取り組み
情報教員志望者のためのインターンシップ
~夏休みの集中講義だからこそできる、生徒も先生も成長を実感できる授業
神奈川県立横浜清陵総合高校
神奈川県立横浜清陵総合高校では、情報科教員を目指す大学3年生を対象として、夏休みの短期集中講座「DTP基礎」(※内容は本文参照) を核としたインターンシップを2005年度から実施しています。今年(2013年)8月に行われた授業を見学させていただきました。
【インターンシップの概要】
今年度のインターンシップは、下記の内容で行われました。
(1)実施科目
短期集中講座 専門教科情報・学校指定科目「DTP基礎」35単位時間(1単位)
(2)期間
2013年8月8日(木)~8月17日(土) (8月9日(土)を除く9日間)
(3)募集人数
1~3名(各大学からは1名)
(4)受入に関する条件
1)神奈川県の情報科の教員を目指す、意欲のある学生であること
2)交通費・教材費等の必要経費を負担すること
3)受入期間中の賠償責任保険に加入すること
4)その他、実習に必要な準備を行うこと
今回の講座には、他校からの参加者3名を含む1・2年生17名の生徒と、インターンシップの学生が1人参加しました。
【授業見学レポート】
作品を相互評価し、いろいろなアイデアを学ぶ~校内新聞の仕上げ
見学したのは、「DTP基礎」の4日目。1日目から3日目までは、WordとPublisherを使って、テキストや写真のトリミングなどの機能の使い方や、レイアウトや配色、読みやすさなど編集の基礎を学び、3日目にはその応用として、社会人講話の記事と写真を使ってA4サイズ3段組みの校内新聞を作る、という実習をしていました。
1限目は、自分が作った校内新聞をモニターに映して、各自1分の持ち時間で自分の作品で工夫したところやアピールポイントをプレゼンしました。工夫が逆効果になってしまった生徒には、五十嵐先生から注意を促すコメントがその場で与えられます。その後、各自の作品を「レイアウト」「色使い」「タイトルのつけ方」「本文可読性」「中高生向きか」などの項目について5段階の相互評価と、最もよいと思う作品を3つ選んでエクセルに入力しました。
わずか3時間で、気分はすっかりデザイナー?! ~イラスト入門
2限目からは、この講座の後半の山場である「イラスト入門」です。これは、WordやPowerPointのオートシェイプの描画機能を使って、なめらかな曲線を描き、イラスト制作に応用するものです。
最初に、PowerPointの設定で「ベジエ曲線」を描く方法の説明を受け、頂点を基準にしてカーブの形を変えることを学んだあと、いよいよハートの形をトレースします。なかなか思うようにトレースできず悪戦苦闘する生徒達に、五十嵐先生は教壇のモニターで一人ひとりの画面をチェックしながら、インターンシップ生の滝澤さんは机間巡視しながら声をかけていきます。
ハートが描けたら、今度はもみじの葉の形のトレースです。どこに頂点を置いたらよいかを考え、微妙なカーブを丁寧に作ることが必要になりますが、開始1時間そこそこで、生徒達はもうかなりスムーズに曲線が描けるようになっていました。
もみじがスムーズに描けるようになった生徒は、インターネットから好きなイラストをダウンロードして、それをトレースして加工する作業に入りました(3・4時限目)。ダウンロードする際には、URLをコピーして画面に貼り付け、出典を明らかにするように指示が与えられていました。
生徒達は思い思いのイラストを選んで作業に取り組みます。トレースしたイラストに色をつけるためには、頂点をどこに設定するかだけでなく、塗り分けるためにイラストをパーツに分けてアウトラインを描いていくことが必要になり、より細かな作業が必要です。
この頃になると、生徒達は自分でどんどん作業を進めてけるようになります。トレースのしかたを学び始めてから3時間足らずで、自由に曲線を使いこなし、描き方の順番にも工夫ができるようになっています。作業をしながら五十嵐先生からは、イラストの角度や配色を変える方法の説明もあり、さっそくチャレンジする生徒も見られました。
できあがったイラストは、後半の課題のオリジナルの名刺作りや授業紹介の三つ折りパンフレット作りにも活用します。
【最終日に作る三つ折りチラシ~講習の間に学んだ技法や作ったイラストの集大成】
※過年度の受講生の作品
【先生インタビュー】
生徒もインターンシップ生も成長できる授業を目指して
横浜清陵総合高等学校 五十嵐誠先生
「DTP基礎」を始めて9年目になります。内容は、毎年少しずつ変更はありますが、ほぼ固まっています。この授業は、通年で行う「DTP入門」とほぼ同じ内容を1週間に凝縮しています。Illustratorを使って本格的にデザインを行う学校指定科目の「DTP活用」の授業を取るためには、「DTP入門」かこの「基礎」のどちらかを取っておく必要があるので、デザインに興味のある生徒が取りにくることが多いですね。
この授業は単位認定(1単位)されますが、夏休みに集中講座の形で正規の授業をするためには、この時期でなければできない校外学習を、カリキュラムに入れる必要があります。デザイン専門学校での講習を入れているのはそのためです。
授業の中では、職業観を持たせることを意識しています。アピールポイントを話させるのは、デザイナーがどんなところを意識しているのか、ということに気付かせることになります。また、作品は作りっぱなしではなく、必ず講評を受けるようにします。こういったことで、自分がやったことを振り返り、新しいアイデアを得る機会になるのです。
インターンの学生には、事前に実際の授業と同じ流れで私が指導し、手順や生徒がつまづくところを伝えておきます。実習の記録は、今年からフェイスブックにアップして公開し、コメントも含めてみんなに見てもらえるようにしています。今までは、ブログに書いていましたが、今年からフェイスブックにしました。情報の教員ですから、メディアを使いこなすべきですし、紙に書いてはせっかく書いても失くしてしまいますからね。
生徒が日に日に成長するのが実感できるので、インターンの学生もどんどん成長していくのがわかります。生徒が授業の最後に作る三つ折りパンフにはこの授業の感想を描くところがありますが、読むと毎年思わず目頭が熱くなってしまうんですよ。
※五十嵐誠先生インタビュー(2013年5月)も併せてお読みください
【インターンシップ生インタビュー】
生徒がどんどん成長していくのが実感できる!早く教壇に立ってみたい
インターンシップ生 滝澤佑貴さん(文教大学情報学部広報学科3年生)
大学で専攻しているのは、情報法です。情報と商業の教員免許が取れますが、ぜひ情報の教員になりたいと思っていました。大学の商業科教育法の先生からこのインターンシップのことを教えていただき、またとない機会だと思って受講することにしました。
小さいころからコンピュータが好きでした。プログラムを組むところまではいきませんでしたが、高校の情報Bの授業に、まさに「はまった」という感じでしたね。とにかくおもしろかったんです。
他の教科と比べて、情報の授業はやればやるだけ使えるようになり、わかった時の達成感がすごいんです。これがおもしろくて、情報の教員になりたいと思うようになりました。
実際に高校生の前に立って指導するのは初めてですが、懐かしいというか、生徒も気軽に話しかけてくれますね。でも、いくら年齢が近くても、教えるという立場になると、やはり生徒とは違うんだ、ということがよくわかりました。彼らがつまづくところに共感できるけど、それだけでなく、それをどう指導しなければならないか、常に頭を働かせていないといけないんですね。
教える方法にも発見がありました。生徒がつまづいた時、テキストを追っかけていたら説明できないんです。必ず自分でやってみて、テキストや教科書の内容を自分なりにまとめたものを作っておかないとぱっと使えない。これは、教育実習では絶対わからないと思います。
五十嵐先生に、生徒と同じ授業をしていただいて、「ココで生徒が引っかかる」と言われたところはやはりそうなりますね。どこがひっかかりやすいか、よく知っていらっしゃるし、それだけでなく生徒をいつもよく見ておられる。すごく勉強になります。
今日で授業は4日目ですが、生徒がどんどん成長しているのがよくわかります。最初の頃やったことをちゃんと応用して、使えるようになっている。短い期間でできるようになるのって、彼らにとってはすごい達成感だと思います。僕たち学生にとっても、毎週授業を見学するのは不可能なので、こういう夏休みの機会を提供してもらえるのは、本当にすばらしいチャンスだと思います。教育実習も頑張って、早く教壇に立ちたいですね。
【生徒の声】~短期集中だからこそ味わえる達成感~
「実はPCは苦手で、最初はついていくのがやっとだったけど、先生やインターンシップの人がいるので、わからないところは聞いているうちに、できるようになってきました。この何日か、めったにないくらいPCを使っているけど、タイピングとか自分でもわかるくらい速くできるようになりました。DTPだけでなく、デザイン力や応用力も身についてきているかな、と思います」(2年女子)
「デザイン方面に進みたいと思っているので、3年で『DTP活用』の授業を取るためにこの集中講座を取りました。習ったことを時間をかけてやれるので、集中して何回もやっている間にできるようになるのが実感できます」(2年女子)
「工業高校では機械科です。学校でこの授業の募集が出ていたので、自分で応募しました。父の仕事で広告関係のこともやっているので、グラフィックもできるようになれたらいいな、と思います。機械科の授業ではパソコンは使うけど、このようなものはありません。最初はけっこうとまどいましたが、わからないところは(インターンシップの人に)教えてもらっているうちに、だいぶできるようになったように思います。仕事以外でも使えそうで、おもしろいです」(工業高校 2年男子)
「(通年の)『DTP入門』は人気があるので取れませんでしたが、短期集中の方が効率がいいかと思ってこの授業を取りました。もともと機械をいじるのは得意ではないのですが、将来は法律関係が志望で、仕事で絶対PCが必要だと聞いたので、卒業までには使えるようになったらと思い、受講しています」 (1年男子)
「自分の作品だけ見ていると、どうしてもワンパターンになってしまうけど、みんなの作品を見ると自分では思いつかなかったアイデアがわかります。それを自分でも使ってみようと思っても、毎週の授業だと忘れてしまうけど、この授業では機会がすぐあるのでうれしいです」(1年女子)