New Education Expo2016
となりの学校ではICT活用どうしてる、何してる
<まとめ・質疑応答>
ICT導入に際して、考えなければいけないことは
羽衣学園高等学校 米田謙三先生
本校の設備のお話をします。ご覧のように、16ピンとHDMI、USB、そして音声ジャックとLANケーブルの全てを一つのコンセントにして、全教室に配置しました。先生方が教室にどんなデバイスを持って行っても、基本的にこれで対応できるようになっています。
また、本校にはタブレットは200台ぐらいありますが、実はタブレットではなく電子辞書をone to oneにして、プロジェクターで投影する形で使っています。私がタブレットの導入アドバイザーをやらせてもらった時、一番困ったのがタブレットに辞書が英語と国語各1冊くらいしか入っていないことです。高校くらいになると、調べ学習ではある程度きちんとした辞書、国語なら広辞苑レベルは絶対必要です。しかし辞書を3冊も入れたら、タブレットも結構値段が高くなります。一方、最近の電子辞書は動画も入れられますし、jpgで写真も入れられるので、パワポの内容をjpgに変換して映すことも可能です。
こちらはタブレットを使った授業スタイルのパターンですが、結局「調べる」「まとめる」「伝える」というのが軸になります。小学校では既にこういう使われ方がされています。一方タブレット自体はどういう使い方ができるかというと、「見る」「見せる」「ためる(蓄積する))、それから「大きくする」「動かす」「コミュニケーション」などということですね。ですから、こういう機能を活かした授業スタイルとなると、やはり調べる、まとめる、伝えるといったことです。個別学習やドリル、アクティブラーニングでもこの機能の応用で進めていけます。
先ほど安藤先生がICTのかなり高度な導入事例をお話しくださいましたが、結局キーワードとしては、この辺りかと思います。もちろんハードは必須ですが、無線にするか、IWBはどうするか。あとはハードもレンタルなのか個人購入なのかという条件もいろいろ出てきます。最近のキーワードは4Gですね。4Gを使うのか、Wi-Fiを使うかというところもポイントとなっています。
また、タブレット導入に際してMDM(Mobile Device Management)という言葉はご存知でしょうか。これは、校内のWi-Fiをいかに統合的に制限するかということですが、これにはLMS(Learning Management System)というキーワードも絡んでいます。
タブレットを使うことで問題になるのが、モラルやアプリのインストールです。一人1台タブレットを持たせているある中高一貫校では、アプリのインストールは中学段階では制限しますが、高校では自由にしている、ということでした。端末の管理に関しては、保護者へのお願いが必要ということになります。
ですから、生徒のICT活動に関して、評価規準・基準を導入前にきちんと整理しておかないといけないということが、今日の先生方のお話から出てきたのではないかと思っています。
<質疑応答>
鎌倉学園高等学校 小林勇輔先生
山梨英和中学校・高等学校 近藤美和先生
佐野日大中等教育学校 ICT教育推進室室長 安藤昇先生
Q1:先ほど小林先生のお話にありましたが、授業中生徒のレベルに応じて動画を見て勉強する時に、積極的な生徒は自分でどんどん進んで質問をしてくるのでよいのですが、課題を出しても楽をしてなるべくやらないで済まそうという生徒が出てきます。そういう生徒をうまく取り組ませるような手段があれば教えていただきたいなと思います。
A1小林先生:私の授業でも、やはりそういう傾向はあります。そういう時よくやるのは、その生徒の隣に座って、5分ぐらい勉強ではない雑談をします。それでもやらない時も当然ありますが、その時はその子にとっては今学ぶタイミングではないと見て、またちょっと離れてあげたりします。50分間のどこかで、必ず1回は取りかかり始めるところがあるので、そこを逃さないようにするために、机間巡視しながら様子を見ています。教材は全てGoogle Classroom上に上げてあるので、私が生徒を見て回ってコミュニケーションを取る時間が確保できています。全然何もやらないという子は、現状はいません。
よそごとをする子もいますが、机間巡視する間に話しかけたり、軽く肩をたたいたりしていると、自分からやめて取り組み始めます。むしろ、彼らにとってはその方が自分から一歩を踏み出してやり始めることになるので、それを大事にしています。
Q2:学校内の通信環境の件ですが、なぜ4GやLTEでなく校内でWi-Fiを作る方がより良いのか、そのポイントを教えてください。
A2安藤先生:LTEを使わないのは、パケットが関係しています。速度制限がかかってしまうのですね。本校は生徒一人当たり、多いときは1日30Gbのデータのやり取りをします。本校の高速インフラがあるからこそ可能な状況です。4GやLTEの場合は、キャリアから学校としてパッケージで何百Gbという形で買っても、動画をバンバン使うと、すぐに底をついて通信制限がかかってしまい、教材をダウンロードしたりするのに支障が出ます。
自分がマネジメントをしている中学校・高校の例ですと、生徒の携帯に宿題を配信しています。この中学校はChromebookを利用し、高校はiPhoneやAndroidスマホを利用させています。ただ、教材をダウンロードするときは、生徒は自分のパケットを使うのはもったいないので、校内のWi-Fiスポットに行ってダウンロードしています。
先日保護者から「息子が教材の動画配信で家族割のパケットをどんどん使ってしまうので困る」という苦情がありました。そういった問題に対応するためにもWi-Fiスポットは必要だと思います。
Q3:先ほど一人当たりの接続ノードが1Mbpsぐらいの設備でないと無理があるとおっしゃっていたのは、それがひとつの基準なのでしょうか。
A3安藤先生:正直なところ、本校は少しオーバースペックなのかな(笑)、一応、500人が同時にYouTubeを見ても理論上大丈夫です。中々ここまでの設備は整えられないので、普通の学校はWi-Fiスポットを校内に置いておくよいと思います。そうすると、そこに生徒が群がって、教材とか動画を見たりしますので、本校のようにどの教室も接続ノードを計算するのではなくて、Wi-Fiスポットを100人あたり一つ置いておく、という方がよいかもしれません。
Q4:小林先生は授業を動画で配信して、授業中に生徒がその動画を見て勉強しているということでしたが、一斉授業というの全くされないのでしょうか。例えば、私は物理の担当ですが、力学をやって、今度は電気の分野に入るという時にも、全く一斉の説明をせずに、「今日から電気の勉強しよう」と言って授業をしていくのかというのが、1点目の質問です。それから、実験はどうしていらっしゃるのでしょうか。それも全て動画などで済ませてしまうのかということを、お伺いしたいです。もう1つお聞きしたいのは、生徒のネットリテラシーの問題です。本校は、生徒が校内で携帯を使うことを禁止しているので、そのあたり実際どうされているのかということをお聞きしたいと思います。
A4 小林先生:一斉に板書しながらの授業は、ここ最近していません。ただ、単元の切り替わりの最初のところでつまずく生徒も多いので、ワンポイントセミナーみたいなことをすると、そこに集まる子が多いような状況です。ただ、そこに全員来るかというと、そうでもなくて、自分で動画を見てやっている子もいます。また、物理は教科書がとても丁寧で、リファレンスとしては便利ものなので、教科書を見て理解する子は理解できてしまいます。そういう生徒は、すぐに問題集や先の単元を自分でやっているので、ワンポイントセミナーは聞きには来ないような形です。ただ、全体に投げかける場は当然あって、ここだけは確認してくれみたいなことがある時は一斉で話をするということはあります。
実験に関しては、高校3年生に隔週で実験と演習を繰り返すという週1回の授業(K-LAB)が別に設定されているので、実験はそこに集中させてするということが多いです。
A4米田先生:ネットリテラシーのお話ですが、今の高校生はみんなデジタルネイティブなので、どこの学校さんも実は本当に困っています。なかなかまだ現場での指導は難しいですが、生徒達自身で考えさせなければいけないということはあります。教えられるばかりでは結局自覚につながらず、犯罪に巻き込まれたりするので。私も警察庁で委員をしていますが、警察庁の方で千葉大学の藤川大祐先生と一緒にパンフレットやリーフレットを作って全国の学校に配布させてもらっていますので、そのあたりもご活用いただければと思います。
<まとめ>
ICTのさらなる活用は
米田先生:では、最後に先生方にICTをこれからどのように、さらに活用していきたいかとお話をしていただいて終わりにしたいと思います。
小林先生:先ほどもお話ししましたが、分野横断型の授業・カリキュラムに非常に興味がありまして、物理だけでなく、数学や国語、英語となどと教科横断で授業ができばと思います。その時にICTは強い味方になってくれるのではないかと思っています。
その分野横断を作る上で、STEM(Science,Technology,Engineering,Mathematics)というのは相性がいいと思うので、これを進めていきたいと思っています。現在は鎌倉にあるFabLab(ファブラボ)さんと合同で地域のプロジェクトとして、毎週水曜日の夜に「夜ファブ」というのを実施していまして、3Dプリンターやレーザーカッターなどデジタル工作機器を用いて、実際に物を作りながらいろいろなことを学ぼうというプロジェクトをしています。
近藤先生:iPadの導入から5年が経過しましたが、教員の使用頻度もまだまちまちです。ただ使えばいいというわけではなく、こういう場面でこそ使った方がいいという場面もあるので、私自身いろいろな場面で近づいて行って、先生方とコミュニケーションを取れるようにしたいと思います。先ほど安藤先生から「いいとこ取り」という言葉がありましたが、この The most dangerous phrase in the language is, "We've done it this way." by Grace Hopper(一番危険なフレーズは、「このやり方でずっとやってきた」)という言葉の通り、使って終わりではなくて、これも今までの方法のいいところと、ICTのいいところの両方のいいとこ取りを目指しませんか、というふうにやっていきたいなと思っています。
安藤先生:本校は、今、タブレットを使って、時差のない国の学校と連携した活動を進めています。先日はオーストラリアの学校と調印しました。その他、マレーシアも時差が1時間なので、こことも組んで中学校1年生ぐらいからオンラインで結んで、英語脳を作ってあげようと思っています。
また、フィリピンの英会話スクールと提携をして、英語の4技能の中でも話す・聞くということに力を入れた授業をやっていこうと思っていますが、そういった音声や映像を使う活動にタブレットは非常に有効であると思っています。
うまくデジタルを埋め込むためには教員の授業スキルが不可欠
米田先生:ICTの活用には目的が必要です。そして、成果と課題を毎回振り返っていかなければいけない。これは学校の中で、特に先生自身がどうしたいかというところがポイントになってきます。「とりあえず入れた」ということも大事ですが、どういうふうに使っていくかを考えることが一番大事ではないかと思っています。
先生方のお話で皆さんに共通しているのは、ICTやITに振り回されないようにしないといけないということと、授業や学校の中で、活用できる部分を見つけていくことです。そして、これは私がいつも言わせていただいていることですが、やはりICTを使うことで培われる能力と失われる能力があって、このあたりを昭和世代の私たちが、2000年生まれの高校生に伝えなければいけません。何でもかんでも動画とか3Dがいいわけではなくて、やはり平面で考えなければいけないこと、紙で書かなければいけない部分というものがあります。そのあたりを、こちらも振り回されないようにしてうまく持っていくことこそが、確かな学力・豊かな学力につながっていくのです。
結局今までやってきたことに、どうやってうまくデジタルを埋め込んでいくかということには、教員の授業スキル必要です。どんな教材を使っても、できる子はできます。そこでできない子とか、それではだめだなという場合に、うまく教員の方が補完してあげないといけないということになります。デジタル教科書を使うと、誰でも画一的な授業ができます。でも、それだけに頼ってはダメだということを、隣の学校はどんなことをしているのかな、ということを皆さんで共有しながら、自分たちの授業を高めていけたらと思います。
◆となりの学校ではICT活用どうしてる、何してる
羽衣学園高等学校 米田謙三先生
<実践報告>
Google Classroomを活用し、個に応じた学びの環境を実現
鎌倉学園高等学校 小林勇輔先生
iPadをフル活用して課題探求・グローバル教育の可能性を広げる
山梨英和中学校・高等学校 近藤美和先生
徹底したインフラ構築とオープンソースのシステムとで、ICT利活用の理想郷を作る
佐野日大中等教育学校 ICT教育推進室室長 安藤昇先生
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