情報入試が、専門高校・総合高校の生徒に大学進学への新しい門戸を開く

~第2回大学情報入試全国模擬試験 団体受験報告~

水野修治先生 (愛知県立高等学校教諭) 


水野修治先生
水野修治先生

日々情報の勉強をしている生徒が情報入試全国模試を受験したら

 

今回の第2回大学情報入試全国模擬試験に専門高校である本校の生徒12名が団体受験しました。その狙いや結果、生徒の感想などについてお話しします。

 

本校には情報処理科という学科があり、専門性を高めるためにITパスポートや基本情報処理技術者試験などの国家試験の取得に力を入れています。中には応用情報技術者試験やデータベーススペシャリスト試験に合格する生徒もおります。

 

地域に商業高校が本校のみということもあり、優秀な生徒が毎年入学してきます。これらの生徒にはさらに専門性を高めるためにと大学への進学も勧めています。現在、本校のような専門高校から大学に進学する方法としては、推薦入試やAO入試が中心となりますが、今後、入試科目で「情報」を実施していただければ、学力試験で入試に挑むことも十分可能と考えております。それゆえに、情報入試にはどのような問題が出題されるのか、また、日ごろ国家試験のための勉強をしている生徒達が、この模擬試験を受けたらどのような結果が出るかというところに大変興味を持ちました。

 

この情報入試に興味を持ったもう一つの理由として、仮想受験生を通してこの模擬試験の内容を見極めたいということもありました。今回模擬試験を受けた生徒は900名程度ということですが、この生徒達は実際に情報入試が行われた場合の受験生として見ることができるのでしょうか。大学受験を目指す生徒は、受験科目について受験勉強のために、受験参考書や問題集で入試に特化した勉強をしたり塾に行ったりといった「学び直し」を、時間をかけて行っています。その意味で、今回の模試の受験生の中には、1年次に情報の授業を受けて、その後日々きちんと「学び直し」をしている生徒はあまりいないのではないかと思います。そこで、本校の生徒は、国家試験の資格取得のために日々勉強しているので、実際に情報入試で進学しようとする受験生と見立てることができるのではないかと思います。この生徒達がこの模擬試験を受けてどう感じるのか、情報入試をこれから導入する際の参考になるのではないかと考えました。

 

国家試験対策の勉強だけでは解けないものも

 

模試の受験者の内訳は、部活動の情報処理部1年生から3年生までの12名です。彼らには事前告知はしていましたが、特にこの模試への対策は指示しておりませんでした。

 

受験結果ですが、残念ながら1年生は思いのほかできませんでした。彼らは、共通教科「情報」は学んでおらず、代替科目である「情報処理」を履修しているのでしかたがない面もあります。これは、「情報処理」の内容がビジネス系に偏っておりますので、今回の模擬試験の対象科目「社会と情報」、「情報の科学」の内容を網羅しているとは言えません。よって、今回の考察からは除外することにしました。

 

2・3年生は、全体の平均からしますとかなり良かったと思います。3年生には応用情報技術者試験やデータベーススペシャリスト試験に合格した生徒もおります。この生徒の中には、前回実施された模擬試験で高校生のトップの点数を取っている生徒もいます。

 

この2・3年生の生徒は、何らかの国家試験に合格していますので、それなりに日々情報に関する勉強をしている生徒達です。結果を見ますと、ITパスポート試験にのみ合格している生徒に関しては、あまり優位性は見られませんでした。しかし、基本情報技術者試験や応用情報技術者試験の合格者は高得点者が多く、全国平均の94.9点に比べてもかなりの優位性が見られます。これら国家試験の練習問題にたくさん触れている生徒は、この模擬試験にも十分対応できていると考えられます。

 

プログラミングの得意な学生には取り組みやすいが、長文の読み取りは苦手

 

試験終了後に、受験した生徒に対して、情報入試研究会のアンケートとともにグループディスカッションを行って、この模擬試験についての感想や意見を聞きました。

 

まず、情報入試研究会のアンケートを見ると、セットAについて言えば、第2問(情報の科学・プログラミング)の難易度を「適当」と答えた生徒が8割以上あり、「難しい」と答えた人が多かった受験者全体の結果とは逆になりました。一方、第3問(社会と情報・アンケート調査の読み取り)は、「難しい」と答えた生徒が多くなりました。今の生徒は、長文を見ただけで諦めてしまう人が多く、決められた字数で簡潔にまとめて書くことが苦手な生徒が多いです。現在の学習指導要領では全ての教科で言語活動を充実させることを重点項目として掲げていますが、今回の模擬試験でもこういった能力が必要であることを改めて感じました。

解答時間が「足りない」という人が多かったのも、第3問の記述式の問題が原因です。問題数と出題範囲は「適当」と答えた人が多く、プログラム形式は「これでよい」と「どちらでもない」が半々でした。「これでよい」と答えたのは、プログラムの問題ができている生徒達でした。

 

セットBの第1問(共通問題)を「難しすぎる」と答えた人が多いのは、メディアに関する問題ができなかった人が多かったためです。第2問(情報の科学)のデータベースの問題が「難しすぎる」と書いた人が多かったですが、結果を見るとそれほど悪いわけではないので、このような問題に慣れてなかったということがあるかもしれません。

 

 

「解答時間が足りない」という回答が多いのは、最後の第3問の長文の読み取りに時間がかかったことに起因しているようです。

 

共通問題と「情報の科学」は、勉強をした分だけ確実に得点できる

各大問毎の結果は左図のようになりました。

グループディスカッションの発言から見ると、第1問(共通問題)の計算問題は、彼らにとっては基本的な簡単な問題で、取り組みやすかったようです。共通問題は「勉強しただけ確実に点数がとれる問題」だったという意見が出た一方で、同じ共通問題でも、点を落とした生徒が多かったセットBのメディアに関する問題は、知識だけでは解決できず、「ヒラメキが必要だった」という意見もありました。

 

第2問(情報の科学)は、プログラミングが出題されたセットAは、「穴埋めではなく、最初から順を追って考えるので楽しかった」と言った生徒が複数いました。こういう感想が聞けたのは、私自身とても嬉しく思います。彼らは、実際にゲームのプログラムを組むなど、プログラミングを得意とする生徒達で、正解率はとても高かったです。逆に、全くプログラムを組んだことのない生徒は、国家試験対策ではフローチャートの穴埋めばかりしているので、「解きづらかった」と感じているようでした。セットBのデータベースの問題は「知らなくても順を追っていけば解ける問題だ」という意見がありました。

 

第3問のアンケート調査(セットA)、緊急地震速報システム(セットB)は、「社会と情報」の問題ですが、「常識で解ける問題だ」という意見があった一方で「勉強しても確実に解答できるか自信が持てない」言う生徒がいました。

 

全体を通して、第1問の共通問題と第2問の「情報の科学」は、勉強をした分だけ確実に得点できると感じているようで、特に高得点者ほどこのような問題を好む傾向が高いです。一方、「社会と情報」は文章読解力や表現力が必要で、情報を得意とする生徒は苦手意識を持っているようです。

 

情報入試の出題を通して大学のメッセージを示してほしい

 

情報入試は、大学側が受験生のどのような能力を見極めたいのかということを示すものです。個人的には、大学でどの分野にも共通して必要なのは、「情報の科学」で扱われる考え方や技術だと思います。文系の学部でもテキストマイニングやコンピュータによる解析は必要な知識・技術だと思います。身に付けておいてほしい国民の素養として必要な情報に係る知識や技術を、これからの情報入試を通して大学からのメッセージとして示してほしいと思います。

 

先ほどもお話ししたように、情報入試は専門高校から大学に入るチャネルが増えるということをとても期待しています。情報入試を大学が導入するには様々な問題があるかと思いますが、愛知県でも「情報」採用教員などが中心となって、情報入試で大学に進学する生徒を少しでも増やしていきたいと考えておりますので、情報入試で大学入試の新たな門戸が開かれることを期待しております。

 

最後に、この度の模擬試験を受験し、結果や意見を提供してくれた生徒達に感謝したいと思います。

 

 

高校教科「情報」シンポジウム2014春in関西(2014年5月17日 大阪工業大学うめきた

ナレッジセンター)講演