ジョーシン2013 オープニング
教科「情報」スタート10年目 節目の年に
~2023年の学習指導要領改訂の準備も見据えなければ!
筧 捷彦先生
情報処理学会 情報処理教育委員会委員長、早稲田大学理工学術院基幹理工学部/研究科情報理工学専攻 教授
本日は、台風の中多くの方にお集まりいただきましてありがとうございました。
2013年は、教科「情報」にとって画期となる年です。「情報」が始まって10年が経過し、学習指導要領も改訂になって、従来3科目だったものが2科目になりました。しかし、昨年のシンポジウムでもお話ししましたが、2023年に学習指導要領が変わるのは自明のことであり、その内容を決めるのは、ここ3-4年が勝負です。今年新課程が始まったばかりですが、今のものをどう運用するかだけでなく、「これではまだ足りない、こうしなければいけない」ということを社会一般に訴えていく活動もまた必要なのです。
日本の社会では、初中等教育の役割は大学に生徒を送り込むこと、と考えられています。「情報」はそのあおりを食って、入試に出ない科目だからおまけだ、と見られている雰囲気があります。
もっとまずいのは、入試で取り上げられない科目は、その程度の軽く見てよい内容だ、と考えられてしまうことでしょう。そうならないためにも、「情報」は入試にかなう内容を備えた科目であり、また高校卒業時にはどの程度のことが身に付けられているべきか、ということを世に示す必要があると思います。
今年6月14日に、閣議決定で「世界最先端IT国家創造宣言」が出されました。例によって、総務省、経済産業省、文部科学省の3省が、それぞれ「ウチはこうやります」ということを並べた形の国家計画に仕上がっています。「世界最先端のIT国家の創造」なので、そこには「高度専門人材の育成」や「これまで以上にIT機器を充実させる」ことなどが挙げられています。ここで注目すべきは、総務省と文部科学省のテーマとして、「小中学校でのプログラミング等のIT教育の充実」が謳われていることです。プログラミングを取り上げたのはすばらしいことですが、もののみごとに高校がはずれています。だいじょうぶか、と言いたいところですが。
社会の急激な変化の中で「情報学」とは何かを問い直す意味
今後我々がなすべきは、高校の「情報」の親学問として、広い意味での情報学が何を目指し、社会生活の中で身に付けていかなければならないのはどのようなことか、という大きなビジョンを定めていくことであると考えます。折しも2-3年前から日本学術会議が大学教育の質向上をはかるために、それぞれの専門分野ごとに教育課程編成上の参照基準を作り始めました。ここでは、その学問分野の学士課程教育が何を目指し、どのような形でいかなる学生を育て、その中で展開されることが他の分野にどのような効果を及ぼすか、ということをとりまとめています。これについては、情報分野の参照基準の作成にあたっておられる萩谷先生に、後ほど詳しくご説明いただきます。
この参照基準の抱えている問題は、教科「情報」と同じです。あらゆる教科で「情報」の知識やスキルが使われるようになる中で、情報学は何ができるか。専門的な内容で何を教え、究めようとしているのか。情報教育の結果が社会へどのような形で波及しているのか。皆さんにもぜひ関心を持っていただき、「もっとこうするべきだ」という意見をいただき、賛同していただけることがあれば周りの方々に伝えていただきたいと思います。本日はどうかよろしくお願いいたします。
※本記事は、高校教科「情報」シンポジウム2013秋(2013年10月26日、早稲田大学にて)でお話しされた内容です。