【授業事例1】

データベース利用の授業案

神奈川県立茅ヶ崎北陵高等学校 三井栄慶先生

(神奈川県高等学校教科研究会「情報部会」 第5回「情報の授業・実践事例報告会」より)


三井栄慶先生
三井栄慶先生

データベースを使って何を学ぶか

 

情報Aや情報Cにはなく、情報Bにある単元を考えたときに、おそらく多くの先生はプログラミングやシミュレーションを思い浮かべるのではないでしょうか。データベースの授業実践例の報告は少ないと思いますので、本日はこれを紹介します。

 

そもそもデータベースの扱い方は難しいのですが、とりあえずデータベースソフトは使わなければいけないだろうと、昨年度生徒にやらせてみたところ、「操作が難しすぎる」「エクセルでいいのでは?」という感想が挙がり、さらに280人中3人は「何のためにこれを操作するのかわからない」と書いていました。


操作方法だけを見ると、私もエクセルのほうが使いやすいと思います。そうした状況の中、授業では、なぜデータベースを取り扱うのか、データベースで何を身に付けさせたいのかということを念頭に置いて考える必要があると思っています。ほとんどの高校生は自宅でアクセスを使える環境にないので、授業で単にアクセスを使わせるだけだと、生徒は何も身に付きません。

 

目標は「データベースの意義を理解し、問題解決や課題発見ができる」

 

学習指導要領およびその解説では、目標として「基本的な知識や技能を身に付ける」と挙げられていますので、操作はやはりやらねばならない。では操作を通して何をしなければいけないかというと、1)統計データの扱い方を知る 2)問題解決にデータベースを活用する 3)実際にデータベースを作成する 4)データベースのリスクを知る、という4点がポイントになると考えました。


1)については、「情報とは何なのか」ということを話しながら授業を組み立てています。2)は、「情報の科学」で取り上げられている問題解決にデータベースの手法を活用しようというところで、具体的に「処理・創出」という言葉が挙げられています。つまり自分たちで情報を創り出す必要があるということです。私自身も昨年度アクセスだけを使う授業を行った結果、与えられた情報だけを入力しても身に付かないことを実感しています。こうしたことを授業に落とし込むために、いろいろ方策を考えました。


授業を行う前に、次のように目標を明文化しました。
(1)データベースとは何かを理解し、社会的な意義を理解させる。
(2)実習を通してリレーショナルデータベースを作成し、それを通した問題解決を行わせる。

(3)データベースの作成や問題解決を行うことにより、生徒が振り返って課題を見出せるようにする。


時間配分は、ものすごく圧縮しているのですが、計6時間で作ってみました。

 

1時間目:情報の特性と情報の収集


1時間目の授業では、「情報の特性」を理解するために、そもそも情報とは何なのか、情報を整理するとはどういうことか、整理するためにはどんなことをしなければいけないのか等について、15分〜20分を使い講義します。残りの時間は「情報の収集」を演習。題材は、「コンビニのおすすめ品を10品目挙げる」。

 

「情報の特性」については、たとえば黒板に「ミニストップ 32歳」と書いて、どういう意味かと質問し、「情報は付け加えることで意味を広げることができる」と伝えます。続いて「ミニストップ 32歳 三井 ジャンプ」とあえて散文的に書くと、高校生は「三井という32歳がミニストップでジャンプを買った」と思い浮かべます。「が、これだけではジャンプが雑誌名かどうかは曖昧。項目名を付けると内容を明確にでき、情報に意味が出る」とつなげ、情報を整理する動機付けをしています。

 

「情報を収集する」演習時には、B4のワークシートを配り、それに沿う形で進めます。そこには、情報を収集し、整理するための表をつけています。コンビニの商品名は具体的なものを記入するよう指示します。たとえば「お茶」は駄目で、「おーいお茶」や「午後の紅茶」ならOK、おでんなら店名と大根等の品目をつけなさいと言うと、生徒はかなり焦って調べます。教室で行う授業なので、スマートフォンを使って調べてもいい形にしています。少し面白味をつけるために、おすすめ度も5段階で書かせますが、ネガティブなポイントはつけてほしくないので、「1や2は駄目。3〜5でつけて」と言っています。コメントを記述する欄も設けていますが、「自由に書いて」というと、とんでもないことを書くケースもあるので、「後日の演習では他クラスも含めて検索をかけるから、名前と一緒にコメントも出るかもしれないよ」と言って、コメントの質を高めています。書き込みが時間内に終わらなければ、宿題に回します。 

 

2時間目:リレーショナルデータベース


2時間目の講義では具体的なデータベースの話をします。「前回のプリントを見てもわかる通り、表で情報が整理されているよね」という話から始め、「表にするのであればリレーショナルデータベースという表形式のデータベースのほうが書きやすいよ」とつなげ、基本的な項目として行はレコード、列はフィールドと呼ぶことなども教えます。


演習では、前回書き出した10品目に氏名や性別などを付け加えた表を、もう一度、プリント上に書かせます。また、できるだけペアやグループで作業させたいので、この段階では隣同士のペアで作業をします。「この形式でパソコンに入力するからね」と伝えると、概ねしっかり書いてくれますが、氏名や性別で同じ言葉が続くと「〃」を使って省こうとする子もいるので、「それはダメ。理由は次回説明します」と、含みをもたせたまま作成させています。

 

正規化
正規化

3時間目:正規化


3時間目は講義を中心に行い、「正規化」の作業を丹念に説明しています。漠然と「正規化は第一から第三単元まであり、こんなふうにやるんだよ」と言っても、生徒はぴんとこないので、「前回作成した表では、出席番号と名前と性別で同じ言葉がたくさん出てきたよね」という話をして、「これをパソコンに打つんだよ」と言うと、えっ?という顔をします。そこで、「一つひとつ打ち込むミスを防ぐために、省略できるようにするのが正規化だ」と伝え、正規化をする動機付けを行います。

 

4時間目:データ入力演習


4時間目はワークシートに沿ってデータ入力を行わせています。ここでは、HCDB(北陵コンビニエンスデータベース)という1つのファイルを見せ、「ここに全員入れるんだよ」と、「データベースは共有して使うものだ」という1時間目にした話につなげています。


ここで1つの工夫をしています。これは賛否両論あると思いますが、入力しやすいようにこちらでフォームを作っておきます。実はアクセスの操作方法はあまりよくありません。たとえば主キーという項目を間違えるとすぐエラーメッセージが出て、作業が止まってしまうので、できるだけこれを防ぐためです。入力しやすければ、一人ひとりがデータベースを作っているという意識も持たせられます。

 

ところで、アクセスを使った授業を考えていらっしゃる先生向けのテクニック的な情報として、1点お伝えさせていただきます。アクセスというソフトは基本的に単独で動くことを前提に作られており、1つのファイルを40人が使うような前提には沿っていません。大きな現場ではSQLという言語に近いものを使っていますが、授業でこれを使うのは少々ハードルが高いので、アクセスを使うケースも多いかと思います。その場合の1つのポイントとして、レコードのインフォメーションというファイルが自動的に生成されます。これは、いつ誰が何を入力したかをうまくコントロールしてくれるファイルなのですが、神奈川県の場合はこのファイルにアクセス権がついた状態で生成されるので、そのまま生徒が触ろうとすると「アクセスできません」と言われます。ですから授業をする場合にはアクセスを起動した後に、アクセス権限をさわる必要があるのですが、それだけクリアしておけば、1つのファイルをクラス・学年全員で共有できる仕組みが簡単に実現できます。

 

5時間目:データ検索演習


5時間目は、皆が作成したデータベースの検索作業を行います。1)おすすめ度が5の品物 2)1年2組が選んだおすすめ度が5の品物 3)1年2組が選んだおすすめ度が5のお菓子 といった問題を出しています。


1)と2)の検索はたやすいのですが、3)の課題は実はクリアできません。作成したデータベースには品名しか入力していないため、たとえば「みたらし団子はお菓子に入るのか?」等、判断しづらい品物が出てくるからです。ここで「このデータベースには不備がある」という話をして、次回の授業につなげています。

 

6時間目:データベース利用上の注意点


6時間目は講義のみで、リレーショナルデータベースの検索法として選択/射影/結合があることや、より効果的な検索を行うためには設計が重要になることを話しています。さらに、データベースには情報漏洩やデータ喪失といったリスクもあること、リレーショナルデータベースの限界についても教えています。

 

生徒自身がデータベースを設計したり、活用することが今後の課題


今後は、生徒自身が課題を設定したり、自分でデータベースを設計したりする授業を展開したほうがいいのではないかと考えています。ただし、設計も取り入れると、さらに3〜4時間を追加する必要があります。また、検索した結果を用いて何をするかという主題設定も大事なことだと思っています。