授業事例40
3つの実習を通して生徒の「思考力」「判断力」「表現力」「主体的に取り組む態度」が向上
~両国高校における「情報」授業
飯田秀延先生 東京都立小金井北高校(講演時は両国高校)
本日お話しするのは、まず両国高校で1年間どのような授業をしているのか、ということで、その中から総合実習、プログラミング実習、動画制作実習の三つを取り上げてお話しします。また本校では、これらをアクティブ・ラーニングで行っています。1年間の授業の内容と、その中でアクティブ・ラーニングをどのように取り入れているかということも、皆さんにご紹介したいと思っています。
1学期に一つずつ実習を入れ、アクティブ・ラーニングでじっくり取り組む
両国高校は普通科高校です。ご存知のように、普通科では「情報」という授業は、「社会と情報」か「情報の科学」のどちらかを取ることになっています。本校では「情報の科学」を履修しています。
授業で学習指導要領を全部網羅しようと思うと、だいたい1年間ざっくりとこんな感じになります。一つが1時間、乱暴ですね(笑)。私の場合、二進法、十進法、十六進法を1時間で終わらせるわけです。データの圧縮も、マインドマップも著作権もそれぞれ1時間です。
その中で、総合実習を1学期に8時間、2学期はWebプログラミングを10時間、3学期は映像制作実習を6時間やりました。このスケジュールの中ではすごく多いです。
1学期に行っている8時間の総合実習では、グループに分かれてそれぞれテーマを自分たちで設定して、そのテーマについて仮説を立てます。テーマには、「絶対に失敗しない○○」とか「恋愛と成績の相関性」、あるいは、「萌えとキュン」について、など自分たちで好きなものを設定します。次にアンケートを作ってクラスの中でお互いに回答し合い、アンケートの結果をExcelなどで集計し、仮説と比べてどうだったかという検証をします。さらに、グラフや表などを作って、パワーポイントにまとめ、皆の前で発表します。そして、その発表をその場で全員で相互評価をして、コメントを返します。こういった授業を1学期に行います。
TECH for TEACHERSのコンテンツを使ったWebプログラミングの授業
アクティブ・ラーニングの2回目は、2学期に行うWebプログラミングで、10時間の授業です。プログラミングに関しては、従来私は導入でドリトルを1時間行った後に、BASICを6時間から7時間くらい行っていました。
なぜBASICかというと、センター試験の数Bのプログラミングの問題でBASICが出ていたからです。しかし、この数学でプログラミングが出るというのは、去年で終わりになってしまいました。では今年のプログラミングはどうしたものか、ということになりました。もちろん、C言語などができればいいのですが、文系も含めて全員に教えるとなると、6時間ではなかなかきついです。あるいは、マニアックな言語をやったところで、「将来何につながるのですか」と聞かれてしまう。そこで、プログラミングをやりつつ、アクティブ・ラーニングにもなり、将来役に立つような授業をやりたいということで、今年はLife is Tech!さんのTECH for TEACHERSとコラボでWebページの制作を行いました。
このようなサイトを自分で作って、TECH for TEACHERSのコンテンツをいただきました。全部でレッスン10まであり、一つのレッスンにそれぞれ三つの動画と教科書がついています。なので、「今日は〇時間目ですよ」と言えば、生徒は自分でテキストを開き、動画を見て進めていきます。またYoutubeにもアップされているので、自宅での反転学習も可能です。
このようにプログラミングについては動画が詳しく説明してくれますので、教員はBGMの選曲をして、BGMを流しながら「何かわからないところはない?」と机間を廻って、後ろでニコニコ笑っているだけという授業になっています(笑)。
ちなみにウェブページの制作は、見本となるファイルをテキストエディタで適宜変更しながら行っていきます。
できた作品の例をご紹介しますと、これなどはマウスオーバーすると、いろいろ動きが出る、という工夫がされています。このように、一人ひとりが自分の好きなテーマで、工夫を凝らしながら作っていきます。
作品へのフィードバックもその場で行う
そして、このようにして作ったものを、クラス全員で全員のサイトを1時間かけて評価します。その評価基準は、まずテクニックです。ビデオの中で出てきたテクニックがどのくらい盛り込まれているか。あとはデザイン性、コンテンツとそれぞれ三つの項目について5段階評価をして、その場で合計点を出して順位を出すということにしました。またそれぞれのコメントを、誰が書いたかわからないようにランダムにして、その場でフィードバックします。
やはりWebページは他人に見てもらうためのものですので、人からどう見られているかとか、頑張ったところが認められたとか、自分の順位はどのあたりだったのか、ということがその場ですぐわかる方がよいと思います。
もはや年末年始の恒例行事となった動画制作実習
3学期の動画制作実習についてもご紹介しましょう。この動画制作の授業は、私の前任校から行っていたので、今年で7年目くらいになっています。これは、グループで自由に動画作品を作ります。ただし公序良俗に反しないことと、撮影する時に他の先生たちから怒られない、というのが条件です。
これを始めた最初の頃は、YouTubeやニコ動とかにある作品を見本にして作ったのですが、毎年実施していくと、歴代の作品自体が見本になります。過去の作品は全てアーカイブにして、生徒がいつでも閲覧できるようにしてありますので、自分たちが作る時には過去の作品を見て、これに負けないようにということで、だんだんエスカレートしていきます。近年では年末年始の恒例行事になっていて、他の先生から私にいくつもクレームが来て、謝るのが私の仕事ということになります(笑)。
撮影の様子を少しお見せしたいと思います。このような感じで、朝早く登校して学校の中で撮影をしたり、放課後にもじもじ君みたいな格好をして撮影したりしています。あるグループは、1万円以上するクロマキースクリーンを買ってきました。しかも、電車に乗れないので、おじさんの軽トラックを借りて朝早く運び込みました。そして使用後は、持って帰っても使い道がないので後輩に寄付してくれました。校長室の前で撮影をして校長先生に怒られたり、荒川の河川敷で警察に職務質問をされたり、いろいろな事件がありましたが、そういった感じで、生徒は楽しんだり、社会勉強をしたりしながら、毎年作っています。
編集ソフトを選ぶところから自分たちで考える
こちらは編集している様子です。編集ソフトも自由です。学校で用意しているのもありますし、自分たちでフリーソフトをダウンロードして使ったりもしています。授業では、どんなソフトを使うかということを含めての問題解決だということにしています。
昔は、デジカメを持っていない生徒に、学校からデジカメを貸したりしていたのですが、ここ1~2年はスマートフォンなどの性能が上がってきていますので、もうカメラの貸し出しは必要ないようです。
やはりこれも、見終わった後でそれぞれの班の作品を、それぞれの評価項目について5段階評価をします。コメントも入れます。このコメントもすぐに各班に届くようにして、「こういうところはよかった」「次回こういう機会があったら、また生かしてほしい」ということが伝えられます。さらに、それぞれの順位も出てくるので、生徒にとっては結構燃える要素になっています。
アクティブ・ラーニングが自己評価の向上につながる
単に「おもしろかった」というだけではいけないので、振り返りのアンケートを取りました。一斉講義型の授業とアクティブ・ラーニングついて、それぞれ「思考力」「判断力」「表現力」「主体的に取り組む態度」について尋ねたところ、いずれの項目についても、自分たちで自由にやるアクティブ・ラーニングのほうが自己評価も上がっています。もちろん、クラスに2人くらいは、こういう授業は好きではない、独りでやりたいという生徒もいるのですが、ほとんどの生徒は、もっとやりたい、次もやりたいと思っていると答えています。
ということで、1年間、なかなか忙しい授業でしたが、こういった内容を含めて、アクティブ・ラーニングも行ってきました。全国の高校がこういう授業をやっているわけではないのですが、こういう高校もあるよということでご参考にしていただければと思います。
*情報処理学会第78回全国大会イベント企画講演より