ネット依存の予防は「知ることこそ護身術」
<ネット依存相談の窓口から>
第1回 近年増えるネット依存は「人依存」
「ネット依存」の人が増えています。ネットの世界にはまり込んで抜け出せず、現実の生活に支障をきたすまでになっている、そんな人たちのことです。たしかに、近頃は、スマートフォンを片時も手放さずtwitterやLINEなどをやり続けている人の姿を以前にも増して見かけるようになりました。
従来の携帯電話(=フィーチャーフォン)より広い画面でインターネットを快適に使える端末(=スマートフォン)、定額で使い放題の高速通信回線、無線通信網の拡大、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)や動画サイトなどさまざまなWebサービスの幅広いユーザー層への浸透――これらのサービスが充実してきたここ1~2年ほどのあいだに、ネット依存は目立って増加してきていると言えます。
実際、私が代表を務めるエンジェルズアイズでは、掲示板やメールにてそうしたネット依存に関する相談を受けているのですが、2006年の相談開始以来その件数は年々増える傾向にあります。メールの数を例に出すと、2010年には年間トータルで30数件だったのが、昨年(2012年)には50件までになり、今年(2013年)は5月の時点ですでに30件超。このままの勢いが続けば、2013年末までには昨年を大きく上回る数の相談が寄せられることになります。
ネット依存を自覚する子もいるが、自覚のない子も
ここ10年以上のあいだには、インターネットの状況はさまざまに移り変わってきました。私たちに寄せられた相談をみると、ネット依存の傾向も変化しています。
たとえば、以前はチャットやオンラインゲームにはまるというのがよくあるケースでしたが、2010年頃になるとGREEやアメーバピグなどのソーシャルメディアに関する相談が増えだし、現在はそれらに加えてtwitterやFacebookなどのSNS、ニコニコ動画などの動画サイトにはまってやめられないという事例がとても多くなっています。また、スマートフォン利用者のネット依存が飛躍的に数を伸ばしている点も現在の特徴です。そして2012年の終わり頃からは、これらの傾向を総合するかのように、スマートフォンでの利用が基本であるSNS「LINE」に関する相談が目立ってきました。
子どもの相談が増加傾向にある点も大きな問題ですね。ネット依存を自覚し、自ら相談の書き込みをしたり、メールを送ってくる子もいます。受験生の相談が最も多く(学生の相談のうちの38パーセント)、中3か高3か学年のはっきりしないそれらを除くと一番多いのが中学生(30パーセント)、その次が高校生(20パーセント)となっていて、小学生の相談もいくらかあります。ちなみに、はまっているものは学年に関係なくみんな同じで、SNS、動画サイト、オンラインゲームです。
自分が依存傾向にあると気付いていない子どもが案外多いことも気になります。前に取材したある高校生は、1日8時間以上もネットをやっていながら、私に「やりすぎだと思わない?」と指摘されるまでそれが異常なことだとは自覚していませんでした。そして、スマートフォンを使っている時間のうち「自分のためになっている時間はどれくらい?」と訊ねると、返ってきた答えは「ゼロ」。時間の無駄をしていることをそこで理解したわけです。ただ同時に、理解したうえでなお、もはや生活のパターンになっているのでやめられないとも言うのでした。「それをやめたら、私がなくなる」と。最近ではこんなケースは珍しくありません。
依存傾向にある生徒の1日のネット利用時間(赤い部分)
「人とつながる」メディアへの依存が特徴
自覚の有無はさておき、以上のような子どものネット依存の増加が、いままさにいろんな問題を引き起こしていることは、教育の現場にある方々ならばきっとご存知でしょう。ネット上の人間関係がらみのストレスや寝不足などによる体調不良、勉強時間の減少や集中力の低下による極端な成績の低下、LINEのグループ内でのいじめ、等々。高校生に話を聞いてみると、のべつソーシャルメディアをやり続けている子は、勉強中も友達の書き込みが気になって仕方ないので、常にスマートフォンを手もとに置きっぱなしでネットにアクセスするというスタイルの「ながら勉強」が当たり前だと言います。これでは成績が落ちて当然です。ほかには、LINEで他校の子と知り合った中学生同士が付き合うとか付き合わないといったことでゴタゴタしたり、抗争になったり、というような事例も耳にしますし、SNSを利用した犯罪に巻き込まれるといったトラブルも出てきました。
とにかくこういった問題を一つひとつ見てみると、昨今のネット依存の特徴の一端が見えてきます。すなわち、さまざまなネットサービスでもとりわけソーシャルメディア、「人とつながる」ツールやサービスに依存している子どもが多いという特徴が。いまどきのネット依存は、見方を変えれば「人依存」ということです。
LINEがやめられない
ソーシャルメディアの中でも、特に多くの中高生のはまっているものがLINEです。LINEはいまや友達同士の連絡手段として多くの子どもたちに利用されており、大半の中高生が自分のスマートフォンにこれをインストールしているとみてまず間違いないでしょう。メールよりはるかに簡単な操作でメッセージや画像をやりとりできる手軽さ、リアルタイムでトーク(おしゃべり=チャット=メッセージのやりとり)できるそのスピード感、仲間内でグループを作ってトークする楽しさ、嫌なことがあったらすぐに相手をブロックできる気軽さ――子どもたちにLINEがうけている主な理由を挙げるとしたら、こんなところでしょうか。
ただこのようなチャット的なサービスには、複数の友達とのあいだでこれといった目的もなくなんとなく使っていると、いつまで経ってもおしゃべりにけりがつかず、結果、やめるタイミングを見失ってダラダラとトークし続けることになりかねないという危険性があります。みんながやっているから、話題に遅れないように、仲間外れにならないように自分もやるという使い方をしている子(同調圧力によって行動を左右されがちな子)などは、あっという間に「人依存」の泥沼に足をとられ、その奥深くへとはまり込んでしまうことでしょう。LINEがやめられないという相談の典型的なケースです。
アプリの問題でもデバイスの問題でもない
ここで一応お断りしておくと、LINEがすべて悪いとか、子どもにスマホを持たせるべきではないとか言うつもりはありません。LINEのようにはまり易いつくりになっているものであろうと、依存せずに利用できている子だって普通にいるのですから。詳しくは回を改めてお話しする予定ですが、ネットに依存する子と依存しない子とのあいだにはなんらかの差があり、その差異について考えることが、きっと依存への対処法へと通ずる道であるはずなのです。
要は、アプリそのものの問題でもなければ、デバイスそのものの問題でもない。では、私たち大人は、LINEなどにはまってやめられないネット依存の子どもたちにどう接すればいいのでしょうか。
ネット依存アドバイザーとしての私の基本スタンスは「予防」です。エンジェルズアイズでは『知ることが護身術』と題した小・中学生向けの講座を通じて、子どもたちに、ネットの使い方やネット依存に関する正しい知識を身につけてもらうという活動を行っています。そこのところについては、次回から、エンジェルズアイズに寄せられた相談事例を紹介しつつ、お話ししていこうと思います。
◇プロフィール
遠藤 美季(えんどう みき)
任意団体エンジェルズアイズを主宰。アニメーションカメラマン、PCインストラクターを経て、保護者・学校関係者に対し子どものネット依存の問題の啓発活動を展開するため、2002年にエンジェルズアイズを立ち上げる。PCインストラクターをしていた頃、生徒やインストラクター仲間のなかに、インターネットをしているときに人格が普段と一変してしまう人を見たのがきっかけ。2005年からはWeb上での普及啓発活動を、2006年からは保護者、子どもからのメールによる相談の受け付け、助言も行っている。ネット依存は予防こそが決め手であるが、当然ながら、相談者にはすでにネット依存に苦しんでいる人たちや家族からのものも多い。
講座内容のひとつ「情報モラル講座」ではトラブルを避け快適なネット利用についてアドバイスも行っている。またアンケートによる意識調査や取材などを通じ、現場の声から未成年のネット利用についての問題点を探り、ネットとの快適な距離・関係の在り方について提案している。
※情報教育アドバイザー