高校教科「情報」シンポジウム2014春in関西「ジョーシンうめきた」

メッセージ

慶應義塾大学環境情報学部 学部長 村井純先生


村井純先生
村井純先生

今日のお話を聞いていて、いろいろな先生方がものすごく頑張って入試の模擬問題を作ってくださっていることが一つのきっかけとなって、情報の「体力」といったものの共有ができてきていることを感じています。また、今日お話してくださった先生方は、皆さん元気な方で頼もしく思っています。教科としての「情報」がきちんとあって、元気のいい先生方がいらっしゃるということは、いい方向に向かっていくための基盤ができたということです。高校の情報教員のポストが少ないというお話もありましたが、チャレンジとしてどこかで盛り上げていかなければいけない。その意味で、我々ができるところから動かしていこうということで、情報入試が話題になっているのだと思います。

 

さて、入試の話を少し外れて、私がまさに「今でしょ!」という危機感を持っていることについてお話ししたいと思います。

 

昨年2013年の今頃、私はゴールデンウィークを返上して、国のIT戦略の素案をずっと書いていました。その結果の「世界最先端IT国家創造宣言」は「閣議決定」となりました。これまでの「IT総合戦略本部決定」というものは、総理と関係大臣がサインします。総理大臣がサインするということは、もちろん国の決定です。しかし、今回は「閣議決定」です。閣議決定ということは、全閣僚がコミットしたということです。13年間で初めてでした。そこには教育のことや情報の入試のことも入っていますが、そのことが問題ではなく、「情報でこの国の未来を作るぞ」という国家創造宣言であり、それに全閣僚が初めてコミットしたということです。これは実は「やばい」ことだと思います。

 

この宣言が目指しているのは、全ての分野で、デジタルテクノロジーを駆使して先に進むことが必要になるんだよ、ということです。また、私はインターネット屋なので「インターネット前提社会」と言いますが、「IT前提社会」、つまりこの国は「デジタル技術を使いこなせることを前提に日本の未来を作ります」と言うことを宣言しています。日本はインターネットの普及率が高いので、どこに行ってもインターネットの環境には不自由しません。どこで・どんな仕事をするにも、デジタルテクノロジーを使いこなせなければならなくなります。

 

そのために教育の体制をきちんと見直して、不安なところや問題のあるところは、まさに今直しておかなければなりません。人間を育てるのには時間がかかります。高校の情報の科目がこう変わるべきだといっても、実現には10年かかるでしょう。我々の情報入試も、新しい学習指導要領が始まる2013年に入学してくる高校生へのメッセージにするためには、どう考えても2012年のクリスマスくらいに言っておかなければならない、だからその直前のジョーシンで宣言しなければならないと思ったのです。それでも実際の入試は2016年の春ですから、相当時間がかかる仕事です。

 

そういったIT前提の社会作りのためにいちばん急がなければいけないのは、今後のヒューマンリソースに対する責任を持っている私達です。だから、できる事から皆さんと一緒に頑張ってチャレンジをしていかなければならないと思っています。

 

もう一つ、入試と関わらない部分で大事なことは、ITやインターネットはすでにグローバルな世界を作ってしまったということです。これはどういうことかと言いますと、例えば最近のコンバインは、稲刈りをするとすぐにその場でタンパク質の含有量を測定するので、お米の美味しさがわかります。そのデータを分析すれば、美味しい米を作るためにはどうしたらよいかがわかるわけです。日本製のコンバインは世界中で使われていますから、今TPPなどで米の輸出入がもっと活発になると、ベトナムやフィリピンなど米作をしている国が、こういった技術で美味しい米を作れるようになり、良い輸出のマーケットにもなり、日本の米作農業も少なからず影響を受けることになると思うのです。

 

これからの社会で、日本の学生たちがどういう活躍をするかということは重要なポイントですが、情報社会では今までドメスティックだった業界や職業が、あっという間にグローバル化します。では、そこで活躍できるような教育の糸口はどこかというと、それぞれの教科が今まで持っていた守備範囲の学習方法の中に、情報化に対応するためのフレーバーを入れていくことだと思います。そして、教科「情報」は、その根幹を握っているわけですから、まずここから道を開いていく。情報だけでなく、他の科目も変わっていかなければなりませんが、少なくとも我々情報に関わる者は、その責任と役割を果たしていく使命を持っているのではないかと思います。

 

その意味で、教科としての「情報」があるのだから入試の科目に入れるということは、社会的には普通にできることであり、それを通じて情報の教育が改善され、次の世代が自信を持って生きていける力を身につけていけるようになることに本質があると思います。

 

情報の入試をやろうという、半ば無理やりな議論が始まったのは2012年で、僅か2年でここまで来たのはすごい機動力だと敬服しております。ぜひこのグループとチームワークを今後も続けていただいて、2016年の私達の入試で良い学生を入学させることができたらと思っています。よろしくお願いします。皆さんと一緒に頑張っていきたいと思います。

 

高校教科「情報」シンポジウム2014春in関西(2014年5月17日 大阪工業大学うめきた

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