特集 学習目標を意識した指導と評価
事例7 探究的な活動で、学習目標を意識した指導・評価を実施
科学的探究力や論理的思考力など4つの力に着目
石川県立七尾高等学校 福岡辰彦先生(SSH推進室)
スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定された石川県立七尾高等学校の理数科では、2012年度より探究力を育てることに主眼をおいた授業改革を進めている。ポイントは、目標を設定して探究活動を行い、発表・評価を行うというサイクルを繰り返す「ユニット制」の授業を導入し、評価はルーブリックを用いていることだ(注1)。ユニット単位で科学的探究力や論理的思考力など4つの力の成長状況を確認し、次のユニットにつなげていくことで、スパイラル的に力をつけていくことを狙っている。SSH推進室の福岡辰彦先生に、具体的な内容や評価方法などを伺った。
先端科学や高度な知識の吸収よりも「自ら探究する力」の育成を重視
石川県立七尾高校の理数科は、2004年度にSSHに採択されてから今年度で11年目を迎える。当初は「能登を科学する」という観点で近隣の大学や企業等の協力を仰ぎながら、体験活動などを通じて先端科学の学習を行い、分析力や興味・関心を高めることに力を入れてきた。しかし3期目(2012年度〜)からは方向を変更し、生徒の科学的探究力と表現力の強化をめざすことにした。
その背景について福岡先生は次のように語る。
「従来は、どちらかというと先端的な科学知識の吸収に比重を置き、大学や企業の研究者を招いて講義や実験などを行っていました。しかし、学校で学ぶことができる量というのには限りがあります。そこで、大学に入学してから学べることを前倒しするよりは、『自ら探究する力』即ち、狙いや目的を意識した上で課題や研究に主体的に取り組む力を身につける教育に力を注ぐことにしたのです」
「フロンティアサイエンス」を中心に4ステップからなるユニット制の授業を導入
理数科ではSSHの取り組みの一環として、学校設定科目「フロンティアサイエンス」を1〜3年生まで設置している。このうち1年次「フロンティアサイエンスI」、2年次「同II」においてユニット制の授業を導入した。
ユニット制の授業は、生徒にあらかじめ探究活動の発表場面と評価規準を提示することにより、学習の狙いを意識させ、探究活動への明確な動機を持たせることを強化することが目的だ。各ユニットにはそれぞれ異なるテーマがあり、授業はそのテーマに沿って、原則として「事前学習→フィールドワーク・講義→探究活動→発表・評価」という4つのステップで進められる。そして各ユニットの狙いに基づき、「論理的思考力」「創造性・独創性」「科学的探究力」「表現力」の4つの力において、生徒に身につけさせたい力が、「〜ができる」という文章で具体的に設定されている。2013年度の場合、1年次「フロンティアサイエンスI」は6ユニット、2年次「同II」は5ユニットで構成されており、ユニット番号は2年間の連続番号で設定している。
「授業に入る前に、まずユニットの概要、スケジュールを生徒に示します。そして、ユニットを通して身につけてほしい4つの力を説明した後、その4つの力に関する事前アンケートを実施します。つまり授業の前に、学ぶ目標と学習前の自分の力を、生徒自身に明確に意識させるわけです。1つのユニット終了後には同様の質問項目による事後アンケートを実施します。アンケートは『できる(事後は「できた」、以下同)』『少しできる』『あまりできない』『できない』の4項目で評価するようになっており、生徒は学習の前後で、どのくらい力が伸びたかを確認することができるように設計されています」(福岡先生)
レポートや口頭発表、作品づくりを通して他の生徒の異なる視点や捉え方を学ぶ
具体的にユニット制の授業の流れを説明しよう。1年次「フロンティアサイエンスI」ユニット5の「北陸の雷」を例に取ると、まず最初のステップの「事前学習」において、校内で教員による講義や電気に関する実験を行い、雷を探究する際の前提となる知識を習得する。2つ目のステップである「フィールドワーク・講義」では、雷センターを訪問し、雷の物理的な性質や北陸の雷の特徴、雷の社会的影響などに関する講義を受け、模擬雷実験や雷観測施設を見学する。3つ目のステップの「探究活動」では、フランクリンモーターを製作し、回転数にどんな要素が関係するのか、各自が設定した仮説に基づいて探究活動を行う。そして最後のステップの「発表・評価」で、各自の探究の成果を適切な科学用語を用いて口頭発表する。
「生徒は各ユニットで、各自の工夫に富んだ探究活動を行っています。発表についても、口頭発表やレポート作成以外に、例えば1年次「フロンティアサイエンスI」ユニット6『宇宙』ではプラネタリウムの解説ソフトのシナリオを自作するなど、ユニットのテーマに合わせた効果的な表現方法を指導しています。そして、発表することで表現力が向上するとともに、他の発表を聞くことで、自分とは異なった視点や捉え方を学ぶことができます」(福岡先生)
ルーブリックを用いた評価を導入
3年間を通した段階的な成長を検証
さらに、ユニット単位での能力育成に加えて、ユニットの積み重ねによる段階的な成長も狙う。それを担保するのが、ルーブリック(注2)を用いた評価だ。ルーブリックを用いた評価では、求める力をより客観的な言葉で表現することで、能力の段階性を明確に示すことができる。
「フロンティアサイエンスI〜III」では、3年間で身につける力を4観点別8段階で示した長期ルーブリック<図表>を作り、これを基に各ユニットでA〜Dの4段階のルーブリックを作成し、評価をしている。例えば「論理的思考力」では「適切なデータの使用が見られ、かつ思考の過程がある程度わかる」という基準を達成した生徒は、1年次「フロンティアサイエンスI」ユニット1〜3であればA評価だが、2年次「同II」ユニット9〜11であればD評価になる。つまり、学年ごとに徐々にハイレベルな到達目標を与え、確認していくことで、3年間を通じた生徒の成長を測ることができる仕組みになっている。
<図表>【論理的思考力】【創造性・独創性】【科学的探究力】【表現力】に関する長期ルーブリック(2013年度版)
「正確な評価を行うためには、発表やレポートだけでなく、ユニットの全プロセスを通して、生徒の活動状況を確実に把握する必要があります。そのため『フロンティアサイエンス』では、生徒40人に教員5〜7人など、常に複数の教員がチームティーチングで指導・評価に当たります。また、教員間で評価の基準の確認を行うなど、客観的な評価をするように工夫しています。評価の低い生徒に対しては、基準を達成できるように教員が適宜、必要な支援を行っています。本校では、評価のための評価ではなく、生徒を成長させるための評価として導入しているからです」(福岡先生)
ユニット制で培った探究力を発揮し2・3年生で現実的な課題解決に挑む
ユニット制は、2年生で「フロンティアサイエンスII」と並行して行う課題研究「七高アカデミア」にも好影響を与えている。
「課題研究は、研究テーマの設定の適切さで成功するかどうかが決まる傾向が強いため、テーマ設定に多くの時間を費やしがちです。ところが本校では、課題研究に必要な、テーマの設定能力、実験方法の技術力や考案力、研究内容をまとめる表現力などについて、それぞれの力点を変えたユニットを実施することにより、生徒が自分なりの課題や方法論を見つけて探究していく能力が鍛えられているため、課題研究におけるテーマ設定もスムーズに行うことができます。ユニット制は、課題設定能力の育成にも大きく貢献しているのです」(福岡先生)
さらに、2年次の課題研究の発表を終えても、3年次「フロンティアサイエンスIII」を通して、科学的探究力の養成は続く。この科目では、それまでに培ってきた科学的探究力を、現実的な課題に対して、具体的に活用させることをめざしている。2013年度は「七尾高校のエネルギー使用の削減について」をテーマに、約3カ月にわたって、物理、化学、環境などの班に分かれ、異なったアプローチからの研究を行うとともにそれぞれの班が連携して、課題解決に向けた提案を行った。この科目はユニット制ではないが、目標は明確で、探究方法もユニット制で行われているサイクルそのままだ。そのため、ルーブリックを用いた評価においては、この科目全体を12番目のユニットと見なして評価している。
「1・2年次『フロンティアサイエンスI・II』で培った力を、2年次の課題研究『七高アカデミア』で一定の研究成果に結実させ、さらに3年次『フロンティアサイエンスIII』で現実の課題に即して実際に活用してもらうところまで発展させているのが、本校の大きな特色です」(福岡先生)
3年間の成長プロセスの可視化が今後の課題
ユニット制導入の効果について、福岡先生は、生徒の力が伸びていることは実感できるものの、それを客観的にどう示すかは研究途上だとしている。
「ユニット制の科目では、目標や実験結果などを1つのファイルにまとめていますし、課題研究ではシンガポールの提携高校が活用しているラボノートを参考にした実験ノートを導入し、研究プロセスを詳細に記録する試みを始めており、これらがポートフォリオとしての役割を担っていくことになるだろうと認識しています。ただ、それを具体的にどう活用して評価につなげていくか、何よりも生徒に3年間の成長ぶりをどう自覚してもらうかについては今後の検討課題です」(福岡先生)
石川県立七尾高等学校
◊所在地 | : | 石川県七尾市西藤橋町エ1の1 |
◊沿革 | : |
1899年 石川県第三尋常中学校設立
1948年 石川県立七尾中学校と石川県立七尾高等女学校を統合し、 1968年 理数科設置。 2004年 文部科学省「スーパーサイエンスハイスクール」の指定を受ける。 |
◊学級編成 | : | [全日制]普通科5クラス 理数科1クラス |
◊生徒数 | : | 719名(男子346名、女子373名)2014年8月現在 |
◊特色 | : | 「至誠・剛健・敢為」を校訓とする。国公立大学へ現役生の約半数が合格する県下有数の進学校。理数科はシンガポール国立大学附属数理高校との共同研究も行うなど、国際社会に発信できる科学技術系人材育成も見据えた先進的な教育の研究開発に取り組んでいる。 |
◊卒業生の進路 | : |
2014年3月卒業生 239名
|
(注1)「ユニット制」及び「ルーブリック」については、SSH第3期の申請時に当時の山本登紀男校長(2013年3月退職)と浦一正副校長(2012年度より輪島高校校長)が考案し、SSH推進室長であった平野敏先生(2014年3月異動、現飯田高校)が具体化したものである。
(注2)ルーブリック...学習者が何を学習するかを示す評価規準と、学習者が到達しているレベルを示す具体的な評価基準をマトリックス形式で表示したもの。事前に明示した目標に準拠した観点について、何ができればどの段階にあるのか具体的に記述されているところに特徴がある。例えば大阪府教育センター、京都府立園部高校のようなものがある。
※Kawaijuku Guideline 2014.9より
(本文中の所属・役職などはすべて取材時のものです)