特集 学習目標を意識した指導と評価
事例2 東京都教育委員会
全都立高校が学習目標を明示した
「学力スタンダード」に基づく指導と評価を開始
東京都教育委員会は、2012年度、1年生の必履修科目を中心に、学習指導要領の内容・項目ごとに具体的な学習目標を示した「都立高校学力スタンダード」を作成した。2013年度からは推進校32校が、2014年度からは全都立高校(注1)が、「都立高校学力スタンダード」を参考にして、自校の「学力スタンダード」を作成し、これに基づく授業を開始した。「『都立高校学力スタンダード』活用事業」を推進する東京都教育庁指導部高等学校教育指導課に話を伺った。
生徒の学力の定着と伸長を図るための「『都立高校学力スタンダード』活用事業」
東京都教育委員会は、2012年2月に策定した「都立高校改革推進計画第一次実施計画」に基づき、都立高校生の「学力の定着と伸長」を図るために、「『都立高校学力スタンダード』活用事業」を行っている。対象は進学指導重点校、中高一貫教育校、夜間定時制および通信制高校を除く全ての都立高校だ。
同課は、「『都立高校学力スタンダード』活用事業」実施の狙いについて、「各校が設置目的に応じて、生徒が身につけるべき学力を明確にして指導を行い、その評価に基づいて次の指導方法・内容を改善するというPDCAサイクルにより、生徒の学力向上を図ることを目的としています。これまでも、教員は各自で生徒が到達すべき学力を意識して授業を行ってきましたが、『学力スタンダード』によって学校として組織的・効果的に学力向上を図るということです。さらに、学校が支援の必要な生徒に対する指導に組織的に取り組んだり、教員間の意見交換が活発になることによって、教師が授業を見直す機会が増えるなどの効果もあると考えています」と説明する。
推進校による「学力スタンダード」の取り組み
2012年度、都教育委員会は、教科・科目ごとに、「基礎」・「応用」・「発展」の3段階で「都立高校学力スタンダード(2013年度版)」を作成した。学力スタンダード対象科目は、主に1年生で学ぶ必履修科目が中心であり、 普通科目6教科11科目(「国語総合」、「数学I」、「コミュニケーション英語I」、「世界史B」、「日本史B」、「地理A」、「現代社会」、「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、 「地学基礎」)と専門科目3教科3科目(「農業と環境」、「工業技術基礎」、「ビジネス基礎」)である。
2013年度から、推進校32校が、都教育委員会が作成した「都立高校学力スタンダード」を参考にして、各校の実情に即した自校の「学力スタンダード」を作成し、具体的な指導目標に基づいた指導を開始した。
自校の「学力スタンダード」の作成に当たっては、例えば、数学は「応用」、英語は「発展」など、教科によって異なる段階の「都立高校学力スタンダード」を参考にしたり、習熟度別授業を行っている科目においてクラスごとに異なる段階を参考にするなど、学校内で複数の段階の「都立高校学力スタンダード」を参考にすることもできる。「学力スタンダード」作成の過程で、教科で話し合いを行い、学習目標を定め、その目標を達成できるような授業や、目標の達成度を測定できる評価を考えることにより、各校で授業内容の改善や、教える教員ごとに異なっていた授業の進度や定期考査の内容の統一化などが進んでいる。
なお、推進校各校は、「学力スタンダード」作成・運用の一連の取り組みに当たり、各校の推進委員を中心に校内の情報共有などを図っている。都教育委員会では、各校の副校長や推進委員が出席する推進校連絡会を年3回開催し、他の推進校との情報交換ができる場を設けるなどの支援を行っている。
「学力スタンダード」の見直しや授業改善を目的とした学力調査
<図表>学力スタンダードに基づく学習指導の流れ
2013年度末には、推進校において、自校の「学力スタンダード」に基づいた授業による学力の定着状況を把握し、作成した学習目標の設定や指導方法の改善を目的として、学力調査を行った。
学力調査は1年生を対象として、2014年2月に実施された。都教育委員会が「都立高校学力スタンダード」を作成した普通科目について、それぞれ「基礎」・「応用」・「発展」の3段階の学力調査問題を作成し、各校は、自校の履修状況や学習目標に合わせて、科目と段階を選択して実施した。なお、1科目の試験時間は50分、出題形式はマークシートである。
学力調査の結果は、各設問の正誤や得点を生徒個人に通知したほか、学校ごとに集計・分析して、各校にフィードバックした。
「フィードバックは、次年度に向けた『学力スタンダード』の見直しや授業改善に役立ててもらうほか、各校で学力調査を実施することになった際の問題の作成の仕方や、学力の分析方法の参考にしてもらう目的もあります」 (高等学校教育指導課)
また、学力調査前に、各校はそれぞれ「正答率何%以上」という目標値を設定しており、目標値に達しなかった生徒に対しては、年度末までに補習を実施するなど、学力の定着を図った。
なお、学力調査実施後の推進校からの報告では、「定期考査の結果と比較したところ、学習から時間が経っていても学習した内容が比較的定着している分野とそうでない分野について把握することができた」、「生徒に対して、定期テストが終わっても、年度末の学力調査に向けて、しっかり復習して学習内容を定着させるように指導するようになった」などの声があったという。
2014年度から開始した全都立高校における
自校の「学力スタンダード」に基づく学習指導
2014年度からの全校実施に先立ち、都教育委員会は、「都立高校学力スタンダード(2013年度版)」を精査・改訂し、新たに「現代文B」、「世界史A」、「日本史A」、「地理B」、「倫理」、「政治・経済」、「数学II」、「コミュニケーション英語II」の普通科目8科目を加えた「都立高校学力スタンダード(2014年度版)」を作成した。
2014年度は、全都立高校が、この「都立高校学力スタンダード(2014年度版)」を参考にして、1年生で履修する科目について自校の「学力スタンダード」を作成し、これらに基づく指導を開始している。
都教育委員会としては、全都立高校の担当者が参加する「推進協議会」を年2回開催して、2013年度の推進校における取り組み事例などを伝え、各校の「学力スタンダード」の作成と運用を支援していく方針だ。
一方、推進校では、1年生に加えて2年生で履修する科目についても自校の「学力スタンダード」を作成し、これらに基づく指導を開始している。また、1年生は全都立高校、2年生は推進校において、都教育委員会が作成する問題を用いた学力調査を継続して実施する予定だ。
「各校は『学力スタンダード』を、生徒・保護者にも周知しています。生徒は、何を目標に学ぶかを理解した上で学習に臨むことができますので、『学力スタンダード』の作成・運用によって、生徒の学びへの意欲が向上し、学習内容がより定着することを期待しています。『学力スタンダード』はまだ緒に就いたばかりであり、毎年見直していくことで、更に各校の実情に合わせたものに整理されていくでしょう。『学力スタンダード』によって学習目標を明確にすることで、各校の設置目的に沿った生徒の確かな学力の定着と伸長につながることを期待しています」(高等学校教育指導課)
(注1)進学指導重点校、中高一貫教育校、夜間定時制および通信制高校を除く。以降の「全都立高校」も同じ。
※Kawaijuku Guideline 2014.9より
(本文中の所属・役職などはすべて取材時のものです)