めるべき具体的な論点等について有識者からの意見をまとめたものです。

 

論点整理では今後の社会像を踏まえて、どのような資質・能力を身に付けていくのかが指摘されています。この中で、学習の基盤となる資質・能力については、さらなる整理や具体化が必要であること。特に、情報活用能力については、教育課程全体での取り扱いに加えて、各教科等を通じた具体的な充実方策も検討し、その際に情報活用能力の向上と探究的な学びの充実を一体的に考えるべきである、とされているところは覚えておきたいところです。

 

その上で、私たちはこれからどうするか、ということですが、やるべきことは変わらない。現行の学習指導要領の下での指導を充実させるということに尽きるのと思います。

 

例えば、学習指導要領の「情報」の「指導計画作成上の配慮事項」には、単元など内容や時間のまとまりを見通して授業を行うこと、情報科の特性を踏まえて探究的な学習活動の充実を図ることが規定されています。

 

また、学習の基盤となる情報活用能力については、中学校までの各教科等における教科等横断的な視点から育成されてきたことを踏まえて、情報科も他の教科・科目との連携を図ることが規定されています。情報科は、指導に当たって、情報活用能力が中学段階でどのように育ち、そして高等学校ではどのように指導していくのか、ということを考えていかないといけません。

 

そのためには、新入生が高等学校に入ってくる段階で、どの程度の力が身に付いているかを確認することが必要です。生徒の習熟状況を丁寧に確認し、授業の中に生かしていただきたいと思いますし、他教科・科目との連携のためには、「情報科の学びで今こういうことをしています」ということを伝えたり、あるいは他の教科でどのように学んでいるのか、そういった中で、情報の学びが生かせるところはないかということを、先生同士で相談したりしていただくといったことも、ぜひ行っていただきたいと思います。

 

 

日々の授業をしっかりと指導していただくことが、次の一歩につながっていくと思います。高等学校の先生方におかれては、引き続きしっかり取り組んでいただくことをお願いします。また、支援してくださる方々も、ご協力いただけますようお願いします。

 

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