デジタルもアナログも 新しい教育を作るためのソリューションが一堂に!
New Education Expo2016
国内最大級の教育機材・ソリューションの展示会「New Education Expo2016」が開催されました(東京6月2日~4日、大阪6月17~18日)。
「アクティブ・ラーニング」「教育の情報化」「大学改革」「授業設計・デザイン」など様々なテーマで東京・大阪、共に約100に迫るセミナーや、未来の教育空間『フューチャークラスルーム』での模擬授業、100社を超える企業の出展に、多くの教育関係者が集まりました。
昨年も盛況だった「一人1台端末」やアクティブ・ラーニング関連の教材やソリューションに加えて、総務省が2017年度中にすべての小中高校で高速インターネットと無線LAN環境の構築を目指すことを打ち出したこともあり、無線LAN関係や周辺サービスの展示が目立ちました。コンピュータ教室や職員室だけでなく、学校全体でICTを安心・安全・安定的に使うためのネットワーク機器やセキュリティ、トラブル対応など様々なきめ細かなソリューションが紹介されていました。
■セミナーレポート
多彩なセミナーの中から、特に教育の情報化がどのような方向を目指すのか、それに向けて現場ではどのような実践をされているのか、ということに焦点を当てて、下記の発表を紹介します。
・IMS Japan Society設立記念
「教育におけるビッグデータ・学習資源共有の実現に向けて」
放送大学教育支援センター教授 山田恒夫先生 他
羽衣学園高等学校 米田謙三先生
<実践報告>
■展示レポート
New Education Expo2016実行委員会事務局の株式会社内田洋行営業本部の風間淳さんにお話をうかがいました。
今年は中学校の教科書の改訂の年なので、デジタル教科書の導入の動きが一段と加速しています。さらに、先日文部科学省の検討会議で「デジタル教科書を(副教材ではなく)教科書として位置付けていく」という方針が示されたという報道がありましたが、それに伴って学校のWiFi環境の整備や、一人1台端末ということが、初中等教育の大きなトレンドになっています。
このNew Education Expoは、出展企業が扱う商品の売れ筋を探すための展示会ではなく、来場者の方にセミナーを聞いていただき、そのソリューションを様々な展示の中で紹介して、最適解を探していただくための場であるということが特徴です。
今年のトレンドのセミナーでは、eラーニングや教育分野における学習データなどのICT活用の国際標準化を推進する団体「日本IMS協会」の設立の記者発表会も開催されました。世界的には「IMSグローバルコンソーシアム」が活動し、大学や企業が協賛する国際的なコミュニティで300会員以上が参加しています。日本IMSには内田洋行教育総合研究所や放送大学、法政大学、ネットラーニングホールディングス、デジタル・ナレッジ、日本電子出版協会の6社が参加し、今後の活動として、ICT活用に関する研究会や講演会を開催していくとの発表が行われました。教育のデータ活用等は今後も求められていくと考えられています。
New Education Expoは、今年で21回目となります。最近はICT関係の商品やソリューションが増加していますが、理科教育や特別支援教育、語学などのアナログの進化にもめざましいものがあります。
各校の抱えている課題を少しでもよい方向に向けられるヒントを見つけていただける場になれば、と思っています。
■「VOCALOID Education」
ボーカロイドのプログラミングをタブレット上で使えるようにしたものです。画面にはピアノの鍵盤がついていて、ドラッグ&ドロップで音符や符号を並べます。歌詞に1つ1つの音を当てはめ、再生ボタンを押すとボーカロイドが歌ってくれる、という仕組みです。
歌わせてみて、おかしいところは簡単に修正ができます。また、いくつかのメロディーを同時に入力できるので、合唱のパート分けも可能です。楽譜を読むのが苦手な子でもが読めなくても直感的に作曲できます。
楽譜の構造はプログラミングととても親和性が高く、曲作りの中で「繰り返し」や「最初に戻る」などのコマンドも経験できます。小学校での実験では、学級歌の制作にこのソフトを使い、国語と音楽を融合した「表現」が実践できたとのことです。さらに、自分達の作品を勝手に改竄されるのはイヤな気持ちがする、ということを実感することで著作権の意味を学ぶことにもつながります。
■「EduMall」
コンテンツ配信プラットフォーム『EduMall』は約30社、1100タイトルのデジタル教科書や各種教育用PCソフトがダウンロードできるコンテンツ配信サービスです。
EduMallの特徴は、年間契約であることです。パッケージソフトを購入すると教科書改訂まで数年間使い続けなければなりませんが、1年単位であるため、デジタル教科書の段階的な導入を考えている学校や、研究指定校など小規模導入の場合にも使い易くなっています。
また、ほとんどのコンテンツが購入前にお試し利用ができるため、難易度や使い勝手をチェックしてから購入することができます。この利用時間も、先生方が授業以外の時間に使い易いように15時から24時までと設定されています。さらに、コンテンツの利用履歴が残せるので教材の活用状況や効果を確かめることもでき、学校全体のカリキュラムマネジメントに役立てることも可能です。
■ワイヤレスの書画カメラ
教科書やワークシート、生徒の作品や実物、先生の手元などをクラス全体に提示できる書画カメラは、従来の一斉授業のスタイルとPCやタブレットなどデジタル教材を橋渡しするものとして、多くの学校で導入が進んでいます。しかし、これまでの書画カメラは、例えば生徒の作品を映し出すためには、作品をカメラのところまで持って行くことが必要でした。写真の書画カメラは、無線アクセスポイントやWiFi搭載のPC・タブレットとの無線通信が可能です。ワイヤレスなので、教室内の移動が自由にでき、先生が机間巡視しながら目に留まった生徒の作品を映すとことも可能です。
■タブレットやスレートPC上での「手書き」を活かすアプリ
タブレット上で、子ども達が気づいたことや自分の考えを手書きで書き込めるアプリです。専用ペンで画面上に手書きで文字や絵、図を簡単に書き込んだり消したりすることができます。さらに、描いた図を動かすこともできるため、試行錯誤しながらのシミュレーションも可能です。
さらに、範囲指定することによって使いたい部分が簡単にコピーして貼り付けることができるため、子ども達は発表用の資料を作る時、また先生はワークシートを作成する時に非常に便利です。
■グループ内でのファイル共有機能と、クリッカー機能を備えたアクティブ・ラーニング支援アプリ
学生のスマホにアプリをダウンロードすることで、スマホをクリッカーとして使用することができ、専用端末を準備する必要がありません。また、担当教員がグループを設定してコメントやファイルの共有ができるため、グループで課外の時間でも活動の続きができるとともに、教員が学生の活動を把握することもできます。
<取材を終えて>
ICTの普及が進み、先生方の工夫によって様々な使い方が生まれてきています。その現場で出てきた課題やニーズを受けた形での教材の改良、あるいはきめ細かいサービス・機能がどんどん出てきている、という感がありました。
今年の展示で印象に残ったのは、「手書き」を様々な形でデジタル化する工夫です。タブレットやスレートPC上に文字や図をデジタルデータとして取り込む機能や、先生が手書きで作ったワークシートや掲示をデータ化して共有する仕組みなど、デジタルとアナログの境界がどんどんなくなってきていることを感じました。
また、教育のビッグデータの共有(IMS Japan)やデジタル教科書のダウンロードサービス(Edu Mall)のように、これまで各社が個別に収集していたデータ、あるいはパッケージとして提供していたサービスを共有したり、利用者が横並びで比較したりできる仕組みが整えられようとしていることも注目されます。ICTが特別なものでなく、教育環境として「あって当然」となった今だからこそ、企業の壁を超えて、より使い易くより大きな教育効果を目指した取り組みやサービスが現われつつあるのでしょう。
New Education Expo2016のまさに当日、6月2日に閣議決定された日本再興戦略2016では、「今後の初等中等教育の情報化を進めていく上で、教育コンテンツの活用や子どもの学習情報などをクラウド上で管理・共有していくことが有効であり、全国の学校現場に普及させる必要がある」とされています。
今年度中には次期学習指導要領も固まります。これらの流れを受けて今後どのようなサービスや商品が出て来るのか、見守っていきたいと思います。