中高生のネット利用のトラブルと問題点
6.ネット依存から子どもを守るために
家庭での予防が第一
最後に、ネット依存の予防についてお話しましょう。
ネットの使い方を間違わないためにまず大事なのが、家庭での予防です。たとえば「ネットに関する知識をしっかり身につける」「子どもと話し合ってネット利用のルールを作る」「ネットを使いすぎていないか、オンラインゲームにはまっていないか、等など子どものネットの利用実態を把握する」…といったことを通して、子ども達がネットと正しくつきあえるよう導いてあげることが、まず基本となります。
しかし、スマホのような小型のネット端末がどんどん普及を続ける今となっては、家庭での予防だけではもはや状況に対応しきれなくなっていることも確かです。そうなると、家庭で対応しきれない部分は、学校や塾などが対応していかなければなりません。
チェックリストを利用する
この対策として有効なのが、チェックリストの活用です。こちらは高校生用に作ったチェックリストですが、こういうものを学校でやって、自分のネットの使い方が間違っていないかどうか、生徒に自ら振り返らせるのです。そしてもし依存しているならば、その度合いに応じた対応策を取る。これで、家庭ではフォローしきれないところもかなりカバーできるはずです。
【携帯・スマホ依存チェック(本人)】
・ケータイ(スマホを含む。以下同)を忘れると遅刻してでも取りに戻る
・ながらケータイをしている(食事、風呂など)
・授業中でもケータイが気になる
・ケータイが鳴っていなくても鳴っていると錯覚する
・ケータイ以外に楽しいことがない
・リアル友達より、ネット友達の方が多い
・ファミレスなどで友達といてもずっとケータイをいじっている
・一日のほとんどをケータイをいじって過ごす
・ケータイがないと不安になる
・ケータイをいじっていて失敗したことがある(遅刻、人間関係など)
次に示すのは学校向けのチェックリストです。「もしかしたらあの子はネット依存じゃないか」ということをチェックするのに使っていただけたらと思います。
【チェックリスト(学校)】
・禁止されているにもかかわらず学校に携帯(スマホ)を持ってくる
・授業中、隠れて携帯(スマホ)をしている
・友達や周囲のことに無関心で、休憩時間もネットをしている
・ネットやパソコンのことに極めて詳しい、こだわりが強い
・遅刻や休み、授業中の居眠りが増えた
・黙って自宅に帰ることがある
・性格が変化し、大人に対してバカにしたような素振りがみられる
・PCの授業中、授業とは関係ないサイトを見ている
・課題などにネット用語が多く見られる
授業中の居眠りは、普通の学校でも多く見られる問題です。保護者に訊いても「うちの子はちゃんと寝ています」と言うので、学校のカウンセラーの先生が子どもに「お母さんには言わないから」と言って聞き出すと、実は親が寝た後でずっとネットをやっていた、ということもよくあります。このように、家庭では気づかない場合もありますから、学校や塾でちょっと危険な兆候がある子に関しては、注意を促してあげるのがよいと思います。
自覚、早期発見が重要
先ほどの『携帯・スマホ依存チェック』は、実は「本人の自覚を促す」というところに大きな意味があります。ネット依存という病気は、できるだけ早く発見すること、また本人に自覚させることがとても重要ですから、チェックリストに限らず、依存に陥っている(依存しそうになっている)子ども達が少しでも早く自分の状態に気づくよう、周りの人達がそのきっかけを作ってあげてほしいものです。
「自覚と早期発見」、まさにこれが決め手になるのです。これ以上ネット依存を増やさないためには、子ども達に事実を伝えて、自分の頭でいろいろと考えてもらうのが一番大切だと思います。
おわりに
ネット依存の予備軍が約52万人という発表がよほど衝撃的だったのでしょう、ようやくあちこちの学校でネット依存への対応が始まりました。
学校の先生方は、どちらかというと子ども達にネットを使わせない方向へと話を進めたがりますが、ネットの利用経験にしても知識にしても、いまや子ども達の方が先生方よりはるかに豊かですし、単刀直入に言って、日本の学校は、ことネット教育に関して非常に遅れているというのが実情です。
そうした中で、子ども達の意識が「ネットやスマホをやめよう」ではなく「ネットを上手に使おう」という方向に変わるような、そんなきっかけを子ども達に作ってあげたいと思っています。
プロフィール
遠藤 美季(えんどう みき)
任意団体エンジェルズアイズを主宰。アニメーションカメラマン、PCインストラクターを経て、保護者・学校関係者に対し子どものネット依存の問題の啓発活動を展開するため、2002年にエンジェルズアイズを立ち上げる。PCインストラクターをしていた頃、生徒やインストラクター仲間のなかに、インターネットをしているときに人格が普段と一変してしまう人を見たのがきっかけ。2005年からはWeb上での普及啓発活動を、2006年からは保護者、子どもからのメールによる相談の受け付け、助言も行っている。ネット依存は予防こそが決め手であるが、当然ながら、相談者にはすでにネット依存に苦しんでいる人たちや家族からのものも多い。
講座内容のひとつ「情報モラル講座」ではトラブルを避け快適なネット利用についてアドバイスも行っている。またアンケートによる意識調査や取材などを通じ、現場の声から未成年のネット利用についての問題点を探り、ネットとの快適な距離・関係の在り方について提案している。
※情報教育アドバイザー