情報入試研究会試作問題#001 問題解説
久野靖 筑波大学ビジネス科学研究科教授
問題作成の経緯
高等学校の情報科を含む小・中・高の情報教育は、わが国の将来を担う児童・生徒に「情報社会を生きる力」を身につけてもらうという重要な役割を担っていますが、現実には適切な形で実施されていると言えない状況も見られます。これは1つには、情報教育がめざす学習内容やその達成水準が世の中に正しく知られていないことにも原因があります。
情報入試研究会は「高校における情報教育の達成度合いを正しく評価し、また情報教育に対する適切な指針を提供する」ための「関係者が共に認める、適正な範囲・内容・水準を持った試験問題・試験方式」を構築することを目的として、2012年1月に設立されました。そのための試作問題の作成を検討し、秋には「試作問題#001」を公開、更に検討を重ね新たな問題を用意し、2013年5月18日に第1回の模擬試験を開催することになりました。模擬試験の問題は、以下で解説いたします試作問題#001に添った形で行う予定です。
なお、情報入試研究会は当初からその活動に情報処理学会のメンバーが多く係わっており、本「情報入試フォーラム」も情報処理学会と共催の形を取っています。
作題方針と水準
情報入試研究会ではさまざまな議論を重ねたうえで、問題の作成方針と水準を次のように定めました。
「高校における情報教育の達成度合いを正しく評価し、また情報教育に対する適切な指針を提供するうえで、関係者が共に認める適正な範囲・内容・水準を持った試験問題・試験方式」
具体的に言うと、内容・範囲は「学習指導要領に準拠する」、つまり「検定教科書に標準的に掲載されている」ことが試験対象になります。教科「情報」の授業では、現状では、特定のソフトウェアの操作が行われるケースが多いのですが、当研究会の試験では、操作方法に関する知識は出しません。ただし、一定の範囲でソフトウェアを使った経験が有用になる問題は、当然あってよいと考えています。教科「情報」は実習も含めて行われるので、さまざまな形で経験を重ねるのは大切なことですが、最も重要な点は「何を目標として、どのように情報を取り扱うか」、そしてその結果として「どのように考えを進めていくか」ということです。こういったことがきちんとできている生徒が解けるような問題を作りたい、という考えが根本にあります。
問題水準については、進学を希望するすべての高校生が解けるような問題にすることが重要だと思っています。大学入試センター試験で実施されている「情報関係基礎」では大変良い問題が出ているのですが、センター試験そのものが、現状では国立大学を受験するレベルの生徒が解くことを想定して作られているため、私たちの目的から見ると少し難易度が高い。当研究会では、もう少し易しい水準をめざしたいと考えています。
検定教科書のレベルをきちんと勉強していれば解けるような出題をめざしています。ただし、教科「情報」の時間数は2時間と少なく、一方で内容は多岐にわたるという特徴があります。2時間ですべてを教えるのは難しいでしょうし、逆に生徒が自分の趣味として進めているようなこともたくさんあります。したがって「授業で学んでいなければ解けない」と限定するのではなく、教科書の指導要領範囲になっているところは、すべてが試験対象に入ると考えています。そもそも教科「情報」の目標は、「情報社会を生きる力」にあるわけですから、それを測ることが大前提です。そのことがどれくらい達成できているかに関しては、皆様にご意見をいただきながら、改良していきたいと思っています。
出題形式
試作問題は、「情報共通」「社会と情報」「情報の科学」の3領域に分けて構成しています。
私たちはもともと「当研究会が作った問題をもとに、各大学が独自の試験を作ってほしい」という希望をもって、このような活動をしていますので、各大学がそれぞれのアドミッションポリシーに合わせて必要な部分を利用できるように配慮しています。
「社会と情報」「情報の科学」は選択必履修ですから、実際の入試では選択問題にするケースが多いと思われます。しかし5月に予定している模擬試験では、できるだけ多くのデータをいただきたいので、3領域とも必答という形にさせていただきました。受験者が実際に学んだ科目名と付き合わせることで、「学んでいない場合にどの程度解けるか/解けないか」ということも評価したいと考えています。また、試作問題#001で、「社会」「科学」に入れた問題の中には、「共通」に入れてもよいと考えられるものもあるかと思うのですが、まずは各領域の問題数を揃える、ということでこのように分けています。
解答形式は、選択式と、短い自由記述式の併用にしました。全部を選択式にはしたくないという思いがあり、かといって長文の自由記述式は採点が難しくなるため、上限の文字数が数十程度の短い自由記述までは含めることにしました。
試験時間は3領域各30分、合計で90分としました。これは、受験者にあまり負担をかけてはいけないと考えたことと、各大学で行われている試験は60分から120分のものが多いので、その間の標準的な時間として設定しました。
知識問題か思考力問題か、という点も重要です。私たちとしては、大学入試ではできるだけ思考力を問う問題を中心にしてほしいと考えていますが、現実の入試では知識問題も数多く出ているわけです。このことを考慮し、作題の参考になるために、知識問題も一定量含めています。ただし、知識とは「単語を知っている」ことではありません。ある事柄について、考え方や判断基準、計算方法等を知っているということが知識だと考え、そういったことを問う問題作成に務めました。以上が全体的な方針です。
試作問題解説
問題は、以下の形式で構成しています。
問題 |
選択方法 |
分野 |
第一問 |
必答 |
共通 |
第二問 |
必答 |
情報の科学 |
第三問 |
必答 |
情報の科学 |
第四問 |
必答 |
社会と情報 |
第五問 |
必答 |
社会と情報 |
【情報の科学・社会と情報 共通】第1問
次の問いに答えよ。(配点 40 点)
問1 情報のディジタル化に関する以下の記述を読み、空欄に「アナログ」または「ディジタル」の適切な方を入れよ。
ある情報を文字で書き表すことは、その情報を( ア )表現していることになる。この場合多少のかすれや歪みがあっても「どの文字か」ということさえ判別できれば、元の情報を復元できる。一方、書道で文字を書いた場合は、その文字の形や墨の色合いが問題になるので、書道の文字そのものは( イ )情報であると言える。
書道の文字をスキャナで読み取った場合、その個々のピクセルの情報は( ウ )情報である。それをプリンタで印刷した場合、元の文字の形や墨の色合いが完全に復元できていることはあまり期待できないだろう。一方、元の紙も色あせたり縮んだり するかも知れない。つまりこのことは、( エ )情報を正確に保存するのは易しくないことの例になっている。
空欄補充:記述式または選択肢式
解答:(ア) ディジタル (イ) アナログ (ウ) ディジタル (エ) アナログ
解説
アナログ/ディジタルの本質を理解している生徒が解けることをめざしています。ディジタル表現は「N通りのうちのどれか」、アナログ表現は「連続的に変化するようす」で表すという知識をもとに、それを具体的な場面にあてはめられるかを見ています。また、スキャナとかピクセルという用語も出てくる。あとは、アナログ/ディジタルの特質はどの教科書にも出てきますので、これもわかっていてほしいという意図で、この問題を作りました。
問2「コンピュータ内部では全ての情報を 0 と 1 の列で表現している」ということがある。また、「コンピュータ内部ではすべての情報はディジタル情報である」ということもある。この2つが同じであることを 90 字以内で説明せよ。
記述式または(工夫すれば)選択肢式も可
解答例:情報を 0と1の列で表現することは列の長さがNであれば 2N 通り の場合を表す。また2N通りのディジタル情報はN桁の2進表現、つまり0と1の列で表すことができることから同じである。(84文字)
採点基準:2N通りの表し方(同じ意味にとれれば◯)、2進表現、ディジタル情報が0と1で表される、が書かれていること。同主旨でも文意が読み取れなかったり、文として意味をなさなかったりする場合は、30%減点とする。
* 注:上記「2N通り」は「2のN乗通り」
解説
この問題では、「ディジタル表現は0と1で表すこと」と「数は2進法を使えば0と1で表せる」という、どの教科書にも載っている内容どうしのつながりを問うています。大学入試ですから単に穴埋めではなく、論理を組み立てて記述する力を持っているかを見たいという気持ちで、このような問題を作りました。
問3 パソコンでネットを使っている際の次の行動のうち、セキュリティ上のリスクが「とくに高い」ものを2つ選びなさい。
ア. 学校の実習システムのパスワードに辞書から選んだ英単語を使う。
イ. 知人のメールアドレスからよく分からない英文メッセージとともに送られて来た添付ファイルを開いて確認する。
ウ. 使用期限切れウィルス対策ソフトの更新を後回しにする。
エ. ネット上でたまたま見つけたほとんど知られていないサイトのゲームソフトをダウンロードして遊ぶ。
オ. ネットカフェでブラウザの履歴をクリアせずに電源だけ切って退室する。
選択肢式
解答: イ、エ
解説
「リスクがある」と言われる行動をしてはいけない理由がわかっているか。そのことを見るために、「特にリスクの高い」ものを選ばせる問題を作りました。
ア) パスワードとしては不適切ですが、危険になるのは「侵入者がそのシステムにアクセスできた場合」です。学校のシステムは通常、外部から直接ログインできるようにはなっていないので、校内の誰かが侵入行為をした場合に限られます。
イ) 「よくわからない英文メッセージ」は知人本人ではない誰かが送ってきたウイルスメールかもしれず、添付ファイルを開いてしまうと悪意あるコードが動く可能性が高い。非常に危険です。
ウ) ウイルス対策ソフトを更新していなければ、最後の更新以降に現れたマルウェアは検出できないというリスクがあります。しかし実際にはそのようなマルウェアが現れて侵入しようとする度合いはさほど大きくはなく、また対策ソフトもすぐに更新されるわけではないので、こういう穴は常にあるわけです。
エ) ほとんど知られていないサイトであれば、その中でゲームと称しているものが何であるかはわかりません。怪しいソフトのダウンロードは、直ちに悪意あるコードが動くことにつながります。
オ) 履歴をクリアしなければプライバシーが漏れるという問題がありますが、マルウェアの感染よりはリスクが小さいと考えられます。ただ、ログイン状態のまま放っておくと危険なのですが、電源を切るのが前提ですから、電源を切ればログイン状態が乗っ取られる可能性は小さくなります。これは少々難しいという意見もあるかと思いますが、こういったところまで問う形にしました。
問4 あなたは同じ進学先を志望している友人数名と、苦手にしている数学の過去問学習を協力して進めるためのメーリングリストを開設した。メーリングリストに流れたメッセージは Web サイトで一覧表示され、管理者はそれを並べ変えたりフォルダに分類したりできる。一覧表示には、発信時刻、発信者、Subject:欄の内容が表示される。学習のためにメーリングリストの情報を活用する上で有効な指針を下から選べ。
ア. あるテーマ(問題分野) に関するメッセージはできるだけ短時間にまとめて流すように努める。
イ. Subject:欄に問題の分野名と出題年度を必ず入れるようにする。
ウ. あるメッセージの内容にコメントするときは Subject:欄を元のメッセージと変えないようにする(メールソフトが先頭に Re: などをつけることは構わない)。
エ. 学習と関係のない雑談を流すときは Subject:に「雑談」などと入れて区別できるようにする。
オ. Subject:欄は「○○です」のように発信者の名前を入れる原則とする。
選択肢式
解答: イ、ウ、エ
解説
情報の整理の仕方に関する問題です。情報の授業では「サブジェクトを必ず書け」とか「名乗れ」と言われますが、なぜそれが必要なのか、どのようにすれば本当は便利なのか。このメーリングリストの場面に限定すれば、「○○は前提になっているから要らない」等、情報を有効に表示するための適切なルールを考えられるか、そのことを問うています。自分達で工夫した経験があれば答えはすぐにわかるのですが、単に携帯やスマホでメールをやりとりしているだけではわからない、ということをめざしたつもりです。
ア) 順番は後で並べ替えて整理できるので重要ではありません。
イ) 一覧表示でSubjectが表示されることになっているので、探しやすくするためには、そこに分野や年度が書かれていることは重要です。
ウ) メッセージに対するコメントは、Subjectを変えないでおいたほうが、関連していることがわかります。
エ) Subjectに「雑談」と表示されていると、メッセージを整理する際に見直さずに済みます。
オ) 発信者はSubjectとは別に表示されますし、メッセージを整理する時は名前よりも内容で整理するので、好ましくありません。
問5 インターネットに接続されたブロードバンドルータ(WAN ポート 1 個、LAN ポート 1 個)、4 ポートスイッチ 2 個、LAN ポートのついたパソコンが 5 台ある。すべてのパソコンがインターネットから情報を取得できるように配線を記入せよ。ただし、使用するケーブルの種類は気にしなくてよい(スイッチの各ポートはケーブルの極性を自動判別するから)。
記述式(図に書き込む)または選択肢(ポートに番号を振り正解の接続順を選ばせるなど)
解答例: ルータのLANポートからスイッチのどれかのポートに接続し、2 つのスイッチの任意の2つのポートを相互に接続する。スイッチの残りのポートをPCのLANポートに接続する。
解説
ネットワークの構造に関する問題です。LANの接続方法を通して、自分のPCはどのようにインターネットにつながっているか、その理解を問おうと考えました。大体の教科書には載っている内容です。機器の名称だけを知っていても駄目ですが、それらの機器の役割を知っていれば解けます。言葉を知っているだけだと、穴埋め問題はできるかもしれませんが、こういう問題はできないのではないかという意図で作成しました。自由記述で書き込む形式にすると採点が面倒になる場合は、あらかじめ各機器に番号をつけておいて、○番から○番をつなぐという形にすればいいと思います。
問6 私たちが情報社会において守るべき「情報モラル」には、私たちが生得的に持っている人命を尊重する、他人に迷惑を掛けない、嘘をつかない等の「人道的考え方」、皆が共通にもっている「常識・慣習」、法律やその他の「明示された規則」があります。次のことがらはどれに相当するか、それぞれ適切なものを選択しなさい。
(ア) 竜巻が遠くに見えたので急いでネットで多くの人に知らせた。
(イ) Webページで他人の文章に言及するため、出典を明示し引用した。
(ウ) 先生に質問メールを出す際、冒頭に自分の氏名とクラスを記した。
(エ) 掲示板が画像添付禁止なので写真を投稿する代わりに言葉で説明した。
(オ)友人に大きなファイル渡す際に Web にパスワード付きで掲載し、リンクとパスワードのみをMailで送った。
選択肢式
解答例:「人道的考え方」(ア) 「常識・慣習」(ウ)(オ) 「明示された規則」(イ)(エ)
解説
情報モラルに関する問題です。こういった分類は、教科書に直接載っているわけではありませんが、この文章を読んで「確かに3種類がある」と読み取ってもらい、「良い/悪い」だけではなく、「なぜこの行動には問題があるのか」ということについて考えているかを見たいと考えました。
ア) 危険が迫っていることを多くの人に知らせるのは、人道的な考え方に基づいていると言えます。「常識・慣習では?」という意見もあると思いますが、この場合は、なぜ常識になっているかという論拠を考えると、人道的な考え方が元になっています。
イ) 引用が許されているか、またどのような形で引用を行うべきかは、著作権法という明示された規則で定められています。
ウ) 氏名やクラスを明記することは、先生の指示によるものかもしれませんが、基本的には「メールでは名乗る」というより広い常識・慣習に基づいています。
エ) 画像添付禁止だから画像を貼らない、というのは、その掲示板の規則に従っていることになります。
オ) 大きなファイルを渡すときに直接送らないというのは、どこかに明示された規則ではなく、慣習としてのマナーに属することだと言えます。
問7 現代社会における情報技術の影響はとても大きい。現在ではあたり前のようにできる作業や仕事でも、情報技術の進歩によって初めて可能になったことも少なくない。次のことがらのうち、コンピュータとネットワークの技術的進歩によって可能になったことをすべて挙げなさい。
(ア) 電話でコンサートの切符が予約できるようになった。
(イ) 誰でも自分の日記や旅行記を沢山の人に読んでもらうことができる。
(ウ) テレビゲーム機でゲームを楽しむことができる。
(エ) 少ない人手で作物の収穫作業が行えるようになった。
(オ) 銀行まで行かないでも振込みの手続きができるようになった。
選択肢式
解答:(イ)(ウ)(オ)
解説
電話予約は昔からありました。電話は情報機器ではあるのですが、昔からあるアナログ電話でもできるので、該当しないことになります。日記の公開、誰でも情報発信できてたくさんの人に見てもらえるというのは、昔なら自費出版はありましたが、敷居はすごく高かった。テレビゲーム機の中身がコンピュタだというのは、非常にやさしいのですが、それを見ています。農作業の労力は、機械は原始時代から産業革命からありますよね。ネットバンキングは人間が動いているか? これは議論がありました。銀行まで行かなくても、通帳と印鑑を書留で送ってむこうでやってもらうというスタイルもありました。ただこれは人間が受けていたらコストも手間も大きすぎて広くは行えないので、ディジタル技術によって新しく可能になったことであるという想定です。ご意見が有る方もいるかと思います。
問8 洋服タンスに「赤いYシャツ」「ブルーのストライプのシャツ」「緑のポロシャツ」「青のジーンズ」「茶色のチノパンツ」「赤い短パン」「赤いセーター」がある。これらをビット列で表したいのですが、次の条件があります。
条件1:特定のビットを見るだけで、「色が赤かそれ以外か」分かる。
条件2:特定のビットを見るだけで、「トップスかボトムスか」分かる。
この条件を満たす、できるだけビット数の少ない割り当てを定めなさい。
記述式
解答例
000「赤いYシャツ」
001「赤いセーター」
010「赤い短パン」
100「ブルーのストライプのシャツ」
101「緑のポロシャツ」
110「青のジーンズ」
111「茶色のチノパンツ」
解説
情報の符号化に関する問題です。「情報の科学」的な問題だと思われるかもしれませんが、符号化そのものは、「情報の科学」「社会と情報」の双方で取り上げられています。教科書には「○ビットであれば、○通りの表現ができる」ということは機械的に載っているので、受験技術として、たとえば「3ビットだったら8通り」等は覚えるかもしれません。この問題では、単にビット数を問うのではなく、「割当を決めなさい」とすることで、自分でこういうことをやってみたことがあるか、考えることができるか、ということを訊いています。
答え方としては、色の分類に1ビット、上下の分類に1ビットを割り当てることが決められているので、残りのカテゴリーが2個で済めばもう1ビット、3個以上あればもう2ビットが必要になるわけです。この問題の組み合わせでは、もう1ビットの追加で済みます。掲載している解答例と異なっていても、割り当ての考え方が合っていれば正解です。
以上申し上げたとおり、共通問題については、知識はもちろん前提になりますが、知識にプラスして考えることも必要になる問題を用意したつもりです。
【情報の科学】第2問
次のプログラムは 1 から 10 までの数字を表示するプログラムである。
i=1
i <= 10 の間繰り返し
i を出力
i=i+1
繰り返し終了
次の問いに答えよ。(配点 15 点)
問1
以下の解答群の行を必要なものだけ並べ、1 から 10 までの和を計算し、それを出力するプログラムを書け。ただし、解答群にある行は複数回使ってもよい。
問2
以下の解答群の行を必要なものだけ並べ、「1 2 2 3 3 3 ... 」のように整数を 10 までの範囲で、整数をその整数の回数ずつ出力するプログラムを書け。ただし、解答群にある行は複数回使ってもよい。
解答群
ア. i <= 10 の間繰り返し
イ. j <= i の間繰り返し
ウ. i <= j の間繰り返し
エ. 繰り返し終了
オ. i = 0
カ. i = 1
キ. i =i+1
ク. j = 0
ケ. j = 1
コ. j =j+1
サ. j =j+i
シ. iを出力
ス. jを出力
問1の解答例
カ i = 1
ク j = 0
ア i <= 10 の間繰り返し
サ j=j+i
キ i=i+1
エ 繰り返し終了
ス jを出力
■カとクの順番は入れ替わっても正解。サとキの入れ替わり、ループ中に出力コードを入れる等の誤りは、部分点を配点することも考えられる。回答欄の文字数を7文字とすることで、冗長なコードは許さないようにする。
問2の解答例
カ i = 1
ア i <= 10 の間繰り返し
ケ j = 1
ウ j <= i の間繰り返し
ス iを出力
サ j = j + 1
エ 繰り返し終了
キ i = i + 1
エ 繰り返し終了
■スとサの順番は入れ替わっても正解。出力するものの間違い、ループ回数の間違い( j の初期値の間違い)などは部分点を配点することも考えられる。解答欄の文字数を9文字とすることで、冗長なコードは許さないようにする。
解説
プログラミングに関する出題です。私たちとしては、プログラミングはぜひ学んでほしい内容なのですが、「社会と情報」の中には入っていないので、「情報の科学」の1問として入れました。どういう形式にするか。実は完全な自由記述だと採点が大変なため、普通の大学ではまず行われていません。しかし穴埋め形式はとりたくない。情報処理技術者試験等の穴埋め問題を見ると、「こういうパターンの問題があれば、ここを選ぶ」と暗記しておくことで、正解してしまう人がたくさんいるんです。でも、こういった人たちはプログラムを書くことはできません。書けないのに解けてしまう試験は出したくないということで、今回は、プログラムを1行ずつバラバラにして、それを選択肢にする短冊形式の出題にしました。この形式だと、ゼロからプログラムを作るのと大きくは変わらないわけです。
内容としては、このように、一言で説明できる程度の仕様を書いてもらう形で考えています。問1は、プログラムを学んでいれば、誰でもこのくらいはできるだろうというつもりで出しています。例示の繰り返しがヒントになり、1から10までを出力するかわりに、ここでは i の値の累計をして、最後にjを出力します。累計を自分で構成できるかを見ています。出力が最後の正しい位置に書けるかどうかもポイントになります。
問2は2重ループを使用するので、やや高度です。問1の後にこれが来るのは、ギャップが大きいというご意見もあると思うのですが、いかがでしょうか。内側のループの範囲や、出力の箇所を正しく設定できるかが、ポイントになります。
議論
この問題を公開したあと、私たちの中でもさまざまな議論がありました。「情報の科学」の教科書を見ると、while文(条件を設定した繰り返し)ではなく、計数ループ(for文=1つずつカウントしていく繰り返し)を使うほうが一般的なのではないかという意見がありました。また、「=」や「<=」といった記号を使うのはプログラミング言語的すぎ、「←」や「≦」に置き換えたほうがいいという意見も出ました。これらを鑑み、変数の代入(書き換え)はこれまで通り要求しますが、模擬試験では少し形式を変更する予定です。
新形式では、たとえば上記の2つの問題は、 次のような形になります。
問1
j ← 0
i を 1 から10まで1ずつ増やしながらくり返し
j ← j + i
ここまでが「くり返し」の範囲
j を出力
問2
i を 1 から10まで1ずつ増やしながらくり返し
j を 1 から i まで1ずつ増やしながらくり返し
i を出力
ここまでが「くり返し」の範囲
ここまでが「くり返し」の範囲
問2については、このように「 j 」ではなく「 i 」を出力することがわかれば良い形になっています。ただ、#001の問題をこの形式で書くと、行数が短く易しくなりすぎると思いますので、模擬試験時には、もう少し行数がかかるような問題を考える予定です。また、if 文に相当する機能も使用したいと考えています。
【情報の科学】第3問
家具販売会社の伝票情報をデータベースのテーブルに格納したい。サンプルの伝票を図に示す。 顧客の電話番号や商品の単価などが変更になったときも直す箇所が1箇所で済むようにテーブル群を設計し、サンプルの伝票と同等の情報を入れたデータベースを設計する。処理の手間より領域の節約を重視するので、後から計算すれば済む項目は記録せず、テーブルをなるべくコンパクトにしたい。ただし、後で単価が変更になっても既に発行した伝票の金額は変わるべきでない (電話や名前は新しいものになってよい)。
次の問いに答えよ。(配点 15 点)
問1
家具販売会社では、個々の商品の価格を管理しておく必要がある。次の中から商品データベーステーブルに格納するのにふさわしいものを解答群の中から選びなさい。
問2
顧客情報の管理も重要である。顧客情報データベーステーブルに格納するのにふさわしいものを解答群の中から選びなさい。
問3
問1と問2において、商品データベーステーブルと顧客データベーステーブルの設計ができた。
これらのテーブルを使って個々の伝票を管理するデータベースを設計する。データベースは2つのテーブルから成るものとする。1つは合計金額等の伝票に必ず掲載される情報を格納するためのもの、もう1つは伝票毎に異なる商品に関する情報を格納するためのものである。それぞれのテーブルに必要な情報を解答群の中から選びなさい。
解答群
ア. 伝票番号 イ. 顧客番号 ウ. 名前 エ. 電話 オ. 日付 カ. 項番 キ. 品名 ク. 商品番号 ケ. 単価 コ. 数量 サ. 金額 シ. 小計 ス. 値引き セ. 合計額
解答例
問1
ク.商品番号 キ.品名 ケ.単価
個々の商品に関するデータはこの3つだけである。
問2
イ.顧客番号 ウ.名前 エ.電話
個々の顧客に関するデータはこの3つだけである。
問3
(伝票のテーブル)
ア.伝票番号 イ.顧客番号 オ.日付 セ.合計額(またはス.値引き)
(明細のテーブル)
ア.伝票番号 カ.項番 ク.商品番号 コ.数量 サ.金額(またはケ.単価)。
・伝票に関する固有の情報は、伝票番号、顧客番号、日付、合計額となる。合計額が分かれば(小計との差額から)値引きは計算できる。 または逆に、値引きを記録しておいて、合計を計算してもよい。
・個々の品物に関する情報は、伝票番号、項番、商品番号、数量、金額である。単価は金額を数量で割れば計算できる。または逆に、単価を記録しておいて、単価と数量から金額を計算してもよい。1つの伝票に対する金額を合計したものが、その伝票の小計となる。
解説
データベースに関する問題です。基本的な考え方として、「情報の科学」ではプログラミングは出したい。そして、プログラミング以外の重要な内容は、次の3つがあります。
(A)「問題解決」(ただし社会的な問題でないもの)
(B)「モデル化・シミュレーション」
(C)「情報の蓄積・管理とデータベース」
(A)については、社会的な問題解決は「社会と情報」で取り上げるので、「情報の科学」では、社会的な問題ではないような問題解決を扱おうと考えました。(B)と(C)は、そもそも問題解決のために使うものですから、(B)+(A)、(C)+(A)のような形で問題解決を組み合わせるのが、考える力を見るという点からも好ましいのではないかと思っています。
#001ではデータベースの問題を作成しました。データベース問題を継続するかどうかは、現在検討中ですが、データベースの問題に対する方針は次のとおりです。
まず、データベースソフトを使った実習は非常に限られた高校でしか行われていないので、SQLなどの固有の知識は求めたくないと考えています。一般的には、表計算ソフトのワークシートを使ってデータの集計操作をすることは行われていますから、そこまでやっている生徒であれば解けることをめざしました。そのうえで「どのデータは何を意味しているか」「どれをどう組み合わせれば求めるものが得られるのか」「どのような構成にすると、どのような得失があるか」といったことの理解を問う問題をめざしています。
#001の問題では、家具販売会社の伝票情報の具体例をあげながら、どのデータは何に所属しているかというデータ間の関係を把握する能力と、「なるべく少ない項目のみ記録」「単価が変わっても伝票上の金額は変わらない」という要件を満たすために、何は記録し、何はその都度計算すれば済むかを見分けられる力を求めています。最初の2問は簡単で、これらを終えて「こんなテーブルがある」ということを頭に入れたうえで、問3では全部の情報が入るテーブルを作ります。値引きをどうするか、伝票の中には複数の商品があるので、この部分をどうするか、こういったところがポイントになります。これはデータベースの標準的な問題なのですが、形としては、伝票処理のようなものに取り組んだ経験があれば解けることをめざしました。それでも「少し敷居が高いのでは」という意見はあると思います。
議論
これまで行われた議論の中では、「問1と問2は類似しすぎている」ということが指摘されました。問1と問2を出した理由には、「易しい問題をまず出して、問3の準備にしたかった」「問3を解くためには、問1・問2で問うた2つのテーブルが必要」ということがありました。また、「問1・問2の2つのテーブルの片方は例示して、1問だけを問えばよかったのでは?」という意見も出ましたが、この例示があると易しすぎる問題になるので、あえて両方を問うことにしたという経緯があります。
2つ目の問題点は、「問3は難しいかもしれない」ということです。問3は、データベースを実務で使っていれば容易にできる問題で、伝票の具体例があるので、これをもとに考えられると期待しましたが、限られた時間の中で高校生が解くには少しハードルが高かったかもしれません。次回以降では、もう少し易しい出題をめざす予定です。
【社会と情報】第4問
次の文章を読み、(問1〜問8)に答えよ。
◆大震災で見えてきた情報教育の課題
2011年3月11日14時46分、未曽有の規模の地震・津波・原発事故が日本を襲った。
過去の大災害と異なり、今回は人々がケータイを使いこなし、押し寄せる津波を動画で撮影し、通話規制がかけられてもネットで情報収集・発信した。一方で、怪しげな内容のチェーンメールやデマが飛び交った。非常時の情報インフラや情報システム、情報の提示等に関するいろいろな問題点も露見した。
これらの問題点が情報教育の題材として活用できることを示すとともに、明らかになった問題点を通してどのような情報教育上の課題が見えてきたかを論じる。
◆情報インフラ
大災害で電話網は、物理的被害を免れたところでも、皆が一斉に電話を使うため、大規模な発信規制を余儀なくされる。今回も、公衆電話や IP電話・PHSを除いて、ほとんどつながらなかった。つながらないから何度もかけ直し、(a) ますます事態が悪化する。( ア
)、災害用伝言ダイヤルや安否確認サイトを使うのが正解であろう。このあたりは、災害時の行き過ぎた「買い占め」の問題と似ているが、通信インフラや輻輳の仕組みも含めて、情報教育で扱いたい内容である。
(b) 電話が使えなくてもパケット通信は比較的頑強であった。被災地でも基地局の非常用電源が生きていた数時間は使え、メールやツイッター、IP電話
(Skypeや050電話)が役立った。携帯メールは、SMSによるプッシュ機能の障害により、メールが届いても端末に通知が来ないが「センター問い合わせ」でプルすれば読めることがあった。こういった通信の仕組みを理解して、複数の手段を使いこなせる能力が役立った。
こういった情報リテラシーの問題は、国の危機管理のありかたともかかわる。例えば、原発事故を受けて原子力安全委員会は委員40人を携帯メールで招集しようとしたが、ほとんどの委員に連絡がつかず、連絡がついても交通機関が止まっていて (c) ほとんど参集できなかった。PC
のメールやTV会議システムなら使えたはずである。こういったことを考えさせることは情報教育の格好の題材となる。
◆情報システム
情報システムは、被災地だけでなく東京などでも計画停電でしばしば止まった。特に学校Webサイトはセキュリティを理由にデータセンターを使わないことがあるが、結果的に、情報セキュリティの三要素((d)機密性・完全性・可用性) のうち [A] を重視し、[B] を損なうことになった(
(e) 新井 [1] 参照)。 サーバが安全な場所にあっても、セキュリティを理由に更新用 PC の IP アドレスが制限されていることがよくあるが、これでは非常時に更新できない。ツイッ ターで情報発信して有名になった気仙沼市危機管理課(@bosai_kesennuma)
も、本来はNTTドコモの「エリアメール」を利用するはずであったが、情報発信用PCが制限されていて、使えなかった。
データのバックアップ体制も問題になった。自治体の戸籍データは、その地方の法務局に写しがあるだけで、法務局ともに被災した 4 市町の一部データが滅失した。住基データについては、基本 4 情報は住基ネット側にも存在する。それ以外は、(f)
委託業者が保管していたデータからほぼ復元できたようである(委託業者が住基データを持ち出すことは過去においては住基データ大量漏洩の原因であった)。
被災を免れた地域でも、アクセス増加に耐えられない情報システムが多く見られた。三重県で災害情報を集約して発信する「防災みえ.jp」も地震直後にはまったく閲覧できなかった。アクセス増加に対応するためミラー(キャッシュページ)を設置するサイトも多かった。例えば文科省サイトは Yahoo!、 さくらインターネット、WIDE、Goo、Microsoft
にミラーを置いた。また、県ごとの放射線推移グラフなどは、Windows Azure のクラウドに置いた。ただ、ミラー方式では親サイトが止まれば役に立たなくなる。今後はリソースを必要に応じて増強できる (g) クラウド型サービス
(PaaS、IaaS)の利用も視野に入れて情報システムを構築すべきである。
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問 1
下線部(a)に関して(ここでは赤文字)、それを防ぐために筆者はあることを提案している。どのようなことが提案されるべきか、適切なものを [ア] に選べ。また、その理由を 20 文字以内で記せ。
[ア]の選択肢
0 被災地への電話は自粛し
1 被災地へ援助物資を送り
2 テレビ局に電話で問い合わせ
3 多くの電話機を使うようにし
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問 2
下線部(b)に関して、「パケット通信の利用は比較的頑強であった」のは、なぜか。適切なものを [イ] に選べ。
[イ]の選択肢
0 最近の我が国では、多くの人が、パケット定額制に加入しているから。
1 パケット通信は、データを分割してから送付し、受けとった側で組み立てるから。
2 パケット通信では、必ずバッテリーを利用し、発電所が被災しても安定して通信できるから。
3 パケット通信では、携帯電話会社を通さない無料の通話アプリを利用できるから。
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問 3
下線部(c)に関して、「ほとんど参集できなかった」のは、なぜか。本文から読みとれないものを [ウ] に選べ。
ウの選択肢
0 委員の多くが、メールをプルすれば読めることに気が付かなかったから。
1 交通機関の多くが止まっていたから。
2 PC のメールではなく携帯のメールのみで招集したから。
3 委員の携帯電話の電池が切れたが、停電で充電できなかったから。
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問 4
下線部(d)に関して、AとBに入れる語句の組合せとして最も適当なものを、[エ] に選べ。
[エ]の選択肢
0 A機密性 B完全性
1 A機密性 B可用性
2 A完全性 B機密性
3 A完全性 B可用性
4 A可用性 B機密性
5 A可用性 B完全性
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問 5
下線部(e)の「新井 [1] 参照」は、何を表しているか。適切なものを [オ] に選べ。
[オ]の選択肢
0 この意見を述べた人のうち、1番目に述べたのが、新井という人だった。
1 新井という人のフェースブックの発言の1つで示された。
2 新井という人のツイッターの発言で、1人がリツイートした。
3 参考文献の [1] に、新井という人が記した文献があり、そこに書いてあった。
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問 6
下線部(f)の「委託業者が保管していたデータからほぼ復元できた」について、本文からわかることとして適切なものを [カ] に選べ。
[カ]の選択肢
0 この4市町では、市民の住基データの取り扱いを委託業者に行なわせていた。
1 この4市町では、今回の震災以前から、住基データが委託業者から漏洩していた。
2 この4市町では、住基データは法務局の写しから復活させることができた。
3 この4市町では、震災で失われた住基データを復活させることはできなかった。
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問 7
下線部(g)の「クラウド型サービス」とは、どのようなサービスか。適切なものを [キ] に選べ。
[キ]の選択肢
0 自分のパソコンにデータを置き、データをサーバーにアップロードさせないようにして、コンピュータウイルスから防御するサービス
1 データを自分で保管せず、インターネットに接続されたサーバにデータを置き、アプリケーションで利用するサービス
2 迷惑メールを取り除くメールシステムのサービス
3 サイトへのログインを行なう際に、通信内容を暗号化して送受信することで盗聴を防ぐサービス
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問 8
この文の筆者が、この文で述べたかったことを、次の単語を、すべて 1 回以上利用して、120 字以内で要約せよ。
< 情報教育、課題、東日本大震災、インターネット、情報活用 >
解答例
問1
0) 本当に必要な通話を可能にするため。(17 文字)
■ 電話システムは通信が混雑してくると(輻輳が起きると)システムを守るために着信を規制するようになっている。このとき、皆が繰り返しかけ続けると混雑がおさまらず、本当に必要な通信もつながらない状態が続く。このため、人命に関わるなど本当に必要な場合以外は、通話を避けるのがよい。
問2
1)
■パケット通信では個々のパケットが独立して運ばれるので、不安定だったり障害が発生しているネットワーク上でもそれなりに宛先まで到達しやすいという特性がある。これに対し電話の通信は発信側から受信側まで接続時に経路を予約するので、混雑や障害により予約の確認ができなかったりするとそもそもつながらない。
問3
3)
■本文では委員の携帯の充電については述べられていない。あとのものは述べられている。
問4
3)
■機密性とは、本来取得できるべきでない情報が取得されてしまうことをいう。この問題文の文脈では、学校Webサイトの内容について述べているので、機密性が問題ではない。完全性とは、情報の内容が改編されたり損なわれたりしないことをいう。学校Webサイトのサーバを外部に置かない理由は、ネット経由で意図しない改編が行われたりすることを怖れてのことが多い。可溶性とは、必要なときにいつでも情報が得られることをいう。この問題文の場合、学校Webサイトで情報発信しようとしても、更新できなかったり学校サーバの停電で使えないことを述べているので、これは可用性の問題である。
問5
3)
■文献の参照方法にはいくつかの標準的な書き方があるが、いずれもさほど違いはない。引用や参照について授業で学んでいれば、このような書き方が文献の参照であることを理解しているものと考える。
問6
0)
■ここでは、委託業者がデータを保管していたから、これをもとに(基本4情報以外の)データが復元できたと読み取れる。
問7
1)
■クラウド型サービスでは、ネット上のどこかにあるサーバにデータやアプリケーション上のソフトを保管し、手元のコンピュータには置かない。これにより、どこから自分の保持するどの機器を使っても、同じデータに同じような形でアクセスすることができる。
問8
東日本大震災では、インターネットなどを通じた有効な情報活用があったが、情報インフラの利用方法や情報システムのあり方に課題も見られた。このような課題を克服するための知識を、情報教育を通じて皆が身につけ、災害に備える必要がある。(112文字)
解説
1) 基本的な考え方
「社会と情報」固有の内容について、私たちは次のように考えています。
a) コミュニケーション(手段+技術+社会的事項)
b) 情報システム(社会の中での使われ方)
c) 情報社会における問題の解決
a) の社会的事項とは、コミュニケーション手段と技術が、社会的にどういう効果をもたらすかということです。c) の問題解決では、社会的な事柄を扱います。設問のスタイルは、「長文読解+設問への解答」を基本とし、社会的問題を題材とする文章を使用。設問の内容は、上記 a) 〜 c) を中心とするものを考えています。
2) 第4問の意図
第4問では、「震災時の情報インフラ・情報システムにおけるさまざまな問題」を題材に、次のような内容を問いました。
問1: 災害時の通信マナーとその理由を問う
問2: パケット通信の特徴を問う
問3: 文章がきちんと読めているかを見る
問4: 「セキュリティの3要素」の意味を把握していることを見る
問5: 文献の参照方法の理解(実践経験)を問う
問6: データ処理は誰がどのようにやっているかの理解を問う
問7: クラウドという用語の意味把握を問う
問8: テーマとしている事項全般の把握を問う
議論
テーマについて、「震災はまだ生々しいので適当ではないかもしれない」という指摘を頂いています。模擬試験で使う問題は、震災ではないものを考えています。
また、「これではまるで国語の問題ではないか」という意見もあると思いますが、文章の読解・記述力は基本的な能力として求めたいので、「ある程度の文章を読ませる」ことを前提に考えています。「社会と情報」に関わりのある題材をテーマに、設問では社会的事項だけではなく、教科書に掲載されている範囲の技術的事項も扱います。さらに、自分なりの解釈を持つことを求める問題を作る予定です。単に先生から話を聞くだけではなく、自分で考える姿勢を持ってほしいので。
【社会と情報】第5問
明治大学情報コミュニケーション学部・2013年度用模擬問題1の「V 分野7」
http://www.meiji.ac.jp/infocom/examination/6t5h7p00000bj9wo-att/a1341462248558.pdf#page=6
解説
当研究会での作成が、昨秋の締め切り時点に間に合わなかったため、明治大学の公開模擬試験1の中の、「V 分野7」をお借りしました。
高齢者の交通事故に関する問題です。出題文の中には、「この10年間で交通事故にあった高齢者は2倍に増加した」という広告コピーを題材に、実際の数値データをもとに検証していくストーリーが書かれてあります。設問の空欄は、表データを読み取ることができれば埋められる形になっています。問4では、仮説を裏付けるためにはどのようなデータが必要かを尋ね、さらにメディアリテラシーの問題や、立場の違う2者の主張を考えさせる設問が出されています。この問題は非常によくできているのですが、当研究会がめざすレベルとしてはやや難しい。明治大学さんはセンター試験程度の水準をめざされているので、このような問題を出すのは当然だと思いますが、私どもはこういった要素を入れながら、もう少し易しい水準の問題を出したいと考えています。
フォーラム会場での質疑応答
質問 1)
共通問題第 1 問の問 3、セキュリティ上のリスクの高低を選ぶ問題に関する質問です。教科書では、選択肢(ウ)の“ウイルス対策ソフトの更新”が前提条件になっていて、セキュリティについて教える際もこのことが重視されているのですが、その辺りどのような議論があったかお伺いできればと思います。
[事務局]
教科書に書かれていることができているかをその通り聞くのが正しいのか、ウイルス対策ソフトのアップデートを少しさぼっているのはどうなのかということを聞くのか、そういうことに関する質問だと思うのですが、この辺りは試行錯誤です。模試ではこういう問題も入れておき、どういう状況になったかを後で分析したいと考えています。「現実のことは聞いても答えられないし、力が反映されない」となるのか、「教科書のことばかり聞いても、本当の能力はわからない」となるのか。どちらの答えが出るかはわかりませんから、模擬試験の試行というところでは、いろんな角度から問題を出していきたいと考えています。
質問 2)
第 4 問の問 5 で、「新井 [1] 参照」は何を表しているかという問題が出ていました。この問題には、いわゆる脚注のようなものがなかったのですが、通常はついているので、架空のものでも(脚注の表示が)あったほうがいいと感じました。
いくつかの高校では卒論式の指導をしているところがあり、最後に引用文献のリストを作ることをさせていることを考えると、あったほうがいいかなというのが実感です。
[事務局]
脚注部分はあえて削り、このように書かれていれば通常は何を指しているか、ということを聞く知識問題だというつもりで入れたのですが・・。ただ、そのようなご意見があることは、今後の問題作成に反映していきたいと思います。
質問 3)
試験の形式に関する質問です。高校生にとっては、選択式と記述式の問題がバラバラと混じっていると負担が大きいので、「この問題は選択式で、この問題は記述式だ」という形で並べ替えるようなことはお考えになっていますか。
[事務局]
おそらく模試の形式は、試作問題#001とほぼ同じ形になると思います。表紙に「共通/科学/社会」という並びになっていることは書かれており、共通問題には細かい問題がたくさん入っています。科学は 2問、社会も 2問で、ここには比較的な大きな粒の問題が
1問ずつ入っています。このような形式は模試でも変わらないと思いますが、いまご指摘をいただいたので、たとえば問題の最初に掲示している表の横に、「記述」「選択」や、問題数を書くといった工夫はしていきたいと思います。
質問 4)
試験の水準は、センター試験レベルまでは上げないというお話でした。センター試験は、平均点が 6割あたりをめざしていると思うのですが、普通に学習した高校生がどれくらいとれる試験をめざしていますか。
[事務局]
まさにそこが知りたいんです(笑)。今後 3年間は問題を調整しながらいろいろやってみて、最終的には 6 割を超えることを希望していますが、初年度がどうなるかはわからないと思っています。
さまざまな人に試験を受けていただいたうえで、その分布がどうなっているか等を見たいという想いもあります。ですので、まずは非常に難しい問題から非常に簡単な問題まで、幅広く出題したいという考えもあります。
質問 5)
共通問題第 1 問の問 6
では、情報モラルを「人道的考え方」「常識・慣習」「明示された規則」に分けて考える問題が出されていました。その中で「明示された規則」として、選択肢(イ)に出典明示の話が出ていました。これは法的な話だと思うのですが、同じ法的な話として、プライバシー権や肖像権といったものも、おそらく想定されているのではないかと思います。ただ、プライバシー権や肖像権には明示された規則はなく、判例法などからもってきていたり、慣習なども絡んでいる部分があります。ですので、そういったところを扱うときには、そちらの目線からのチェックが必要になってくるだろうと思います。
[事務局]
入試として出す以上は異論が出ないような、「これは教科書に書いてある」とはっきり言えるような、曖昧さのない問題をめざしています。
肖像権やプライバシー権はそもそもそれを規定している法律がなく、基本的人権と絡めて最高裁判例等で解釈するしかない、といった話だと思います。これはほとんどの高校教科書には載っていない話で、大学でも法学部の導入部分でするレベルの内容だと思いますので、そういう微妙なところを聞くような出題は避けるように調整していきたいと考えています。
[明治大・山崎先生]
著作権などの法律に関して、私どもの学部での模擬問題作成の際の経験についてお話しさせていただきます。作成した問題を、知的財産権が専門の先生に見てもらったところ、「法律家の目から見ると、多くの箇所に間違いがある」とのコメントをもらいました。このコメントを受けて問題を作り変え、再び同じ先生に見てもらったところ、それでも多数のコメントがつきました。作成した問題では、「正しさ」ということをどこに求めるかを考えたときに、法律的な正しさを求めてしまうと問題として成立しない、というところがありました。一方で、「受験用の問題なのだから、法律的な正しさ・厳密さは求めなくてもいい」と割り切ってしまえばよいという考え方もあるかと思いますが、その辺りは怖いところがあり、最終的には模擬問題からは除くこととしました。
質問 6)
「社会と情報」の第 4 問と第 5
問を見ると、私はむしろ「情報の科学」より「社会と情報」の問題が難しいのではないかと感じます。「情報の科学」と「社会と情報」の問題の質が、かなり違いすぎるというか、たとえば「社会と情報」の中にも、少し数量的なものを扱うような、たとえば表計算的な問題もあっていいんじゃないかという気がするんです。「社会と情報」は、どうしても文章的な問題になりがちなのですが、生徒は「社会と情報」を選択していても、数学や理科も勉強しているので、アルゴリズムやプログラミング、モデル化とシミュレーションというようなものとは違う形で、もうちょっと数量的なものも少し含んでいいのではないかという気がします。
[事務局]
「社会と情報」に関して、明治大学さんの問題では数表が出てきているので、そういった問題の作成は可能だと思います。現時点では私たちの作題能力が追いついていないところもあるのですが、「社会と情報」の出題内容を検討すべきだというご意見には、私どもも賛同します。
質問 7)
今のお話を聞いて、いわゆるベタな問題をわざと避けていらっしゃるのかな?と感じました。我々高校教員は、大抵は普通の問題を 1
番目に出します。普通の問題というのは、「社会と情報」でも出せるような、2進/10進/16進の変換とか、2のN乗で動く比例計算、ギガバイトやビットバイトの変換、画像の情報量や音声の情報化、いわゆる普通の計算問題です。それから通常の著作権の問題は、「社会と情報」の教科書の脚注に書かれていますし、産業財産権などについても普通の問題が出せると思うのですが、そういうベタな問題はあえて避けていらっしゃるのでしょうか。
[事務局]
たとえば模擬試験でベタな問題が出ていると、「他の大学もきっとこういう問題を出すからいいんだろう」と、普及につながるプラスの側面があるので、本当はやりたいところがあるのですが、一方でベタな問題の知識レベルはすでにあちこちで出しているので、大体様子はわかりますよね。ですから、今回の「社会と情報」の、じっくり文章を読んでどうわかっているのかを聞くような問題というのは、「情報関係基礎」でもあまり過去にはやったことがなかったので、それがどう答えられるかは見たい。それがさんざんな結果であれば「この出題形式は駄目」となるし、けっこうできていたら、この出題形式を保持することで、考える能力というときに、文章を読んでその場で考えるということが大事だということになってくれればいい。それが、高校生が勉強するときのモチベーションにつながる、やっておこうかなという気持ちにもなると思うので。いずれにせよ、これは試行的試作問題ですのでいろいろやらせていただいていますが、こういうご意見はすごくありがたいと思います。