New Education Expo2016

となりの学校ではICT活用どうしてる、何してる

徹底したインフラ構築とオープンソースのシステムとで、ICT利活用の理想郷を作る

佐野日大中等教育学校 ICT教育推進室室長 安藤昇先生

私からは、佐野日大高校でインフラやシステムを構築してある程度成功を収めましたので、他校で導入していただく際に参考にしていただくための成功事例・反省事例をお話ししたいと思います。私自身はMicrosoft社のMicrosoft Expert Educatorというものに認定されており、Microsoftの製品に関しては通じております。

 

まず成功事例の話をしますと、本校はICT導入後に学力が大きく上りました。実は、平成24年度に131台のタブレットを試験導入しました。その時はサーバーを自分で構築して、大手予備校と提携して予備校の授業のコンテンツを約500講座入れて、生徒が自由に見られるようにしました。それまでは、予備校の動画DVDを借りて大きい講義室で一斉に見せるということはしていましたが、これをやめて、全てサーバーで生徒が好きな単元・好きな講座を受けられるようにしました。

 

今はスタディサプリなど、授業の動画配信はあたりまえですが、当時は好きなコンテンツを自由に見られるというのはなかなかできなかったです。生徒は自分の理解度に合わせて、例えば90分の講義を倍速で60分で終わらせたり、苦手箇所をeトレで反復学習したりしていました。

 

その結果、成績は劇的に上がりました。この試験的導入で学力も伸びるという結果が出たので、本校は動画コンテンツをサクサク視聴できるインフラ構築という方針を決め、ICTの専門の設備を入れた新校舎を建築しました。この時のICTの構築には、1億円くらいかけました。

 

光ケーブルをもとに、接続ノードを考えて安全・安心・安定のインフラを実現

その際、接続ノードということを考えました。1人当たりの接続ノードの最大利用帯域を1Gbps、1教室50Gbpsで束ねて、校舎1棟あたり20教室が授業して…ということをもとにインフラを設計したのです。1Gbpsというのは、クラス全体でYouTubeを視聴する際に、1人当たりどれぐらいのスピードが出るというのを計算して、算出したものです。

 

この基盤になったのが、自分の前任のICT室長が2000年頃に引いておいてくれた光ケーブルです。佐野は全国で一番雷が多く、通常の回線では落雷ですぐ壊れてしまうので、光ケーブルを引こうということで、既に敷設してあったので、その後のインフラ構築にかけるお金をかなり抑えることができました。

 

本校の敷地は非常に広大です。そこに、こちらのスライドのような完璧なインフラを作りました。これだけの設備を作りましたので、今までつながらなかったことはありません。たぶん、世界でも一番ではないかと思います。

 

ちなみにタブレットの使い方など、生徒に規制は全くかけていませんが、ネットにつないだ時だけ、ゲームができないようにしています。あまり規制してしまうと、生徒はスマホの方に逃げてしまうのですね。Windowsタブレットを1500台入れましたが、Wi-Fi接続すると、ウイルスのフィルターがかかることにはしてあります。

 

Web認証という方式なので、生徒個人のスマホでもつながります。Web認証というのは、ホテルなどでWi-Fiを使おうとすると、認証画面が出て、パスワードを入れるとWebが開きますね。あれと同じ仕組みにしたわけです。そして、一人当たりが1Mbpsで、タブレット、スマホのどれでもつながるよ、ということになっています。つまり、いろいろなデバイスを接続することはできますが、iFilterサーバーの方では誰が何を見ているかというのも管理できるわけです。このiFilterのログは、たまに公開します。すると生徒は「見られているんだな」という認識のもとに使うことになり、それ自体が規制になります。あとは、一度に2000人までは完璧につながります。今まで切れたことはないし、ローミングをしているので、生徒が一斉に動いても大丈夫です。

 

システムは無料サービスの「いいとこどり」で

その意味で、本校は実証実験の場としては絶好の事例だと思います。本校でできないことは、他でもできないということです。ただし、インフラにお金をかけたので、システムには全くお金をかけず、オープンソースを使っています。文科省の管轄するNIIが開発したNetCommonsいうものですが、特徴的なのはネット上でWebサイトも生徒用の教育支援システムも教員用のグループウェアも緊急連絡も全て無料で使えます。その他、Office365の教育版やGoogle Apps for Educationといった無料サービスのいいとこ取りをしています。だから企業には入る余地がなくて、困ったタイプの学校です(笑)。

 

教員用のグループウェアでは、まず、先生方は新着情報でその日何があるかというのを全て把握できます。それから下の方に週間の予定表があります。個人別・部署別に予定が見られるので、他の先生の出張や年休などの予定も見られるようになっています。

 

先ほど「いいとこどり」と言ったのは、このアイコンを見ていただければわかりますが、使うものを全く規制していません。本校は、もともとiPadもAndroidもWindowsも何でも動くという環境を目指していたので、こういう形になっています。これらも全て無償です。

 

機器やソフトウェアの操作画面・操作方法を統一し、情報配信を飛躍的に活性化

本校のもう一つの特徴は、UI(User Interface[ユーザインターフェース])、つまり機器やソフトウェアの操作画面や操作方法を統一したということです。これをしたことが、情報の配信の活性化につながりました。先ほど見てみたら、本校の1つのログで、100万を超えました。つまり、先生と生徒が100万ファイルを共有しているということです。その中で、著作権もみんなで見張っているので、これはけっこうすごいことかなと思っています。

 

例えば、これは65歳ぐらいの数学の先生が、自分のプリントをアップしたものです。このアップの仕方の動画も、教員用のグループウェアのところに置いてあるので、そのとおりにやれば誰でも簡単に動画やプリントのアップができるようになっているのですね。このように、授業でやったプリントや板書、提示したものをPDF全てこのクラウドに共有して、誰でもこれを使うことができます。

 

その他に、富士通のScanSnapが各スペースに1台、2台あるので、例えば絶版になったテキストを先生方がPDFにして上げておく、ということもしています。

 

クラウドには、3年間の全部の授業の板書が全て上げてあり、動画ファイルは1000ほどあります。こんなふうにやっていて、説明部分は動画で見て、授業中には演習という形にしてから、非常に成績が伸びています。それで、こんなことをしました、ということをいろいろなところでお話ししていたら、うちの学校も作ってほしいということで、今新しい中学校を作るのをお手伝いしています。

 

反省事項もあります。何と言ってもインフラの整備のコストが高い。普通、1億円も出せないですよね。もう一つが、教員用と生徒用のグループウェアが別々なので、先生方は教員用は100使っていらっしゃいますが、生徒用の利用率は75%です。25%がどうもうまくいかない。ですので、先ほどお話しした新しい学校のお手伝いをした時には、改善点として、インフラの導入コストを最低限に抑えて、教員用、先生のグループウェアを統合しました。ただし、WebサイトはNetCommons、グループウェアはこれ緊急連絡網と生徒用と先生用が全て統合したものという非常にシンプルな作りをしています。

 

説明やマニュアルは全て動画配信し、先生方のハードルを下げる

最近気付いたのは、生徒はタブレットをあまり開かないということです。検索したり、カレンダーをチェックしたりするのもスマホから入ります。Google Classroomがカレンダーと連携していまして、宿題が出るとカレンダーに「いつまでですよ」と出るのですが、Googleアカウントをスマホに登録しておくと、スマホのカレンダーに出ます。そういったことで、生徒はいちいちタブレット開いてチェックなどしません。大人もそうかもしれませんが、メールで重要なコールがあったらタブレットを開くくらいです。

 

自分は動画が得意なので、自分はインフラ構築も先生方の教育も全て、マニュアルは動画で配信しています。ソフトの使い方等も、全て動画を見ればわかる形にしてあります。

こうしておくと、生徒が先に使いかたをマスターして、生徒の方がすごいのを作ってしまって、先生が「どうやったの」と聞くこともあります。あと、日本ではあまり広まっていないですが、Office Mix(※)というすごい機能があります。これは、Powerpointのアドインで簡単に動画が作れるので、ぜひお試しください。Officeの2013から使えます。

https://blogs.technet.microsoft.com/microsoft_office_/2014/05/22/meet-office-mix/

Google Chrome上で作るなら、Screencastify(※)という画面を録画できる拡張機能があります。この2つはもう神アプリと言ってよいでしょう。

http://hep.eiz.jp/201408/screencastify-chrome-extension/

 

これは何がいいかというと、クラウド上で配信するので、テストが終わった瞬間に解答が渡せるのです。これが生徒にとってうれしい。だから、定期テストが終わった瞬間に、タブレット開いて解答を確認しています。模擬試験なんかでは、解答をすぐ確認しますよね。そういう興味のある時期にやることこそが学力の向上につながると思います。

 

 

現在の自分の目標は「ICTを利用して日本一を目指す」ということです。自分は剣道部と放送部の顧問をしていますが、ここで日本一になるのが一番手っ取り早い実証になるかなというところで、例えば剣道部は、クラウド上に1年間の全部の試合の動画を上げています。大会前にこういうものを参考にして、自分たちの特徴や対戦相手を分析します。先ごろの大会では、男子は優勝・準優勝を独占しました。女子はベスト4でしたが、個人では優勝、準優勝という成果でした。

 

放送部の方は、LINEとGoogle Driveですべての映像をクラウド上で連携して、その中で編集します。非常に高いクォリティのものができます。このように、授業以外でも工夫次第で生徒の可能性を広げていくことができるのを実感しています。

 

◆となりの学校ではICT活用どうしてる、何してる

<導入>

羽衣学園高等学校 米田謙三先生

 

<実践報告>

Google Classroomを活用し、個に応じた学びの環境を実現

鎌倉学園高等学校 小林勇輔先生

iPadをフル活用して課題探求・グローバル教育の可能性を広げる

山梨英和中学校・高等学校 近藤美和先生

 

<まとめ・質疑応答>

羽衣学園高等学校 米田謙三先生

 

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