ネット依存の予防は「知ることこそ護身術」
<ネット依存相談の窓口から>
第2回 親子関係が良好なら、ルール作りで対処できるケースも
ひと口に中高生の「ネット依存」と言ってもその程度や内容はさまざまで、対処のしかたも一様ではありません。軽度のものなら本人の心がけ次第で改善することも稀ではないですし、他方、重度のものは専門のカウンセラーによる本格的な治療が必要になります。
今回と次回は比較的よくあるケースをいくつか挙げて、これまでにいろんな相談を受けてきた経験から、「こういう場合にはこうするのが有効」と大まかな指針についてお話しようと思います。
成績が落ちる子どもたち
【事例1】
高校生のAさんは、友達と一緒に始めたLINEに夢中になり、いまでは暇さえあればスマートフォンをいじっています。授業中はさすがに我慢していますが、登下校中は「歩きスマホ」。家にいるときも、お風呂に入っているあいだなどのわずかな時間を除き、スマートフォンを触り続ける毎日です。
当然、学力は落ちました。親御さんも、何度となく「スマホに気をとられすぎではないか」とAさんに注意しました。けれども、Aさん自身はあくまで暇なときや勉強の息抜きに、また友人と連絡を取る必要があるときに、LINEでトークしているつもりなので、親の意見もあまり身にしみていません。
このままでは依存はひどくなる一方です。
【事例2】
Bくんは学校の友達や部活の仲間とLINEを楽しんでいます。グループでの雑談だけでなく、試験前にはテストの情報をやり取りもします。「日本史は新古今集の撰者の名前が問題に出るらしい」「選択問題?」「漢字でフルネーム」などとうわさを交換したり、複数の意見を総合して試験のヤマを張ったり。
こうした情報をみんなで簡単にシェアできるのはとても便利だと思うBくんですが、トークはそれだけでは終わりません。息抜きのつもりで誰かが雑談を始め、試験前にもかかわらず――いやむしろ試験のストレスから逃れるべく――つい、いつもどおりの無駄話で盛り上がってしまうのです。
ときにはもちろん、こんなことしてる場合じゃないぞ、試験の前や期間中くらいはLINEをやめて勉強に集中するべきだとも思います。しかし同時に、LINEをやめているそのあいだに友達内の話題から取り残されて仲間外れになってしまうのではないかと、極度の不安も感じてしまいます。結局のところ、これではダメだと気にしながらもトークを続け、Bくんはまるで勉強が手につきません。
以上二つ、LINEにはまり、勉強がおろそかになってしまった例を挙げてみました。事例1のAさんは本人の気づかないうちに依存が悪化しているケース、事例2のBくんは、本人がそれをネット依存と認識しているかどうかは別として、このままではよくないとはっきり意識しているケースです。
ネットを居場所にさせない
さて、Aさんの事例で一番の問題は何でしょうか?
それは「暇」というものの存在です。LINEやtwitterなどのソーシャルメディア(SNS)を利用している子どもたちは――いえ、子どもに限らず、SNSにはまっている大人たちも同様ですが――ちょっとした暇があるとすぐにそれらのアプリを立ち上げる行動が習慣化していて、このことがネット依存の入り口となる場合がかなり多いのです。Aさんも、初めのうちは、暇なときや息抜きにLINEでトークを楽しんでいたのが、友達とのおしゃべりに夢中になるあまり、スマートフォンをいじることが常習化し、いつのまにやらネット上が自分の居場所になってしまったのでした。
前回、1日8時間以上もネットをやっている高校生の例を出しました。あの子がなにげなく口にした「それをやめたら、わたしがなくなる」というひと言――これほどシンプルに「ネット依存の人はネット上を自分の居どころにしている」という事実を暗示している言葉はないでしょう。
こんなふうにいったんネットに根を下ろしてしまったら、そこから抜け出すのには非常な困難が伴います。だからAさんのようなケースには、何よりネットを居場所にさせない方法を考える必要があります。
暇な時間を別のことで埋める
ひとつ対処例を出すと、ネット以外のことで暇な時間を埋めてしまう。アルバイトをするでもいいし塾に通うでもいい。けじめなくスマートフォンをいじり続ける暇が生じないようにネット以外のことをさせるわけで、依存の程度が比較的軽いことが前提ですが、これは案外有効です。実際、やたらにSNSを使う子と普通の子それぞれの生活を比較してみると、ネットに依存していない普通の子は、友達とネットでつながっていなくとも、ほかに何らかのつながりを持っていたり(家族とのコミュニケーションが結構あるとか)、時間を埋めることをやっていたりするものです。
反対に、やってはダメな対応は、スマートフォンを無理に取り上げること。この手段をとる親は実に多いのですが、これはまったく問題の解決にはなりません。というのも、理解なく取り上げたことでかえって事態がこじれる場合が多々あるからです。たとえば就職活動のためにスマートフォンを買ったところネット依存になり留年し、親がそれを取り上げたら今度は何もせず寝てばかりいるようになってしまったという大学生のケースなど、そのよくない見本でしょう。ネット依存の子どもからスマートフォンやPCを取り上げたら親の言うことを全然聞かなくなった、あるいは逆上して暴れる、といった話は本当によくあるのです。
子どもと対話する中でルールを作る
理解なく取り上げるというこの最悪の手を反面教師とすると、別の対処のしかたも見えてきます。ある程度理解を示しつつ、親が関心を持って子どもと話をし、スマートフォン利用のルールを作るという対処法です。問答無用でスマートフォンを没収したり、頭ごなしに叱りつけるのではなく、お互いの気分がいいときに「最近使い過ぎだね。そんな感じがするけど、どう? まわりのみんなもそうなの?」といった感じで話を持ち出す。そして「Cちゃん家はルール作ってるみたいだけど、うちもやってみる?」という具合に、子どもが自分で考える方向に話を持って行く形で、食事中は触らないとか、夜10時以降は使わないといったルールを作る。自らの意思で行動をコントロールすることを学ばせるとともに、一定のルールを習慣化させるわけですね。
ちなみにこのときには、子どもが本心から話せるよう、直接面と向かっては対話しないといった配慮が必要です。それから、子どもがルールを守っているあいだはスマートフォンの利用について文句は言わない、しかしほかの会話を多くして親子のコミュニケーションは増やす、といった努力も必要です。
ただし残念ながら、こうした対話によるルール作りが有効なのは、まだ程度の軽い、依存の入り口といったケースに限られます。また、親子の関係がうまくいっていない家庭では、二人で向き合うことによって状況が一層複雑になりかねないため、そういう場合には第三者を入れることを勧めています。すなわち学校の協力です。
こうしたルール作りは事例1以外のケースでも重要な対処法ですし、依存予防のための手段でもありますから、その要点については別の回に詳しく説明します。
まわりに流されない
続いて事例2のケース。ここではBくんが「仲間外れになってしまうのではないか」という不安感からLINEをやめられないでいる点に注目してください。つまり一番の問題は、よくないと自覚しながら、「まわりに流されて利用している」点です。
事例2のような状況にあっても、テストの情報交換には参加するけれど、雑談には付き合わず勉強に切り替えられる子はいます。しかし、みんなやってるし話題に乗り遅れたくないしと、まわりに流されて使うようになると、SNSは突然危険なものとなり、ネット依存への道のりを歩みだしてしまうことは確実です。B君のようなケースでは、できるだけ早く、手遅れにならないうちに、「まわりに流されず、自分のスタイルを崩さずに利用する」ことの大切さを教えるべきでしょう。
それには「いまの自分にとってだけなく、これからの自分にとっても大事なことは何か」と、物事に優先順位をつけて考えさせるのがいいと思います。試験前のわずか何日間かの話題に後れを取らないことが大事か、これからの一生を左右する勉強が大事か。これぐらいのことは、高校生ならちゃんと判断できるはずです。
中学生は学校と協力したルール作りを
ただ、中学生ではまだ無理かもしれません。なにしろ、高校生で試験前にはLINEをやめているという自分をコントロールできる子ですら、「試験のあとに未読メッセージが1000件とかたまってると、それだけ話題についていけなかったんだって思って落ち込む」などと愚痴るくらいですから。ましてや精神的に最も揺れ動く時期である中学生には、自分にとって何が大事か優先順位をつけるのは荷が重いでしょう。
となると、どうすればいいか。有効なのは、先ほどの話にも出たルール作りです。デバイスとの適当な距離のとり方について、教師と生徒で一緒に話し合い、それを学校でルールにしてしまうのです(ルール作りのポイントについては、前述のとおり別の回にお話しする予定です)。多くの子どもがスマートフォンを持ち、SNSを利用している現在、それぐらいのことをしないと、「みんながやってるから、自分だけやらないってわけにはいかない」という状況に歯止めをかけることが難しいでしょう。すべての大人がこの事態には危機感を持つべきだと考えます。
◇プロフィール
遠藤 美季(えんどう みき)
任意団体エンジェルズアイズを主宰。アニメーションカメラマン、PCインストラクターを経て、保護者・学校関係者に対し子どものネット依存の問題の啓発活動を展開するため、2002年にエンジェルズアイズを立ち上げる。PCインストラクターをしていた頃、生徒やインストラクター仲間のなかに、インターネットをしているときに人格が普段と一変してしまう人を見たのがきっかけ。2005年からはWeb上での普及啓発活動を、2006年からは保護者、子どもからのメールによる相談の受け付け、助言も行っている。ネット依存は予防こそが決め手であるが、当然ながら、相談者にはすでにネット依存に苦しんでいる人たちや家族からのものも多い。
講座内容のひとつ「情報モラル講座」ではトラブルを避け快適なネット利用についてアドバイスも行っている。またアンケートによる意識調査や取材などを通じ、現場の声から未成年のネット利用についての問題点を探り、ネットとの快適な距離・関係の在り方について提案している。
※情報教育アドバイザー