【授業事例2】
東京都立町田高校の授業から
問題を探す力、アンケートを使って事実を見る目を養う授業
東京都立町田高等学校 小原 格先生
1)問題解決
解決すべき問題をみつけるためには理想と現実をそれぞれ明確化する
情報Aの授業ではコミュニケーションや問題解決、グループワークを重視しています。その中でも「問題解決」は、先生方が最も苦手意識をお感じになるところでしょうし、私自身もどのように教えるべきかを日々勉強中です。
一例を紹介します。解決すべき問題をみつけるということを考えさせます。「問題とは理想と現実のギャップである。なんでもいいから自分の理想を考えてごらん。そして現実を考えてごらん」と振ります。「たとえば、毎朝6時に起きたいのに、実際には起きたら6時半になっている。理想=6時に起きたい。現実=6時半に起きている。ギャップだからそこに問題がある。こういうことでいいから言ってごらん」と。「お小遣いが5千円ほしいのに、3千円しかもらっていない。このギャップも問題になるよ」と。
こんな感じで考えていけばいいのではないでしょうか。理想があって現実がある。その溝が「問題」で、問題解決はこれを埋めることだから、どうやって埋めるかを考えよう。そんな話を私は生徒によくします。これが意外と大事なことで、いまの生徒はなかなか理想を明確化できない、だからなかなか問題として捉えることができない。また問題を見つけるためには現実を事実としてしっかりと見つめないといけない。当たり前のことなのですが大切なことだと伝えています。
分析は紙に書いて整理させる
生徒は2人1組にして、まずはそれぞれの問題について話してもらいます。相手の問題を聞くなかで「そうなんだ。俺も同じだよ」という話が出たりして、面白がっているようです。
そのあとは、連関図法を用いて、問題の構造を明らかにしていく試みも行いました。たとえば「夜あまり勉強しない」という問題があれば、それはなぜかということを矢印でどんどん書いていきます。
また、ロジックツリーも使ってみました。たとえばこの生徒は「槍投げで関東大会に行けない」という問題の原因について、「練習する環境が整っていない」「メンタルが弱い」と分析しています。このように紙に書いて分析しながら、整理していくのですが、この過程ではわざと手で書かせています。まだ操作に慣れていないうちにコンピュータを用いると、操作をしたり図形を描くことに思考や集中力がいってしまう傾向があるようで、かえって時間がかかることもあります。手で書いて図にしていくことは、目の前の課題内容そのものに集中するという点では重要なのかな、と感じています。
2)アンケート実習 -仮説に基づきアンケートをとる
公平なアンケートかを考察させ実践的に対応させる
「アンケート実習」という8時間のプロジェクトも行っています。1時間目は4人グループになって、「クラスの実態を暴け」というテーマを与えます。「うちのクラスは携帯ばかり使って勉強は全然していない」等、いろんな仮説を立たせるわけです。その仮説にもとづき、「じゃあ実際に確かめてみよう」とアンケートをとらせていきます。
アンケートを作る過程では、さまざまな例を出しながら、選択肢によって結果が変わることを説明しています。
たとえば、これは数年前に実際に目にしたアンケートを若干手直ししたものですが、「iPodをどう思いますか?」という設問に関して、「愛用している/一度は使ってみたい/興味がある/気になる/いらない」という選択肢が挙げられていました。最近の生徒の多くはすでにiPodを持っているので、半分以上が「愛用している」をぷちっと押すわけですが、よく見ると否定的な選択肢は1つしかありません。「こういうことで公平なアンケートになると思う?」と聞くと、はっと気づくわけです。
もう1つの例としては、「震度6で家屋倒壊の恐れがある、現在の建築に関する法律についてどう思うか」というアンケートがあります。これは震災前から行っていたものですが、選択肢は「(1)1日も早く改正する、(2)改正の方向で検討すべきだ、(3)もう少し様子を見るべきだ、(4)特に何もする必要はない」の4つがあり、毎年ほぼすべてのクラスの生徒が、一人か二人を除いて(1)か(2)をクリックします。
しかし、よくよく考えてみると、そもそも家屋の3割以下が倒壊するくらいの大きな地震を震度6と呼んでいるのではないのか。だとすると「震度6で家屋倒壊の恐れがある」というのは、ある意味、事実ですよね。しかし「これについてどう思うか?」と聞かれると、何となく皆、(1)か(2)を押したくなってしまう。誘導質問です。こういう設問を作ると、「法改正をしよう」などという意図的な方向で使われてしまう危険性があります。逆に「震度6の地震が起きても7割以上の家屋は倒壊しないような今の法律はどう思いますか?」と尋ねると、まったくイメージが変わりますよね。このような例を挙げながら「質問の仕方によって結果は全く変わってくるから、誘導質問をしてはだめだ」ということも説明するとともに、もしも他のグループからこのようなアンケートを依頼された場合には、「答えなくても良い」ということを共通理解として生徒に取り組ませています。
厳密な事実を探し出す
別の例では、「いつもどのくらい勉強してる?」「3時間以上/2〜3時間/1〜2時間/0〜1時間」といったような設問も多く見受けられるため、その問題点についても話しています。これは実は答えに困るはずなんです。「いつも」とは平日のことか? 1週間あたりの勉強時間か1日あたりか? 宿題は含まれるのか?ぴったり1時間勉強している場合はどこに入るのか? 自分では適切な問いと選択肢を作ったつもりになっていても、曖昧な表現になってしまっていることは多いんです。
そのほか、明治大学の入試と近いような内容も結構取り上げています。たとえば「厳密な事実を見つける」ということが今の生徒はできにくい傾向にあるので、総務省統計局による「社会生活基本調査」のデータを利用し、グラフ化して厳密な事実を見つけてその理由を推測し、その後はどうすれば確かめられるかを考えさせるようにしています。
事実に関して問う1つの例として、今回の試験ではこのような問題を出しました。「お年寄りは睡眠時間が長い。○か×か」。確かにグラフからは年配の方の睡眠時間が増えている傾向が読み取れるので、○としたくなる気持ちはわかります。しかし「お年寄り」とは何歳からを指すのか?「長い」とは何時間以上なのか?この設問ではそこが曖昧になっています。睡眠時間が8時間でも短い、という人もいれば、5時間でも長い、という人もいるでしょう。たとえば「10〜14歳の年代では、女性より男性のほうが睡眠時間が長い」などという言い方なら、誰がみても「確かにそうだ」と思うわけです。
こういう厳密な事実を探し、それはなぜかを推測しなさい。そしてどうすればその推測が本当かどうかを確かめられるか、またどのようなデータがあれば良いかを考えなさい。時間がある生徒は実際に捜して確かめてみなさい。授業ではそういったことをしています。私自身も含め、想像や雰囲気で話を進めてしまうのは社会の中でよくあることですので、事実について考え直す取り組みは大事なことではないかと思っています。