情報処理学会第77回全国大会
教科「情報」の現場からの報告~一教員の独り言~
坪内誠道先生 大阪府立柴島高等学校
必要性は高まるものの、現場の指導は問題事象の後追いに
私は教員になって30年になります。先ほど「ベテラン教員」というお話がありましたが、私も生物という教科を持って、新たに情報の免許を持った「ベテラン」です。
この30年を10年ごとに振り返ると、着任した1985年当時はまだ情報科としての予算がつかない状態でした。それが10年後の1995年には学校にワープロが導入されるようになり、予算がつくようになりました。
そして、2005年にはインターネットに接続した有線のLANが校内に入りました。そして現在は、高校の授業にもタブレットが入り始め、無線LANの環境が整えられるようになってきています。一方で、生徒達はスマホを大人以上に使いこなし、それによるトラブルも頻発しているため、教員は個人情報や情報モラルについても指導しなければならなくなりました。
さらに、2020年から始まる大学入試の新テストに情報が導入されるかどうか、という話も出ています。
このように、新たな機器が導入され、情報科の重要性はどんどん高まってきていますが、それでは授業活動として何をしたらよいか、ということはほとんど提示されていないので、手さぐりにならざるを得ません。その一方で、限られた予算の壁があるのでなかなか新しいデバイスに触れることもできず、結果としてどんどん問題事象を後追いする指導になってしまっているというわけです。これから何が起こるのかということについて現場では不安で仕方がない、というのが現場の状況です。
なぜ現場が変わるのは難しいのか
実際、我々の現場というのは変化を非常に嫌います。今まであったことをできるだけそのまま、粛々とやりたいという風潮です。そこでいう「今までの」というのはOfficeソフトの習得です。これは誰もがあまりよくないと思っているのですが、いろいろな学校で授業を見せていただくと、生徒がよく集中しているのはまぎれもない事実なのです。そのため、こんなことより別のことをやりたいと思いながらも、仕方なくやっているというところがあります。
Officeソフトの練習のもう一つの利点はネットワークがなくてもよいことです。実際これは大きいです。コンピュータ教室や、LANが使える教室など、ネットが使える環境がありながら、校内でネットの使用を禁止している学校がたくさんあります。ネットを使うことで、いろいろと問題が起こるとうっとうしいからなのです。何のためにLANが入っているのやろ、と思いますが、それくらい学校で使うコンピュータというのは規制だらけで、一方生徒の使う端末は規制がほとんどない最新式のもの、という図式ができてしまっているのです。
そうするとどうなるか。今までなら、例えば包丁や針をどうやって使うかというのは、親の方が危なくない使い方をよく知っていて、家庭で教えることができました。ところが今、情報端末の使い方は生徒の方がはるかによく知っていて、親はとてもその指導ができないという状況になっているために、いろいろな問題が出てきています。それでは誰がそれを教えるのかということになると、現場では情報の先生がやれ、ということになる。つまり、ものすごいスピードで変化していく情報のあらゆる課題に、情報の先生が対応しなければならない、ということになっています。
そんな中で、ここに「新たな風が」と書かせてもらったのですが、大阪府でも新卒の情報専科の先生は年々増加してきています。そういった先生方は、今までのようなOfficeソフトの練習をしていればよい、という授業ではいけないということは自覚して、どのような授業をしたらよいかを模索しているのです。そして、生徒達にどんなことを伝えるのか、ということを研究会などで熱心に議論しています。頼もしいことです。
ここで大きいのが「評価」の壁です。授業をすることで、あんなことができた、こんなことができるようになったということはたくさんありますが、高校の成績というのは、他教科でも同様ですが、100点満点に換算して「君たちができたことはこれだけだよ」ということを示す必要があります。そうなると、どうしても100点満点に換算しやすい内容になってしまう、ということになるのです。評価の方法の開発も、今後の課題になっていくと思います。
情報教育を通して高校生に伝えるべき未来の形を考えて授業を作る
高校現場の今までの流れをお話ししました。新しい技術が入ってくると、それに対してこの技術でもって授業をしなさいというものが出てきます。それについて、先生達は最初のうち模索をする。そして、何とか形になってきた途端に、またさらに新しい技術が入ってくる。この繰り返しなのです。しかしながら私は授業とは、「過去を踏まえた上で未来を知ることができるもの」であるべきだと考えています。
そして、情報教育を通して高校生に伝えるべき未来の形とは一体何なのか、というところから授業を起こしたいと考え、それを2単位ならば年間60時間の内容に割り振って教えられれば、と考えています。