理系は数学・物理を題材に、文系は表現力を高める、SqueakやScratchを活用した授業

左から:宅原先生・山本先生・鈴木先生
左から:宅原先生・山本先生・鈴木先生

学習院女子中・高等科 

 山本泰嗣先生 

 宅原愛子先生 

 野本悠太郎先生


学習院女子部高等科では、2年生で理系は情報Bを、文系は情報Cを、3年生では情報演習という授業を行っています。この情報演習は、文系・理系を問わず取れるようになっており、ソフトはSqueakとScratchを使っています。

数学や物理のシミュレーション演習を経て、学習コンテンツを作成<2年理系>

山本泰嗣先生

私は情報Bを担当しています。情報Bの授業の目標は、アルゴリズムというものを意識しながら課題解決をするということ、つまり全体の処理の流れを考えて、どうすれば自分の課題の解決ができるかということを考えさせています。

 

1学期はまず全体の流れ、スクリプトを作ることに慣れることを中心に、「順次処理」「反復処理」「条件分岐」といったプログラムの基本を自然に理解できるような課題を行います。2学期にはそれを発展させて、数学や物理のシミュレーションの実演をしています。それらを通してスクリプトのある程度の技術や課題解決の方法がわかりますので、3学期には自由課題で「学習コンテンツ」を作らせています。

 

1学期の例がこちらです。このカメには生徒が「キャベツ」という名前をつけましたが、正多角形をキャベツで描きます。より辺の多い形を描くためにはどうしたらよいか等などを、試行錯誤を通して学んでいきます。

 

2学期には、物体を投げた時の放物線や、壁にぶつかったボールの跳ね返り等の物理のシミュレーションのスクリプトを作らせます。また、左は数学の応用で、モンテカルロ法を使ってπの数値を求めるものです。今まで数学ではπ=3.14という数字だ、とされていたものを、実際に求めてみよう、というものです。

 

3学期の自由課題「学習コンテンツ」では、人に何かを説明するためのアニメーションを作ります。何を題材にするのか、そのためにはどんなものがあったらよいのか、個人で一から作品を企画させ、スクリプトを作るところまで行います。今回は、生徒が作成した画面を持ってきました。

 

左上は、サイコロの目の数がどのように出るかというシミュレーションです。まん中に棒グラフがありますが、この目がどれだけ出たかというのがリアルタイムに反映されるようになります。右上は化学の酸性・アルカリ性の反応を説明するもの、左下はソフトボールのルールの解説です。この「学習コンテンツ」については、最後に発表会を行って、簡単なプレゼンテーションと相互評価を行います。今まで学んだことを応用して、それぞれが興味のあるものを、自分が表現したい形で作る。それをお互いに見せ合って評価するということで、大いに盛り上がり上がります。

 

EtoysやOffice系ソフトを使い表現力、情報発信力を高める<2年文系>

宅原愛子先生

文系の生徒のための情報Cで行っている実習のカリキュラムをご紹介します。情報Cの実習では、「Etoysを使った作品制作」「Office系ソフトを使った広報制作やデータ処理」「プレゼンテーション」の3段階に分けて、1年間を通したプロジェクト形式で取り組んでいます。一連の活動を通して、デジタルでの表現力を高めることを目指しています。

 

1学期には、Etoysを使った作品制作に取り組みます。4月・5月は「アクアリウム」という作品作りを通して、Etoysの基本操作を身につけます。そして、中間考査以降で学校を紹介するアプリの作品計画および制作を行います。学期の最後に作品の発表会を行い、相互評価を行います。作品の利用対象を明確にし、どのように作品作りに活かしたらうまく伝わるかを考えながら作品制作に取り組みます。

 

文系の生徒なので、プログラミングそのものよりは、絵の描き方の方を工夫する生徒が多いですが、コンピュータに慣れている生徒の中には、ゲームのようにけっこう高度な作品を作った人もいました。

 



2学期は、Office系ソフトを使っての実習を行います。1学期に作った作品のパッケージを文書作成ソフトを使ってデザインしたり、表計算ソフトを使って、1学期に行った作品発表会のアンケート結果の集計を行ったりします。さまざまなソフトを活用することで、目的に応じた使い分けができることを目指します。

 

3学期は、1年間のまとめとして、PowerPointを使った総合プレゼンテーション実習を行います。商品企画の提案というテーマで、1学期・2学期に制作したものをどのように魅力的に発信するかということを目標にします。1月中にプレゼンの準備としてスライドを作り、2月の発表会に向けて準備をして、最終的に相互評価をするという流れで行います。このように情報CではEtoysを軸に、総合的にコンピュータを活用した情報発信の実習を行っています。

 

ScratchとKinectセンサーを使って身体を利用したゲームを作成<3年>

野本悠太郎先生

3年生では、自由選択で情報の演習を行います。

 

2年生の情報の授業で興味を持った生徒がこの授業を選択します。この授業の目的は、11月初旬の文化祭での発表です。1学期いっぱいを使ってScratchでゲームを作りますが、この際、単にScratchを使うだけでなく、Xbox360のKinectセンサーを使って、人体の手や足、頭といった部分のセンサーの値を使ったゲームを作成します。2学期に入ると、自分の好きなものを自由に紹介する動画を作らせ、文化祭で発表します。

 

これらの活動で、私は最初にScratchの使い方や動画を作成するソフトの使い方などを1時間教えるだけで、あとは生徒が自由に作り、何かわからないことがあれば質問に来なさい、ということにしています。これを通して、最大限の自由度を与えて、自分の手で表現したいものを作るという面白さを伝えたいと思っています。

 

 

Scratchの説明を簡単にします。クリックすると、猫が動きます。1クリックで動く距離は短いのですが、これで10歩です。5回クリックすれば50歩動きます。しかし、猫を動かすのに毎回もクリックするのは大変なので、この中央のエリア(スクリプトエリアと言います)を使うわけです。

 

ここでは、複数のブロック状のプログラムを合体させることができます。制御のカテゴリーの「10回繰り返す」を広場に持ってきて、「10歩動かす」と合体させ、これをクリックすると、10歩×10回で100歩動きます。このようにスクリプトエリアでプログラムのブロックを組み立てることで、猫は組み立てたブロックによる一連の動きを行うことができます。猫でなく他の絵を使ったり、自分で描いたりすることもできます。Scratchはブロックを組み立てるだけの、簡単かつ視覚的に分かりやすいプログラミングソフトです。インターネットで無料ダウンロードできますので興味のある方はぜひお試しください。

 

もう1つが、「さるかに合戦」のゲームです。これは、人間がセンサーの前で右左に動くと、かにが追随して動きます。僕は本当に何も教えていないのですが、2年生でやったSqueakのゲームでかなり興味を持った子が、Scratchで自分の表現力を活かして作品を作るというのが、僕の想像の計り知れないところまで発展していることを実感しています。

 

話だけでは伝わりにくいと思いますので、生徒が自分で作ったゲームを紹介する動画を紹介します。ご覧ください。